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奥谷海人のAccess Accepted

 アメリカでは今週から全国的な夏休みとなり,ゲーム市場も活気を帯びてきているが,このところ元気のないMMORPGはどうだろうか。E3 2005で展示されたMMORPGは,タイトル数が減った分だけ,質が向上していたのも事実だ。今回は,2005年いっぱいまでにリリースが予定されているMMOジャンルのタイトルに,どんな傾向があるのか調べてみた。



 注目される「エバークエストII」の日本におけるサービス開始も刻々と迫るなど,最近MMOジャンルでは,プレイヤーの確保合戦がより激化してきた。アメリカではNCsoftからリリースされたばかりの「Guild Wars」が順調な滑り出しを見せているほか,Blizzard Entertainmentの「World of Warcraft」は全世界合計で200万本を売り上げたと発表されており,中国だけでも初日で10万アカウントの獲得に成功している。
 2005年から2006年にかけてリリースが予定されているMMOジャンルのゲームは,今年のE3(Electronic Entertainment Expo)で展示されていたタイトルだけで見積もった場合,香港で開発されているような日本では無名のタイトルを含めても,40作に及ばない程度だ。決して多くはない数字だが,MMOゲームの現状を考慮すれば妥当な数字と言えるかもしれない。実際に成功できるソフトは,ほんの一部でしかないのである。

 アメリカでは,MMORPGの運営において採算が取れる最低ラインは,10万から15万アカウントとされている。もちろんこの数値は,開発費や運営/Liveチームの人件費,設備投資などによっても変化してくるだろう。
 しかし,実際に"大成功"と断言できるソフトは意外と少なく,現在アメリカに上陸しているサービスで50万アカウント以上と公表されているのは,上記の「World of Warcraft」や「EverQuest」のほかは,「リネージュ」シリーズと「ファイナルファンタジーXI」くらいなものだ(※)

 とにもかくにも,MMORPGの制作者達は,"最低ライン"だけは突破したいとなんとかアイデアをひねり出している状況である。
 そこでここでは,E3で発表されていた情報をもとに,最近のMMOゲームの傾向を考察してみた。
※アメリカで正式にサービスが行われているMMORPGに限った場合


アメリカで2005年内にリリース予定のMMORPG(2005年6月15日現在)

タイトルリリース予定開発元ステータス
RYL:Path of Emperor6/21PlanetWide Gamesβ完了直前
Irth Online7/10Magic Hat Software北米限定オープンβ
Dungeons & Dragons Online8/1Turbine Entertainmentクローズドβ
Auto Assault8/1NCsoftクローズドβ
Roma Victor9/30RedBedlamクローズドβ直前
Gods and Heroes:Rome Rising10/1NP Cube
Perpetual Entertainment
α段階
Tactica Online11/1Imaginary Numbersα段階
Dark and Light11/5Farlan Entertainmentα段階
City of Villains12/1NCsoftα段階
Pirates of the Burning Sea12/31Flying Lab Softwareα段階
 
 

■知的財産(IP)型


E3では「Dungeons & Dragons Online」の評判は上々で,その後,MMORPGファンの間で人気がうなぎ上り。テーブルトーク風の込み入ったルールは感じられないが,マニアも納得できる仕様が盛りだくさんだ
 映画や小説,コミックを題材にした,IP(知的財産)ライセンスタイプのMMORPGは,最近のトレンドといえる。中でも本年度で最も注目されているのは,やはり「Dungeons & Dragons Online」に違いない。コンピュータRPGに多大な影響を与えたテーブルトークRPG「Dungeons & Dragons」の第3版公式ルールブックに則ったゲームシステムでありながら,「バルダーズ・ゲート」のようなある種機械的な演算作業は感じられず,かなりスピーディでテンポの良いゲームに仕上がりつつあるのが,E3でのTurbine Entertainmentブースのデモからも感じられた。
 Disney Onlineの「Virtual Magic Kingdom」は,すでにオープンβテスト段階に入っており,登録すれば誰でも遊べるようになっている。ディズニー直営だけに数々のIPが含まれており,おまけに無料でのサービスとくれば,ディズニーファンに喜ばれるのは当然として,コンピュータゲーマーの予備軍育成にも一役買うことになるだろう。

 もっとも,知名度の高いライセンス作品だからといって,必ずしもMMORPGでの成功が約束されているわけではない。「Star Wars Galaxies」は25万アカウント程度から伸び悩んでいるようだし,リリースされたばかりの「The Matrix Online」も利用者獲得には苦労している様子だ。




