特集 : 「ヴィクトリア レボリューション」の魅力とデザイン手法

「ヴィクトリア レボリューション」の
魅力とデザイン手法

Text by 徳岡正肇(アトリエサード)

 

 「ヴィクトリア レボリューション」は,1836年から1935年までの時代における各国の社会構造と国際関係を題材としたストラテジーゲームで,「ヴィクトリア 太陽の沈まない帝国」の拡張版に相当する。日本では拡張パック単体と,本体&拡張パックのセットが用意される。すでに前作を持っているならば,拡張パック単体を購入すればお買い得なわけだ。
 プレイヤーは1836年段階で世界に存在していた国の最高指導者となり,帝国主義と植民地戦争華やかな時代を舞台として国家経営と国威発揚に努める。「日の没することなき帝国」ことイギリスや新興のプロイセンはもちろん,明治維新を間近に控えた日本,アフリカの雄エチオピア,「眠れる獅子」清王朝,統一以前のドイツ諸州や,テキサス共和国などもプレイ可能だ。
 各国は威信・工業力・軍事力の3項目で競争し,それらを総合して順位が決まる。理想は世界1位の座を占めることだが,ともあれ列強8国に入っていれば勝利者の一員とはいえよう。

 ゲームはリアルタイムで進行するが,適宜ポーズをかけられるし,進行速度も自由に変更できるので,アクション性はない。操作はフルマウス。ショートカットキーもあるが,憶えれば便利というくらいで,プレイに必須ではない。ゲームにおける最小の時間単位は1日,全世界は千数百のエリアで表されており,データ量は膨大だ。 とはいえ,プレイヤーの操作をなるべく省ける状態にして最高速度で進行させると,ゲームの初めから終わりまでで10時間未満と,プレイアビリティは十分に確保されている。もちろん,積極的に戦争をすれば長くなるし,国内外の情勢への対応に長大な時間を取られる展開も,しばしばあるが。

 

イギリスが凋落し,アメリカとドイツが台頭。この潮流は変わらず,ゲームは第ニ次世界大戦直前まで続く 選択できる国家のバラエティは非常に広い。中には近代的国家の要件を満たしていないようなところも

 

 

地獄の沙汰も資本主義

 

商品ごとに売り指示/買い指示を設定する。国内生産が始まったら,売りへの転換をお忘れなく

 1836〜1935年の世界をシミュレートすべく,本作には非常に多くの要素が盛り込まれている。それゆえ初めて本作に触れると,人口やら政治体制やら宗教やらとプレイの緒が掴めないが,本作で核心となるのはお金である。
 外交も貿易も内政も軍事も社会改革も,全部お金がかかる。本作の国家財政は租税(国内税)と関税で成り立っているが,いずれも貿易が盛んに行われることで伸びていく。貿易によって国内の産業も活性化し,さまざまな社会階層の所得が増大,税収も自然に増えるというわけだ。
 本作では貿易品目として,茶や魚,石炭といった一次産品から,飛行機や電気部品といった工業製品まで,40種類を超える商品が設定されている。これらの商品は各国の工場で生産されて国際市場に放出されるが,供給過多に陥った商品は値崩れするし,希少な商品は値上がりする。

 

「貿易をコンピューターに任せる」のは,とくにゲーム序盤において危険すぎる選択だ

 プレイヤーがまず為すべきは,国内で産出される商品を確認し,国内消費分を確保しつつ,売れるものを売っていくことだ。値崩れしている商品を大量に買い付け,高騰したところで放出して利ざやを稼ぐことも可能だが,さすがに先物取引に国家の命運を担わせるのは危険極まりない。手堅い殖産興業こそが本作のテーマだ。経済がいったんうまく回転してしまえば,重篤な資金難に陥ることはあまりないので,自国の特性に合った国際輸出商品の育成がプレイヤーの任務となる。
 本作は基本的には国家の内政面に注力した作品であり,貿易の管理はプレイの極めて重要なパートの一つである。AIに貿易を任せるのは,大規模な戦争が可能なくらいまで自国が成長し,その戦争で大忙しのときの緊急措置と思ったほうがよい。

