― レビュー ―
“リアルサラウンドスピーカー”内蔵のRazer製ゲーマー向けヘッドセット
Razer Barracuda HP-1
        Gaming Headphones
Text by 榎本 涼
2006年10月10日

 

Razer Barracuda HP-1 Gaming Headphones
メーカー:Razer
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp

 2006年3月の発売から約半年。ゲーマー向け周辺機器メーカーとして知られるRazer初のヘッドセット「Razer Barracuda HP-1 Gaming Headphones」(以下Barracuda HP-1)が,いよいよ日本市場に登場する。
 販売代理店のアスクによれば,2006年10月中旬発売予定。予想実売価格は1万7000円前後となっている。ヘッドフォン/ヘッドセット業界で実績のないRazerからすると,かなり強気の価格設定だが,果たして実力は価格に見合ったものだろうか。今回は,この点に注目して,発売直前の新製品を掘り下げてみたいと思う。

 

 

8個のスピーカードライバーで5.1chを実現する
ヘッドフォン+ブームマイクのセット

 

 複数のドライバーユニットを内蔵し,バーチャルでないサラウンド環境を提供する仕様のヘッドフォンは一時期注目を集めたが,音質が低かったり,不自然なサラウンド音場だったりして,定着しなかった。2005年の「Sound Blaster X-Fi」の登場以後,ヘッドフォンを愛用するゲーマーの間では,同製品のヘッドフォン用バーチャルサラウンド機能「CMSS-3DHeadphone」を用いて,一般的な2chヘッドフォン(やヘッドセット)と組み合わせる使い方が注目を集めつつあり,その意味でBarracuda HP-1は,時代の流れとは逆行する製品といえるかもしれない。

 

 スピーカードライバーは,エンクロージャーの左右に4個ずつ,計8個内蔵。これによって5.1chを実現する仕様だ。
 一般に,5.1chスピーカーシステムというのは,フロントL/RとリアL/Rの4chに,センター1chと,サブウーファの0.1chを加えたものを指すが,Razer Barracudaは,センターとサブウーファを,それぞれ左右のスピーカードライバーに割り振っている。左右2個ずつ,計4個のスピーカードライバーで,“1.1ch”を実現しているとも換言できるだろう。
 分解したわけではないので,エンクロージャー内部でスピーカードライバーが実際にどう配置されているかは想像するほかないが,前後中央にセンター/サブウーファ用の4個,それを挟むような格好で前にフロントL/R,後ろにリアL/Rのスピーカードライバーを搭載しているものと思われる。

 

Barracuda HP-1の本体と付属品一覧。基本的にはアナログのミニピンとUSBを利用してPCと接続する

 5.1chをアナログ入力するために用意されるPCとの接続端子は,フロントL/RとリアL/R,そしてセンターおよびサブウーファのステレオ3系統。いずれもPC用としてはごく一般的なミニピン端子なので,ゲーマーにとって事実上の標準サウンドカードであるSound Blasterシリーズや,アナログのマルチチャネル出力に対応したマザーボードなど,たいていのサウンドデバイスでBarracuda HP-1は利用できる。
 このとき注目したいのは,ケーブルの途中にヘッドフォンアンプを兼ねたリモコンが用意されている点だ。以下本稿では便宜的に「リモコン」と一言で呼ぶが,リモコンは先ほど説明したアナログケーブルとは別に用意されたUSBケーブルで給電する仕様になっており,サウンド出力のオン/オフを切り替えるボタンと,マスターボリュームコントローラが用意されている。さらに,フロントL/R,リアL/R,センター,サブウーファのそれぞれに対しても,ボリュームコントローラが備わっており,各チャネルの出力バランスを調整可能だ。
 2ch入力や4ch入力を5.1chにアップミックスしたりするわけではなく,あくまで5.1chの各チャネルに対して個別の設定を行うものであることを覚えておこう。

 

ヘッドフォンアンプを内蔵するリモコン。左の写真で,左端の突起がマスターボリューム。本体側面にある4か所のくぼみに用意されたダイヤルがフロントL/RとリアL/R,センター,サブウーファのボリュームコントローラとなる。右の写真で中央よりやや左に見えるのはオン/オフの切り替えスイッチだ

 

