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印刷2009/04/10 18:13

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奥谷海人のAccess Accepted / 第213回:「Steam」を追撃。勝負に出た「Impulse」

奥谷海人のAccess Accepted

 最近のPCゲーム市場で存在感を発揮しているのが,Valveのデジタル流通サービス「Steam」だ。これまで,ほぼ独り勝ちといった状況だったのだが,ここに来てStardockの「Impulse」がSteamのライバルになりそうな展開を見せている。なにかと話題のデジタル流通サービスは,今後どのように発展していくのだろうか。

第213回:「Steam」を追撃。勝負に出た「Impulse」

 

Steamという名のプラットフォーム
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正式サービス開始の直前にハッキングされたことのあるSteamだが,その後は一貫して安定した運営を続けている。10年近く人気を持続してきたFPS,「Counter-Strike」のプレイヤーを丸ごと取り込むことで,Steamは大きく成長した

 2000万を超えるアカウント数を誇り,今やPCゲーム市場の中で独立した存在感を示しつつあるのが,デジタル流通サービスの「Steam」だ。2002年のβ版登場以来,安定したシステムとして高い評価を得ており,独立系メーカーだけでなく,Ubisoft EntertainmentやElectronic Arts,2K Gamesといった大手パブリッシャーのゲームも手がけるまでに発展。現在は,600作に及ぶライブラリーを持っている。

 Valveは,処女作である「Half-Life」を1998年11月に発売して大ヒットさせ,翌1999年には「Quake」のMODだった「Team Fortress」を,Half-Lifeのゲームエンジンを使ってリメイク。チームベースのマルチプレイモードを大流行させている。だが,同時にパッチのバージョン違いでマルチプレイが楽しめないといったトラブルも目立つようになり,そういった問題を解決するシステムとして,Steamの構想が立ち上がったのである。

 また,当時のValveにとって,違法コピーの氾濫も深刻な問題だった。ValveのGabe Newell(ゲイブ・ニューウェル)氏は,「Counter-Strike」の中国語版と韓国語版パッケージを準備したにも関わらず,違法コピー品の横行によって1本も出荷しなかったと,2002年3月に開催されたGame Developers Conference 2002で説明(関連記事)。同じようなスタイルでパッケージ販売を続けていっても将来がないことを予想し,その打開策を準備していたのである。

 2002年9月に正式運営が始まったSteamだが,当時のゲーム業界やプレイヤーの間では,Valve専用のダウンロードサービスとしか認識されていなかった。だが,そんなイメージも2005年にSteamで販売された「Ragdoll Kung Fu」と「Darwinia」という独立系ゲームのヒットによって覆えされた。さらに,違法コピー対策としても十分に機能していることが数年間の運用によって立証されたことで,大手パブリッシャも次々に参入。デジタル流通サービスとして,不動の地位を築き,現在に至っている。

 

 

Steamの時代はいつまで続くのか
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地味ながら非常にマニア受けするGalactic Civilizationsシリーズや,「Sins of a Solar Empire」をラインナップに持つImpulseは,ストラテジーゲームファンを中心に支持を得ている。登録IDはSteamの20分の1程度だが,今後もサービスを拡張させていく予定があり,まだまだ伸びそうだ

 そんな順風満帆といえるSteamに対し,蒸気機関が発展した時代になぞらえて,「Age of Steamのリードは長く続かないだろう」とコメントしたのが,Stardockの社長であるBrad Wardell(ブラッド・ワーデル)氏だ。
 Stardockは,RTS「Sins of a Solar Empire」などを発売するパブリッシャで,2008年6月に「Impulse」というデジタル流通システムをスタートさせている。

 日本ではあまり知られていないパブリッシャだが,Stardockの歴史は意外と古く,設立されたのは1991年のこと。もともとOS/2のユーティリティソフトの開発元であり,1990年代後半にはWindows向けのソフトも手掛けるようになった。2003年には自社ソフトをダウンロード販売する「Stardock Central」というサービスを始め,同社初となるゲーム「Galactic Civilizations」をリリース。その後「TotalGaming.net」というゲームのダウンロード販売を中心にしたリニューアルを行い,Impulseの原型を作った。

