ゲームでは,力は強いが動きが遅く,粗暴さの目立つ種族として描かれることの多い「巨人」。しかし,ギリシャ神話や北欧神話といった神話では,神々に匹敵する力を備えた,極めて有力な種族として位置づけられていることがある。一口に巨人といっても,その種類はさまざまなのだ。今回はその中から,ギリシャ神話に登場するサイクロプス(Cyclops。ギリシャ語読みではキュクロプス)を取り上げてみよう。
サイクロプスは洞窟などを居住区域としており,普段は牧羊をして暮らしているが,人間を見れば襲いかかり,食らうという。毛皮などの粗末な衣服をまとい,武器は棍棒などの単純なものが多いようだ。
また典型的といってはなんだが,圧倒的な力を持っているものの,それほど利口ではない。参考までにサイクロプスを代表するエピソードを一つ紹介しておこう。
古代ギリシャの詩人 ホメロスの作と伝えられている叙事詩「オデュッセイア」には,ポリュフェモス(Polyphemus)という名のサイクロプスが登場する。英雄オデュッセウス(Odysseus)がとある島で洞窟を探索していると,洞窟の主であるポリュフェモスが現れ,オデュッセウスの仲間を食べてしまった。さらにポリュフェモスは洞窟の入り口を岩でふさいでしまい,オデュッセウス一行は全滅の危機に陥る。
そこでオデュッセウスは,ポリュフェモスにワインを勧めて酔わせ,ご機嫌になったポリュフェモスに対し,自分は「ウティス」(誰でもない,という意味)という名だと偽り,ポリュフェモスの目を杭で貫いた。ポリュフェモスの悲鳴を聞き,仲間のサイクロプスが集まってきたが,誰にやられた? と聞かれて「ウティス」と答えてしまったために,仲間のサイクロプスは帰ってしまう。視力を奪われたポリュフェモスは洞窟の出口で待っていたが,オデュッセウスは羊に紛れて脱出に成功する。
なお,機知を働かせて洞窟を脱出したオデュッセウスは,ポリュフェモスに真の名を告げてしまうのだが,これは失敗だった。というのも,ポリュフェモスは海神ポセイドンの息子だったのだ。ポリュフェモスは父に対し,「オデュッセウスに不幸を!」と祈り,それを聞き入れた海神の力によって,オデュッセウスの航海は,非常に困難なものになってしまったのである。
サイクロプスという名は,「丸い目」という意味だという。一般的には粗野な怪物として知られているが,中には強大な力を持った者達もいる。アルゲス(Arges),ステロペス(Steropes),ブロンテス(Brontes)の兄弟も,その一例だ。それぞれの名には,閃光,電光,雷鳴という意味が込められており,一説によれば,雷を自在に操れたという。
三兄弟の両親は,天空神ウラノスと,大地母神ガイアだが,あまりにも醜いという理由からウラノスに嫌われ,タルタロス(奈落)に幽閉されてしまう。のちに最高神ゼウスによって救出された三兄弟は,鍛冶神ヘパイストスの元で働く職人となった。
三兄弟には鍛冶の才能があったのか,彼らは「神器」と呼ぶにふさわしい品を,次々と鍛え上げた。ゼウスの雷や,ポセイドンの三つ叉の槍,ハデスの「姿を隠す兜」なども,アルゲス/ステロペス/ブロンテスの手による作品である。また,古代ギリシャ時代の優れた建築物の中にも,彼らの作品だと言われているものがあるそうだ。
しかし,三兄弟の最期とされる逸話は悲劇的である。名医としてしられるアスクレピオスは,太陽神アポロンの息子だった。彼は伝説のケンタウロスとも言われるケイローンの元で修行し,死者を生き返らせるほどの医者に成長した。
死者を次々と蘇生するアスクレピオスを見た冥界神ハデスは,「アスクレピオスの行いは私の領域を侵す不当なものだ」とゼウスに抗議した。それを受け入れたゼウスは,雷でアスクレピオスを撃ち殺してしまったのだ。
息子を殺されて激怒したアポロンだったが,ゼウスに面と向かって怒鳴り込むわけにはいかない。そこでアポロンは,ゼウスの雷を作ったサイクロプス達に怒りの矛先を向けた。サイクロプス達は,アポロンの腹いせによって皆殺しにされてしまったのである。