― 連載 ―


前方に敵1名。ふーむ。そうっと背後を通り抜けるか,それとも撃つか。生かすも殺すもスパイの胸先三寸だ。というわけで,今回は,サムおじさんの殺しのテクニック&忍びの秘技をレクチャーしよう。パンドラトゥモローでは,前作に比べてかなり「やる男」に変身したサム。たぶん,あれからみっちり鍛え上げたのであろう
 国際社会の背後に蠢く陰謀を,闇から闇に葬るトップエージェントを目指して日々鍛錬に励む諸君,サムおじさんのスパイ教室の3回めが始まるよ。みんな,よろしくね。
 突然だが,サムのようなクールなスパイになるには,とりあえず形から入ってみるのも悪くないだろう。彼は作戦コーディネータのランバート大佐から命令を受けても,「はい,分かりました! がんばります!」なんて間違っても言わないのだ。「なんにも約束できないね」とか,ひどいときには「当たり前のことを偉そうに言う奴だなあ」なんて言うので,ぜひ諸君も,職場や学校でサムの真似してもらいたい。ただし,その結果何が起ころうと当局は一切関知しないので,そのつもりで。スパイの世界は非情なのである。

 さて今回は,サムおじさんの戦術と戦闘についてレクチャーする。
 ご承知のように,サムの任務は単身で敵地の奥深くに潜入することだ。本部のランバート大佐とグリムスドッティア女史があれこれ助けてはくれるが,基本的にはたった一人で行動する(だからこそ,スプリンターセル──独立した部隊,なのだ)。しかも,合衆国政府もその存在を認めていない超極秘組織のこと,たとえ敵に捕まっても救出の可能性はまったくない。中年にもなって現場仕事が多いサムは,それなりに大変なのである。
 そんな彼の味方になってくれるのは暗闇と数々のハイテクガジェット,そして銃だけだ。

 さあ,想像していただきたい。あなたは部屋の隅にできた小さな暗闇に,しゃがみこんでいる。ステルスメーターがゼロを指しているので,体にはまったく光が当たっていないことが分かる。つまり,このままでいる限り,誰にも見つかる心配はないだろう。とはいえ,一生このままではゲームにならないし,たぶんプレイヤーもだんだんお腹がすいてくるので,部屋の中をうろうろと警戒する二人の敵を,なんとかしなくてはならない。
 どうするか? 銃で撃つか? 一人は倒せるだろうが,もう一人が気づいて警報機を押すかもしれない。スティッキーショックを使ってもいいだろうが,照明を撃って部屋を暗くし,できた暗闇を移動してもいい。壊れた照明器具を不審に思って調べに来た敵の背後にこっそり近づき,羽交い絞めにしたり殴り倒せたりするかもしれない。それとも敵の動きを見きわめ,二人同時に背を向けた瞬間に駆け抜けるか? 口笛を使うか? そばに空き缶が落ちているから,それを部屋の反対側に投げて敵の注意をそっちに引き付けるか? あるいはまた,パイプに飛びついて天井を移動するか? どうする,おじさん?

 これといった正解はない。どれを選ぼうと,あなたの自由だ。スプリンターセルの面白さは,そうした自由度の高さだといっていいだろう。基本的にマップは一本道で,遂行すべき任務も決まっているが,個々の問題には数多くの解決策が与えられていて,プレイヤーはそれらの中から最も確度の高い方法,あるいは好みの方法を選んで解決していくことになる。

 終わり。……では訓練にならないから,ちょっとだけ長所と短所を述べる。

【銃撃】

正確なヘッドショットを決めない限り,一発で倒すのは難しい。ライフルは発砲音を聞かれて隠れ場所が露見してしまう。複数の敵がいる場合,反撃されて傷つく恐れもある。死体を隠す必要あり。

【ガジェット】

スティッキーショックは有効で,「何が起こった?」と駆けつける仲間を殴り倒せばよい。距離があるならガス弾の連投も有効。ただし,いずれも弾数が少ない。

【羽交い絞め】

ただ殴っただけでは,仲間に物音で気づかれる恐れがあるので羽交い絞めが有効。ただし,事前に照明器具を破壊すると,敵の警戒心を高めてしまうことがある。警戒心の高まった相手の背後に接近するのは難しいのだ。

【スルー】

可能であれば,最も有効な手段。同じルートを行って帰る,ということはほぼないので,いったんやり過ごせば二度と姿をお見かけすることはないはず。

これが問題の「イスラエル市内のさる広場」。こんなに電球があるので,全部撃ち抜いていては弾切れになる 正面からは難しいので,細い路地を抜けてビルの壁面を昇る。パイプさえあればヒマラヤでも簡単に登れそう 窓から勝手に人の家に入り,テレビを見ている家人の背後をそっと通り過ぎる。ちょいとごめんなさいよ

 

屋根を通って,広場の向こう側に到着。その間,約3分。広場を通り抜けようとすれば,小一時間はかかる 寝ている奴のそばをこっそりと移動。もちろん,起こして殴ってもいいし,あの世に送ってやっても構わない 一難去ってまた一難。敵は明るいところでこっちを向いている。どう通り抜けようか,と考えるのが楽しい

 

 

 

今回は,否応なく戦闘しなければならない局面が増えた。独りぼっちのおじさんには,ハイテクライフルだけが頼もしい味方だ。まあ,手榴弾もあるけど。えーと,ガスを撃ち込んでやってもいいかな。ともかく,闇の中から必殺の一弾が相手の眉間を撃ち抜くとき,敵は彼の恐ろしさを身に沁みて痛感するのだが,気づいたときにはもう遅い。かっこいー
 問題の解決手段の幅をさらに広げているのが,作りこまれたマップと優秀なAIだ。一例を挙げよう。私はイスラエル市内のさる広場を突っ切るのが大の苦手であった。5,6人の警官がうろうろしているし,彼らを撃ってはいけないし,照明は多いしで,やたらと苦労して暗がりを進み,突破には小一時間かかるのが常であった。ところがある日,「はて,この道はどこに続いているのだろう?」と試みに脇のアーケードに入ってみると,細道の先はパイプがあり,それを昇って屋上を行けば,広場を簡単にパスできるじゃありませんか。そうだったのか! 今までのオレの苦労はなんだったのだ!