 ワーデル氏は,Game Developers Conference 2009で,「Stardock on the PC Hardcore Scene As Indie」(ハードコア向けのゲーム開発を行うStardock)という講義を行い,「マイナーな存在」とされるハードコアゲーマーへのアプローチにおいて,同社がいかなるビジネスプランを立てているのかを説明した。
 Impulseは,まだアカウント数が100万程度であり,Steamと同じ土俵で語れる存在とは言えないが,デジタル流通システムを中心にしたビジネスはまだ始まったばかり。「Gamers Gate」「Good Old Gamers」「Direct 2 Drive」といった後発サービスにもチャンスはある,とワーデル氏はそこで主張した。

 ちなみに,Stardockが開発から販売までを手掛け,2006年2月にリリースした「Galactic Civilizations II: Dread Lords」は,二つの拡張パックを含めた制作費が120万ドル(約1億2000万円)だが,1000万ドル(約10億円)の売り上げを達成し,現在も売れ続けている。
 また,StardockのプロデュースでIronclad Entertainmentが開発したSins of a Solar Empireは,拡張パックを含めた制作費が100万ドル(約1億円)だが,約1年間で800万ドル(約8億円)以上の収益をあげたという。
 どちらもハードコア向けのゲームだが,パッケージ販売による“中抜き”がないデジタル流通サービスを利用して成果を上げている。長期にわたって売れているのも,デジタル流通システムを利用した効果といえるだろう。

 

 

新サービスでアピールするImpulseの今後
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GDC09で講演するStardockのワーデル氏。Impulseのターニングポイントになりそうなのが,Chris Taylor(クリス・テイラー)氏率いるGas Powered Gamesが開発した「Demigod」の販売だ。アクションやRPGの要素を盛り込んだストラテジーゲームで,アメリカ時間の4月14日に,Impulseでのダウンロード販売が開始される

 Stardockは4月7日に,「Goo」という最新サービスを追加した「Impulse Phase 3」をローンチした。Gooの正式名称はGame Object Obfuscationであり,これはデジタル流通システムに中古ゲーム取引の概念を組み込んだものを指している。つまり,Impulseで購入済みゲームのライセンスを転売できるようになったのだ。しかも取引価格はImpulseが定めており,手数料を差し引いた収益はゲームの権利元へ還元される。ワーデル氏が「誰もが損をしないサービス」と表現する,まったく新しい試みだ。

 割安な中古ゲームで遊びたいというゲーマーは少なくないが,現在の方法では,中古品を取り扱う第三者だけが利益を得る仕組みになっており,これはゲーム業界内で評判があまりよくない。
 Gooは,正規価格での販売に影響が出る可能性が高いとはいえ,開発元にも利益が還元される仕組みであり,中古取引への新たな挑戦といえる。

 また,Impulse Phase 3には「Impulse Reactor」というマッチメイキングやランキングの機能が用意されており,それに対応したタイトルの第一弾としてGas Powered Gamesの「Demigod」が4月14日に発売される。ワーデル氏は「6月中にImpulseはさらに進化する」と語っていたので,次にどんな機能を盛り込んでくるのかにも注目が集まっている。

 SteamやImpulseに代表されるデジタル流通サービスでは,ユーザー情報をメーカーが管理するので,それを快く思わない人もいる。とはいえ,わざわざお店に出向かなくてもいいし,売り切れの心配もない,さらにCD/DVD-ROMのチェックが必要ないなどメリットが多い。もちろん,サーバー側でゲームを動かし,それをビデオ化してユーザーに転送する,「OnLive」といった新たなサービスも登場しているが,パッケージ販売の移行先の第一候補は,デジタル流通だと考えて間違いないだろう。

 アメリカのソーシャル・ネットワーキング・サービス業界では,当分「MySpace」の天下が続くと思われていたが,突然登場した「Facebook」によって2番手に追い落とされた。若い業界では往々にしてこういったことが起こりやすく,Steamも決して安泰とはいえないだろう。むしろデジタル流通サービスのシェア競争は,これからが幕開けといえる。ゲーマーとしてはより便利に,より快適にゲームを楽しめる環境が構築されれば,いうことはない。適度な競争をしつつ,より品質の高いサービスを提供してほしい。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。ロシアリクガメをペットにして約3か月が経過した奥谷氏。最近は,カメを庭に放して自由に日向ぼっこさせることが多いという。だが先日,カメを庭に出していたことを忘れてしまい,夕方になって家族総出で捜索するという大騒ぎになったそうだ。結局カメが見つかったからいいものの,世話役の権利を半ば無理やり子供達から奪っておきながらの体たらくで,奥谷氏の父親としての株は大暴落。GDCの取材期間中に食事が残されていなかったのは,この事件が影響しているのかもしれない。
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