 なお,アナログの3端子やUSBケーブルの近くには,DVI端子に似たコネクタが用意されており,コネクタ部で分かれるようになっているが,このコネクタは「Razer HD-DAI」という。Razer HD-DAIを利用すると,未発売のRazer製サウンドカード「Razer Barracuda AC-1 Gaming Audio Card」とケーブル1本で接続可能となり,別途USBから給電する必要もなくなるというが,2006年10月中旬時点では絵に描いた餅。一般的なサウンドデバイスと接続するときには,アナログ&USBに迷わず変換してしまってかまわない。

 

ほとんどの場合,取り外すことはないと思われるRazer HD-DAI。DVI端子場の端子から,アナログ5.1ch(ステレオ3系統)とマイク入力,計4個のミニピンケーブルと,給電用のUSBケーブルが伸びている

 

 

プラスチック製でしっかりした装着感
Razer製品らしく(?)耐久性への配慮はあまりない

 

 本体はダークグレー一色。1万円台後半という価格からすると素っ気ないというか,少なくとも高級感はない。一方,左右エンクロージャー部とリモコンには青色LEDが埋め込まれており,通電時にはRazerロゴを明滅させるようになっている。多くのRazer製品と共通した,光で“魅せる”方向性はBarracuda HP-1でも健在だ。

 

 エンクロージャーは耳をすっぽりと覆う密閉型で,耳と触れるイヤーパッドは布製の柔らかい素材でつくられている。ヘッドバンド部分はきつすぎずゆるすぎず,長時間のプレイを想定した,良質な装着感を提供している。
 ただ,掛け心地=使いやすさを重視しすぎているようにも感じられた。全体がプラスチック製なのはいいとしても,ヘッドフォンの耐久性に大きく影響する,ドライバーユニット(=エンクロージャー&スピーカードライバー)とヘッドバンド部の接続部もプラスチックなのは少々心許ない。耐久性に問題がありそう(あるいは,実際に問題がある)のはRazer製品に共通した特徴……といってしまえばそれまでかもしれないが,ヘビーに使う人は,この部分をできる限り保護するよう努める必要がありそうだ。

 

頭にセットしたイメージ。本文で触れたようにつけ心地は悪くないが,いかんせんプラスチック製なので,強度面は気になるところである

 

 ……と,語るべきものの非常に多いヘッドフォン部だが,ブームマイク部には,あまり歓迎できる特徴はない。ヘッドフォン部と同じくプラスチック製のブームマイクは「ちょっと角度のついた棒」といった外観で,長さや位置の微妙な調整はもちろん行えない。着脱可能で,左耳用エンクロージャー下部に用意されたマイク入力端子に接続すると利用できるシンプルさがウリだが,わずかな衝撃でも簡単に外れてしまう点には注意が必要だ。
 さらに,前述の多機能リモコンにも,マイクに関する設定だけは用意されていない。ブームマイクには,オマケ程度といった印象を受ける。

 

左の写真がブームマイク単体。右の写真のようにブームマイクをヘッドフォン部と接続すると,端子の周辺に埋め込まれた青色LEDが光る。端子を軸に回転させることで,ある程度は位置を調整可能だ

 

 

バランス調整がBarracuda HP-1のキモ
調整次第では迫力あるサラウンドサウンドを享受できる

 

 概要をつかんだところで,サウンドの入出力品質を見ていこう。Barracuda HP-1を接続するサウンドカードには,「Sound Blaster X-Fi Elite Pro」(以下X-Fi EP)を用いる。Creative Technologyは2006年9月にドライバをアップデートしているが,今回は一つ前の2.07.0004版ドライバを利用しているので注意してほしい。
 なお,X-Fi EPにはヘッドフォン端子とマイク端子を持つブレイクアウトボックスが用意されているが,Barracuda HP-1のテストにおいてはX-Fi EPのカードに直接接続している。アナログマルチチャネル出力を行う都合上,アナログ延長ケーブルなどを用意しない限り,カード以外には取り付けられないというBarracuda HP-1の仕様を考慮してのものだ。

 

 さて,まずはヘッドフォンの品質から。
 試しに,出荷状態――各チャネルのボリュームコントローラがすべてフルの状態で試聴すると,これがトンでもない音になってしまう。とくにひどいのは,セリフなどのセンター成分がやたら大きく聞こえてしまう点で,サラウンド感も何もない。つまり,Barracuda HP-1を使うには,ボリュームコントローラを駆使して調整を行う必要がある。

