― 連載 ―

キャラクターゲーム考現学

第23回 プリンセスメーカー4

ガイナックス/サイバーフロントの「プリンセスメーカー4」は,15年の歴史を持つ育成ゲームシリーズの最新作。なお次回作となる「プリンセスメーカー5」がアナウンスされたのも記憶に新しい

 「プリンセスメーカー4」は,ガイナックスの娘育成ゲームである。本シリーズの第一作「プリンセスメーカー」のPC-98版が発売されたのは1991年。文字どおり天から授かった娘を男手一つで育てるという,かなり微妙なコンセプトが受け,日本中に未婚の父を続出させた。その後「2」やパズルゲームなどの外伝的作品も含めて1999年までリリースされたものの,第3作ではPC版のリリースがスキップされ,今回の「4」にいたる。キャラクターデザインが「シスター・プリンセス」で一世を風靡した天広直人氏にバトンタッチし,2005年にはプレイステーション2版が発売された。それがこの夏,いよいよPC版で登場したわけだ。
 第3作である「プリンセスメーカー ゆめみる妖精」が発売されたのが前世紀の1997年,お父さん待ちくたびれたよ〜という心境のファンも多いと思うが,それはともかく今回も,実に安定したゲーム内容となっている。

 

 

Character Side:キャラデザを外部に任せた野心作?

 

収穫祭で出場できるのは,「武闘大会」「ダンスパーティー」「芸術祭」のうちの一つ。親友と競い合って,優勝を目指そう。歌姫として脚光を浴びる可能性もある

 本作は娘を育てるゲームである。その育て方は多種多様であり,インテリにもバーサーカーにも,聖職者にも木こりにも育てられる。もちろん最初はお兄ちゃん大好き……じゃなくてお父さん大好き娘なので,そのまま非行に走らぬよう,病気にならぬよう,さまざまな能力を伸ばしつつ,最終的にはプリンセスを目指すのが本作の王道(王女道?)プレイだ。
 そんな娘の晴れ舞台が,毎年9月に開催される収穫祭の「武闘大会」「ダンスパーティー」「芸術祭」だ。武術,舞踏,芸術の粋を競うそのコンテストで強敵と書いて「とも」と読む存在となるのが,リーゼ,クリスチーナ,マリーの三人娘。それぞれ体育会系のスポーツ娘,タカビーなお嬢様,文系の内気な眼鏡っ娘というキャラクターであり,即物的な萌え記号の話はさておくとしても,誰がどの分野のライバルを担当するか説明するまでもなかろう。
 娘を育てる主人公は,人間と魔族の戦争が終結したのち,魔王を説得しに行って行方不明となった女性イザベルから,彼女の子供である少女を託されたという御仁。それなりに腕が立つことで名を馳せていたらしいが……。貴族に取り立てるという王の申し出を断り,小さな家と小額の給付金をもらって娘との隠居生活を希望するという,偉いんだか奇矯なんだか,謎の多い人物である。
 ちなみに声優陣が,本シリーズを題材にしたアニメ「ぷちぷり*ユーシィ」のユーシィ(山本麻里安)やエルミナ(川澄綾子)とカブっているのも,ファンには興味深いところだろう。

 

魔族の血を引いているという設定のおかげで,育て方を間違えると魔界に行けるようになってしまう,ツインテールの妹……じゃなくて娘。母親がいないことを近所のいじめっ子にからかわれたり,怪しい酒場で働かされたりと,難儀な宿命の娘である。パラメータ上太ろうが痩せようがグラフィックスの変化が少ないのは,娘のせいかゲームのせいか。
(CV.水樹奈々)

 

クリスチーナ・オハラ・ノーザリー
貴族であるノーザリー家の令嬢。そのロールヘアの外見から分かるとおり,一度落ちたハンカチは拾わない,優雅な生活自慢がすぐ言葉に出るという高飛車な性格だが,ダンスのレッスンで舞踏会デビューに備えるなど陰の努力も怠らない。根は寂しがり屋で素直ゆえに,体育会系のリーゼとはえんえん喧嘩しながらも,仲良くやっている。なお,インターネットの基幹技術であるWWW(ワールドワイドウェブ)の生みの親だったりはしないようだ。
(CV.釘宮理恵)

 

リーゼ・トルバーズ
国で五本の指に入る腕前の騎士,トルバーズの娘。少年のような服装をしているが,ショートカットではないので,別にスカートや球技が苦手ということはない。体育会系で,強い者が弱い者を鍛えるのは当然と言い放つ自尊心と意志の強さはクリスチーナと同ベクトルであり,行動パターンは似ている。なお,UNIXベースで商業利用も可能なOSを設計したりはしないようだ。
(CV.川澄綾子)