 マップ中,全部とはいわないまでも,そうした仕掛けがあちこちにある。いかにも「ここをこう行けば大丈夫ですよ」といった雰囲気の場所が用意してあるのだが,もう一歩奥を探してみると,さらに楽な裏口がある,という具合で,実に計算されている。そんな抜け道を発見したときは,まさにエージェント冥利に尽きるといっていいだろう。

 敵AIも,緊張感を高める重要なファクターだ。やたらとこちらを発見しすぎてもゲーム的なリアリティに欠けるし,目の前を通り過ぎても気づかないようなボンヤリさんでは興醒めである。本作に登場する敵は適度な視力と聴力を備えており,うかつな行動をすると,すぐに気づかれる。記憶力も備えており,さっき点いていたはずの部屋の電気が消えていると,不審に思って入ってくる。初期の行動はスクリプトに頼っているが,警戒心を抱いたり,こちらを発見したりした後の行動は毎回同じではなく,予測がつきにくい。
 マップや場所によって敵の能力に変化があるようで,「あれ,さっきはこの手で成功したのに,ここじゃダメか」というケースも多い。このように,敵はかなり優秀なので,一見,ヘンな顔をしているからといって見くびってはならないのだ。

 とはいえ,前作と比較して難度はやや下がっているから,たとえスニーク初心者でも安心してよろしい。敵の警戒レベルは,マップにもよるがだいたい3段階で,いったん発見されて警戒レベルが上がっても,しばらく隠れていれば自動的に警戒レベルが元に戻る。
 以前は,発見されて撃ち合いに持ち込まれるとほとんど勝ち目がなかったが(望んで銃撃戦を始めた場合,その限りではないが),今回はサムの戦闘能力が向上し(選択したゲームの難度にもよるが)銃撃戦で血路を開くことも必ずしも不可能ではないだろう。私も,試験の成績が悪かったり(筆者は大学生なのである),財布を落としてしまったときなど,「いっちょやったるか!」と銃撃戦を始めることもあるほどだ。ただしFPSのような爽快感はないので,そのつもりで。

前作に引き続き,敵の士官を捕らえて網膜スキャナーをパスするサム。筆者の好きなアトラクションの一つだ 敵技術者を脅迫して強引に潜水艦を浮上させる。うっかり殴り倒すと任務失敗なので,命令はちゃんと聞くこと 一人,また一人と除去していくサム。味方だからいいようなものの,考えてみるとかなり不気味な男だ

 

 

 

ゲーム中,一か所だけ決断を迫られるシーンがある。瞬間的に求められる割に,なかなか重大な決断である。ここで選んだ行動により,その後の展開がわずかに変わるのだ

 というわけで,以上のような基本戦術を臨機応変に使いこなし,アメリカに害を与えようとする悪い奴らの陰謀を暴いていただきたい。ちなみに,欧米ではついにシリーズ最新作「Splinter Cell Chaos Theory」が発売されてしまった。私もさっそく購入して新しいサムの活躍を楽しみつつ,この「スプリンターセル パンドラトゥモロー 完全日本語版」もプレイしているので,まさに「サム漬け」状態。あるいは「おやじ漬け」。ちょっと語感が悪いな。「スパイ漬け」あたりかな。ともかく,暗いところを行ったり来たりする日々である。楽しいったらありゃしない。

 さて,最終回となる次回は,本作から新たに導入されたマルチプレイの訓練をしてみたい。スプリンターセルらしく,ほかには例を見ない斬新な試みがあちこちにある,ユニークなマルチプレイ。ハイテクガジェットを使いこなしつつ仲間と協力する,シングルとはかなり違ったプレイスタイルの要求される厳しい戦いだ。心して待っていていただきたい。



■■松本隆一(ライター/学生)■■
以前の職場では「ステルス親父」などと呼ばれ,大事な用件のあるときに限って見つからないなどのステルスぶりを発揮してきた。サムのようなステルスアクションは昔から実生活で実践しており,沖縄の社員旅行ではいちゃつくカップルを探して夜の砂浜でSWATターンをしたり,伊豆の社員旅行では暗い部屋で双眼鏡で隣のホテルを覗いたりと,常に国際諜報戦の最前線に身を置いてきた。そんな松本氏の最近の願望は「また社員旅行に行きたいなぁ」だそうだ。
タイトル スプリンターセル パンドラトゥモロー 完全日本語版
開発元 Ubisoft 発売元 ユービーアイソフト
発売日 2005/03/31 価格 8190円(税込)
 
動作環境 Windows 98SE/Me/2000/XP(XP推奨),IntelまたはAMDのプロセッサ/1GHz以上(1.8GHz以上推奨),メモリ 128MB以上(512MB以上推奨),空きHDD容量 2.5GB以上,ビデオカード GeForce 3以上(GeForce 4とGeForce4 Goはサポート外。VRAM 128MB以上,GeForce FXまたはATI RADEON 9800以上推奨),DirectX 8.1b以降

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