― 連載 ―

剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜
第7回:クラーケン (Kraken)

 クラーケン(Kraken)といえば,一般的には巨大なイカやタコとされているモンスターである。海洋を舞台とする冒険においては,シーサーペント(大海蛇)と双璧をなす,極めて危険な存在だ。
 クラーケンの主な攻撃手段は,巨体から繰り出される足による打撃で,複数の足を用いられると,回避することさえ難しいだろう。とはいえ,クラーケンが船上の冒険者を直接狙ってくれるならば,まだ救いはある。船そのものを攻撃されることが,最も厄介な事態と言えるだろう。大海原で船が破壊されてしまえば,そこに乗船していた人間は,海の藻屑となるほかない。
 小説やゲームなどでは,海中だけではなく,(海につながるような)地下水脈などでも登場することがある。ちなみにクラーケンが登場する前兆は,凪(な)いだ状態だという。風がやんで波がなくなり,海面が泡立つというシチュエーションで遭遇するケースが多いとされている。
 なお,これは余談であるが,イカやタコには多くの足がある以外に,スミを吐くという特徴がある。これは主に逃走時に用いられるが,イカとタコではその効果が異なっているのだ。
 イカのスミは比較的頻繁に吐かれ,粘性が高いためまとまる特徴がある。イカは吐いたスミを,まるで自分の身代わりのように用いて逃走する。いわば変わり身の術のようなものだ。
 一方タコのスミは,タコ自身が大きなダメージを負うなどの生命の危機に関わる状況で吐かれ,その性質は拡散性。文字通り目くらましである。さらにタコのスミには毒素が含まれていて,その毒を大量に摂取すると麻痺することもあるらしい。通常のタコスミであれば人間には影響がないが,サイズが巨大になれば,毒素も強まっているかもしれない。タコ型(?)のクラーケンとの戦いでは,スミにも注意したいところだ。

 

 クラーケンに関する最初の記録は,1752年にポントピタン司教が記した「ノルウェー博物誌」といわれている。そこには,クラーケンは全長一マイル(約1.6キロメートル!)もの巨体を誇っており,体には海草をまとい,角が生えていると記述されている。そしてクラーケンの正体は,巨大なタコかヒトデだと推測されている。
 そのほか,当時の噂を見てみると,クラーケンは必ずしもタコとして描かれてはおらず,イカ,エイ,エビ,クラゲなど,多種多様な説が存在していた。ちなみにタコとしてのクラーケンが確立したのは,18世紀末のフランスで刊行された「軟体動物誌」で,そこでは,船に襲いかかる巨大なタコとしてクラーケンが描かれている。軟体動物誌の影響は非常に大きく,現在の一般的なクラーケン像は,同書によって確定されたといってもいいほどである。
 そうした一方で,クラーケンが神に近い存在として崇拝されたケースもある。クラーケンが現れると,その匂いに惹かれて魚が集まり,豊漁が約束されて漁師達が喜んだという伝承が残っているのだ。また,アイルランドの聖ブレンダンやミダロスの司教が,クラーケンを島と勘違いして上陸し,ミサをあげると,クラーケンはミサが終わるまでじっとしていた,という,どこかユーモラスなエピソードも残っている。
 現在,クラーケンの正体は,大きなものになると全長20メートルにも及ぶというダイオウイカだとする説が有力だ。また,1896年にフロリダに打ち上げられた7メートルの触手を分析したイェール大学のヴェリル博士によれば,この触手から全体像を考察すると,全長60メートル程度,体重は20トンにもおよぶ巨大なタコになるらしい。それは,オクトパス ギガンテウス(Octopus giganteus)と名付けられている。これが実在するならば,まさにクラーケンそのものといえそうだ。

 

次回予告:リザードマン

 

■■Murayama(ライター)■■
先日,高校時代の友人の結婚式に出席したMurayama。「ひょっとすると素敵な出会いがあるかもしれない」と期待していたそうなのだが,彼と同年代の女性は9割方既婚者で,さすがに出会いを求めることはできなかったという。その代わり(?),おじさん/おばさん方からはずいぶんとモテたようで,求めてもいないのに,激しいお酌攻めにあったようだ。


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/007/sam_monster_007.shtml