 

マリー・ストールマン
道具屋の娘。眼鏡っ娘で引っ込み思案,本を読んだり絵を描いたりするのが好きだが,別に犬と共に遠い療養所で暮らすような病弱の娘というわけではなく,珍しいもの見たさに屋台を覗きたがるような,どちらかというとオタク系のメタファーとしての眼鏡っ娘らしい。喧嘩するクリスチーナとリーゼの間でうろたえ,娘の仲裁を引き出す前座の役を担っている。なお,フリーソフトウェア運動の旗頭になったりはしないようだ。
(CV.山本麻里安)

 

キューブ
娘にくっついて来て,執事として娘の面倒と家事を取り仕切る謎の魔族。忠義心に溢れ正直で親切という性格。「2」で愛娘をこいつにかっさらわれて怨みに思っていた人も少なくないと思うが,それは飼い犬に手を噛ませるような教育をした父の責任といえよう。本作では付属のミニアドベンチャーゲーム「キューブのいない一日」で蚊帳の外に置くことすら可能。うーむ。
(CV.サエキ トモ,米村千冬)

 

主人公
貴族になるよりも,養女と暮らせる小さな家とわずかな恩給を選んだ変人。給付額が少ないのは慎み深さゆえか,行方不明のイザベルの娘を連れ帰ったという,証明できるのは本人のみの発言を怪しんだ王の差し金か。娘を働かせてそのお金を娘の教育費やら誕生日プレゼント代やらに充て,バカンスにまで行ってしまうあたり,むしろ娘に養ってもらっていると考えるべきだろう。

 

最初は無色透明な,白雪のように可憐な娘である。この娘を害悪から守って慈しみ,凛とした娘にするか,影のある女にするかは,主人公である父親の育て方次第である 娘,クリスチーナ,リーゼ,マリーの仲良し4人組。気の強い二人が喧嘩して,眼鏡っ娘がうろたえ,中立キャラがなだめて解決という,バランスの良い配置がなされている すぐに家自慢をするクリスチーナの一言に対する,マリーの絶妙のフォロー……なのだろうか? 人はこういう玉虫色の解決を憶えるたび,悲しい大人になっていくわけだが

 

使用人のキューブは,年頃の娘を着替えさせるという父親の特権(?)を横取りし,さっさと済ませてしまう,全プレイヤー共通の敵なのだ。主人公の敵かどうかはさておき 色男系からワイルド系まで複数の王子様/ヒーロー系キャラクターも出てくるが,おまえらを紹介するつもりはないので,とっとと帰れ。「お父さん」とも呼ぶんじゃない 父親の年齢は20〜99歳に設定できる。20歳で10歳の娘を持った青年になるか,99歳で一人娘を抱えたうえに,数年後には戦争に駆り出される老人となるかは,お好みで

 

 

Game Side:よりシンプルかつお手軽になった育成システム

 

勉強,アルバイト,休暇のスケジュールを効率よく組んでいくという,本シリーズの基本となるプレイスタイルは健在

 魔法石をめぐる人間と魔族の戦争で,魔王を説得しに向かって行方不明となった魔法剣士イザベル。かつて彼女の仲間だった主人公は,十年近い捜索のすえ,夢うつつに再会した彼女から,彼女の娘(10歳)を託される。
 主人公は王国に戻り,貴族に取り立てるという王の申し出を断り,小さな家(と年500Gという小額の給付金)をもらって,娘との隠居生活に入った……というのが本作のプロローグである。従来のシリーズと明確に違うのは,本作で描かれる世界が,戦争が終わったのでなく,一段落しただけという点だ。人間と魔族の間は再び緊張が高まっており,そのうえ娘は人間と敵対する魔族の血を引いているという,ファンタジー世界ながらも暗い影が見え隠れするストーリーなのである。
 そうした設定と関連してか,システム的には「2」に似ているにもかかわらず,魔物を倒しまくる武者修行はなく,そのぶん「休暇」の「おでかけ」で,各種イベントが発生するようになっている。追加された勉強科目やアルバイトのほとんど,城での謁見などは「おでかけ」を使わないと発生しないので,勉強やアルバイトなど普通の育成項目と併行して,おでかけするように心がけよう。

 

