業界動向
Access Accepted第469回:岐路にさしかかった,ヨーロッパ最大規模のゲームイベントgamescomを考える
2015年8月5日,例年より1週間ほど早く開催されたドイツのゲームイベントgamescom 2015。参加人数では世界最大を誇るイベントであり,発売前の最新タイトルがプレイできる多数の試遊台が並べられていたほか,ちょっとしたステージショーやeSports大会,さらに今年は物販が大幅に拡張して,これまで以上に賑やかな催し物になっていた。ただ,公開された新作はメディアの視点で見れば最新情報が少なく,ニュース発信源としてのgamescomの今後は不透明だ。今回は,そんなgamescom 2015を総括しつつ,筆者の感想を述べてみたい。
のべ34万5000人が足を運んだ巨大ゲームイベント
2015年8月5日から9日まで,恒例のゲームイベントgamescomが,ドイツ・ケルンで開催された。4Gamerに掲載したレポート記事では,公開されたさまざまなタイトルの新情報をカバーしているが,今回はライター・徳岡正肇氏のドイツ初参戦により,ゲーマー的視点のシティガイドを試みている。
4Gamer内「gamescom 2015」記事一覧
展示社数も458社から806社へと大きくアップし,また今年は,昨年まで使用されていなかった2つの建物をビジネスエリアとし,ビジネスエリアだった第5ホールを物品販売やeSportsトーナメント向けに拡張した。東京ドーム4個ぶんを超える19万3000㎡の床面積を誇る,展示会場としては世界第4位というケルンメッセをほぼフルに使い切った印象だ。
イベントを主催するケルンメッセとドイツの業界団体BIU(Bundesverband Interaktive Unterhaltungssoftware)は,押し寄せる来場者をなんとかさばこうと毎年,知恵を絞っており,ビジネスデイに入れるチケットの販売などのさまざま対策をとってきた。2015年は,途中退場する人を数え,その分を販売する「午後チケット」が用意されていた。
炎天下,この午後チケットを入手しようと我慢強く屋外の仮設売り場に並んでいるドイツ人ゲーマーを何度か見かけたが,人気の新作タイトルの場合,8時間待ちになるほどのgamescomで,果たして彼らはチケット代に見合うほどエンジョイできているのかと,人ごとながら不安になる。
もっとも,物販で入手したらしい抱き枕を抱えてホクホク顔のジャーマンオタクや,プロゲーマーのサイン入りのジャージを嬉しそうに着ている人,凝りに凝ったコスプレをしている人なども数多く,メディアの立場からはつい忘れがちになるが,試遊台でゲームを遊ぶ以外にも,gamescomにはさまざまな楽しみ方が用意されている。
gamescom 2015に登場した注目新作
イベントフロアに展示されていたデモやムービーのほとんどが,すでにE3で公開されていたこともあり,gamescom 2015がメディア的には地味な印象だったことは否めない。しかし,細かく見れば興味深い話題も少なくない。
プラットフォームホルダーとしては唯一,プレス向けのカンファレンスを行ったMicrosoftは,プラチナゲームズの「Scalebound」のプレイ映像を初公開し,SEGA傘下のCreative Assemblyが開発する新作「Halo Wars 2」を発表した。Bethesda Softworksは,「Fallout 4」のライブデモ映像を公開し,またElectronic Artsは「Star Wars バトルフロント」の最新ゲームモードを発表。バンダイナムコゲームスは「DARK SOULS III」の世界初となるプレイアブル出展を行い,ドイツのパブリッシャであるDeep Silverが久々に「Homefront: The Revolution」を展示した。
ベラルーシのWargamingは,同社がパブリッシングを担当する「Master of Orion」の情報を公開し,スウェーデンのParadox Interactiveは,ファン期待の「Hearts of Iron IV」をメディア向けにプレビューしたほか,同社作品としては初めて宇宙を舞台にした新作「Stellaris」を発表している。また,トルコのTaleWorlds Entertainmentが「Mount & Blade II: Bannerlord」を披露するなど,こうしたヨーロッパ企業の参加がgamescomらしさを醸し出していた。
gamescom 2015には,45の国と地域から806社が参加しているが,4Gamerで紹介したイランが国としてブースを出していた(関連記事)ほか,クロアチアやアルゼンチン,スイスなど,昨年は見られなかったブースが登場していたのが興味深い。こうした国々からはまだ,日本のゲーマーにアピールするようなゲームが誕生しているわけではないが,国家レベルのプロジェクトとしてゲーム産業の育成や拡大に投資するケースが増えているのは間違いない。
今のところ,それほど知名度は高くないが,きわめてユニークなインディーズゲームも数多く出展されていた。野犬に追われた女性がパルクールで命がけの逃避行を行うIndiegalaの「Die Young」は,個人的にも注目している。また,ドット絵風のクラシカルなグラフィックスながら,建設やタワーディフェンスの要素を詰め込んだRaw Fury Gamesの「Kingdom」も話題を呼んだ。「Kingdom」は,インディーズゲームメーカーが集まる「IndieMegaブース」に出展された42作の中で,最優秀賞を獲得している。
オランダのVogelsapによる非対称型オンラインゲーム「The Flock」も,新しモノ好きなゲーマーにとって,気になる作品だろう。
gamescomを追う巨大ゲームイベントが登場?
