― 連載 ―

キャラクターゲーム考現学

第25回 「マブラヴ」「マブラヴ オルタネイティヴ」

 今回扱う「マブラヴ」「マブラヴ オルタネイティヴ」(以下,オルタネイティヴ)はもともと18禁タイトルであったが,そのストーリー展開を評価する声が高かった。そこで,18禁タイトルに抵抗のある人にも楽しめるよう,ストーリー要素を大きく変えることなく全年齢対象の製品が用意されたというわけだ。
 ちなみに,オリジナルのマブラヴの発売は2003年2月28日,同じくオルタネイティヴは2006年2月24日と,約3年の間がある。このため,今回紹介するマブラヴ全年齢版のゲームシステムは,オルタネイティヴに合わせる形でアップデートされている。
 もともとこの2タイトルは合わせて一つのストーリーと世界を構成しており,2本に分割されているのは,どちらかといえば開発/販売上の経緯によるものだ。それゆえ本記事では,2本をまとめて紹介する。

 

 

Character Side:「超」王道学園アドベンチャーと,その裏返し

 

アンリミテッド編より。仲の悪い千鶴と慧,それに武の3人が,チームの連携を深めるために「合宿」。だが寝ている最中にも取っ組み合いのようなものが。オルタネイティヴと比べ,アンリミテッド編にはまだ比較的コメディタッチのシーンが登場する

 制作発表当初,マブラヴは「超」王道学園アドベンチャーとアナウンスされ,学園生活を中心とした青春ものとして紹介されていた。だがフタを開けてみれば,それは「エクストラ編」というゲームの一部(一応ストーリーの根幹ではあるが)であり,そのほかに,エクストラ編の主人公がある朝目覚めたら,異星人との戦争が続く世界(並行世界)に来てしまっていたという「アンリミテッド編」も収録されていた。このアンリミテッド編はエクストラ編を進め,メインヒロインである純夏と冥夜二人のエンディングを見ることでプレイ可能になる。
 アンリミテッド編は,主人公を取り巻くキャラクターこそエクストラ編と同じだが,その置かれた立場などが異なる。そしてオルタネイティヴの世界は,基本的にアンリミテッド編と同一である。

 

 エクストラ編での設定に基づいて主要キャラクターを挙げると,主人公の白銀 武(しろがね たける)と家が隣同士で,部屋も窓を開ければ向かい,窓越しに会話もできる幼馴染みの「鑑 純夏」(かがみ すみか),ある日いきなり主人公の家に押しかけ,そのまま居着いてしまった世界的財閥のお嬢様「御剣冥夜」(みつるぎ めいや),クラスの委員長で文武両道の優等生「榊 千鶴」(さかき ちづる),協調性がなく冷ややかな態度で千鶴とは仲の悪い「彩峰 慧」(あやみね けい),無邪気で人なつっこく,背もちっちゃい「珠瀬壬姫」(たませ みき)と,ウリ文句である「超王道」に恥じない布陣だ。これにさらに,優しくて面倒見のよい担任教師と,マッドサイエンティスト気味の美人物理教師が加わる。エクストラ編では,これらのキャラクターが繰り広げるスラップスティックコメディが描かれており,お約束どおりの展開が満載である。
 対してアンリミテッド編では,純夏が登場せず,エクストラ編で男だった鎧衣尊人が「美琴」という女性として登場するなど,少々の異同はあるが,基本的な立ち位置に変更はない。また,アンリミテッド編だけに登場するキャラクターとして,無口で謎めいた少女「社霞」(やしろ かすみ)がいる。

 

 キャラクターイラストでよく使われる,頭部から1本だけ飛び出した髪の毛を指していう。「触角」「アンテナ」などとも呼ばれていたが,現在は「アホ毛」というダイレクトな呼び方が市民権を得たようだ。もともとそのキャラクターの特徴を深く印象づけるために使われたアクセントであるが,そもキャラクターとは記号の集積であるからして,感情表現の一部としてアホ毛の形状が変化するというのも,しばしば用いられる手法だ。

 

 前述のとおり,オルタネイティヴは基本的にアンリミテッド編の続編といえる。アンリミテッド編のエンディングのあと(と思われる)武が目覚めたところ,なぜかアンリミテッド編の冒頭と同じ10月22日に来てしまった。そこから始まる,全体の謎解き(なぜ武が並行世界に来てしまったのか,なぜ再び10月22日なのか,なぜアンリミテッド編の世界には純夏がいないのか,など)となっており,基本的に一本道のストーリーである。

 

「超王道学園アドベンチャー」というキャッチコピーに留まらぬ内容などで話題を呼んだ「マブラヴ」の限定解除版(全年齢版) 当初はエクストラ編しかプレイできないが,純夏と冥夜のエンディングを見ると,このようにタイトル画面が変化する。ここで「初めから」を選択すると,エクストラ編とアンリミテッド編を選択できるようになる

 