 対して,育成パートはいつものとおりいつものごとくである。まずは体力をつけるかダイエットさせるかなど健康管理の方針を決める。そして,体力/知力/魅力/気品といったパラメータを上げるための,座学/魔術/芸術/武術/礼法/舞踏などの学習と,家事手伝い/子守/農場/教会といったアルバイト,バカンスやお出かけを含む休暇を,1か月単位でスケジューリングする。このとき,所持金と娘の疲労度には注意する必要がある。例えば娘が病気になると,普段見られないグラフィックスが見られたりもするが,ほどほどにしたいところだ。
 ようやく10歳を超えたばかりの娘を働かせたアガリで,習い事をさせて自分もバカンスに行き,あげくおこづかいをあげて感謝される父親という,実に因業なシステムは健在だ。というかまあ,父親は設定上働かず,娘のダンスパーティにおける部門賞の賞金より少ない年収しかないのだから,そうせざるを得ない。
 娘の授業料に充てるはずだった,娘の稼いだ金を,娘の誕生日プレゼント代に使ってしまい,その前に入力していた授業料が払えず,無為に過ごさせたりしたのでは,動機はさておき子供の給食費を賭博に注ぎ込むダメ親父以下である。きちんと計画を立てて,娘を働かせ……もとい育成しよう。

 

10歳〜12歳,13歳〜15歳,16歳〜18歳の3段階に変化する娘は,雛子から咲耶にモーフィングすると思えばよい。成長しても普段着や夏冬のデザインの服は変わらないが,ドレス類は別物のデザインに変化する

 

 娘の立ち絵は年齢別に3種類,太らせたりダイエットさせたりしても変化せず,各種エンディングもあっさり風味。整理された育成システムと合わせて,歴代作品のなかでもシンプルかつライトに仕上がっている。だが,難度も低いかといえば話は別だ。例えばダンスの先生からガラスの靴をもらうくらいに上達してもダンスパーティーで優勝できるとは限らないし,アルバイトやイベントなどの発生条件がそう簡単には分からないなど,奥が深い。
 父娘という微妙な関係と,バラエティに富んだイベントの数々,必ずしも思ったとおりにいかない育成とエンディングなど,シリーズ共通のお楽しみ要素は本作でも健在だ。また,冒頭で述べた次回作「プリンセスメーカー5」のキャラクターデザインは,従来同様に赤井孝美氏が担当するため,天広直人氏という外部イラストレータを起用した特異な存在としての価値も,意識しておくべきだろう。

 

魔法石が採掘される魔族の聖地に人間が侵入し,怒った魔族の逆襲により大戦争が引き起こされるという設定。中世風ファンタジーとしては,これが正しいのかもしれない 母親不在のため,近所の子供達にいじめられる娘。だがむしろ,ろくに働かず,家事と育児は使用人任せでグータラしているだけの父親の評判が影響していないか心配だ 「おでかけ」で行ける場所は,王様や司教のいる城,市場,洋品店,広場など多岐にわたる。大きくなれば,怪しい酒場やカジノのあるダークタウンにも出入りできる

 

人間と魔族の戦争が再び勃発し,リーゼの父親が殺される。敬愛していた父親の死体に取りすがり,魔族への復讐を誓う親友の言葉に,魔族の血を引く娘の心中やいかに 各授業は習熟度が上がるにつれて授業料も上がっていき,半月で父親の年収が吹き飛ぶように。礼法では上達すると,逆に教える側に回り,学びながらバイト料がもらえる アルバイト先に,「メイド酒場」が登場。客への挨拶はもちろん「お帰りなさいませ」だ。ちなみに仕事に失敗しても,ドジっ娘目当ての客やチップが増えるわけではない

 

季節ごとにさまざまなバカンスが。ただし1回行くと300G,お金がなくなれば即帰宅なので,すべてを見るには娘の稼ぎを増やさなければならないという世知辛さ 門番に始まり,執政官,伯爵,司教,大臣,王妃を経て,国王に謁見を許されればしめたもの。条件さえ満たせば,推薦される前に訪問しても会ってくれる ミニアドベンチャー「キューブのいない一日」が付属。おいしいところを持っていく邪魔者を体よく追い払った……もといキューブ不在の一日を描いたオマケである

 

■■天野譲二(フリーライター)■■
ゲーム機用タイトルを中心に,脇道的なプレイを得意とするゲームライター。その彼にとって,武者修行がなくなった点はやや微妙らしいのだが,体調の悪い娘にわざと厳しく接して,絶望的なセリフを引き出してみるとか,背徳的な研究には相変わらず余念がないようだ。イザベルさんとやらも,まさかこの人に娘を預けるつもりはなかっただろうに。
タイトル プリンセスメーカー4
開発元 サイバーフロント 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/07/28 価格 8190円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP,CPU:Pentium III/800MHz以上,メインメモリ:128MB以上,HDD空き容量:1.2GB以上,グラフィックスメモリ:64MB以上

(C)GAINAX (C)GeneX 2005,2006

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http://www.4gamer.net/weekly/charagame/023/charagame_023.shtml