― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted
2006年4月26日掲載

 RTS(リアルタイムストラテジー)といえば,PCゲームを代表するジャンルの一つ。無数のユニットを表示するグラフィックスや,マウスとキーボードを駆使する操作性から,コンシューマゲーム機でRTSのゲーム性を伝えるのは難しい,とされてきたが,Xbox 360でその常識が変わりそうな気配。あのElectronic ArtsとRTSの生みの親が共同開発で,「次のHalo」を目指すべく仕掛けてきたのだ。

 

コンシューマ機に本格参入するRTS

 

PCの特質に依存してきたRTSというジャンル

 

アメリカでは6月にリリースされる予定の「The Lord of the Rings: The Battle for Middle-Earth II」。映画や小説に登場したヒーロー達を筆頭に,大量のユニットを操る楽しさがコンシューマ機でも再現できるか?

 RTS,つまり移動や攻撃,外交や資源採取などゲームのすべてがリアルタイムで進行していくストラテジーに異変が起こっている。
 「PCゲームは革命の苗床」ともよく言われるが,さまざまなジャンルのゲームが,まずPC上で開発/ブラッシュアップされ,操作面での簡略化が進み,やがてテレビで遊べるコンシューマ機へと流れていく例が少なくない。ここ10年ほどを見ても,コンシューマ機の3Dグラフィックスの急速な能力向上を受け,“アクションアドベンチャー”や“FPS”,そして“アクションRPG”などがPCからコンシューマ機に流れ,一つの大きなジャンルとして確立している。
 これには,コンシューマ機の進歩によってPCはそのお株を奪われる格好となり,多くのタイトルや開発者達がコンシューマに流出していった,という側面もあるのだろう。「Rainbow Six」や「Halo」を例に取るまでもなく,古巣のファンを忘れてコンシューマ機だけに専念しているように思えるゲームが増えており,どこか寂しい気持ちになるゲーマーも,筆者を含め,少なくはないはずだ。

 しかし,RTSだけは,これまでPCゲーマーにとっての特権とも言えたジャンルだった。CPUであれ,ネットワークでつながった人間あれ,敵はすべてリアルタイムで攻めてきて,ちょっと休むヒマさえも与えてくれない。それが独特の緊迫感を生み出し,大きなジャンルとしてPCゲーム市場の一角を担うまでになっているのだ。
 画面をスクロールして偵察したり,大量のユニットをグルーピングして移動したり,同時に複数の場所で戦闘を展開させたり,さらには細かいアイコンの操作やホットキーの活用などなど,“ストラテジーゲーム”という地味な印象とは裏腹に,視線と両手の持続的なコーディネートは並大抵のものではない。これらが可能なのも,キーボードとマウスという二つのデバイスを使うPCならではの仕様によるところが大きいのは,言うまでもないだろう。

Battle for Middle-Earth II for Xbox 360でRTSが変わる?

 

 だが,このPCゲーム最後の牙城に,大きな変革がもたらされることになりそうだ。その先陣を切るのが,Electronic Artsの「The Lord of the Rings: The Battle for Middle-Earth II」(以下,Battle for Middle-Earth II)。PC版はすでにリリースされ,映画のライセンスが利用されたゲームとしては高い評価を得ている。クリエイティブ・ディレクターとしてこのプロジェクトに関わっているのがLouis Castle(ルイス・キャッスル)氏で,知る人ぞ知る「Command & Conquer」や「Blade Runner」などの名作を手がけたWestwood Studiosの創設者である。
 ゲームの流れやマップ,アートワークなどはPC版と変わらないものの,Xbox 360用「Battle for Middle-Earth II」のユーザーインタフェースにはまったく新しいものが開発された。ゲームパッドとコマンドによる入力は,キャッスル氏が「ワンボタン・インタフェース」と呼ぶほどで,なるほど簡単にできているのだ。

プロジェクタから直接撮影したので画像は悪いが,左下のマップの周囲のアイコンが消え,インタフェースや操作面で簡素化されているのが分かるXbox 360用のBattle for Middle-Earth II。緑色のレティクルが中央に固定されている

 まずカメラのコントロールは左のアナログスティックで行い,マウス操作ならばカーソルに当たるレティクル(照準)の移動は右のアナログスティックで行う。レティクルは“コンテクスト・センシティブ”で,つまりユニットやオブジェクトの上に合わせただけでハイライトが付き,コマンド入力が可能な状態になるのである。ユニットやオブジェクトにコマンドを与えるには,Aボタンを1回押してカメラを移動させる。すると緑のゴーストが表示され,好きな場所へ移動や攻撃の指示が出せるのだ。Aボタンを2回押せば,画面上に映るすべてのユニットにハイライトが付き,押し続けるとフォーメーションが作れる。キャンセルするのはBボタンだ。
 コマンドバーを開くのは右のトリガーボタン。それぞれのオブジェクトに合わせた異なるメニューが選択され,自動的に出現する。スペルや救援などもこのメニューから簡単に指示できるようになっている。バックボタンを使えばマップ上の同じユニットすべてがハイライトされるなど,細かいコマンドも入力可能。“ワンボタン”ではないにせよ,わずか13種類のスイッチという限られた選択肢の中で非常に簡便にまとめられているのが分かる。

