レビュー
Razerブランドのシンプルなアナログ接続ヘッドセット,その実力は?
Razer Piranha
» 4Gamerのヘッドセットレビューといえばこの人,プロのサウンドデザイナーである榎本 涼氏がRazerの新作を評価する。2chヘッドフォン+ブームマイクという,シンプルな仕様の製品に,実勢価格1万2000〜3000円程度と(例によって)強気の価格設定が行われているわけだが,それだけの価値はあるだろうか。
ピラニアの名を冠し,「Gaming Communicator」と位置付けられた新製品の,2008年5月中旬時点における実勢価格は1万2000円強。Razerロゴの光る,実に同社らしい高級感のあるルックスと価格が目を引く新製品だが,“中身”はどうか。検証してみることにしよう。
ヘッドフォン部は軽量で装着感良好
一方,マイクは扱いづらい
USBによる給電中は,エンクロージャー部のRazerロゴが青く光る |
入出力端子は共に直径3.5mmのステレオミニ端子。マイクはコンデンサータイプと思われる |
左右の密閉型エンクロージャーにはRazerのロゴがあしらわれ,通電時には内蔵の青色LEDが発光する。まあ,相変わらずのハデな演出だ。音質とは何の関係もないが,こういうこだわりが高級感を演出しているのも確かであり,好きな人にはたまらないだろう。その一方,エンクロージャーのサイズは小さめで,密閉型でありながら,多少の音漏れは生じる。
「アナログ接続のヘッドセットで,いかにしてLEDを光らせるか?」だが,答えは簡単。アナログミニピン仕様のヘッドフォン出力&マイク入力とは別に,LEDへの給電用となるUSBケーブルが用意されているのである。USBケーブルは給電専用で,それ以外の機能はいっさい持たないため,PC側のUSB端子に余裕がないなら,無理して差さなくてもかまわない。
ケーブルの中ほどには,やはりUSB給電中にRazerロゴが青く光るリモコンが用意されており,ダイヤル式のコントローラでヘッドフォン部のボリューム調整,プッシュ式ボタンによるマイクのミュートオン/オフ切り替えが行える。ヘッドフォンとマイクの制御は完全に切り離されており,ボリュームをどんなに絞っても,マイクは影響を受けない。また,ボリュームを最低にしても,ヘッドフォン出力はオフにならず,わずかに聞こえる仕様だ。
ヘッドバンドは,頭頂部に向かって二股に分かれながら広がっている。おそらく,ヘッドバンドと頭の接触面積を減らすためだろう。ソフトな感触で心地よいパッドと相まって,頭頂部に違和感はない。
また,ヘッドセットの自重がそれほどないこともあって,締め付けが強くない割にズレにくいのも好印象。もちろんプレイヤーの頭の大きさに合わせて長さ調整も行えるようになっており,総じて装着感は良好な部類に入る。長時間のゲームプレイでも疲れは感じにくい。
ヘッドバンドの,頭と触れる部分に布製のパッドが貼られている。ゴツゴツした装着感とは無縁だ |
ヘッドバンド型なので当然といえば当然だが,長さ調整が可能。アジャスターの出来も悪くない |
ただ,ブームマイクだけはいただけない。
ゲームをプレイしていて,ミュートするほどではないが,マイクを一時的に離したいとき,マイクを下げるのは普通のことで,それができないのはかなりストレスが溜まる。
さらに,ブームマイクは一応,左右方向にも動かせることになっているが,正直なところ,狙ったポジションにマイクを固定するのはまず無理だ。マイク設置の自由度だけなら,1000〜2000円クラスのヘッドセットでも,Razer Piranhaよりはるかに気の利いた製品がある。
低域が強く,高域をマスクするヘッドフォン出力
マイク入力はヘッドセット向けチューニングに
それでは,音質の検証に入ろう。筆者のヘッドセットレビューでは,ヘッドフォン部を試聴で,マイク部は測定メインでテストしていく。少々複雑な後者の測定方法については,本稿の最後に別途まとめてあるので,興味のある人は参考にしてほしい。基本的には,本文を読み進めれば理解できるよう配慮したつもりだ。
ただ――これまでのレビュー記事でも述べてきたことだが――FPSなどでは,効果音がバンバン再生される。とくに銃声や跳弾音は中高域から高域にかけてのエネルギーが非常に強く,大音量で聞いているとかなり“耳に痛い”。しかもゲームの場合,割と無遠慮にこの帯域の音が出力されたりもするので,むしろRazer Piranhaのように,中高域以上が弱めに聞こえるほうが,耳に負担をかけることなくゲーム世界の音をモニタリングしやすいのも確かだ。
しかも,爆発音や地鳴りといった,低域のエネルギーが強い効果音は迫力を増し,臨場感がより高まる。この手の音は,一般のヘッドフォンではほとんど重視されない,50Hz以下の重低域と呼ばれる帯域に詰まっているが,そのあたりが気持ちよくガンガン鳴っていることからすると,相当低域に振ったチューニングといえる。
音楽を聴くことを考えるとあまりにも歪(いびつ)にすぎるが,ゲーム用途ではこれが正解ということなのだろう。
一方,マイク入力特性は下にグラフで示したとおり。緑色の波形がリファレンス,オレンジの波形がRazer Piranhaのものだが,ヘッドフォン出力特性とほぼ正反対のチューニングがなされているのが分かる。Razer Piranhaの公称入力特性は80Hz〜15kHzとなっているが,実際に計測してみると,200Hz〜1.5kHzが比較的フラットで,3kHz以上で大きく持ち上がっており,高域が強い。
結果として,子音が強くなるため,クリアで聞きやすくなるが,半面,高域のノイズも拾いやすくなる。歯擦(はさつ)音や破裂音が相手に伝わってしまいがちなので,滑舌が悪いしゃべり方の人は,腹から声を出すよう,意識したほうがいいかもしれない。
このチューニングは,「ボイスチャット相手もRazer Piranhaを使っている」ことを前提としたものと見るのが正解かもしれない。マイク入力時に高域を大きく持ち上げることで,高域が弱く聞こえる(チャット相手の)Razer Piranhaでもクリアに聞こえるようにした結果と考えると,この一風変わった特性も納得できるからである。
なお,位相特性を見ても,音を聞いてもとくにズレた印象はないので,いわゆるノイズキャンセリング機能は装備していないと見るべきだ。Razerは「ノイズフィルタリング機能付きマイク」(noise-filtering microphone)を搭載すると謳っているが,実際には周囲のノイズ,とくに高域ノイズを中心に拾いがちなので,この点も注意してほしい。
ブームマイクがとにかく残念
「価格に見合うか」という観点では微妙
とはいえ,軽量で長時間装着していても疲れにくいことと,Razerらしい高級感のあるルックスに強く魅力を感じる人はいるはずだ。マイク部分はときどきしか使わないというのであれば,選択肢の一つとして考慮に値しよう。
■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(Dynaudio Acoustics製「BM6A」)をマイクの正面前方5cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をヘッドセットのマイクへ入力。入力用PCに取り付けてあるサウンドカード「Sound Blaster X-Fi Elite Pro」とヘッドセットを接続して,マイク入力したデータをPAZで計測するという流れになる。もちろん事前には,カードの入力周りに位相ズレといった問題がないことを確認済みだ。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのヘッドセットレビューでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「ヘッドセットのマイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,ヘッドセットのマイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形の例。こちらもリファレンスだ
ヘッドセットのマイクに入力した声は仲間に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
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