■オーソドックス型


独自のゲームエンジンの性能もなかなかの,「Irth Online」。古参のコンピュータRPGファンでも納得できる渋い世界観が持ち味だ。北米居住者限定ではあるが,ついにオープンβも始まった
 中世ファンタジー風の世界観は,「Ultima Online」から始まって,「EverQuest」「Lineage」「Dark Age of Camelot」「ファイナル・ファンタジーIX」「World of Warcraft」に至るまで,MMORPGを代表する多くの作品のテーマであり,もはや"定番"と言い切っていいだろう。
 しかし,上記の作品群は現役でサービスが続けられているものばかりで,同テーマで新しく参入するには,かなりの努力を強いられるはず。そのためか2005年は,このオーソドックスなタイプのMMORPGは,例年にない不作になると思われる。待ち望んでいるファンには申し訳ないが,「Irth Online」や「Dark and Light」など,(本質はともかく)あまり大きく注目されていない作品ばかりが,年内リリースとなっている。
 Irth Onlineは,昔のUltimaシリーズを髣髴とさせる内容だし,巨大なゲーム世界を謳っているDark and Lightも魅力的ではあるが,ゲームプレイやストーリー,サービス体系で目立った特徴が少なく,どれだけのプレイヤーが現行のサービスから移っていくのか気になるところ。新参の開発チームらしい,独創的なアイデアに期待したい。




■ユニーク型


科学と魔法の微妙な関係を描いた中世ファンタジー世界が舞台の,「Tactica Online」。ターンベースのコンバットが,MMOのゲームスタイルに一石を投じることになるか?
 ファンタジーテーマでの直球勝負を避けたのか,逆に賑やかなのがユニークな世界観やゲームプレイを持ち味にしたMMO作品だ。まず,歴史から題材を得たMMORPGとしては,「Gods and Heroes」「Imperator」,そしてE3には出展されていなかったが「Roma Victor」と三つの作品があり,それも神話ファンタジー,SFファンタジー,歴史シミュレーションとアプローチは異なるものの,ローマ帝国という同じ題材を扱っているのは興味深い。
 Steamで配信される予定の「Pirates of Burning Sea」は,その名のとおりパイレーツ(海賊)になりきって楽しむMMORPGで,アメリカへの上陸が見込まれているコーエーの「大航海時代 Online」(英題 Uncharted Water Online)との勝負が楽しみだ。さらには,ディズニーが「Pirates of the Caribbean Online」を開発していることもE3では発表されている。

 またNCsoftからも,いくつか面白いアイデアの作品が登場する。「Auto Assault」は,映画「マッドマックス」のような世紀末的な世界観で遊ぶMMOアクション。破壊可能なオブジェクトが満載で,敵と味方に分かれての陣地破壊合戦を楽しめる。
 同じくNCsoftの「City of Villains」は,ヒーローものの「City of Heroes」と対をなす悪役専用のゲームで,奪ったものを溜め込める新仕様なども盛り込まれている。

 さらに,RPGの要素に頼らないゲームも増えてきた。「Tactica Online」は,カードゲームの要領で自らのパーティを組み立て,一人のプレイヤーでグループ戦略を楽しむターンベースのコンバットシステムを持っている。
 そのほか,2006年以降のリリースになるが,NCsoftの「Tabula Rasa」や,アメリカ進出を計画しているWebzenの新規フラッグシップタイトル「SUN」,Sourceエンジン使用の「Twilight Wars」など,アクションに比重を置いたソフトがいくつか視野に入ってきた。




■奇抜マーケティング型


ゲーム業界に華々しくデビューしたいPlanetWide Studios社は,「RYL:Path of the Emperor」のトーナメントの勝者に,なんと100万ドルもの賞金を与えるという前代未聞の戦略を打ち上げた
 今年後半のMMORPGのトレンドとして,最後に挙げておきたいのが「奇抜マーケティング型」の作品。とくに注目したいのは,すでに韓国でGamasoftがサービスインしている「RYL:Path of the Emperor」である。
 6月中には北米で正式サービスが始まるこのタイトルは,アジアには多いPvP中心のMMORPGだ。面白いのは,北米で運営を担当するPlanetWide Gamesが,サービス開始直後から行われるトーナメントに勝ち抜いてエンペラーとなったプレイヤーに,100万ドルもの賞金を授与すると発表していること。100万円ではなく,100万ドルであることに注意。1ドル=109円換算で,実に1億900万円もの大金である。
 さらにこのゲームでは,リサーチ会社のアンケートに毎月答えることで,ゲームのプレイ料金が無料になるという,利用者にはありがたい運営手法を考案中だ。このように,多い場合には月額20ドルもの負担となる課金システムを見直す動きが増えており,SF系MMORPGとして有名な「Anarchy Online」も,今年から完全無料のサービスへと変貌している。どのように採算を合わせているのか不思議だが,無料サービスほどプレイヤーの興味を惹く戦略はないだろう。




 2005年後半は,大作こそないもののちょっと気になる作品の多い,MMORPG新作の群雄割拠が楽しめそうだ。既存の人気作ばかりにプレイヤーが集まる傾向を打ち破り,新たな勝者が誕生するのだろうか?




次回は,気になる新興開発チームを調査してみます。お楽しみに。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。奥谷氏は,当サイトの「こちら」で連載が始まったばかりの「Grand Theft Auto:San Andreas」に最近ハマっているという。しかしちょうどハマり始めた頃に,アメリカでは夏休みが始まり,1日中家に氏の子供がいるという状態に。そのため,いろんな意味で"大人向け"である本作を気軽に遊べなくなったと,2児のパパである奥谷氏は嘆いているようだ。日本人のパパ達は,今のうちに遊び倒しておくべきだろう。


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