― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted

 2004年に設立から25周年という節目を迎えた,アメリカでも最古参のメーカーであるActivision。このところは,「Tony Hawk's Pro Skater」などの定番シリーズをはじめ,ハリウッド映画のライセンスゲーム,PC用FPSなどで,その存在感を我々に見せつけている。また,その陰ではちょっとインパクトのある買収話も進んでいるようで,注目せずにはいられないメーカーである。

 

Activisionにまつわるアレコレ

 

■Activisionは業界最古の独立系メーカー

 

サンタモニカの海岸やハリウッドにも近い,最高の立地条件にあるActivision本社ビル。当然ながら,写真で見えているのはあくまで一部分で,かなり広大なビルである

 Activisionは,世界でも有数の,長い歴史を誇るゲーム開発/販売会社である。その創立は1979年のことであり,卓上ゲーム機やアーケードゲーム機などのハードウェアを持たない,最初からゲームソフトを事業の中核とする独立系メーカーとしては,業界最古といえる。

 初期の作品は,「Kaboom!」(1981年)や「The Pitfall」(1982年)などのAtari 2600用ソフトで,さすがにこの頃を記憶しているという読者はあまりいないだろう。
 同社は1983年に株式を上場し,大企業への一歩を踏み出した。1987年,アドベンチャーゲーム「Zork」で名高いInfocomを買収。その続編となる「Enchanter」や「Sorcerer」をリリースしていく。
 さらにはビジネスアプリケーションソフトへも手を伸ばし,この頃Mediagenicという社名に変わっている。Mediagenic時代には,CD-ROMメディアが初めて利用されたゲーム「The Manhole」(「Myst」に代表されるグラフィックスアドベンチャーの先鞭をつけた作品)を世に送り出している。
 しかし1990年,現社長Robert Kotick(ロバート・コティック)氏らが所属していたBHKという会社に買収される。これが,新生Activisionの出発となった。

 1992年に,北カリフォルニアのサンノゼ市からロサンゼルス近郊のサンタモニカへと移ってから,Activisionは破竹の勢いで成長していく。
 この頃,アジアやヨーロッパの市場への進出を目指して,オーストラリアやイギリスに支部を設立している。また,再びゲームソフトを専門的に扱うようになり,MPEGによるフル実写ゲーム「Return to Zork」や,Windows 95が登場してからは麻雀牌を使ったゲーム「Shanghai」,ロボットアクションの「Mech Warrior 2」,横スクロールタイプの「Earthworm Jim」など,比較的記憶に新しい作品を次々とリリースするようになった。

 

 '90年代後半までPCゲームに注力していたActivisionは,1997年にid Softwareと提携することで,「Quake II」の版権獲得に成功。それまでFPS分野では,ニューヨークをベースとする新興のGT Interactiveが販売会社として大きな勢力を持っていたものの,相次ぐ販売延期などで同社が凋落していくのを尻目に,Activisionはうまく時代の波に乗ったと言えるだろう。同じ年にはQuake系ソフトの開発チームとして名高いRaven Softwareを傘下に収めており,さらに翌年には「Quake III Arena」の権利を早々に勝ち取っている。
 ここ数年のActivisionは,地の利を生かしてハリウッドの資産や人材を活用しており,Marvel Enterprisesの「Spider-Man」(スパイダーマン)や DreamWorks Interactiveの「Shrek」(シュレック)などの版権を獲得すると同時に,コンシューマゲーム市場でもしっかりとした足場を築いている。もはやアメリカで定番ソフトになった「Tony Hawk's Pro Skater」シリーズのNeversoft Entertainmentをはじめ,TreyarchVicarious VisionsLuxoflux,そしてGray Matter InteractiveInfinity Wardなど,実力のある開発チームを次々と買収して裾野の広いピラミッドを形成しており,そのラインナップの守備範囲も確実に広くなった。

■訴訟問題と新体制作り


 実際,最近のActivisionの業績アップは目覚ましく,2003年には5ドル程度で低迷していた株価も,2005年現在は20ドル前後で取り引きされている。最近では4対3の株式分割も行われ,某幹部がアリゾナで2億円を超える豪華なセカンドハウスを購入したことでも話題になっていた。
 そのような中,あまり良くないニュースもチラホラと伝わってきている。まず,「Call of Duty」のコンシューマゲーム版「Call of Duty:Finest Hour」を開発したSpark Unlimitedが,その次回作となるはずだった「Call of Duty:Big Red One」の開発契約を一方的に打ち切られたことから,1000万ドル(約11億円)の補償を求める訴訟を起こした。これに対しActivisionは,「Spark Unlimitedは,開発者の中にMedal of Honorシリーズを手がけたコアメンバーがいるという"印象操作"によって,我々に被害をもたらした」として一歩も引かず,逆に反対請求を申し立てることで威嚇するなど,ドロ沼状態になっている。

紆余曲折を経て,11月中にプレイステーション2とXbox用にリリースされる「Call of Duty:Big Red One」は,16人まで参加できる対戦モードを備えている。アメリカではコンシューマゲームでもミリタリー系シューティングが浸透し始めており,見た感じもちょっと遊んでみたくなる一作だ

