連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第39回:ケツァルコアトル(Quetzalcoatl)

 神話の中でも,ギリシャ神話,北欧神話,ケルト神話あたりは,ファンタジーゲームのモチーフとしてよく使われている。ミノタウロス,フェンリル,そして多種多様な妖精などと,ゲーム世界で敵対する(出会う)ことは多く,ファンタジーファンであればニヤリとさせられることもしばしばだろう。
 しかし中には,前述したような「メジャーどころ」の神話に登場しない,あまり聞き慣れないモンスターもいる。そんなモンスターのルーツを調べることも,ファンタジーファンならではの楽しみといえる。
 今回紹介するケツァルコアトル(Quetzalcoatl)も,あまりメジャーな存在ではないが,その起源は実に興味深い。あまり詳しく知らないという人は,ぜひ本稿に目を通してほしい。

 ケツァルコアトルは,翼を持った蛇として描かれることが多い。見た目はいかにも「モンスター」という感じだが,実際にはアステカ神話に登場する位の高い神だ。それ相応の態度で助力を乞えば,力になってくれることもあるかもしれない。
 ちなみにアステカ神話では,生贄を要求する神が多いものの,ケツァルコアトルはそれをやめさせようとした経歴を持つ優しい(?)神なので,代償を要求されるにしても,とんでもないものを差し出せとは言わないはず。一説によれば「綺麗な蝶の羽」を好んだとのことなので,願いの代わりに綺麗な蝶を探すことになるかもしれない(それはそれで大変そうだが……)。
 ゲームに登場するケツァルコアトルは,残念ながらあまり神話上のエピソードが生かされたキャラクター付けはされておらず,「翼を持つ蛇」というビジュアル面が再現される程度に留まっている。
 ゲームによって扱いはさまざまだが,「ファイナルファンタジーVIII」では,雷属性の技「サンダーストーム」を使う召喚獣(名前は微妙に異なるが)として登場し,「ティル・ナ・ノーグ」では,通常モンスターの一種として登場する。ちなみに実際のケツァルコアトルは,死と復活,聖職者の保護を司る神とされていた。

 

 ケツァルコアトルは,ナワトル語(アメリカ先住民の諸言語)でグアテマラの国鳥を指すケツァル(Quetzal)と,蛇を示すコアトル(Coatl)の合成語であり,少々意訳になるが「羽毛ある蛇」という意味になる。
 アステカ神話でのケツァルコアトルは,トナカテクトリとトナカシワトルの三男とされており,トラトラウキ・テスカトリポカ,ヤヤウキ・テスカトリポカという二人の兄と,ウィツィロポチトリという弟がいたとされている。
 ちなみにテスカトリポカが二神いるので混乱するかもしれないが,一般的に言われるテスカトリポカは次男の方だ。この四神が世界を創造し,東をトラトラウキ・テスカトリポカが,北をヤヤウキ・テスカトリポカが,西をケツァルコアトル,南をウィツィロポチトリが治めたとされている。
 有名なエピソードとしては,テスカトリポカとケツァルコアトルの喧嘩に関するものがある。テスカトリポカは生贄を要求する神だが,それにケツァルコアトルが反対したことから,両者の仲は悪くなった。両者の争いの結果,ケツァルコアトルは敗れ去り,「一の葦の年に復活する」と残してアステカを去ったのである。一説によれば逃げたのではなく,殺されてしまったのだとも言われており,空に上がって金星になったとも伝えられている。
 と,ここまでは神話の話だが,史実上には,この神話のお陰で得をした人物がいるのだ。それがスペインの冒険家/征服家であるエルナン・コルテスである。彼は1519年(一の葦の年)に,アステカに到着した。このときコルテスは馬に乗り,色白でヒゲを生やしていたのだが,その姿がアステカの人々の目には異様であったために,ケツァルコアトルが帰還したと勘違いされたのだ。当時のアステカの王,モクテスマ2世は,「これまで預かってきた国をお返しする」とコルテスを迎え入れてしまい,それがきっかけとなって,アステカは滅亡への道を辿ったのだともいわれている。

 

次回予告:メドゥーサ

 

■■Murayama(ライター)■■
前回の著者紹介欄で,近々誕生日を迎えるとお伝えしたMurayamaだが,先日無事に誕生日を迎えたという。誕生日前後は,酒をしこたま飲んだり,カンガルーの肉を食べまくったり,飲んだり,吐いたり,食べたり,飲んだりと,飲んだりと,とても○歳とは思えない健啖/酒豪っぷりを発揮し,周囲を呆れさせたようだ。ちなみに,誕生日を迎えた瞬間は,「泥酔して意識がなかった」とのこと。酒に強いんだか弱いんだか,よく分からない人ですね。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/039/sam_monster_039.shtml



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