 

 

搾取者から搾取せよ。それ以外からも搾取せよ。

 

初めてこの画面を見ると情報量に圧倒されるばかりだが,ゲームに慣れてくると,とても便利に。F6キーでこの画面が開くことは覚えておこう

 さて,貿易振興を通した国家財政の健全化が最初のステップであるのは分かったとして,本作にはそれ以外にもコントロールすべきパラメータが多数用意されている。近代国家の経営をシミュレートしているのだから複雑で当然ともいえるが,それらが当時の常識を反映しつつ,絡み合っているのがミソだ。
 例えば税率。富国強兵を実現するために,税金は社会階級に応じて搾り取れるかぎり搾り取るのが正解だったりする。50%未満というのが一つの基準で,ずいぶんな重税に思えるが,このあたりは日本における近代直前,江戸時代の余剰収奪基準が「五公五民」だったことを思い出すとよいだろう。明治新政府の地租改正が,その重さゆえに大規模な反対一揆に遭ったことを考えれば,その後もさほど軽減されていないことが分かる。

 

税率設定の,一つの方法論。また良好な治安は,安定した財政を確立してからで十分

 本作では国内の社会階層が上流・中産・下層の三つに分かれているが,このうち上流の資本家/貴族階層からあまりに多くの税金を取り立てると,彼らは次々に零落していく。産業資本主義の精神を担い,経済をリードしていく資本家があまりに多く倒れてしまうと,国家経済の行く末にかかわる。
 一方で,下層の労働者からどれだけ搾り取ったとしても,彼らはそれ以下には転落しない。あまりに重いと社会不満が高まるが,必要に応じて減税や社会改革を併用すればよい。「富める者からは少なく,貧しい者からは多く」の逆進課税が基本となる時点で,ケインズ主義(1920年代末)以降の時代を生きてきた我々にはかなり分かりづらいが,そういう時代を再現したゲームなのである。
 同様に関税の設定も,現代人の感覚を頼りにしてはならない。国内産業がまだまだ未成熟な国にとって,産業基盤を守り,政府の歳入を増やすためにも,関税をめいっぱいかけるのは当然だ。自由貿易で世界経済の活性化云々というのは,あくまで勝者の理屈(この当時なら,リカードの比較生産費説とか)であって,基本的にこれから伸びようという国の政策ではないのだ。

 

 

外貨獲得は工業輸出品で

 

工場は商品を消費し,別の商品を生産する。原材料となる商品が国内ストックにないと,警告が出る

 財政の健全化に成功すれば,最大の難関をクリアしたことになる。だがそれは,ようやく列強との競争に入る資格を得たという段階だ。次に考えるべきは工業化である。
 農作物や鉱物資源といった一次産品であれば,しかるべき場所に生産施設を置いて労働者を配置するだけでよい。だが衣料品や機械といった商品を生産するなら,それぞれの工場を建設しなければならない。ただの一次産品輸出国のまま列強入りするのは,まず不可能である。なんとしても工業化を推し進めねばならない。
 工場は原則として国家主導で建設され,その舞台はプロヴィンスではなく,ある程度の数のプロヴィンスがまとまってできた「州」(ステート)になる。その州の住人のなかから,工場労働者が集まるようになっている。

 

工場の建設にも一定の商品が必要。基本は鉄+セメント+機械部品+資金だが,工場によって微妙に違ったりもする。原材料となる商品の必要数は,もっと大きく異なる。ともあれ,足りないものは輸入が基本

 工場建設のためには一定の資金だけでなく,建てようとする工場の種類に応じた商品を蓄積する必要がある。場合によっては,必要な商品を国際市場から買い付けることにもなるだろう。また,建設できる工場の種類は,国家の工業技術力に依存する(技術開発については後述)。
 工場を建設したら,次は工員を雇い入れねばならない。放置しておくと勝手に工員が入ってくれるケースもある(工員の失業者がいたり,移民が流入したり)が,計画的に工員を確保するには,まずは工員を「生産」しなくてはならない。

