ファンタジーの世界には,エルフ,ドワーフ,ドラゴン,クラーケンなど,定番ともいえる存在が多数いる。そんな中でも「悪の先兵」として,「人間に害をなす」モンスターといえば,オークやゴブリンといった邪悪な亜人種が,真っ先に連想されるだろう。
ゲームなどでは冒険者のやられ役として登場することが多い亜人種系モンスターだが,よく調べてみると,なかなか面白みのある存在である。今回はオークを題材に取り上げ,そのルーツに迫るとしよう。
オークといえば,豚のような,もしくは醜くい顔つきをした,小型の人間型モンスターとして知られている。弱者には強く,貪欲で破壊的。光を嫌うことから夜行性で,廃屋,廃坑,洞窟などに生息し,作品によってはインフラビジョン(熱源を視覚として認識する能力)を備えていることもある。
基本的にオークは賢くなく,魔法を使うケースは少ない。戦闘方法といえば粗末な武器や防具による肉弾戦がほとんどだ。集団行動を主としているものの,作戦や規律とは無縁の存在であるため,熟練した冒険者達であれば,比較的簡単に撃退できるだろう。
またゲームなどの世界には,しばしばハーフオークなる存在も登場する。これはオークと人間の両方の血を引く存在だ。ハーフオークが生まれるいきさつはさまざまだろうが,いずれも不幸と呼べる出来事がその原因だろう。
ハーフオークは,人間とオークの特性を両方備えていることから,人間社会からもオーク社会からも蔑まれる。人間の特性である賢さが発揮されれば,オークの社会でのし上がることも可能だろうが,その可能性は極めて低いのではないだろうか。
オークといえば,エルフやドワーフと同様に,J.R.R.トールキンの「指輪物語」などの著作物で市民権を得たモンスターである。トールキン型のオークについては,彼の構築したミドルアースの歴史に,そのルーツを見いだせる。
ミドルアースの神々(ヴァラ)の一人に,暗黒の王メルコール(Melkor)がいた。彼は大量のエルフを捕らえると,ウツムノ要塞の地下で悪しき秘術を用い,オークを生産したという。
なおオークは,火と暗闇の中で作り出されたことから,水と日光を恐れるようになったという。また「指輪物語」では,ウルク=ハイ(Uruk-Hai)というモンスターが登場するが,これはサウロン(サルマンとの説もある)によって改良されたオークのことだ。
ウルク=ハイは体力,知性ともに通常のオークを凌駕しており,日光や水といった弱点も克服している。映画「ロード・オブ・ザ・リング」に登場したウルク=ハイを知っている人であれば,その邪悪さや強さが容易にイメージできるだろう。
一方,神話の世界に目を向けると,オークの起源はバビロニアの女神であるポルキスに求められる。かつてポルキスを信仰する者は,生贄として豚を捧げていたそうで,キリスト教の広まった時期には,ポルキスは豚顔の悪魔として知られるようになった。
さらにポルキスは,ギリシャ神話のゴルゴンやグライアイ3姉妹の父として知られるポルキュス(Phorcys/Porcus)にも影響を与えたらしい。女神から男性神になったものの,その名であるPorcusはラテン語で豚を意味する言葉となっていることから,ポルキスとの関係がうかがえる。また,ローマ神話の冥界の神オルクス(Orcus)にも,ポルキスとの関連性が見いだせる。