さて,開催前に最も話題になったのはご存知のように,Sony Computer Entertainment Europe(SCEE)のプレスカンファレンスが,今年のgamescomでは行われないと発表されたことだろう。SCEEはその理由として「E3 2015が終わってからgamescomまでの期間が短く,新しいデモを制作したり発表を行うのに十分な時間がない」ことを挙げている。実際の期日でいうと,2015年のE3がいつもより遅い6月後半に開催され,例年なら8月中旬に開催されるgamescomは,いつもより1〜2週間ほど早めに設定されていた。
プレスカンファレンスでは,新作ゲームのデモやムービーを用意しなければならず,デベロッパにとってはそれなりの負担になる。そのことが原因で開発が遅れると,重要な年末商戦にも影響を与えるため,妥当な判断とはいえそうだ。
もっとも,E3やgamescomの開催期間は1年前から分かっているので,スケジュール調整をやろうと思えばできたはず。E3 2015で見せたあれだけのラインナップの一部でもgamescom 2015のためにとっておいてくれたら,我々メディアやゲーマーは大喜びしたに違いない。
gamescomの代わりにSCEEは,フランス・パリで10月28日〜11月1日に開催される「Paris Game Week」でプレスカンファレンスを行うとアナウンスしている。同社がParis Game Weekでカンファレンスを行うのは初めてのことだ。
今年で6回めとなるParis Game Week は,昨年には27万2000人の来場者を記録したというファンイベントだ。発信されるゲーム新情報はほとんどないが,欧米の大手パブリッシャの多くが出展しており,イベント会場の総面積もケルンメッセに匹敵する。ショッピングシーズン直前,お目当てのゲームがいち早く遊べるイベントとして時期も申し分なく,フランスのゲーマー達に重宝されているようだ。
筆者がここで思い出すのは,1980年代からイギリスで開催されていたゲームイベント「European Computer Trade Show」(ECTS)だ。ECTSはさまざまな理由で,2000年代前半にドイツ・ライプチヒで始まった「Games Convention」に「ヨーロッパ最大」の地位を奪われて消滅した。そのGames Conventionもケルンのgamescomにその地位を奪われてなくなっており,今度はgamescomがパリにその座を譲ることになる可能性がある。SCEEのプレスカンファレンスは,その前兆かもしれない。
こうした大規模イベントは,主催者と出展を行うゲーム企業側との複雑な調整のうえに成り立っており,状況次第では移行はあっという間に起きるものなのだ。
毎年gamescomに参加している筆者の正直な感想は,「夏の暑い盛り,チケットや宿泊費がやたら高い時期のgamescomよりはいいかも……」というところだが,SCEEにほかのプラットフォームホルダーやパブリッシャが追随するようなことがあれば,Paris Game Weekは一気にその重要性を増す。ライプチヒのGames Conventionは,過去最大の来場者数を記録した2008年が最後の年になっている。今年,過去最大の来場者数を記録したgamescomは,2016年の開催日を従来どおりに戻し,E3と十分な間隔があくように配慮している。
「取材の必要があるのか?」という声がドイツのメディアからも聞こえてくる状況だけに,「ヨーロッパ最大」の地位が再び移動するのか,注目したいところだ。
4Gamer内「gamescom 2015」記事一覧
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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