連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年6月13日掲載

 CRD(Cyber Recreation Development) という中国国営のオンラインエンターテイメント企業が,北京で設立された。中国政府は同社の設立に関して,「仮想空間で1万人を雇用し,環境問題にも役立てる」と豪語しているという。また民間でも,メタバースを夢見る「HiPiHi World」というプロジェクトが進められており,現在中国でβテストが行われている。メタバースの流行は,世界的な勢いになってきたようだ。

 

中国版「Second Life」が登場

 

Second Lifeに続く,新たなるメタバース世界

 

Second Lifeは,日本語のサポートはあれど,中国語には対応していない。そんな隙間を狙ったのがHiPiHi Worldだ。キャラクターが飛ぶなどSecond Lifeに似ているところもあるが,水泳ができたり,気象が変化したり,ゾーンレスな世界が構築されていたりと,技術面でもかなりのモノらしい

 2007年6月初めに,アカウント数がつい700万に達した「Second Life」。そのうちの何%の人が日常的にプレイしているのかはさておき,このまま順調に伸びていけば,MMORPGの最高峰「World of Warcraft」のアカウント総数850万を年内には抜き去ってしまう勢いだ。
 Second Life内外での経済活動も順調で,毎日18万ドル(約2000万円)近い金額が取引されている。また最近では,民主党参議院議員の鈴木寛氏が,Second Life内に事務所を設置したという。このような政治的な活動,そして人口増加により発生するさまざまな問題なども,結果としてSecond Lifeに花を添えることとなり,「次世代バーチャルワールドの急先鋒」としての話題を提供しているわけだ。

 Second Lifeの人気を受け,そのレシピを真似してみようと考えるゲーム開発会社も少なくない。問題となる部分を調整し,うまくプロモーションを行えば,後発であれSecond Lifeを超えられるかもしれない。
 アメリカでは「Kaneva」と呼ばれるプロジェクトがβテストを行っている。また,Sony Online Entertainmentの「Free Realms」,Sony Computer Entertainmentの「Home」,そして日本でも,トランスコスモスとフロム・ソフトウェア,産業経済新聞の3社による合弁企業ココアが,「meet-me」という“仮想の東京空間”の制作を発表するなど,ポストSecond Lifeが目白押しだ。そんな中,2007年中に中国を皮切りにリリースされる予定なのが,北京に本部のあるHiPiHiの制作する「HiPiHi World」である。

 

 

物まねの中に光るHiPiHi Worldの独特なアジア仕様

 

 このHiPiHi Worldは,ゲームではなく友達作りなどを目的とした仮想世界だ。土地を買って自分の家や庭をデザインでき,PCC(Player-Created Contents)と呼ばれる,自分で制作した家具や衣服などさまざまなオブジェクトを売買できることになるという。アバターは空を飛べるのはもちろん,飛行機や気球などを使って,広い世界を行き来できるのだそうだ。
 現在,公式サイトでは「HiPiHi Worldはどんなものか」を紹介する英語字幕付きのムービーデモがアップロードされている。見れば分かるが,そっくりそのままSecond Lifeであると言っても良いだろう。今では,HiPiHi Worldそのものに“China's Second Life”というニックネームまでが出回っているが,開発者達もLinden Labを意識しているのは間違いないようだ。

 

女性をターゲットにしているのか,公式サイトには女性のキャラクターや恋愛の風景を意識したような画面写真が多く掲載されている。アメリカや日本にも進出の計画があるという

 PCCを奨励している最近のMMO業界では,実際にPCCを制作するのは全プレイヤーの10%程度であるといわれている。そのPCCクリエイター達の中でも利用に値するほどの品質のあるモデルやアートワークを提供できるのは,さらに10%ほど。つまり,全体の1%程度にすぎない。その1%の人達の要求を満たせれば,優れたコンテンツがほかの人にも行き渡っていくというわけだ。

 中国では,インターネットやデジタルコンテンツが,急速に浸透し始めたばかりであり,PCCが受け入れられる土壌はそれほど育っていないといわれている。HiPiHiは,このような市場を考慮しているらしく,ツールやインタフェースにSecond Lifeとの相違点が見られる。例えば,プレイヤーはあらかじめ用意された建物を,縦横に引き伸ばしたり,パーツを追加したり色を変えることで好みの形にできる。ゼロからオブジェクトを作りだすというよりは,あるものをカスタマイズするというイメージに近い。
 また,すでに10万人規模のβテストが行われており,その中で参加者によるダンストーナメントのようなゲームも開かれているという。

 

 

中国国内にはライバルや問題が山積み!?

 

CRDとは,国内外から北京にIT産業への投資を呼びかける経済政策であり,「北京数字娯楽産業示範基地」という特別区で,オンラインエンターテイメントを核にした娯楽施設や研究所,CGアニメや映画関連技術の養成,そして諸々のビジネスをサポートしていくという。この特別地区は,「Dotman世界」という愛称のようだ

 中国では,CRD(Cyber Recreation Development)という国営のオンラインエンターテイメント企業が登場し,若者を対象に娯楽を提供するだけではなく,雇用捻出にも役立てる計画が立ち上がっている。すでに,「Entropia Universe」を開発したスウェーデンのMindArkと提携し,大々的に中国のインターネット市場に進出してくると思われる。それだけでなく,中国の3大オンラインゲーム会社の一つである盛大(SHANDA)も,今後ゲームとは距離を置いたオンラインワールドを開発する予定があるなど,HiPiHiには国内にもライバルが多い。
 HiPiHi Worldのローンチ後には,「HiPiHi Home」というプロジェクトもスタートすることが明らかになっている。これは,韓国のSNS「CyWorld」のように各ユーザーにスペースが与えられ,HiPiHi Worldのアバターを利用してアパートのような3D空間に出入りすることになるのだという。携帯電話との連動も考慮されているので,Second Lifeとは違ったアプローチで勝負するようだ。

 また,こういったサービスへの,中国政府の対応も気になる。HiPiHi World内で発生した利益を,中国政府が黙って指をくわえて見ているとは考えにくい。言語統制やデモ行為への対策など,HiPiHi Worldではどのように対処されていくのだろうか。場合によっては,HiPiHi WorldとHiPiHi Homeの普及の足かせになるかもしれない。

 ちなみに,中国の富裕層といわれる個人資産10万元(約160万円)以上を持つ人口は,沿岸部では10%,国全体では6〜7%ほどになるそうだ。パーセンテージで見ると少なく感じるかもしれないが,9000万人から1億人が富裕層ということになる。仮に,その中の一割の人々がHiPiHi Worldに興味を抱けば,それだけでも1000万人。バーチャルワールド開拓の魅力は,そんなところに見え隠れするのかもしれない。中国が本格的に加わることで,仮想世界での生活が世界規模で始まりそうだ。

 

 

※当連載は次週より,毎週金曜日の更新となります。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。最近,奥谷氏の頭を悩ませているのが,2人の子供の夏休み。アメリカでは,すでに今週から8月下旬まで,長いバケーション期間に突入している。普段の昼間は静かな奥谷家だが,夏休みになると子供が騒ぐため,電話を庭に持ち出して仕事の話をしているという。さらにゲームをプレイしていると「また,ゲームで遊んでる」と言われるそうだ。ところで,「レビュー記事を書くためプレイしている」とお子さんに言っているそうですが,何か執筆予定はありましたっけ?


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