 Battle for Middle-Earth IIはXbox Liveにも対応しており,ボイスチャットを使った4人までの対戦をフィーチャーしている。さすがにOne Ringモード(「こちら」参照)こそないものの,King of the HillからHero vs. Heroと呼ばれるアクションゲーム風なものまでは用意されており,このあたりからコンシューマ機ユーザーが遊び慣れていないゲームジャンルを紹介しようという意思が見て取れる。

Electronic Artsが「再革命」のドライビングフォースに

 

 RTSをコンシューマ化しようという試みは以前からあり,「StarCraft 64」や「Age of Empire」プレイステーション版など,ヒット作が何度かコンシューマ機への進出を試みたものの,ことごとく粉砕されてきた。しかし,FPSでは「Quake」や「Half-Life」がなし得なかった成功を,「Halo」がXboxで勝ち得たことから,その後の「Call of Duty 2」などへ続く道が開かれたことは言うまでもない。
 「ジャンルのゲーム性を失うことなく,操作性を改良することができれば,RTSの面白さを伝えることができるのではないか?」
 これは,永らく多くのRTSゲーム開発者達が考えてきたことであったに違いない。FPSの「Halo」がメインストリームへと進出したことに,彼らもずいぶんと勇気づけられたことだろう。「Halo」がヒット作として揺るぎのないものになった当時,「次の世代のゲーム機では,我々のRTSにスポットライトを浴びさせよう」と発言していたゲーム開発者も知っている。自分の信じるゲームを,プラットフォームを越えてより多くのゲーマーに楽しんでもらおうと考える情熱は,やはりエンターテイナーとしてゲーム開発者なら誰しもが共有しているのかもしれない。

EAロサンゼルスでクリエイティブ開発副社長を務めるキャッスル氏は,1985年にラスベガスでWestwood Studiosを設立。Dune IIやCommand & Conquerシリーズを生み出しRTSの基礎を作った人でもある。このジャンルでの飛躍が再びあるだろうか?

 Electronic Artsロサンゼルス支部では,Lord of the Ringsシリーズのほかにも,「Command & Conquer」や「Medal of Honor」シリーズなど,PCゲーマーには馴染みの深い作品が開発されている。この開発部隊を率いるゼネラル・マネージャー,Neil Young(ニール・ヤング)氏が最近よく使うようになった造語が“フィーチャーIP”というもの。これは,その作品のために開発された独自のゲームプレイや機能,技術といった知的財産を意味し,少なくとも同氏が舵取りをするロサンゼルス支部からリリースされる作品には,必ずなんらかの「新しいゲーム要素」の開発が要求されるようだ。
 例えば,最近発表されたばかりの「Project Gray Company」は,180mにも及ぶモンスターが徘徊するオープンワールドのRPGになるとのことだし,「Medal of Honor: Airborne」では映画で利用されてきたU-Capという新世代のモーションキャプチャ技術を使い,フルモーションでスタントマンの演技や表情をゲームに取り込むことで,これまで以上にリアリティのあるアニメーションが実現しそうだ。上記のBattle for Middle-Earth IIにおけるワンボタン・インタフェースも,このフィーチャーIPの流れにあると見て間違いないだろう。

 Lord of the Ringsという素材そのものは,これまでのElectronic Artsに見られる「ライセンスものゲーム」であるのは間違いない。しかし,「Burnout」のCriterion Gamesや「Battlefield」のDigital Illusionを買収し,一方で「Spore」など版権にとらわれないゲーム群を次世代の主戦力として位置づけるなど,これまでの,版権ものの安定性を最大限に利用してきた時代とはうって変わり,フィーチャーIP的な,遊んで面白いゲーム作りが,Electronic Artsの中で浸透してきているようにも思える。
 次世代ゲーム機への投資負担で業界全体が生みの苦しみを味わっている中,巨人Electronic Artsは今後どのように対応していくのか? それは,Battle for Middle-Earth II以降にリリースされてくるゲームで,我々の目の前に提示されることになるのではないだろうか。

 

 


次回は「アメリカのゲーム流通を操る影」というダークなテーマになる予定。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。カリフォルニアにはいろいろな人がいる。中にはネバダ州境のシエラ山系からサンノゼまで,毎日往復7時間もかけて通勤しているソフトエンジニアがいる,という事実を知った奥谷氏。彼がそんなに時間をかけるのは「自分の求めるライフスタイルが重要だと信じているから」と聞いて感心することしきりだとか。そりゃまあ,通勤距離が徒歩15歩という奥谷氏にとっては信じられない行為でしょうねえ。15歩ですよ,歩。


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