連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2006年12月6日掲載

 「ゲームを作ってみたい」と考えるゲーマーは多いだろうが,実際に制作を始める人,もしくはゲームを作るだけのノウハウを持った人は,どれだけいるのだろうか。今後5年間で50%の成長が見込まれるというゲーム産業だが,その実態は,PCにせよ家庭用ゲーム機にせよ,すでに出来上がったユーザー層にゲームを供給しているだけの,どこか閉鎖的な市場のようにも思えてくる。そんな現状に危機感を持っているのか,アマチュアの育成や他業界からの参入をサポートしようという大手ゲームメーカーの動きも目立っている。

 

一億総ゲーム開発者の時代

 

誰でもゲーム開発ができるようになる?

 

 「年間の売り上げが映画産業を超えた」といわれるゲーム業界。いまやゲームは,世の中になくてはならないカルチャーに成長した。規模的にも,また社会に与える影響についてもテレビや音楽産業などと肩を並べ,社会福祉や教育分野などへの応用も盛んに行われている。インタラクティビティというメディアの特性から,ゲームを映画に続く “第9の芸術”とみなす専門家もいる。
 しかし,ほかのメディアや芸術分野と比べると,まだまだ“人材”という点で層の薄さを感じることが多い。その理由の一つが,「ゲームを作ってみたい」「ゲームで自己表現したい」と興味を抱く人々をそうさせない,ハードルの高さにある。ゲーム制作には限られた人しか参加できないし,それゆえ,その裾野もなかなか広がらないのだ。

 

XNA Game Studio Expressを使って開発されたデモ用ゲームの画像。開発には,C#の知識とDirectX 9cをサポートしたPCが必要だが,「アマチュアやインディーズの育成こそが,業界(この場合はXbox 360だが)の発展に寄与する」という基本的な考え方は正しいと思う

 そんな中,2006年8月にMicrosoftが発表した「XNA Game Studio Express」が注目されている(関連記事)。XNA Game Studio Expressの最終版は来週12月11日(日本時間12日)にリリースされる予定であり,現在,XNA公式サイトにはほぼ完成に近いβ2版が公開中だ。
 XNAとは,「.NET Compact Framework 2.0」をベースにした開発用フレームワークのことで,Xbox 360やPC,携帯電話など,XNAをサポートしていればプラットフォームに関わりなく動くゲームを,より効果的に開発できるようにデザインされている。すでに投入されている「XNA Game Studio」は,基本となるフレームワークに開発用のツールやライブラリなどを統合したプロフェッショナル向けのもので,Xbox Game Studio Expressは,その個人向け簡易版である。さらに,2007年の早い時期にはプロの開発者向けに「XNA Game Studio Professional」と呼ばれるバージョンもリリースされる予定だ。
 Microsoftの主たる狙いがXbox 360用のゲームにあるのはほぼ間違いないだろうが,開発にはPCを利用し,当然ながらPCへの移植も容易になる。PCで才能ある個人の実験的なゲームが登場し,やがてその中のミリオンセラー候補がXbox 360に移植される,という図式をMicrosoftは考えているようだ。

 

 XNAで使用するC#は,Javaとよく似たオブジェクト指向言語で,C++よりは安全でBASICより簡潔なプログラムが記述できる。プログラムの実行速度に関してはC++言語が優れているが,作りやすさという点から見れば,はるかにビギナー向けになる。こういう「ゲーム開発に特化した」ツールが手軽に使えるようになることで,かつては非常に難しかったゲーム開発の間口が,個人レベルまで引き下げられるかもしれない。やがて日本からも野心あるゲーム開発者が育っていくことを期待したい。

 

 

ゲーム版YouTubeというコンセプト

 

 Xbox Game Studio Expressの利用は無料だが,Microsoftから技術的サポートを受けるには,年会費99ドルを払って「Creator's Club」に入会する必要がある。ここでは,ほかのメンバーと意見交換をしたり,ゲームコンテストを開いたりといった“アマチュア開発者のためのコミュニティ”が運営されていく。Microsoftでエンターテイメントソフト事業を統括するPeter Moore(ピーター・ムーア)氏は,Xbox Game Studio Expressを「ゲーム版YouTube」として捉えており,将来的には,個人の開発者達が自分の作ったゲームを交換したり見せあったり,評論しあったりする大きなコミュニティに育てていきたいらしい。このように,アマチュアの活動を積極的にサポートすることで,開発現場だけでなく,市場そのものを大きくしていこうという狙いもあるのだ。

 

スクロール型のシューティングやパズルだけでなく,上の画面のような3Dゲームも制作可能だ。Torque Xのようなミドルウェアや数々のライブラリも,今後さらにその種類を増やしていくことだろう

