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今回インタビューに応じてくれた,有限会社クロムシックス 代表取締役兼チーフプログラマの浜中 誠氏(左側奥)と,企画/グラフィックスデザイナーのLEEX氏(右側手前)
 声優さんへのインタビューに引き続いて,今度は開発側,クロムシックスのお二方に話を伺った。代表取締役兼チーフプログラマの浜中 誠氏と,企画/グラフィックスデザイナーのLEEX氏だ。
 キャラクターゲームとCVという論点に留まらず,"エンジェリック・ヴェールシリーズ"およびシリーズ最新作に当たる「エンジェリック・ヴェール新伝 エフェメール島綺譚」で,気になる点についても聞いてみた。


  システムメッセージ込みのテキストがそのまま収録台本

 まず,本シリーズの大きな特徴となっている"豪華な"声優陣の起用について聞いてみよう。LEEX氏によれば「ベテラン声優は演技力を考えて起用しました。声のバリエーションやリテイクの少なさも考慮したところです」との回答。一方浜中氏は「新しいタイトルを,まったく無名なところから広く知ってもらうのに効果的と考えた点もあります」と答えてくれた。これらに加えて,有名声優さんそのもののがもたらす集客効果については,過大に見積もることこそできないが,言わずもがなだろう。

 リテイクの少なさと聞いて気になるのは,アフレコのそもそもの所要時間だ。LEEX氏によると「みなさんだいたい3時間ずつくらい,初回作の主人公役(=荻原秀樹さん)はワード数が多かったので,夕方に始めて夜中までかかりました」とのことで,意外なことに総じて短いことが分かる。拘束時間が短いということは,ギャラもそれほどかさまないということだ。さして費用が変わらないなら,確かにここでコストを抑えるよりも,最も効果的と思われる手を打ったほうが賢いという結論になるのだろう。

 では,そのアフレコで使われる台本とはどういったものだろうか? 左に現物(の一部)の写真を用意したので見てほしい。アニメーション作品のように簡易製本されているわけではなく,片面印刷のプリントアウト,一人分は2〜3cmの厚さになる。だが,ここで注目すべきは厚さではなく記述方法だ。
 演劇の脚本は通常,セリフとト書きで成り立っているわけだが,この脚本には[困惑][思案]といったキャラクターの感情,「oge0003.wav」といったファイル名が添えられている。本シリーズを一度でもプレイした人ならピンとくると思うが,前者は各キャラのメッセージダイアログに添えられる,顔グラフィックスの表情を示しているのだ。
 そして,そこから推測できるとおり,この台本自体「(ゲーム内での表示にも使われる)おおもとのテキストを,専用のコンバータを介してして出力したもの」(浜中氏)であるらしい。単なる映像作品でなくゲーム"プログラム"としての特性を,制作工程に活かしているという意味ではなかなか面白い話だ。
 ちなみに表情は別に台本として必須の項目ではないのだが,「演技の参考としてあったほうがよいという話になったので,付けている」(LEEX氏)そうだ。




 台本に関連して,ゲームの開発スケジュールとアフレコの時期,シナリオ確定タイミングの関係についても聞いてみた。浜中氏によれば,エフェメール島綺譚の場合,「アフレコ終了はマスターアップの5か月前,シナリオ(アフレコ台本)の確定は,どうしてもその直前まで引っ張ります」とのことだった。第2作もほぼ同様のペースであったらしいが,すべてを一から組んだ初回作だけは例外で,これはアフレコ終了が2001年12月でありながら発売は2003年4月にまで延びた。
 アフレコ後5か月といえばかなりの時間があるように思えるが,シナリオがフィックスし,会話内容も確定した後の5か月はどのように使われるものだろうか? 普通に想像がつくのはステージごとの難度調整だが,これは「最後の2か月にかなり集中して行われます」(LEEX氏)という。それ以前にかなり手間のかかる工程として存在するのは,セリフの尺と3Dモデルの"演技"のタイミングを,合わせる作業とのこと。まことに本作らしいお話であるが,これが意外に高度な対応を要求されるようだ。
 というのも,ストーリー性とリプレイ性をともに重視するキャラクターゲームの場合,メッセージスキップ,もしくはそれに準ずる機能が必須であるためだ。画面表現が2Dのみのスタティックなものであれば,そのまま立ち絵や背景をハイペースで流してしまえばよいのだが,3Dキャラクターを単純に"早送り"することは,ビデオカード/CPUの負荷ゆえにそもそも無茶な話。そこで「セリフがスキップされるタイミングに合わせて,3Dキャラクターの動作がワープしていけるように作る」(浜中氏)という。ユニークな表現の裏には,ユニークな工夫が隠されているようである。


  敵のクリティカルな攻撃は,特殊技奨励の副作用?