 Finest Hourは,もともと2004年6月にリリースされる予定だったものの,Spark Unlimitedがスケジュールに合わせることができずに,同年11月のリリースへと延期された経緯がある。これによって不信の念を抱いたActivisionは,Finest Hourと3作のシリーズを開発するという契約を解消して,Big Red Oneの制作をTreyarchとGrey Matter Interactiveに割り振ったのである。
 SparkはAtariに対してまったく新しい作品を提供する契約を結んだとも伝えられており,"ゲームのノウハウが詰まった"といえるソースコードに対する保護,というきな臭い事情も見え隠れする。

 

 また,このところActivision本社では激しい人事異動も行われており,ゲーム業界で働く女性としては最も高い地位にあったとされるKathy Vrabeck(キャシー・ヴラベック)氏が,8月に解雇されている。氏は,1999年にActivisionに入社し,2003年からは販売部門副社長として第一線で活躍しており,2003年からのActivision躍進で最も功績のあった人物の一人という業界の評価もあるほどだ。
 6月には洗剤など家庭用品で有名なThe Procter&Gamble Company(P&G)からMichael Griffith(マイケル・グリフィス)氏が販売部社長に迎えられているが,これは本来,ヴラベック氏に与えられる予定のポストだったという憶測も流れていた。
 ヴラベック氏解雇の詳細は発表されずじまいだが,同社では,販売部門の会長だったRon Doornink(ロン・ドアニンク)氏が12月いっぱいで退陣することも発表されたばかりだ。ActivisionとP&Gの関係は定かではないものの,ドアニンク氏に関する発表と前後して,新しいCFO(最高財務責任者)として参加することが決定したThomas Tippl(トーマス・ティップル)氏も,やはりP&G出身者である。

■時代の荒波に揉まれつつあるid Software


 しかし,我々PCゲーマーにとって一番興味深いのは,なんといってもActivisionと蜜月関係にあるid Softwareに関する動向だろう。9月末のThe Wall Street Journal(ウォール・ストリート・ジャーナル)紙のレポートによると,id Software幹部のAdrian Carmack(エイドリアン・カーマック)氏が電撃的な解雇を受け,訴訟にまで発展しているという。
 エイドリアン・カーマック氏は,プログラマーのJohn Carmack(ジョン・カーマック)氏とは血縁関係にないものの,すでに退社しているJohn Romero(ジョン・ロメロ)氏,Tom Hall(トム・ホール)氏と共に,id Software設立に関わった初期メンバーの一人。アート部門で貢献し,一般公開はしていないがid Softwareの株式の実に41%を手にしている。
 ところが,Activisionは水面下でid Software買収の話を進めていたらしく,くだんのレポートによると,「DOOM」や「Quake」「Return to Wolfenstein」のすべての権利を9000万ドル(約100億円),会社ごとなら1億500万ドル(約120億円)という条件で,決まりかけていたという。このことを,事前にid Softwareの経営陣がエイドリアン・カーマック氏に伝えていたのかは分からないが,本来エイドリアン・カーマック氏が得るべき配分の半分以下にあたる2000万ドル(約23億円)で彼の持ち株を買い取ろうとしたところ,彼が反対したため,解雇したという。その結果,裁判沙汰にまで発展したというわけだ。

 

すでにゴールド版になった,id SoftwareとRaven Softwareによる期待のFPS「Quake 4」。開発現場ではかなりいろいろとあった模様。ジョン・カーマック氏には,宇宙ロケット開発の夢など諦めて,次なるゲームエンジンを制作してほしいものだ……

 FPSというジャンルを作り上げ,業界でもカリスマ的なプログラマーとなっているジョン・カーマック氏のid Softwareが,裏で身売りを進めているというのは驚くばかり。ファンにとっては,ショックな話かもしれない。
 「DOOM 3」は,セールス的に成功しただけでなく,この冬には映画版も公開される予定で,さらにRaven Softwareの「Quake 4」ももうすぐ遊べるようになるはず。さらには,少しずつ情報が漏れてきた「Enemy Territory:Quake Wars」や,Xbox 360版も制作されるという「Return to Wolfenstein」次回作など,id Softwareの作品はフランチャイズとして大きく成長しつつある。
 ただ実際のところ,激しい競争にもかかわらず,FPSというゲームジャンルの進化はデッドロックの状態にあり,id Softwareという会社にとっては"今が一番の売り時"であるのはまぎれもない事実であろう。
 しかし,「我を張る」ことで個性的な作品を作り出すという,ある種の開発者魂と言えるものは,"PCゲームらしさ"の一つだったはずである。次世代機戦争や,開発現場の効率化,ゲーム流通の変化,そしてハリウッドや他業界の進出など,PCゲーム業界が大きく変わっていくのは,止められない流れである。その中で,Activisionやid Softwareをはじめとする大小のゲーム企業は,生き残りをかけての模索を行っているのだろう。しかし我々にとって,"今"が変わってしまうことは,何か寂しいものでもある。

 


次回は,業界を騒然とさせる"あるアクションヒーロー"の話をお伝えしよう。前回のララ・クロフトとは,またまったく違う内容になる……かも。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。奥谷氏が住むサンフランシスコでは,毎年「コロンブスの日」(10月10日)という祝日に,米海軍"ブルーエンジェルス"によるアクロバット飛行が行われる。今年も数日前からブルーエンジェルスが練習を始めていたそうだが,奥谷氏が路上を歩いていたときに一機が頭上を追加し,突然の爆音に,氏は思わず頭を抱えてしゃがみ込んでしまったらしい。持っていたコーヒーを落とすほどの驚きようで,周囲の人から笑われたという奥谷氏。当連載ではときどき攻撃的な一面も覗かせているが,結構小心者なのかもしれない……。


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