 ここで,本作においてお金に次ぐ重要な柱,「人口」がクローズアップされる。工場や農地といった商品生産スポットには,初期段階では5枠の労働者スロットが用意されており,その1スロットにつき一つの人口グループ(本作ではPOPと呼ばれる)が充当される。POPは人種・国籍・宗教思想・職業などよって分類されており,これらがすべて一致する集団が1POPとなる。
 例えば日本では,京都の「農民」POP五つが,茶畑のスロット五つを埋めている。このうち1POPを「工員」に転職させると,新たに工員となった人達は,京都を含む州にある,空きスロットのある工場に就職する。
 工員の養成には資金のほか,やはりいくつかの商品が必要になる。何がどれくらい必要かは,「工員にする」ボタンにマウスカーソルを重ねると表示されるので,それを参考にするとよい。

 

POPの職業を変えたい場合は,とりあえず変えたい先にポインタを合わせてみるとよい。ここでは資本家への転職選択が見えないが,資本家には事務員から転職することになる。資本家が必要なら,まずは事務員を作ろう

 さて,工場や一次産品生産場の効率は,そこで働く人々の人数と,スロットの埋まり方による。京都の茶畑の例だと,本来5スロット埋まっていた茶畑から1スロットの不足が出来てしまい,このままだと生産性に悪影響を与える。
 この問題を解決する方法はさまざまだが,POPを分割するのが最も手っ取り早く,また計画的に実行可能な手段となる。POPは4万人以上であれば3:1の人数比で分割可能であり,例えば10万人の農民POPは,1回の分割で7.5万人と2.5万人の2POPに分割される。7.5万のPOPは「4万人以上」という条件を満たしているので,再度3:1に分割可能だ。こうしてPOPを増やしていくことで,全体の効率に重大な影響を与えないまま,工業化を進めていける。

 ちなみに,鉄道の敷設も国家の工業化にとって重要なファクターだ。鉄道網の整備によるインフラの向上は,そのまま生産性の向上に寄与する。そしてこの生産性の向上は,POPを軸とした次なる問題において重要なファクターとなる。

 

 

信条に基づいて主体的に振る舞う近代人……の管理

 

プロヴィンスにポインタを合わせておくと,その概略が見える。失業者や急進性の確認に,たいへん便利

 POPという概念は,本作の大きな特徴といえる。国家財政が租税と関税で成り立っていることは説明したが,租税はPOPそれぞれの所得に依存し,関税はPOPがどんな商品を産出するかに依存する。国家運営を,国民という集合レベルからボトムアップで組み上げているのが本作なのである。
 Paradox作品でおなじみの社会不安と反乱も,本作ではPOPが主体となる。各POPは,その社会基盤や思想信条に基づき,政治に不満を抱いたり満足したりと,さまざまな反応を見せる。ひとたびPOPが起こした反乱は,武力鎮圧以外に解消する方法がないにもかかわらず,鎮圧は国力の低下に直結する。

 

政治改革には資金,社会改革には資金と維持コストが必要になる。維持コストのかからない政治改革は,とりあえず目先の不満を逸らすのに便利。もっとも,とくに急進性が高まっている地域があるなら,そこに軍隊を駐留させるのも簡単でよい(?)

 各POPの要求は時代とともに変わっていく。労働者はより良い労働条件を求めるようになるし,政治参加の権利も要求する。報道の自由や,政党・集会の自由といった事柄も重要な争点だ。
 そして,こういった要求を満たすための社会改革/制度改革には,相応の代償がつきまとう。最大労働時間を制限すれば生産性は落ちるし,医療保険や失業保険を整備すれば維持費が必要になる。選挙権を拡大すればそのシステム構築のために財政支出が必要だし,政党や集会を自由化すれば反政府勢力の温床となりかねない。

 

1845年に始まる自由主義革命運動は,事前準備と対応を間違えると大反乱祭りに直結する。少なくともこの時期までに報道の自由を1段階は拡大しておきたい

 こういった,政府のランニングコスト増大に対処するには,技術開発と産業効率の向上を図るほかない。かくして鉄道敷設による生産効率向上は,社会保障の充実にもつながっていくのである。
 前述のとおりPOPには多彩なパラメータが付与されているが,そこから少数民族である,外国人である,信教がその国の国教と一致しないといった,いわゆる「マイノリティ問題」も出てくる。POPは国力そのものという見地に立てば,少数民族であろうが異教徒であろうが働く工員は良い工員なわけだが,その国のマジョリティに対してその理屈が通じるかどうかは別問題である。移民問題なども含め,POPの動向は統治者の頭を悩まし続けることになる。

