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情け容赦のない,国際諜報戦の最前線へようこそ。今夜もなるべく暗いところを選んで,こっそり動き,敵に見つからないように祈りながら,厳しい作戦を遂行しよう |
スパイになりたくて日夜努力している諸君,えーと,ご苦労さん。今日は,サムおじさんの肉体の魅力についてちょっと考えてみよう。パイプを昇り,ロープにぶら下がり,敵の真後ろに落下して,掌底一発。「あう」と倒れる敵。練習の末,こうした一連の技が流れるように決まるようになると,もうあなたはスパイの虜。カッコ良すぎるぞ,おじさん。
というわけで,「スプリンターセル パンドラトゥモロー 完全日本語版」の連載第2回である。さすが完全日本語版というだけあって,セリフも文字も日本語になっているのが非常に嬉しい。私は現在アメリカ在住で英語に堪能であり,この1年というもの英語版「Pandora Tomorrow」を繰り返し遊び尽くしてきたのだが,このたび日本語版をプレイして「あ,そういうことだったのか!」という新発見が一度ならずあり,私の英語力の程度が知れるというもので照れくさい。やはり,私にとって日本語は最高によく分かるといって過言でないだろう。日本語ラブ!
熱血漢タイプの主人公ではないサム・フィッシャーの語り口は,ときとしてとてもシニカルだったり皮肉っぽかったりする。前作のラスト,グルジアの情報テロ事件の解決を自賛するバウアー大統領の演説をテレビで見ながら,それを笑うサムの姿に,単純な愛国者,軍人とは異なる新しいキャラクター像を見たのだが,今回もその流れを確実に汲んでいる。日本語訳もかなり良く,サムっぽい,乾いたユーモアが利いていると思う。
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やあ,僕だよ。サムおじさんだよ。どこに隠れているか分かるかなー? プレイヤーもうっかり見失ってしまいそうなほど,闇に溶け込むのが上手なサム。誰にも見つからなければ,無駄に殺す必要もないのである |
敵を撃ち殺していいのなら,このゲームはだいぶ楽になる。
暗闇から,多目的アサルトライフルSC-20Kの望遠照準で眉間に一発。ボロ雑巾のように崩れ落ちる敵。無表情に通り過ぎるサム……というのもカッコいいのだが,やはりゲームに慣れてくると,それでは満足できなくなるはずだ。敵を殺してはいけないマップもあるし,二人以上の敵がいる場合は一人を倒した時点で警報を鳴らされてしまう恐れもある。
やはりサムの醍醐味は,暗闇をこっそりスルーすること。それが難しい場合でも,せめて殴り倒しが基本だろう。自慢じゃないが,私はほぼ全マップ,殴り倒し専門でいけるようになった。銃を使うのはノン・リーサルウェポンを使うときと,照明器具を撃ち抜くときだけだ。さらに剛の者になると,全編スルーのみ,なんてのも可能らしい。
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デモ版でおなじみ,猛スピードで走っているTGVの車体の下を移動するサム。標的に近づくためなら手段を選ばないのがスパイの非情の掟だ |
そんなサムのスニークを成功させる最大の要素が,彼のさまざまな肉体アクションだ。壁を伝い,柱を昇り,パイプにぶら下がる。一見,入れそうもない場所でも,多彩な動きを使って密やかに潜入する。マニュアルにはやたらいろんなアクションが載っており,ぱっと見は難しそうだが,このあたりのインタフェースはよく練り込まれてある。実際にプレイしてみると,一度に二つ以上のことを考えられない筆者でも,簡単にサムを操れるのだ。
| ●ぶらさがり ぶら下がり健康法によってサムは体調を維持しているのだ,と断言できるほど,ぶら下がりアクションは基本中の基本 |
アクションに関して,前作からの細かい変更はいろいろあるが,目立つものとして「逆さにぶら下がった状態で銃を撃つ」と「ハーフスプリットジャンプからジャンプ」,そして私の大好きな「SWATターン」がある。チュートリアルを兼ねた最初のマップをプレイしてみれば,逆さ発砲以外,一通り体験できる。先へ進むに連れ,この新しい動きを使って局面を打開するシーンが増えてくるが,やはり使用頻度が高いのがSWATターンだろう。これを使って,向こうに人がいる開いたドアの前をすっと通り過ぎるのは,なんでか知らないけど,たまらなく楽しい。10回ぐらい行ったり来たりしても,敵はてんで気がつかないのだ。ざまあみろ。
ちなみに,前作にあって今回廃止されたアクションには「二段ジャンプ」がある。山の上に建つグルジア大統領官邸に忍び込もうとして二段ジャンプに失敗,悲鳴とともに何度も崖下に転がり落ちるサムもいい思い出だが,やっぱり難しすぎたんだろうね,あれ。
| ●SWATターン これこれ,こんな壁→隙間→壁→隙間と続くような場所こそSWATターンの出番。壁から壁へクルッと素早く移動するのだ |
戦闘に関しては,「つかみかかる」に十分慣れておきたい。この発明だけでもノーベル賞をあげたいくらいだが,ようするに,敵の背後にそっと忍び寄って羽交い絞めにし,そのまま暗いところへ連れて行って拳骨で殴り倒すという小粋なアクションだ。
背後から単に殴っただけだと,たまにどういうわけか(本当どういうわけなんだろう?),ほかの敵が気づいて警戒態勢に入ったりするが,「つかみかかる」が成功すれば,そんな心配もない。捕まえた敵を盾にして銃を構え,ほかの敵を攻撃することもでき,最高に卑怯な感じがするが,有効度は高い。
いずれにしろ,ほとんどの技はタイミングと距離感が命なので,もう,目をつぶっても羽交い絞められるくらい何度も何度も練習していただきたい。ただし,現実でやると牢屋に入れられるので,要注意だ。サムも悲しむぞ。
| ●つかみかかる 背後からこっそり近づき,頭に銃を突きつける。情報を聞き出したり,物陰に連れ込んだり,盾にしたりとやりたい放題 |
こうした,彼の鍛え上げた技の数々を発揮する場として,マップが非常によくできている。基本的にはリニアな一本道なのだが,その中の目的地Aから目的地Bへ向かうルートが必ずしも一つではないのだ。
例えばセスナの格納庫を突破するとき,こっそり忍び込んで護衛の目をかいくぐりながら(あるいは,倒しながら)迂回しても良いし,梯子を上がって,梁にぶら下がりながら進んでもいい。ぶら下がりながら銃で敵を倒すのもありだし,途中でセスナの翼の上に飛び降りるのも,向こう側まで渡って柱を降りるのも可能。もし財布を落っことして気が立っているなら,まっ正面から入っていって,アサルトライフルを乱射してもいいだろう(警戒レベルが上がるし怪我するしであんまりお勧めできないが)。
こうしたルート探索の面白さが,本作のリプレイ性や中毒性を高めているのである。
次回はサムの「殺しのテクニック」について考察してみたい。年頃の娘,サラの前ではよいお父さんを演じているが,彼は実は,国益のためなら殺人,誘拐,破壊,なんでもござれの恐ろしい男でもあるのだ。これがイケメンの若い男だったら憎らしい気もするが,シニカルな中年,というところがサムのキャラ立ちのよさだ。ずっと応援しています。