 

 ではどのように調整するかだが,まず,ゲームのサラウンドサウンドを用いて調整するのは避けるべきだ。
 というのも,ゲームはサラウンド環境の調整として向いていないからである。マルチチャネルスピーカーをサポートするゲームのほとんどは,Direct3DなりEAX ADVANCED HDなりをベースに調整されているが,その方法はゲームによって大きく異なる。極端な鳴り方をすることも多く,あるゲーム用に行った設定が,別のゲームでも有効とは限らない。

 

 そこでお勧めしたいのが,サラウンド感の高い大作DVD-Videoである。こう書くと「Matrix」を持ち出す人が多そうだが,Matrixは残念ながら古すぎる。Matrix用の設定は,今となってはゲームと同様,汎用性に欠けるものとなってきているので,できれば最近の作品を用意したいところだ。ちなみに筆者は今回,「ナルニア王国物語 第1章:ライオンと魔女」を用いた。

 

Sound Blaster X-Fiにおけるクロスオーバー周波数設定ウィンドウ。クロスオーバー周波数を下げるとサブウーファの担当する成分が少なくなり,結果としてサブウーファ成分の音量が下がるため,サテライトの音量も合わせて下げる必要がある。逆に上げるときは,サテライトの音量も上げておくと,バランスが取りやすくなる

 次にサウンドカード側だが,最低限,アナログ出力を5.1chモードに設定する必要がある。こうしないと,リアやセンター/サブウーファ成分が出力されない。
 また,X-Fi EPのように,サテライトスピーカーとサブウーファのクロスオーバー周波数を設定できる場合は,こちらも指定しておきたい。

 

 クロスオーバー周波数とは,フロントL/RやリアL/R,センターといったサテライトスピーカーが再生する周波数の下限(≒低域の音の下限)兼サブウーファが再生する周波数の上限として設定された周波数のこと。例えば,クロスオーバー周波数を100Hzに設定すると,サテライトスピーカーは100Hz以下,サブウーファは100Hz以上をほとんど再生しなくなる。こうして,高域と低域の分離感を高めるわけだ。
 Sound Blaster X-Fiシリーズでは,「THXコンソール」から設定可能。設定時は,80〜120Hzを目安にするといいだろう。筆者はいろいろ試した結果,Barracuda HP-1に対して,80Hzをクロスオーバー周波数として設定した。

 

 さあ,これでBarracuda HP-1の設定に入れる。
 マスターボリュームを,中央からやや上あたりの適当なところに設定したら,いったんマスターボリューム以外をすべて最小に設定し,次にリアL/Rだけ最大に設定する。続いて,フロントL/Rのボリュームを上げていき,リアよりも大きくならない程度にする。
 また,センター用のスピーカードライバー左右のエンクロージャーに一つずつ用意されているため,ボリュームを大きくしすぎるとサラウンド感が失われてしまう。そこで,フロントL/Rよりもやや絞る。最後にサブウーファのボリュームを上げ,地鳴りや大規模な戦闘などが発生するシーンなどで,適度なところに調整しよう。
 リアL/Rのボリュームを最も大きくし,その次にフロントL/R,それよりも低いレベルにセンターとイメージしておくと,調整しやすいはずだ。サブウーファのボリュームは,リアL/Rより大きく,あるいはリアL/RとフロントL/Rの間くらいに,好みに応じて調整するといい。あまりサブウーファのボリュームを上げすぎると,低周波があごのあたりまで響き,非常に不愉快な思いをすることになるので,この点はご注意を。

 

 しっかり設定すると,Barracuda HP-1からは,適当に鳴らしたときとは次元の違うサラウンド感が得られる。部屋の中にサテライトスピーカーを配した,“本物”のマルチスピーカーシステムほどではないが,回転や,例えば左後方から右前方に抜ける効果音,後方で移動する効果音なども,その軌跡をはっきりと感じられるようになるのだ。バーチャルなサラウンドヘッドフォンと比べて,前後左右,とくに後方の動きにかなり強い。上下の動きはCMSS-3DHeadphoneと比べると明らかに落ちるが,後方の動きと,サブウーファの迫力をはっきり感じられるようになるのは,Barracuda HP-1ならではといえよう。

 

