以前紹介した巨鳥ロックなどもそうだが,アラビアという地域には,ユニークなモンスターが数多く語り継がれている。今回紹介するイフリートも,アラビア生まれのモンスターであり,広義のファンタジー世界では,比較的知名度が高いほうだろう。
イフリート(Efreet)といえば,一般的には「炎の魔神」として知られている。炎を自在に操るなど,高い魔力を有している。その姿は人間に似ているが,悪魔のように禍々しい雰囲気を発していることがほとんどだろう。とはいえ,イフリートが変身能力を備えているということもあって,常に一定の姿をしているとは限らない。
漫画「BASTARD!!-暗黒の破壊神-」や,RPG ファイナルファンタジーシリーズなどの人気作品に登場しているので,そこでイフリートを知ったという人も,多いことだろう。
とはいえ,本来のイフリートは,炎の魔神でも,火の上位精霊でもなかった。炎属性のモンスターとしての正確な起源は定かではないが,テーブルトークRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の影響が強いものと思われる。
同ゲームでは,地/水/火/風のそれぞれのエレメントに,アラビア起源の魔神であるダオ(Dao),マリッド(Marid),イフリート,ジン(Djinn)を割り当て,モンスターとして登場させている。
ちなみに地/水/火/風といえば,ノーム,ウンディーネ,サラマンダー,シルフなどが有名だが,こちらはヨーロッパ起源の精霊。両者につながりはないはずだが,ゲームなどでは同じカテゴリーで扱われることが多い。中にはイフリートを,サラマンダーの上位精霊として扱っているものもあるようだ。
イフリートは,しばしばジン/ジニーと同一に扱われることがあり,魔神の階級の一つを指してイフリートと呼ぶこともある。アラビアの民間伝承などでは,イフリートは短気な荒くれ者で,指輪や壺,ランプなどに封じ込められている。彼らを解放してやれば願いを聞いてもらえ,結果として巨万の富が得られるというシチュエーションは,昔話ではお馴染みのパターンである。
しかし,封印されたことに恨みを抱いている場合もあるので,場合によっては封印を解いてあげたにもかかわらず,襲いかかられることもある。要は気分屋なのだが,善意で封印を解いてあげた者にとっては,まさに寝耳に水である。
ちなみに,イフリートはそれほど賢くはないようなので,「壺の中にそれほど広い世界があるとは思えない。どうやって入っていた?」「どんな方法で壺の中に封印されてしまったのか?」などと,とにかく壺の中へと誘導してやれば,再度封印することも可能だろう。運がよければ,イフリートが泣く泣く謝ってきて,あなたの願いを聞いてくれるかもしれない。
だが,その際には必ず,「神(アラー)に誓って二度をあなたを襲わない」と約束させておくように。そうしないと再び襲われる危険もあるからだ。そして願いを聞き届けるとイフリートは封印から解放されて,炎の精霊界へと帰っていくという。またイフリートをはじめとするアラビアの魔神は,魔術師によって使役されることも多いので,封印されていないイーフリートを見たら,その主についても注意を払う,というのが安全策といえよう。