「朝起こしに来る幼馴染み」「寝ぼけておかしなことをしてしまう主人公」といったお決まりのパターンから始まるエクストラ編は,まさに王道ラブコメな感じの展開だ 「幼馴染み」の王道その2,窓越しの会話。現実的に考えると,このように隣の家と窓が正対することはほとんどないと思うわけだが,恋愛漫画/ゲームでは多用される 朝起きると,隣になぜか知らない女の子が寝ていて,階下には自分を起こしに来た幼馴染み。これもまた,実在可能性に反して実によく見る「ベタ」なシチュエーション

 

鑑 純夏(かがみ すみか)
エクストラ編では,明るくてドジ,家は隣で部屋も向かいと,絵に描いたような「幼馴染み」キャラである。当然ながら武を意識してるわけだが,急に押しかけてきた冥夜の登場で,今までの「幼馴染み」という関係から一歩踏み出す決意を迫られるという,あるべきシチュエーションに追い込まれる。頭の「アホ毛」はそのときの感情を表現するように形が変化する。
アンリミテッド編の世界では,戸籍上存在しないことになっており,実際登場しない。
(CV:田口宏子)

 

御剣冥夜(みつるぎ めいや)
エクストラ編では,武の家に居座ってしまう「押しかけ女房」で,人目をはばからず武にアタックをかけるため,武の周囲で絶えず騒ぎを起こす。世界的な財閥である御剣財閥の次期当主であり,育ちから来るスケールの大きな世間知らずぶりは,周囲を唖然とさせる。一種のお嬢様系キャラだが高飛車ではない。
アンリミテッド編では,訓練生の一人として登場。口調はエクストラ編と変わりなく,その生まれにいわくがありそうだが,一般常識は備えており,世間知らずなところはない。
(CV:奥島和美)

 

榊 千鶴(さかき ちづる)
エクストラ編ではクラス委員長。責任感が強く,いい加減や自分勝手を嫌うため,武や慧とはよく口論になる。とくに慧とはよく対立しており,それに武が巻き込まれることもしばしば。おさげ,メガネと委員長キャラの典型的外見を備えているが,決してインドア系ではなく,文武両道でラクロス部の元部長。
アンリミテッド編では訓練生部隊の分隊長で,立ち位置的にエクストラ編と変わりはない。
(CV:倉田雅世)

 

彩峰 慧(あやみね けい)
エクストラ編では,無口でつかみどころのないクラスメイト。協調性がなく,反権力的な態度のため,千鶴とは相性が悪い。千鶴と口論をする際,近くに武がいるといきなり引っ張り込み,武を盾にするような形でボソリと辛辣なセリフを吐く。パーソナリティが正反対の壬姫とは仲がよいというのも,ある種説得力がある。
アンリミテッド編では訓練生の一人で,よく独断専行するため,エクストラ編と同じように千鶴とは仲が悪い。
<CV:永島由子>

 

珠瀬壬姫(たませ みき)
エクストラ編では無邪気で人なつっこいクラスのマスコット的存在。武にはおもちゃ扱いされている感があるが,本人は気にしている様子もない。弓道部に所属しているが極度のアガリ症であるため,大会では実力を発揮できない。
アンリミテッド編では,訓練生の一人で,狙撃兵としての才能を持っている。協調性を重んじ,いつも部隊がまとまっていることを願う。
(CV:ひと美)

 

鎧衣尊人/美琴(よろい みこと/みこと)
エクストラ編では武のクラスメートで友人。ひょうひょうとしており,他人の話を聞かず,空気を読まないところがある。冒険家の父に連れられて世界中を回っており,特異な体験に基づくさまざまな知識を持っている。
アンリミテッド編では訓練生の一人。なぜか女性キャラとして登場する。エクストラ編と同じでひょうひょうとしており,部隊のムードメーカー。
(CV:久保田恵)

 

社 霞(やしろ かすみ)
アンリミテッド編に登場する少女。無口で謎が多く,人とのコミュニケーションを拒絶するところがある。ただし武には懐いており,毎朝起こしに来るなどの行動をとる。
(CV:栗林みな実)

 

神宮司まりも(じんぐうじ まりも)
エクストラ編では武達3年B組の担任教師。優しくて面倒見がよく,生徒達に慕われているという学園物教師キャラクターの鑑。学生時代からの腐れ縁である香月夕呼からは,おもちゃにされているところがある。
アンリミテッド編では訓練生達の教官として登場。指導は厳しいが,常に教え子を陰から見守っている。
(CV:井上美紀)

 

香月夕呼(こうづき ゆうこ)
エクストラ編では,ちょっとマッドサイエンティスト気味な物理教師。武達のクラス担任である神宮司まりもとは腐れ縁で,日常的にからかい,おもちゃにしている。
アンリミテッド編では,基地副指令であり,異世界からやってきた武を訓練学校に入隊させるなど,武に協力する姿勢を見せる。
(CV:本井えみ)

 

 

 

Game Side:エクストラ/アンリミテッドをオルタネイティヴが統合

 