 

市民権は,非常に頭の痛い問題の一つ。人口の少ない国では早期に市民権拡大を目指したいが,世論はそう簡単には変わらない 急進的な無政府主義者。何を不満に思っているかは閲覧できるが,彼らの欲求をすべて実現するのは,いまの国家財政では不可能

 

 

思想と技術革新の時代

 

技術開発によって得られる効果や,この技術が何の前提になっているかがおおむね把握可能。だが,それぞれにどのような効果があるかは,極論すれば「身体で覚える」しかない

 統治者を悩ませるもう一つの要因は,技術開発である。本作では,国家の教育レベルや職業構成(具体的には宗教家と事務員の数)をもとに研究点が産出され,これを消費して科学技術や文化的発展,思想の研究などを行っていく。
 研究分野には陸軍・海軍・文化・商業・産業の五つがあり,それぞれの分野について25の研究項目が設定されている。研究項目にはボルトアクションライフルの開発や,兵站の研究といった即物的なものから,ロマン主義に革命運動,反革命運動といった文化/思想的なもの,鉄道技術の進展や株式システムの整備といった経済関係まで多種多彩に存在する。

 

画面左上のほうのグラフに注目。一つの発明によって,ぐっと生産量が増えているのが分かる 研究ポイントの蓄積量は識字率だけでなく,国内の職業バランスにも大きく左右される

 

 戦争をするつもりなら敵国の軍との技術格差を許すわけにはいかないだろうし,産業分野での立ち遅れは大きな不利を生む。一方文化は国威発揚の重要なファクターだ。どれ一つとして,ないがしろにしてよい分野はない。しかも,ある研究の前提となる研究が複数設定されていたりするので,その点についても十分考えておかねばならない。
 いずれにしても,技術面での遅れは国際競争力を大きく損なう。識字率を高め,研究ポイントを生み出す教育予算だけは,絶対にケチるべきではないだろう。外国から研究済みの技術を輸入することも可能だが,その場合でもやはり研究ポイントは消費する。まさに学問に王道なし,である。
 だがこれらの研究は,メリットだけを生み出すわけではない。例えば政治思想の「革命運動と反革命運動」を研究すれば,治安維持の効率を上昇させる「秘密警察」や,弾薬・小火器・大砲の生産効率を大幅に向上させる「婦人参政権」といった発明が生じる可能性がある一方,共産主義者による暴動の発生率を劇的に高めたり,テロリスト組織が発生したりする可能性もある。

 

発明によって,大幅に生産効率が変わる。社会改革による維持費は非常に高いので,こういった形で生産効率を高めていくのは必須となる

 

 

政治の延長としての戦争,その破綻

 

両シチリア王国はイタリア半島の統一という課題を抱えた国家だが,人口が多く,プロヴィンス数が少ないとあって,工業発展は楽。手ごろなサイズでスタートして,戦争と経済発展を楽しみつつ,最後には列強と直接渡り合えるという,なかなかお得な国

 工業力や技術力で水平に競うだけが列強の戦いではない。そこには当然軍事力の衝突もある。史実においてもこの期間には大きな戦争がいくつも発生しており,そのクライマックスが第一次世界大戦ということになる。
 本作における戦争は非常にシンプルである。軍隊には兵力と組織率が設定されていて,兵力が0になれば部隊は壊滅するし,組織率が0になれば撤退を始める。「ヨーロッパ・ユニバーサリスII」に比べると兵力の消耗は遅いが,「ハーツ オブ アイアンII」に比べると格段に早い。また塹壕や要塞の効果が非常に大きいので,塹壕を無効化できる毒ガスや戦車といった兵器がない時代には,防御側が非常に強い。第一次世界大戦の西部戦線はもちろん,日露戦争における203高地も本作が扱う時代の戦闘であり,戦闘結果のブラッディさはライフル・マスケットから機関銃へと向かう時代背景をよく映している。
 戦闘シーンのシンプルさに比べ,戦争を終わらせる交渉には十分な計画性が必要となる。開戦理由のない戦争を始めると,国際的な悪評を買うのみならず,国家の威信も低下する。国威を回復するためには,大勝利を収め,相手に屈辱的な和平条件を飲ませねばならないのだ。

