― 連載 ―


ダーザの棍棒
 プレイボーイのダーザ 
Illustration by つるみとしゆき

 ケルト神話には,プレイボーイで食欲旺盛な一人の神が登場する。それがダーザ(Dagdha)である。実は,ダーザというのは良き神という愛称でしかなく,しばしばダーザ・モール(偉大なるダーザ:Dagdha Mor)とも呼ばれるが,真の名は不明だ。
 ケルトの神々といえば優美な印象があるが,ダーザはそうではなかった。よく言えば巨漢の神なのだが,数々の書物で,ボサボサの髪の毛に,赤ら顔,突き出た腹……などと表現されている。着ている服も丈が足りないなど,お世辞にも美しいとはいえない神なのだ。
 しかし彼は,ケルト神話でも随一のプレイボーイだった。ダーザは滑稽だが憎めないキャラクターとして描かれることが多く,神々はそんな彼に心を開いていた(女性受けもよかった)のだろう。
 ダーザは三人の妻をめとっていたほか,湖の乙女達,水の女神ボーアン,一説には戦の女神モーリアンとも浮き名を流したばかりか,敵対していたフィルボルグの王女エヴァとも関係を持ったとされている。
 ケルトの神々の活躍というと勇敢なエピソードが多いのだが,ダーザのエピソードはどこか違うスケールで語られることが多い。それが彼の大きな魅力であり,実に興味深い。さっそく食欲旺盛でプレイボーイなダーザの活躍を見ていくとしよう。

 フィルボルグの王女エヴァ 

 ダーザを象徴するエピソードは,フィルボルグの王女エヴァ(Eba)との恋だろう。ある日のこと,神々と敵対するフィルボルグが侵攻してきた。この報せはすぐにダーザの耳にも入り,ダーザは部下のドルイド達に,魔力によってフィルボルグ達の侵攻を妨害するよう命じた。しかしドルイド達の健闘もむなしく,強力なフィルボルグ達の侵攻はわずかに遅くなっただけであった。
 そこでダーザは,神々の使節としてフィルボルグ達のもとへと向かった。フィルボルグ達は80ガロン(約300リットル)ものオートミールを作ると,これを無駄にすることは歓迎を無駄にすること。もしも食べ尽くせない場合は,それ相応の仕打ちを受けてもらうと無理難題をふっかけた。むろん,すべてを食べきれないと判断したうえでの発言である。
 だが,ダーザは巨大なスプーンを出すと,それを一滴残らず完食。満腹になった身体を休めようと近くの湖に行き,そこでフィルボルグの王女エヴァと出会い,関係を持ってしまった。そしてダーザは彼女に,フィルボルグ達の侵攻を止めてくれれば,その間はここに滞在すると約束したのだ。すっかり虜になってしまったエヴァは,フィルボルグ達の侵攻を妨害。なんと一週間にわたって,フィルボルグは軍を進められなかったのである。

 ダーザの戦いと魔法の棍棒 

 プレイボーイで食欲旺盛なダーザだが,まったく戦わなかったわけではない。彼の持つ棍棒(銘は不明)には八つの突起がついており,8人がかりでなければ運べないほど重く巨大で,引きずるだけで地面に堀ができてしまうほどだったという。
 神々とフィルボルグが戦ったとされるモイトゥラの戦いで,ダーザはこの棍棒を使って戦った。フィルボルグのキルヴという戦士と一騎討ちを行ったときには,キルヴの頭をやすやすと粉砕している。ほかにもモイトゥラの戦いの後半戦では,棍棒を振るって何百もの敵をなぎ倒している。ダーザの棍棒は,一振りで8人を葬ることができたとも伝えられており,その破壊力の凄まじさは推して知るべし,といったところだろう。
 ちなみにダーザの棍棒は,逆手で振るうことで人の命を救うこともできたという。治療効果のある武器というのは珍しく,興味深い。
 またダーザは,ほかにも数々の魔法の品を持っていた。決して食物が尽きることのないダーザの釜(Cauldron of Dagdha),何度食べても生き返る魔法の猪(銘は不明)などが代表的なところだ。また戦いの後などには,魔法の竪琴ウァードネ(Uainte)を弾いて,人々に笑いをもたらし,場を和やかにしたほか,天候や季節までをも操ったそうだ。

 

蜻蛉切

■■Murayama(ライター)■■
仕事の関係で,数日後には渡米しなければならないMurayama。4Gamer編集部としては,いい加減今回の連載を掲載したいのだが,渡米準備が忙しいのか,3月27日23時現在,Murayamaに連絡がつかない。「著者紹介」ネタを相談したいのだが,このような状態で,やむを得ずこんなことを書いている次第だ。まぁ著者紹介くらいはまだいいのだが,「次回予告」を教えてもらっていないのが,非常に困った状況である。とりあえず,「次回予告:Murayama Blade」などと適当にでっちあげて,記事をUpしてしまおうと思う。次回連載が楽しみである。

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http://www.4gamer.net/weekly/sandm/054/sandm_054.shtml