オルタネイティヴは,なぜか再び主人公がアンリミテッド世界の10月22日に戻ってくるところから始まる

 両作品ともシステム面ではオーソドックスなノベルタイプのアドベンチャーゲームであり,操作性などに特殊なところはない。特筆すべき部分があるとすれば,アージュ独自のゲームエンジンゆえに画面エフェクトが充実しており,これがさまざまなシーンの演出に一役買っているところだろうか。主人公が涙ぐんだとき画面に水滴を垂らしたようなエフェクトがかかり,アンリミテッド編やオルタネイティヴの戦闘シーンでは,モーションブラーが多用されるといった具合だ。
 また音声に関しても,AGES-ACSという立体音響システムを実装しており,ソフトウェアで音像の位置をシミュレートし,再現するようになっている。これには,2Chヘッドフォンモードと5.1Chスピーカモードがある。

 

 ノベルゲームのキモでもあるストーリーだが,エクストラ編はまさしく,「今まではとくに気にすることもなく接してきた幼馴染み同士のバランスが,突然現れた押しかけ女房(?)をめぐって崩れ,あらためて男女の仲を意識していく」という,王道のストーリーである。
 メインヒロインは,幼馴染みの純夏と押しかけ女房の冥夜。ただしそれ以外のキャラも実は主人公を気にかけていて,彼女達も純夏と冥夜に引きずられるがごとく関わってくる。全体に先が読めてしまうこともないわけではなく,例えば冥夜が押しかけてきた理由も,実によくあるパターンである。
 一転してアンリミテッド編では,並行世界に来た武が戦争に巻き込まれ,パイロット候補生となっているヒロイン達と共に訓練を重ねる。生き残って「もとの世界」に戻るのが目標である。
 この世界での敵である異星人「BETA」は,これまでのところまったくコミュニケーションが取れず,生態や意図などは不明という設定だ。ぶっちゃけ,「エヴァンゲリオン」や,それを受けた「高機動幻想ガンパレードマーチ」などの作品でポピュラーになった形といえよう。
 そこに,少年が一人前の兵士として成長していく「宇宙の戦士」(ハインライン)的ビルドゥングスロマンや,人類全体の生存をめぐる懐かしのB級SF的設定を絡めて,ストーリーが構成されている。もちろん,それでいて常に女っ気に欠けるところがないあたりが,キャラクターアニメ/ゲームとしての特質だが。

 

 そしてオルタネイティヴにおいては,アンリミテッド編の記憶を持ったまま10月22日に戻った武が,アンリミテッド編の結末をひっくり返すべく行動する。しかし,途中から記憶にない事態が発生しはじめ,ときにそれに打ちのめされたりしつつも,目的を達するまでが描かれる。また,この作品では選択肢でストーリー展開が変わることはなく,シーンにバリエーションがあるだけである。
 アージュの作風としての「鬱ゲー」といえば,納得のいく人もいようが,シナリオは主人公を周囲から追い詰めていく形で展開する。また,すべてにオチを着けるオルタネイティヴの結末がハッピーエンドかというと,シンプルにそう言えないのがミソだ。

 

 前述のとおり,オルタネイティヴのストーリーは全体の解題となっている。まったく別物にさえ見えたエクストラ編とアンリミテッド編の物語を整合的に繋げ,ゲーム中のさまざまな疑問点をきちんと解決しているあたりは評価に値しよう。これを見てからエクストラ編を思い返すと,アンリミテッド編,オルタネイティヴに続く細かい描写が,きちんと用意されていることが分かるのだ。
 というわけでストーリー展開は興味深いが,それゆえというべきか,総プレイ時間はかなりのものである。マブラヴですべてのエンディングを見ようとしたら数十時間のプレイが必要であり,一本道のオルタネイティヴですら,エンディングまでには十数時間を必要とする。プレイヤーには腰を据えて,このボリュームを楽しむ心づもりが必要だろう。

 

武の以前の記憶もあって,訓練を早く終えられた訓練生達は,アンリミテッド編のときより早く正式な任官を迎える 武の行動により変わっていく事態。それに伴い,以前にはなかった悲劇的な事件が起こり,武を打ちのめすことも

 

オルタネイティヴでは,アンリミテッド編と違い,戦闘シーンも多く登場する。戦闘シーンでは,ムービーだけでなく,通常の2D画像とエフェクトを活用した演出が随所に見られる

 

オルタネイティヴ後半で武が配属される部隊の面々。実は,大半がこれまでのアージュ作品のキャラクターだったりする。ちなみに,ここに写っていない隊長も過去作品の登場人物

 

■■田村眞治(フリーライター)■■
このところのストレスフルなミッションをとりあえず終えて,ひさびさにキャラクターゲームの世界に帰ってきたゲームライター。周囲に「酒は医者から止められてます」と答える知り合いが増えていく日常はなんとかしたいと,担当編集と打ち合わせで意気投合するというのも寂しい話である。そもそも話題が全然キャラクターゲームっぽくないじゃないですかー!
タイトル マブラヴ
開発元 アージュ 発売元 アージュ
発売日 2006/09/22 価格 7140円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP,CPU:Pentium III/500MHz以上[1GHz以上推奨],メインメモリ:256MB以上,4倍速以上のDVD-ROMドライブに相当する光学ドライブ推奨

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【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/charagame/025/charagame_025.shtml