 AtariやCommodore 64用にリリースされた「Shoot'Em-Up Construction Kit」(1987年)など,自分でゲームを作れるというソフトはゲームの黎明期から存在しており,その後もMaxisがプロデュースした「Klik & Play」(1994年)などが登場した。日本でもMSX2用の「RPGコンストラクションツール Dante」(1988年)と,それを祖にするアスキーの「RPGツクール」シリーズが発売されており,それらのツールによって制作されたゲームのコンテストなども開かれ,中には商業用として発売されたものもある。
 Xbox Game Studio Expressは,単純にそのアイデアをアップグレードしたものにも思えるが,ゲームを作るためにはプログラム言語の知識も必要だし,開発に使われるAutoDeskの各ツールやGarageGamesの「Torque X」エンジンなども使いこなせなければ,本格的なゲームを制作は難しい。「小学生でもXbox 360用のゲームが作れる」ような時代が実現されたわけではなく,まだまだプロへのハードルが完全に取り払われたわけでもない。どちらかといえば,今のところ,PCゲームではおなじみのMOD開発を,技術/ビジネス面で体系化したようなものだ。

 それでも,ビギナーや教育用の道具として非常に注目されており,すでに大阪電気通信大学,東京大学,東京工芸大学,そして立命館大学の4校で,教材あるいは研究目的に利用されることが決定している。これまでコンピュータサイエンスという範囲に留まっていた大学が,ゲーム開発と密接に絡む形で発展していく契機となるかもしれない。

 アマチュア開発者達のネットワークが構築されれば,おのずとさらに人が集まり,多くのアイデアが生まれやすい環境が整っていく。8ミリフィルムやVHSの登場によって映画がその裾野を広げ,同人誌からプロの漫画家が生まれてくるように,より手軽にゲームを作れる手段と開発者達のネットワークの構築は,閉鎖性を打破し,ゲーム産業がより大きく成長するために不可欠なのだろう。

 

 

ハードルの解消はすでに始まっている

 

 先に挙げたツクールシリーズのように,「より多くの人々にゲーム開発の機会を与えよう」という発想は,別にMicrosoftの専売特許というわけではない。1997年にSony Computer Entertainmentは,プレイステーション2のブロードバンド接続を利用した「ネットやろうぜ」を発表したし,コンテストなどによる新しい開発者の発掘なども積極的に試みていた。
 現在,同社が,ゲーム開発が難しいと言われるプレイステーション3について,ネットやろうぜやXbox Game Studio Expressに似た計画を持っているかについてはよく分からない。しかし,「Eye Toy」を開発するなど独自志向の強いSony Computer Entertainment Europe(SOEE)では,他業界の人を盛んにプロジェクトに起用するなど,ゲーム制作者の発掘に関して新しい動きを見せているのは確かだ。
 アメリカのサスペンスドラマ,「24」(Twenty Four)をゲーム化した「24: The Game」(2005年)は,SOEEとしては珍しい版権モノのゲームだったが,それと同時にシナリオライターや演出家,役者(声優)などをアウトソーシングして,新しいゲーム開発のあり方をテストする場にもなっていたらしい。これは,シナリオライターや役者など,“フリーランサー”を使うことで資金的負担を減らし,世界的な立場を強固なものにした,ハリウッドの映画産業をビジネスモデルの手本としているようだ。

 

PCのMOD開発コミュニティでは,すでに言葉や文化の垣根を越えてゲームを開発している様子が見られる。画像は,世界16か国のアマチュア有志が参入してUnreal Engine 3.0で開発されている,Acone Gamesの「Parabellum」

 ブロードバンド革命は,さまざまな産業構造を変化させており,ゲーム産業界もその例外ではない。違う場所に住んでいる友達同士が,ゲームのためにどこかに集合する必要はないし,いろいろな国のゲーマーが同じオンラインゲームで遊ぶことは珍しいことではないだろう。これと同じように,ゲーム開発もすべてを同じチーム内で行う必要性が薄れている。別のフロア,別の建物,支社,在宅,アウトソーシング委託会社と,限りなく効率の良い方向へと開発現場が多様化しているのだ。
 映画監督であるピーター・ジャクソン氏が監修した「Peter Jackson's King Kong」や,ファンション・デザイナーとして有名なマーク・エコー氏による「Marc Ecko's Getting Up: Contents Under Pressure」のようなゲームがリリースされ,それなりの評価を受けたことからも分かるように,異業種の才能を使うことはもはや普通になった。Valveの「Counter-Strike」や「Team Fortress」のように,在宅のアマチュアがオンライン上でゲームを制作し,それがミリオンセラーになるようなケースも,今後はどんどん増えていくだろう。
 このように,新しい血(知)が開発現場に盛んに流入してくればくるほど,ゲームというカルチャーも成熟していくのだ。PCやテレビでゲームをプレイする人は世界で1億人以上いると言われるが,開発者はその1000分の1いるかどうか。誰でも志さえあればゲーム開発に飛び込めるような時代が,来ることを期待したい。

 

 


来週は,現在のMMORPGの動向について。お楽しみに。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。近所にある馴染みのベトナム料理屋が2号店をオープンしたとかで,家族を連れて訪れたという奥谷氏。繁華街という立地条件のためか本店よりずいぶんおシャレになり,同じメニューなのに値段もそれなりに高かったとのこと。しかし,奥谷氏は「花まで買っていったのに前菜一つのサービスもなかった」と話しており,どこか釈然としない様子。まあ,向こうが“馴染みの客”と思っていなかった可能性が大きいようですけどね。


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