― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted
2006年8月9日掲載

 このところ頻繁にBlizzard Entertainmentの新作のウワサが聞こえてくるが,今回紹介する「StarCraft」の3D版は彼らの作品ではない。Snowflake Entertainmentというボランティア達の手で作られている,「Warcraft III」をベースにしたMODゲームなのである。オリジナル作品以来8年以上も待たされているStarCraftファンが痺れを切らした格好だが,著作権侵害という問題を抱えた「Project Revolution」は大成できるのだろうか?

 

StarCraftが3Dになった!?

 

数々の要因で大ヒットした「StarCraft」の後継ソフト?

 

 「StarCraft」といえば,1998年4月にアメリカでリリースされて以来,その拡張パック「StarCraft: Brood War」を含めると累計で約900万本の売り上げを誇る名作である。対戦ゲームとしてのRTSの価値を飛躍的に高めた歴史的ゲームというだけでなく,ローエンドなPCシステムが主流の国々ではいまだに現役でプレイされており,ゲーム大会の競技種目として選ばれることも少なくない。
 StarCraftの魅力は,なんといっても登場する三勢力のユニットバランスの良さにある。Terran,Protoss,Zerg,それぞれのために用意されたユニットは,見た目や性能は違っているものの,ジャンケンのような巧みなバランス調整がなされており,プレイヤーにさまざまな戦略の使用を可能にさせる。そのため,過去のオンライン対戦において,多彩な戦略やサプライズを生み出してきた。

 

StarCraftは,たった1作(プラス拡張パック)で900万本という大ヒットになったが,最近でもパッチがリリースされるなど,いまだに現役バリバリ。世界各地に多くのファンがおり,韓国ではこれで生活するプロゲーマーが何人もいるほどだ

 StarCraftを開発したのは,その前年(1997年)に「Diablo」を大成功させていたBlizzard Entertainmentで,まだ従量制の課金システムに頼っていたオンラインゲームサービスを,先駆的なBattle.netという完全無料の専用サーバーで駆逐し,まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだったのだ。
 もっとも,StarCraftの開発中は,「Warcraftを宇宙に持ち出しただけで,何の面白味もない」と否定的に見られることが多かった。そこで,あえてリリースを一年以上も遅らせ,ついに“三つ巴”システムを完成させたのだ。本格的な3Dグラフィックス化の波を受ける直前の出来事で,これがもし「フル3Dで」ということになっていれば,さらに開発が遅れた可能性もある。タイミングも味方したのだ。

 そんなStarCraftを「3D化させる」というプロジェクトが,ひそかに進行している。ただし,これを開発しているのはBlizzardではない。世界各地から集まった実力派のファンによって構成されるSnowflake Entertainmentである。「Project Revolution」と呼ばれているこのプロジェクトは,「Warcraft III」のゲームエンジンを利用し,さらにStarCraft: Brood Warのアートを借用することでStarCraftのユニットなどを3D化するというMODなのだ。

雪嵐を怒らせないような,涙ぐましい雪片の配慮

 

 知っている人も多いだろうが,MODというのは「修正」や「組み換え」などを意味する“modification”の略。ゲームエンジンにアクセスしてキャラクターや武器,地形テクスチャなどのデータを改変し,要素を追加したり,まったく別のゲームに仕立て上げたりするプログラムのことだ。その歴史を話すと長くなるので省略するが,1993年にデモ版がリリースされた「DOOM」あたりで一般化し,とくにFPSやRTSといったジャンルにおいて,今やそれ抜きでは考えられないようなフィーチャーの一つになっている。  「Counter-Strike」や「Desert Storm」のように商業的に大ヒットする作品が出たり,テレビのミュージックビデオなどにも活用される“マシニマ”(本連載の第48回参照)などのサブジャンルへと発展したり,さらには,MOD制作者の中からプロに転向する人が出てきたりなど,言ってみれば,ゲームシーンの中でもファンの活気がじかに感じられるホットなカテゴリである。
 彼らMOD作者は「購入したプログラムはユーザーの権利となる」という一貫した立場を取っているが,とはいえ,MOD制作が著作権侵害スレスレの行為であるというイメージがあるのも事実だ。

 

Project Revolutionは,“トータル・コンバージョン”と呼ばれるタイプのMOD。「Warcraft III」をベースに,インタフェースは異なるものの,ユニットの形状やテクスチャの色合いなど,オリジナルのStarCraftの雰囲気を見事に再現している

 

 Project Revolutionは3年前,カナダ在住のブレンデン・フランク(Brenden Frank)氏が「Warcraft III: The Frozen Throrn」上にStarCraftのマップを再現しようと始めたMODプロジェクトに端を発する。しかし,アートを似せることはできても,StarCraft独特のゲームプレイをうまく再現できないことに気づき,オンラインで仲間を集めたのがSnowflake Entertainmentの発足につながったのだ。今では,アメリカやドイツなどから20人ほどが参加するインターナショナルなチームに成長している。
 Snowflake Entertainment側は,「Blizzardのビジョンを壊さず,本格的なStarCraftゲームを作りたいだけ」とごく謙虚に話しているが,Blizzard側の反応には相当敏感になっている様子だ。ユニットや施設はともかく,オリジナルのストーリーに登場するケリガンのようなキャラクターを登場させることもなく,まったく新しいストーリーラインやマップを制作しているという。また,Warcraft III: The Frozen Throne,StarCraft,そしてStarCraft: Brood WarのゲームCDを認証確認できないとプレイできないなどの制限も課すことになるそうだ。

 実際,Blizzardは「Command & Conquer: Generals」のMODとして制作途中にあった「StarCraft 2: Xel'Naga Vengeance」というプロジェクトを,2004年に中止させている。さらに,Blizzard自身が「StarCraft 2」の開発に取り掛かっているというウワサもあり,混同を避ける目的で,Project Revolutionに開発中止要請を発動する可能性は十分にあるのだ。
 あいにくBlizzard側からのコメントを得ることはできなかったのだが,どうやらMODの存在は承知している様子。にもかかわらず,Snowflakeは何の連絡も受けておらず,つまり,「沈黙による承認」を受けていると考えてよさそうだ。Project Revolutionの開発は,ようやくα版終盤に差し掛かったところで,今秋には何らかのデモもリリースされる見込みだ。Snowflakeは,2007年の完成を目指している。

 個人的には,雪嵐(Blizzard)に舞う1粒の雪の結晶(Snowflake)をチーム名にする彼らの夢が壊されずに成就することを願っている。

 

 


次回は,時代の波に飲まれるあのイベントについて。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。久しぶりに帰国した奥谷氏だが,日本の夏は「暑いといわれる日でも25度くらい」というサンフランシスコに住む奥谷氏にとっては耐え難いものだったらしい。そこで彼が愛用していたのが小型のタオルハンカチだが,日頃,そんなアイテムを持ち歩くのに慣れていないため,何度も何度も何度も紛失してしまったという。最後に駅前のユニクロで彼が購入した(値段は200円)のはなんと8代目。まあ,こんなところに書いてもしょうがないけど,編集部にも真新しいのを一つ置き忘れてますよ。


連載記事一覧


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/kaito/089/kaito_089.shtml