 ただし,音質にはかなりクセがある。仕様上の周波数特性は50Hz〜20kHzだが,実際には中域が比較的強く,20〜60Hz付近の重低域をしっかり再生できていない印象だ。2chステレオで音楽を聴いたり,サラウンドでないゲームのBGMを聴いたりするような用途には,あまり向いていない。Barracuda HP-1はあくまで,ゲーム(やDVD-Video)のサラウンドサウンドを楽しむためのものなのである。

 

 

マイクは見た目どおりの品質
過度な期待はできない“ロボットボイス”

 

 続いてマイク入力に関しては,例によって波形で確認してみたい。
 詳細なテスト方法については2006年9月12日の記事を参照してほしいが,マイク入力検証に当たっては,口の代わりとなるスピーカーをマイクの正面前方5cmのところへ置き,モノラルの「ピンクノイズ」という,低域から高域までまんべんなく持つノイズをスピーカーから出力。ブームマイクが拾った音をサウンドカードへ入力し,PCにセットアップしておいたWaves Audio製のソフトウェアオーディオアナライザ「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下PAZ)を用いてグラフ化する。
 下がピンクノイズの波形で,これがリファレンスとなる。基本的に,ブームマイクで入力される波形がこのリファレンスに似ていれば似ているほど,入力品質は高い。

 

上段が周波数特性,下が位相特性のグラフである。周波数特性は,オーディオレベル(≒音の大きさ)を周波数(≒音の高さ)ごとに並べたもので,単位はdB。グラフ左端で縦に並んでいる数字がオーディオレベルの値を示している。位相特性は,「青い扇状の部分にオレンジの波形が入っていれば,入力した音に不自然さはなく,ヘッドセットのマイクとして合格」と理解しておくといい

 

 Barracuda HP-1に関しては,驚くべきことにマイクの仕様が公開されていないため,実際に計測してみるほかない。その結果をまとめたのが下だが,ざっくりと,100Hz〜16kHzの周波数帯域をサポートし,14kHz付近が強調されているのが特徴といえるだろう。一方,人間の声の高域に多く含まれる1〜8kHzは,高周波に向かうほど落ち込みを見せ,声がクリアに聞こえるかのカギとなる一番肝心な帯域が弱いと指摘せざるを得ない。

 

 さらに問題なのが,位相特性である。完全に位相反転を起こしている成分が多く存在しており,はっきりいって失格である。周波数帯域のクセと,位相特性の悪さもあり,実際に入力した声をモニターしてみると,水中で話している,あるいは頭の中で不自然に響くような,短いエコーがかかったような音になり,分かりにくい声になる。専門用語でいうところの「ロボットボイス」であり,ボイスチャットの相手に聞かせる音としては,かなり不快なものだ。

 

こちらがテストした波形。周波数特性の落ち込みも気になるが,それ以上にモノラルマイクとは思えないほどの位相ズレを起こしている位相特性グラフが問題である

 

 

「ヘッドセット」ではないが
「サラウンドヘッドフォン」としては合格点

 

 結論は単純明快で,製品名や,テスト結果からも明らかなように,ヘッドセットとしては不合格。マイクはオマケに過ぎないため,ボイスチャットに用いるためには,別途マイク(やブームマイクつきヘッドセット)を用意する必要がある。単体で完結するサラウンドサウンド対応ヘッドセットを探しているなら,Barracuda HP-1を選ぶべきではない。

 

 しかし同時に,ゲーム用のサラウンドヘッドフォンとしては実に優秀な製品というのも,また確かだ。
 Barracuda HP-1のリアルな5.1chサラウンドは,バーチャルサラウンドとは一線を画す音の移動感をもたらしてくれる。マルチチャネルスピーカー環境で3Dゲームをプレイしたいが,部屋のサイズなどといった物理的な制約があって設置できない,あるいは音漏れなどが気になってそもそもスピーカーを利用できないという制約を受ける人にとって,Barracuda HP-1は福音となる可能性がある。
 きちんと調整しなければ,あまたある安価な,品質の高くないリアルサラウンドヘッドフォンと同じ結果に終わってしまう。そういった「導入時に一手間かかる」点が人を選ぶ可能性はあるものの,使えるサラウンドヘッドフォンを探しているなら,Barracuda HP-1は,検討に値する存在だ。

 

タイトル ヘッドセット
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A