― 連載 ―


今週はマルチプレイについて少々。一度プレイしてみればすぐに分かるが,マルチプレイは,グラフィックスも操作性も異なる,まさにもう一つのスプリンターセルといっていいほどだ。しかもスパイを選ぶか傭兵を選ぶかでゲーム性は大きく異なり,一粒で三度おいしいとはこのこと
 暗闇に生きるスーパースパイ,サム・フィッシャーたらんと日夜猛訓練に励む諸君,お世話になってます,おなじみのサムおじさんのスパイ教室です。たまには日光に当たらないと,ビタミンDが不足するので気をつけてくださいね。
 さて本連載も4回めを迎え,諸君はとっくに敵の極秘計画「パンドラトゥモロー」など,二度も三度もひっくり返していることであろう。ゲリラのカリスマ指導者スハディ・サドノも,アメリカに恨みを持つ傭兵ノーマン・ソスも「え? またやられちゃうの,俺?」という気分のはずだ。気の毒であるが仕方がない。スパイの世界は非情の世界だ。
 というわけで,今回はシングルプレイを離れ,本作から導入された新機能,マルチプレイについて簡単にレクチャーしていくことにする。

 今を去ること2年前,大ヒットした前作「スプリンターセル」の続編開発がアナウンスされたとき,メディアやファンサイトには,いろいろな憶測が飛び交った。なぜならそこには「マルチプレイ機能の搭載」が正式に謳われていたからだ。それまでにもマルチの要望は多かったものの,メーカー側としては態度保留の状態だった。なにしろ,前作はシングルプレイに極めて特化したゲームであり,「サム・フィッシャー64人対戦」とか「サムがサムを羽交い絞め」などという光景は,ちょっと想像しづらいものがあったのだ。かといって,誰も呑気なヤラレ役なんか,やりたがらないだろう。

 そんな期待と不安の中で登場した「スプリンターセル パンドラトゥモロー」のマルチプレイだったのだが,結果として大変斬新なゲームシステムに仕上がっており,あらためて「さすがスプリンターセル!」と,世界のあちこちでヒザが叩かれちゃったりしたのである。
 舞台設定は,シングルプレイのエピソードの一つが使用されている。「NSCの特殊部隊であるシャドウネットが,サドノが方々に仕掛けたND133Kを回収する」という,ムービーシーンにあるアレだ。つまりスパイ側はサムと同じサードエシュロンの特殊工作員で,対する勢力はND133Kを警備するためにソスが雇った傭兵会社,"ARGUS Corp."ということになる。
 マルチプレイに参加できるのは最大4人で,スパイ側と傭兵側に分かれて戦うゲームモードのみだが,これが実に熱い。

スパイ側と傭兵側,それぞれに簡単なチュートリアルが付いてくるので,操作に迷うことはないと思う。とはいえ,キーアサインがシングルから大幅に変更されているので,続けてプレイするとちょっと混乱してしまうかもしれない

 

傭兵側のチュートリアルから。彼らには,動くものを探知するモーションビジョン(中)と,エンジンなど電磁気を発生するものを探知するEMFビジョン(右)が装備される。だがナイトビジョンはなく,頭部のフラッシュライトだけが頼り

 

 

 

マルチプレイはCo-opのみだが,モードは3種類。時間内にND133Kをその場で中和するか,引っこ抜いてドロップポイントまで持っていくか,モデムを仕掛けて中和させるか,である。ND133Kを置いてあるステーションの数はそれほど多くはないが,マップは非常に広く,また入り組んでいる
 ユニークなのはここからで,スパイと傭兵では「まるで違うゲームではないか」というくらい内容が違ってくる。まず,スパイの視点はシングルプレイと同じ三人称スタイルで,自分や周囲の状態を確認しやすいものの,撃ち合いにはやや不向き。対する傭兵はよくあるFPSと同じ一人称視点で,メリット,デメリットはスパイとまったく逆。
 また,スパイ側はサムおじさん同様,多彩なアクロバットアクションが可能だが,傭兵はせいぜいダッシュしたり,しゃがんだりと,これまた普通のFPSらしい行動しか取れない。おかげでスパイ側は排気口やら天井裏やら床下などの裏道が使用できるため,移動/侵入可能エリアがたいへん広いのに対して,傭兵側は十分に開けた,ごく一部のエリアしか移動できないのだ。
 さらに武器,ガジェット類も大きく異なる。スパイ側がスモークグレネードや敵を一瞬だけ麻痺させるライフルなど,非致死性武器しか持たないのに対し,傭兵側には高性能ライフルや地雷,フラググレネードなど殺傷力の高い武器類が用意されている。

 これまでにも,選んだキャラクターや兵科で能力が異なるゲームはあったが,ここまで違ったシステムを採用したマルチプレイは,個人的に初めてだ(ただし,筆者はいたって物覚えが悪いので気をつけるように)。シングルはステルス系だがマルチでは派手なアクションかなと想像していただけに,「おじさん一本取られたなあ」という雰囲気が濃厚。このシステムなら,マルチでも無理なくステルスアクションを楽しめる寸法だ。