 

疲弊したオーストリア相手に喧嘩することだって可能。普墺戦争,普仏戦争といったビッグイベントは,イタリアにとっても大きなチャンスとなり得る

 だが,屈辱的な和睦を強いるという選択肢は,それだけで和平交渉を難しくする。屈辱的和平+領土割譲といった交渉ともなれば,歴史的大勝利を収めない限り不可能といってよい。
 こうなると,戦争の収支計算はとたんに難しくなる。国際的な悪評と,国威の低下を押して始めた戦争であればこそ,可能な限り回収したいというのが本音ではあるが,そのためにより大きな勝利を掴もうとすれば,より長い消耗戦へと至る危険性が高い。
 本作では戦争をしていると国家に「戦争消耗」というペナルティが課せられ,これは国家の経済活動や安定度に大きな影響を与える。戦場を支配できたとしても,国内が崩壊して継戦不能という状況すらあり得る。とはいえ,無理して始めた戦争なのに「戦争消耗を解消するため白紙講和しよう」では,一体何をやっているのか分からない。
 そもそも本作における兵士は,すなわちPOPの一部である。動員した部隊の消耗=POPの減少になるので,あまりにも無理な消耗戦を続けていると,戦後の国内経済が立ち行かない危険性すら生じる。戦争が始まった国からは移民が逃げていきやすいこともあり,安易な開戦は危険だ。

 

ついついクラウゼヴィッツ派の理論を選択してしまうのは,ストラテジーゲーマーの性か。技術開発によってこのような選択イベントが発生することもある

 

 

国民が国家を作る? 国家が国民を作る?

 

国民がどのような構成で,いま何を考えているかが把握できる,いわば国勢調査画面。選挙の行方を占うには最適

 さて,このように非常に要素が多いわけだが,本作ではここに「政党」という概念を持ち込むことで,要素のとりまとめを行っている。その政党には,政治信条と政策が設定されている。
 政策は,経済・貿易・宗教・少数派政策・軍事の5点について設定されており,政権与党が主張する政策内容によって,プレイヤーに可能な行動の範囲が変わってくる。国家シムとして捉えたとき,これはかなり意欲的なルールである。
 例えば経済政策が自由放任主義の場合,プレイヤーは工場建設と鉄道敷設ができず,社会改革も現状以上には進められない。その代わり,資本家が自分の財産を使って工場と鉄道を建設してくれる。資本家はこれらの建設のために必要な資材すべてを自費でまかなうので,「○○工場を建てるには,××を20個輸入して……」といった管理は不要になるし,国家予算から工業化のための資金を捻出する必要もなくなる。
 あるいは軍事であれば,主義によって軍隊の拡張が不可能なものから縮小が不可能なものまで,さまざまだ。

 政党は,その国に設定されたイデオロギーの種類と同じだけの数が必ず存在する。その国に共産主義が流入していれば,必ず共産党は存在するのである。もちろん,選挙で勝てるかどうかは支持率次第なわけだが。
 君主制国家であれば,国王の強権で与党を決定できるものの,政党による「政策セット」が存在するため,仮に「経済は自由放任で軍事は好戦主義がいいな」と思っても,そのような政治姿勢を併せ持つ政党がなければそこまでである。
 これが民主国家となれば政権与党は選挙で決定され,その結果はPOPの関心次第である。戦争による領土拡張を狙って好戦的な世論を煽り,見事そのような政党を与党にできたとしても,話はそこで終わらない。予定していた戦争が終わったから維持費のかさむ軍隊を減らして,今度は経済発展をメインにしたいと思っても,戦争による領土拡張がPOPの関心事となっていれば,戦争しか頭にない政党が居座ってしまうのだ。
 しかも,POPには意識というパラメータが設定されており,これが高いと選挙でイデオロギーを重視するようになる。プレイヤーの都合やこれまでの実績などお構いなしである。