 さて,このあたりでアフレコ/キャラクターボイスの話からは少々離れて,ゲーム全体の話を聞いてみたい。従来作品と本作との間でいちばん大きく変わったのは,特殊技のチャージルールだろう。以前はMP(マジックポイント)を溜めて発動させていた特殊技が,本作では敵を倒していくことで溜まる「スピリットゲージ」で管理されるようになった。このルール変更には,どういった意図が込められているのだろうか?
 浜中氏によると「MPを気にせず,特殊技をバンバン使ってほしい」ので,新しく導入したルールだという。「魔法使いなど,MP1の魔法を頻繁に使うクラスは,なかなか特殊技を使えなかったので,それを何とかしようと考えた」(浜中氏)とのこと。その意味で,確かに本作ではクラスの種類を問わず,特殊技の使い方を柔軟に考えられるようになっている。まあもっとも,前作,前々作でも"魔力賦活"でMPのチャージを加速して切り抜ける手があったにはあったのだが。

 それはさておき,実はここに本作のもう一つの特徴である,"敵がいきなり繰り出すクリティカルな攻撃"の秘密があるらしい。  前述のように特殊技のスピリットゲージは,敵を倒していくことでチャージされるわけだが,このゲームでは敵キャラクター/ユニットも同様に特殊技を持っている。さりとて敵に同様のルールを適用すると,味方がバタバタ倒れていく戦況にならない限り,敵は特殊技を繰り出せないことになる。そういうわけにはいかないので敵に関しては「ヒットポイントの減り具合+ランダム」(浜中氏)で特殊技を発動させる仕組みになっている。
 そしてこの処理こそが,予期せぬタイミングで特殊技を繰り出す敵の正体なのだ。「前作,前々作は敵もMPを溜めてから行動するので」(浜中氏)「もともと"流れの読める"ストラテジーゲームだったハズが」(LEEX氏)今作ではかなり違う展開になった。発動頻度の調整も,なかなかたいへんだったらしい。

 本作でプレイヤーが手こずらされる要素として,"敵に回復魔法をかける敵"というのがいるが,これも調整が難しかった様子。開発段階では「あまりに適切なタイミングで回復が入るため,えんえん攻撃を続けても,敵のHPを減らせない状況になった」(LEEX氏)という。ルーチン側の判断がそれだけ適切だったわけであり,その意味では興味深い話ではある。

 最後に今後のシリーズ展開(の可能性)について聞いてみたが,さすがに「まだ"エフェメール島綺譚"が出たばかりで,プレイヤーの方の感想も集まってきていない時期ですから」(浜中氏)ということで,これについては明確な回答をもらえなかった。


 以上,いつもの作品紹介とは違う形で,キャラクターゲームに不可欠なボイス要素について少々掘り下げてみた。「掛け合いなきが故の早い者勝ちアフレコ」「結果としてリーズナブルなベテラン声優さん」「アフレコ台本はスクリプトテキストの出力形態の一つ」など,個別の作品や声優さんにフィーチャーした記事では,なかなか出てこない話題にはなったと思うのだが,いかがだったろうか。 今後CV付きのゲームタイトルをプレイするとき,そこでの演技や口調をいっそう興味深く聴く一助となれば幸いである。まあ,この記事を最後まで読んでくれた人なら,今さら「素直に思い入れを持てなくなる」というような心配もなかろうし。


   

タイトル エンジェリック・ヴェール新伝 エフェメール島綺譚
開発元 クロムシックス 発売元 エレクトロニック・アーツ
発売日 2005/03/10 価格 通常版 7140円,限定版 9240円(ともに税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:Pentium II/500MHz以上[Pentium III/1GHz以上],メインメモリ:384MB以上,グラフィックスチップ:GeForce 2 MX以上もしくはRADEON 7000以上,グラフィックスメモリ:32MB以上,HDD空き容量:1GB以上

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