傭兵側はライフルやフラググレネードなど,多くの致死性武器を持つが,ぶら下がったり昇ったり,狭い排気口に潜ったりといったアクションはできない。また移動速度もやや遅く,サーチライトしか持たないため暗闇における視野は狭い

 とはいえ,「どちらかが有利不利」というのはあると思う。ネット世界に跳梁する神技スパイも多くいるが,私のようなヌルめのプレイヤーには,どうも傭兵側のほうが分かりやすい(勝ちやすいというわけではない)。傭兵は「スパイを発見して攻撃を加え,これを取り除く」という単純な行動原理に則ってプレイすればいいし,殺される心配も少ないし(ゼロではない。スパイに絞め殺されると,かなりの屈辱感を味わえるぞ),敵を見失っても,やつらはいずれND133Kのところへやってくるのだ。

 スパイ側で勝利を収めるためには,ガジェットやマップに精通し,多彩なアクションを使いこなし,相手の裏をかかなければならない。要するに,たくさんプレイして慣れるしかない。しかも脱初心者を目指すのなら,さらに味方との緊密な協調も重要になってくる。一方,傭兵側でやる場合は,まずスパイ側の相手が弱いことを祈るところから始める。練達すぎるスパイが相手だと,もうどうしようもない場合が結構多いからだ。
 スパイでも傭兵でも,チームワークには相互連絡が欠かせないが,本作はボイスチャットにも対応している。いや,むしろ上を狙うなら「ボイスチャット必須」といえるだろう。チャットは随時可能なので,ヘッドセットを装備し,キーボードとマウスを操作しつつ,仲間とお話ししながらプレイするのがマルチプレイの正しい姿なのである。たぶん。

対するスパイは,非致死性武器しか持たないが,サムばりに暗闇を自由自在に移動できる。ちゃんと敵の写っている写真がなくて申し訳ないが,なにしろ筆者の技量でマルチプレイ中に撮影するのは困難なのだ。うーむ,スパイは孤独だなぁ

 

 

 

 以上のように,参加人数が少ないため個人の技量が問われ,ボイスチャットのような,ちょっと照れくさい要素もあり,またアクションも武器も数多くあるので,やや敷居が高めな雰囲気があるのも事実。シングルプレイのように「オレは無敵だ。わははは」という間違った優越感もすぐには味わえないかもしれない。だが,このハイテク満載の鬼ごっこ,闇の中を追いつ追われつの快感は,ハマると病みつきになるはずだ。基本的に非常に面白く,しかもむやみにカッコいいのである。クールなスパイと歴戦の傭兵による暗闇の死闘なんて,ゲーム以外じゃまず体験できっこないではないか。

 なお,本作は「スプリンターセル パンドラトゥモロー 完全日本語版」でありながら,マルチプレイ部分だけはすべて英語表示のままとなっているが,これは海外版マルチプレイヤーとの互換性を保つためと思われる。どの英文も簡単な内容ではあるし,マニュアルを見ればだいたい分かるのだが,シングルプレイをそのまま応用とはいかない部分もあり,英語のせいで敬遠する人がいたら非常に惜しい。

 そんなわけで,4回にわたってお届けしてきたスパイ教室だが,いかがでございました? 日本人が苦手とするスニークがメインで,中年のおじさんが主人公で,舞台は東南アジアのジャングル,と聞いて遠慮していた諸君も,一度プレイしてみれば,本作がいかに稀に見る完成度のスパイゲームであるかが分かるはずだ。諸君もぜひ,私と一緒に国際諜報戦の最前線に立ってほしい。ではまた。

世界中でヒットしているステルスアクションの巨峰,スプリンターセルが日本語で楽しめる絶好の機会。欧米ではついに第3弾も発売され,サムの評判はますます高まるばかりだ。そんな人気の秘密をぜひあなたの目で確認していただきたい

■■松本隆一(ライター/学生)■■
アメリカ在住の松本氏は,当然アメリカのテレビ番組を観ている。好きな番組は「COPS」というドキュメンタリーで,いわゆる警察密着24時のような番組。アメリカの警察官が犯罪者を逮捕する様子を毎週放映している,FOXの看板番組である。日本とは違い逮捕者の顔にモザイクが入らないので,「うーむ,なんて悪そうな顔なんだ」と感心しながら観ているらしい。スプリンターセルに出てくる敵役は,なかなか逮捕のし甲斐がありそうな悪人顔が揃っているそうだ。
タイトル スプリンターセル パンドラトゥモロー 完全日本語版
開発元 Ubisoft 発売元 ユービーアイソフト
発売日 2005/03/31 価格 8190円(税込)
 
動作環境 Windows 98SE/Me/2000/XP(XP推奨),IntelまたはAMDのプロセッサ/1GHz以上(1.8GHz以上推奨),メモリ 128MB以上(512MB以上推奨),空きHDD容量 2.5GB以上,ビデオカード GeForce 3以上(GeForce 4とGeForce4 Goはサポート外。VRAM 128MB以上,GeForce FXまたはATI RADEON 9800以上推奨),DirectX 8.1b以降

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