神話の中でも,ギリシャ神話,北欧神話,ケルト神話あたりは,ファンタジーゲームのモチーフとしてよく使われている。ミノタウロス,フェンリル,そして多種多様な妖精などと,ゲーム世界で敵対する(出会う)ことは多く,ファンタジーファンであればニヤリとさせられることもしばしばだろう。
しかし中には,前述したような「メジャーどころ」の神話に登場しない,あまり聞き慣れないモンスターもいる。そんなモンスターのルーツを調べることも,ファンタジーファンならではの楽しみといえる。
今回紹介するケツァルコアトル(Quetzalcoatl)も,あまりメジャーな存在ではないが,その起源は実に興味深い。あまり詳しく知らないという人は,ぜひ本稿に目を通してほしい。
ケツァルコアトルは,翼を持った蛇として描かれることが多い。見た目はいかにも「モンスター」という感じだが,実際にはアステカ神話に登場する位の高い神だ。それ相応の態度で助力を乞えば,力になってくれることもあるかもしれない。
ちなみにアステカ神話では,生贄を要求する神が多いものの,ケツァルコアトルはそれをやめさせようとした経歴を持つ優しい(?)神なので,代償を要求されるにしても,とんでもないものを差し出せとは言わないはず。一説によれば「綺麗な蝶の羽」を好んだとのことなので,願いの代わりに綺麗な蝶を探すことになるかもしれない(それはそれで大変そうだが……)。
ゲームに登場するケツァルコアトルは,残念ながらあまり神話上のエピソードが生かされたキャラクター付けはされておらず,「翼を持つ蛇」というビジュアル面が再現される程度に留まっている。
ゲームによって扱いはさまざまだが,「ファイナルファンタジーVIII」では,雷属性の技「サンダーストーム」を使う召喚獣(名前は微妙に異なるが)として登場し,「ティル・ナ・ノーグ」では,通常モンスターの一種として登場する。ちなみに実際のケツァルコアトルは,死と復活,聖職者の保護を司る神とされていた。
ケツァルコアトルは,ナワトル語(アメリカ先住民の諸言語)でグアテマラの国鳥を指すケツァル(Quetzal)と,蛇を示すコアトル(Coatl)の合成語であり,少々意訳になるが「羽毛ある蛇」という意味になる。
アステカ神話でのケツァルコアトルは,トナカテクトリとトナカシワトルの三男とされており,トラトラウキ・テスカトリポカ,ヤヤウキ・テスカトリポカという二人の兄と,ウィツィロポチトリという弟がいたとされている。
ちなみにテスカトリポカが二神いるので混乱するかもしれないが,一般的に言われるテスカトリポカは次男の方だ。この四神が世界を創造し,東をトラトラウキ・テスカトリポカが,北をヤヤウキ・テスカトリポカが,西をケツァルコアトル,南をウィツィロポチトリが治めたとされている。
有名なエピソードとしては,テスカトリポカとケツァルコアトルの喧嘩に関するものがある。テスカトリポカは生贄を要求する神だが,それにケツァルコアトルが反対したことから,両者の仲は悪くなった。両者の争いの結果,ケツァルコアトルは敗れ去り,「一の葦の年に復活する」と残してアステカを去ったのである。一説によれば逃げたのではなく,殺されてしまったのだとも言われており,空に上がって金星になったとも伝えられている。
と,ここまでは神話の話だが,史実上には,この神話のお陰で得をした人物がいるのだ。それがスペインの冒険家/征服家であるエルナン・コルテスである。彼は1519年(一の葦の年)に,アステカに到着した。このときコルテスは馬に乗り,色白でヒゲを生やしていたのだが,その姿がアステカの人々の目には異様であったために,ケツァルコアトルが帰還したと勘違いされたのだ。当時のアステカの王,モクテスマ2世は,「これまで預かってきた国をお返しする」とコルテスを迎え入れてしまい,それがきっかけとなって,アステカは滅亡への道を辿ったのだともいわれている。







