剣と魔法の世界には,スフィンクス,グリフォン,ケルベロス,キマイラなどを筆頭に,さまざまな合成獣が棲息している。とくに前述したモンスターは,人気が高いことから多くのゲームや小説などに登場している。
さて,それらに次ぐ合成獣というのも何だが,小説などで人気の「ハリー・ポッター」や,多くのゲームに登場している興味深い合成獣がいる。それがマンティコアだ。
マンティコアは,老人のような頭部,獅子の体,サソリの尾を合わせ持つ魔獣だ。なかにはコウモリの翼を持つタイプも存在するが,空を飛んでいる姿はあまり確認できない。
マンティコアの武器は,3列に並んだ牙による噛み付きと,針の付いた尾による攻撃で,尾に付いた針の数は1本,ないしは24本とされている。
針が1本の場合は突き刺し攻撃のみだが,複数本の場合は発射可能なこともある。マンティコアに遭遇したら,まずは尾の形状をチェックしておくと,その後の対策が取りやすいかもしれない。もしも尾の針が複数だった場合,発射される針に備えて大型の盾などを構えるといいだろう。なおマンティコアの針には,致死性の毒が備わっている場合もあるので,解毒剤などを用意しておくのが無難だ。
老人のような顔を持つことと関係があるのか,マンティコアは人語を理解できるとされているが,どうやら頭は良くないようだ。オウムのように,人の言葉をマネられるだけという説もある。
基本的に人間には敵対的であり,彼らにとって人間は交渉相手でも共存相手でもなく,単なるエサでしかない。マンティコアと遭遇したら,ほぼ確実に戦闘になると考えたほうがいい。特定の弱点などは知られていないので,戦闘が発生したら,駆け引きなどは考えずに,正攻法をとるのがいいだろう。
実のところ,マンティコアの正確なルーツはよく分かっていない。起源とされる特定の神話や民間伝承は確認できないのだが,初出としては,歴史学者クテシアスの著書「インド誌」だと言われている。またアリストテレスの「動物誌」,プリニウスの「博物誌」などにも登場したほか,紋章のデザインとしても少なからず採用されている。
一説によればマンティコアの原型は,アジアを中心に棲息するベンガルトラだとされている。マンティコアという名前をたどっていくと,ペルシア語で「人を食らう生き物」を意味する「Martiya Khwar」にたどり着く。そして,これはベンガル虎の異称でもあるらしいのだ。
確かにベンガル虎は,人食い虎と呼ばれることがあり,古来から多くの被害者が出ている。そうしたことから人々はベンガル虎を恐れ,その恐怖がマンティコアというモンスターを生み出したのかもしれない。
ともあれ,マンティコアはメジャーな合成獣達とは,若干異なる起源を持っているようだ。突如,民間伝承の世界に登場し,欲望のままに人間をむさぼるマンティコアは,由緒正しいモンスターが多いファンタジー世界では,異端とも言える。そこに,そこはかとない不気味な魅力を感じてしまうのは,筆者だけではないだろう。