 

経済政策が自由放任〜介入主義の場合,資本家が自分で工場や鉄道を建設する。ぎりぎりまでの最適化を目指さないなら,使いやすい 資本家の詳細を見てみる。最も注目すべきは資本家個人の資産で,自由放任〜介入主義のときには,ここが非常に重い意味を持つ

 

 

政党,資本家など国家の中間項がより精密に

 

両シチリア王国で,イタリア半島を統一する前から,列強8か国に滑り込むことに成功。やろうと思えば,かなり早い段階での統一も夢ではない

 さて,本作の要点をひととおり見てきたが,前作をある程度知る人から見て,どこが変わったかもまとめておこう。
 一番分かりやすいのはプレイ年限で,前作では1920年で終わっていたゲームが,本作では1935年まで延びた。これを受けてイデオロギーにはファシズムが追加,戦間期の歴史イベントも入っている。
 また,本作のセーブデータは「ハーツ オブ アイアンII」「ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ」のデータにコンバート可能だ。必ずしも1935年まで遊んだデータでなくても可能で,その段階での国際情勢そのままに1936年を迎える。ただし,コンバート時にゲームバランスはとくに考慮されず,ほかにもさまざまな問題があるので,あくまでも「そういうこともできる」程度に捉えておくほうが無難だろう。

 

イタリアには統一に向けたイベントが用意されていたりもする。もっとも,AIだとなかなか統一にたどり着けないのが現実

 先ほど紹介したなかでも自由放任主義の効果や,政党に関するギミックは,前作からの大きな変更点といえる。
 自由放任主義による“半自動的工業化”は,プレイヤーの操作量を大幅に引き下げてくれることもあって,初めてプレイする人には採用を積極的にお勧めしたい。ある州に工場が建設されるためにはその州に資本家が必要なこと,事務員を資本家に格上げできることさえ知っていれば,あとはPOPを管理しているだけで工業化が進められる。建てられる工場の種類もお任せになってしまうため,厳密かつ計画的なプレイには向かないが,列強入りを狙うだけなら自由放任主義万歳で突き進んでもOKだ。
 ちなみにこの場合,関税についても特別な配慮が必要になる。政府が工場や鉄道の建設費用を捻出しなくてよいということは,言葉の意味はだいぶ違うが「小さな政府」を運営できることになる。関税収入がそこまで高くなくても,健全財政はキープしやすい。そこで関税率を下げれば,資本家はより短期間に蓄財を行えるので,工場建設の周期も早くなる。
 上流階級に対する税率にもデリケートな対応が必要だ。資本家が多すぎると蓄財が遅くなり,結果として工業化が遅れる。最初は国家資本主義を採って上流階級に高税率をかけ,資本家の数を減らす。しかるのちに生き残った少数の資本家に自由放任主義を担わせ,上流階級の大減税で彼らの勢いを伸ばすという方策が一つのパターンとしてあり得るだろう。

 

ポーランドファン必見のクラクフ共和国,あるいはクラクフ自由市。世界遺産にもなっているこの国を,存続させられるかどうかはプレイヤー次第。だいたい史実どおりオーストリアに潰される

 

 このほか,細かなデータとバランス調整が随所で行われており,とくにPOP変換の制限追加(自国と同じ文化を持たないPOPは,与党が少数派に完全市民権を与える政策を採っていたとしても,原則として兵士/将校への変換ができない。ただしその国の正式な州に住んでいるPOPであれば,変換可能)は,前作での対外拡張型プレイにおける常套戦術を否定するものといえる。もっとも,前作プレイヤーの多くが「あまりにも有利すぎる」という理由で自主的に放棄していた戦術に関する変更でもあるので,コアなプレイヤーにとって大きな影響はないかもしれない。
 殖民に関するルールも変更され,アフリカがより多数の国によって分割されやすくなった。また殖民そのものに対する制限ルールも加えられ,ある程度の技術力がないと,生活環境の厳しい地域への殖民ができなくなっている。
 面白い変更としては,早すぎる社会改革や選挙の実施は,国民の理解を得られにくくなったという点が挙げられるだろう。いきなり選挙権だけ与えても,それがどのように機能するか分からないPOPばかりでは,日本における「絹布の法被」(憲法発布)の事例と同じく,POP達はただ戸惑うばかりなのである。

 

ギリシアならではのイベントの数々。国際社会の第一線に立つのは難しめな国でも,プレイ自体はなかなか楽しい

 

 

ボトムアップのゲームデザインは
ストラテジーというより生々しい建設シム

 


1934年,民主国家日本。ロシア国籍のPOPが5.2%も存在していたりと,多民族国家の様相を呈し始めている。多元主義も98.1%,「進め一億火の玉だ」という標語が生まれる気配はまったくない

 本作が持つ大きな魅力は,その時代に生きる人間としてのPOPと,プレイヤーがどのように向き合っていくかにあると思う。実際,このゲームで最も複雑な挙動を示すパラメータはPOP関係のもので,多元主義・意識・急進性という三つのパラメータが,POPの動向に興味深いリアリティとダイナミズムを与えている。
 一方でPOPという,全世界からするとミニマムな存在に基盤を置いてデザインされた作品であるがゆえに,歴史の再現性という点ではいささか弱い。第一次大戦中の日本に,ドイツ・ロシア・スペイン系移民が多数流入するという展開が普通に発生するのでは,さすがに苦笑いするしかない。レボリューションになって追加された戦間期にしても,歴史マニアが期待するような混沌の時代を追体験できるかといえば,現状ではかなり難しい。

 それでも,本作にはそれを上回る美点がある。本作における「内政」は,お金と物品と地域のパラメータだけが動くたぐいのものとは根底的に異なり,人間に対して起こすアクションをもって内政としているのだ。
 「政治とはすなわち人間の営みである」とする政治学上の原則があるが,人間を観察し,人間と折り合うことをもって政治であるとした本作は,その原則に愚直なほど忠実である。そしてそこで醸成される政治には,背景となる時代の精神がよく反映されている。もちろんそこはゲームで,ある程度の単純化や歪みも見られることは,認めたうえで,だが。

 まあ,不満があれば自分で改造すればいい,というのもまた真実であり,Paradox作品の常として本作ではごく簡単にMODが書ける。筆者としては,本作のシステムを利用して古代ローマの盛衰を扱ったら面白かろうと思うが,根気さえあれば,そういった大規模MODを書くことも不可能ではないだろう。

 内政を充実させながらも,プレイが必要以上に単純作業的にもならなければ,パズル的にもなりすぎないという点において,本作は歴史モチーフのストラテジー愛好家だけでなく,箱庭系シミュレーションが好きな人にこそ,ぜひ一度試してほしい作品だ。国にもよるが,戦争のウェイトを低くしても(そもそも戦争しなくても)十分列強に入れるし,個人的な目標の設定もやりやすい(非文明国扱いの国家を,文明国に昇格させる,など)ので,最適攻略が見えたから飽きた,ということもないだろう。
 逆にプレイに慣れて,歴史に対する造詣も深くなれば,あえてヒストリカルな展開を目指すという,荊の道もある。これはこれで究極のマニアックプレイとして,歴史ゲームファンには強くお勧めしたいところだ。清朝で李鴻章を登用するボタンを押すときの絶望的なワクワク感は,たぶん本作でしか味わえない。

 

スウェーデンのデベロッパが作っているだけあって,やはりスウェーデンのイベントは充実している

 

タイトル ヴィクトリア レボリューション 【完全日本語版】
開発元 Paradox Entertainment 発売元 サイバーフロント
発売日 2007/06/08 価格 2904円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP/Vista(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[256MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上[8MB以上推奨],HDD空き容量:600MB以上(このほかに十分なスワップ/ページング容量が必要)

(c) 2003 Paradox Entertainment AB. All rights reserved. Victoria is a trademark of Paradox Entertainment AB. All other trademarks and copyrights are the properties of their respective owners.

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