― 特集 ―
代表取締役 Kim Taek Hun(キム テクホン)氏に聞く〜「2006年のエヌ・シー・ジャパンに注目してほしい」

Text by Kazuhisa/大路政志 Photo by kiki 

「不正ユーザー」に対するエヌ・シー・ジャパンの姿勢

4Gamer:

 ゲームサービスの一環ともいえる部分だと思うんですが,エヌ・シー・ジャパンは不正ユーザーに対しても,しっかりとした対処を行っていますよね。不正に対する断固たる対処に関しては,日本でもトップクラスだと思います。そのあたりのお考えや将来的なビジョンなどを聞かせてください。

Kim Taek Hun氏:

 弊社がゲームを開発するときに考えることは,まずお客様に,いろんな面で楽しんでもらうことです。そういう意味において,健全なプレイヤーの「楽しむ権利」を害する不正ユーザーに対しては,厳しく対処していきますよ。今現在も,さまざまな不正の影響で困っているプレイヤーがいますし,その姿勢は崩さず,より強くしていきます。

4Gamer:

 ゲームを楽しくプレイできる環境を乱す不正ユーザーは,決して許さないということですね。

Kim Taek Hun氏:

 はい。これは公表していないことですが,毎日各サービスのGMが,不正ユーザーの取り締まりをしています。日々多くの不正IPをブロックしているし,人的リソースもそれに応じて増やしている状況です。

4Gamer:

 数千から数万のIPブロックですか……。それだけでも結構なコストが発生しますね。

Kim Taek Hun氏:

 不正に対するリソースの面だけをとってみても,エヌ・シー・ジャパンは,他社のサービスの数倍以上の金銭と人材を投入しています。

4Gamer:

 それはすごいですね。しかしリネージュ――IIではなくIのほうです――を除いて,プレイヤーに対してそういった努力をあまり見せていないようにも感じるのですが。

Kim Taek Hun氏:

 そうですね。個人的には,それをするのは当たり前だと思っています。必要以上にアピールしてしまっては,ただの自慢話になってしまいますからね。とはいえ,不正ユーザーのほうも日々進化しているので,常に対応していくのは,難しいところではあるんですが……。

4Gamer:

 お世辞ではなく,素晴らしいですね。「今月は何人BANしましたよ」とアナウンスするメーカーはいくつもありますが,IPブロックや摘発などすべてにおいて不正取り締まりをやっているところは,そう多くないと思いますよ。

Kim Taek Hun氏:

 そうかもしれませんね。会社からの公表というのは,すべてのことが解決できたときにするものですから,あまり多くは出せないのですが(笑)。

4Gamer:

 先日四国で発生した,不正中継サーバーの一件ですが,容疑者逮捕という結果が出ましたよね。法的手段にまで訴えるというのは,普通はあまりやりたがらないじゃないですか,いろいろと面倒だし。そう考えると,エヌ・シー・ジャパンはすごいなと,素直に関心してしまいました。これからも頑張ってください。

Kim Taek Hun氏:

 ありがとうございます。単なる「見せしめ」で終わらせないよう,引き続き頑張っていきます。

4Gamer:

 不正ユーザーとも関連するところだと思うんですが,現在のオンラインゲームを取り巻く環境を見てみると,オンラインゲームの「負のイメージ」が表層化してきていますよね。ハッキングだの,倒れるまで遊んじゃう人がいるだの,ゲーム内でのトラブルを現実に持ち込むだの……。
 そういった状況に対しては,どのように考えていますか? また,こんなプラスの影響もあるよ,ということがあれば,教えてください。

Kim Taek Hun氏:

 そういったマイナスイメージは,ゲーム業界全体で,さまざまなリソースを投資して解決すべき問題ですね。
 しかしオンラインゲームには,もちろんプラスの面も多い。みんなで力を合わせ,さまざまな遊びかたができる点は,とくに素晴らしいことだと思います。友情が生まれることもあるし,ときには,一人の命を救うことだってできる。
 これは韓国のリネージュ内で実際にあった話なんですが,あるプレイヤーのために,血液の提供を求める広域シャウトがあったんです。リネージュでは,すべてのユーザーに聞こえる(見える)チャット機能があるので,その知らせは瞬く間に,全国のプレイヤーに伝わりました。そして,血液型が一致する多くのプレイヤーが病院へ駆けつけ,血液を提供しました。

4Gamer:

 それはまた,素晴らしいエピソードですね。

Kim Taek Hun氏:

 リネージュを始めとするオンラインゲームは,たかが「ゲーム」かもしれません。しかし,されどゲームなんです。ゲーム内で生まれた絆や仲間意識は,現実世界のそれとなんら変わりありません。多くの人が参加しているので,ときにはトラブルも起きるでしょうが,前述したような美談だって生まれるんです。
 ちなみにリネージュでは,そういった広域シャウトがあった場合,GMによる事実確認後,チャットにフィルタリング処理を行って,ログがむやみに流れていかないようにして,情報の伝達をサポートします。韓国では,そういうケースが数件あり,実際に人の命が救われているんです。

4Gamer:

 日本でもそういうことがあるといいですね。

Kim Taek Hun氏:

 そうですね。でも今は,そういうプラスの面もあるということを,知ってもらえるだけでも前進だと思います。そして不正ユーザーは,そういうオンラインゲーム文化のいい面の発展を,阻害している存在ともいえる。やはり,許せません。
 今まで,弊社にハッキングしようとした不正ユーザーも何人かいるのですが,その相手は,日本のユーザーではありませんでした。日本での悪質な不正は比較的少ないほうなので,弊社としてはその点が嬉しくもあり,誇らしくもあります。
 まぁ,エヌ・シー・ジャパンでは,公式サイトのポップアップを一つ作る場合でも,厳しいセキュリティチェックをかけているので,そう簡単にはハッキングできないと思いますが。

4Gamer:

 不正ユーザーとの戦いにおいて,NCグループには長い歴史がありますからね。リネージュでは,とくに色んな目にあっているでしょうし。

Kim Taek Hun氏:

 オンラインゲーム業界で,1番ハッキングに苦しめられたのは,弊社かもしれませんね(笑)。逆に,そういう苦難の歴史があるからこそ,セキュリティに関しては大きな自信がありますよ。

エヌ・シー・ジャパンの新たな柱「ギルド ウォーズ」の今後

4Gamer:

 最後に,ギルド ウォーズについて話を聞かせてください。日本での注目度も,非常に高いタイトルですね。

Kim Taek Hun氏:

 おかげさまで,プレイヤー達からの評価も高いですね。韓国でのギルド ウォーズは,若干スタートダッシュに失敗した感があるんですが,日本はゲーム大国らしく,プレイヤーの理解力が高くて助かりました。ルールやシステムを理解する力は,日本のゲーマーが最も優れていると思います。
 本作の場合,韓国のプレイヤーだと,ゲームの中でなにをすればいいのか分かっていない人が多かったんです。一方日本では,プレイヤーのほうから「こういう風にすればいいんじゃないか」「こうすればもっと面白くなる」というアドバイスも出てくるほど。そういった意見については,前向きに検討していきたいと考えています。

4Gamer:

 当初の予想と比べて,会員数はどうでしたか?

Kim Taek Hun氏:

 弊社の予想と大差ない会員数が確保できています。クロスランカーもリネージュIIも,日本市場でどんどん愛されていき,発展していくという作品だったので,ギルド ウォーズにもそういう発展を期待したいですね。

4Gamer:

 編集部にもギルド ウォーズファンは多いんですよ。頼みもしないのにムービーを作ったり。でも,オープンβテストは悲しかったですよ。テスト時間が,仕事柄絶対に遊べない時間帯だったので(笑)。

Kim Taek Hun氏:

 私も悲しかったですよ,遊べなくて(笑)。テストの時間帯について,アメリカの開発者に文句を言おうかと思いましたよ。

 

4Gamer:

 そのギルド ウォーズなんですが,確かにいいタイトルではあるんですけど,日本に根付くには,まだまだ足りない部分があると思います。そのあたり,日本の運営として,特別なアプローチは考えていますか?

Kim Taek Hun氏:

 検討/改善すべき点は確かに多いですね。しかし,開発元のArenaNetとも協議を進めて,必ず,よりよいギルド ウォーズを作り上げます。もう少し待っていてください。
 問題点のいくつかは,開発者が日本に詳しくないことに起因しているんですが,最近ArenaNetが,日本に対して強い関心を持つようになりました。いい傾向だし,それは必ず作品作りに反映されると思いますよ。

4Gamer:

 海外の各種ファンサイトに聞いたところ,2005年12月頃から,サイトに対する日本ドメインからのアクセスが,北米に次いでランキング二位になっているそうですよ。

Kim Taek Hun氏:

 それは嬉しいですね。そのデータを提示すれば,もっと日本に合わせたコンテンツが用意してもらえるかな……?(笑)

4Gamer:

 先頃発表された「Chapter2」は,かなりアジアっぽい雰囲気がありますよね。

Kim Taek Hun氏:

 アジア的,日本的な要素を意識して作られたものですが,作ったのはアメリカ人ですからね。まだまだ,「和」のテイストが足りないような気もします。アメリカ在住の日本人スタッフを用意するなどして,「Chapter3」の開発に生かしてもらえるといいかもしれません。

4Gamer:

 韓国,中国,台湾,日本での成功を期待し,アジア全体を見据えての展開がChapter2だと考えていいでしょうか。

Kim Taek Hun氏:

 そう思ってもらって結構です。Chapter2からは,全世界同時アップデートも積極的に検討していますし。

4Gamer:

 先日日本で行われたChapter2イベントを見ても,完全に日本語対応でしたしね。実は,Chapter2日本語版に関する質問も用意していたんですが,イベントを見る限り,完全に日本語対応だったから,これは聞くまでもないなと思いました。
 ところでChapter2も,ギルド ウォーズと同様に,ダウンロード版とパッケージ版のリリースになりそうですか?

Kim Taek Hun氏:

 まだ未定ですが,モデルとしてはその2種類になりそうです。

4Gamer:

 本体のパッケージ版を持っていない人は,Chapter2を導入する際,月額課金上乗せといった形になるんでしょうか?

Kim Taek Hun氏:

 パッケージ版を持っていない人でも,課金していればダウンロードできるよう検討中です。そうなった場合,月額980円という料金形態も変えない方向でいくつもりです。

4Gamer:

 さらりと重要なことを発表してますね。

Kim Taek Hun氏:

 課金に対してはユーザーも敏感ですし,Chapter1から,あまり負担のない課金モデルを考えていました。ユーザーに優しい料金形態は,今後も変わりません。安心していてください。

4Gamer:

 アメリカではパッケージ版オンリーでしたよね。最初にそれを知ったときは,それでやっていけるのかな,という印象を持っていたんですが,最終的にはいい形で定着していますね。

Kim Taek Hun氏:

 例えばChapter4までリリースされたとき,パッケージ版のみのモデルだと,新規ユーザーはパッケージを4本も購入しなければならない。できれば多数の人に遊んでもらいたいタイトルなので,パッケージ版/ダウンロード版という両方を採用しました。
 今後どんどん増えていくChapterのすべてをパッケージ購入するのもいいし,ダウンロード課金するのもいいと思っています。まだ確定ではないんですが,ギルド ウォーズは半年に1回,新しいChapterを発表したいと考えていますので。

4Gamer:

 ギルド戦を始めとする対人戦がウリなので,サポートも大変そうですよね。公式イベントの予定はありますか?

Kim Taek Hun氏:

 はい,まだ検討中ですが,いろいろなアイデアを用意しています。ギルド ウォーズではワールド戦が可能となっているので,やはり世界大会の構想が軸となります。そこで日本が優勝するのが,私の希望ですね。とはいえ,立場的に,どの国のプレイヤーを応援すればいいのか迷ってしまいそうですが。

4Gamer:

 世界大会のような大舞台は,コアユーザーにとっては実に魅力的ですね。とはいえあまりにも雲の上の話ですし,それよりも少しスケールが小さい,日本ランキングのようなシステムの構想はありますか?

Kim Taek Hun氏:

 ええ,もちろんです。とりあえずは国内でいろいろやってみて,それからワールド戦。日本のユーザーが強くなった段階でワールド戦を行い,平等な戦いができる状況を作りたいですね。

4Gamer:

 ちなみに,個人的にはどんなキャラクターを使っていますか?

Kim Taek Hun氏:

 モンクです。

4Gamer:

 おぉ,同じですね。目のかたきにされてるところが好きです(笑)。

Kim Taek Hun氏:

 そうですよね。まっ先に死んだりして(笑)。

4Gamer:

 ……すごい勢いで広報さんに睨まれているので,最後に4Gamer読者に対して,一言お願いします。

Kim Taek Hun氏:

 エヌ・シー・ジャパンとしては,皆さんにより多くの「楽しさ」を提供するために,さまざまな努力をしています。2006年までが準備,2007年からは,本格的に,さらなる「楽しみ」を提供していきますので,ぜひ楽しみにしていてください。

4Gamer:

 本日はありがとうございました。

 MMORPG/MORPGジャンルで,すでに不動ともいえる地位を築き上げているエヌ・シー・ジャパン。その成功の裏には,「不正」に対する的確な対応とゲームに対する真摯な姿勢が確かにあった。
 そんなエヌ・シー・ジャパンが,「機は熟した」とばかりに次々と明らかにする,新しい「楽しみ」達。2006年の4Gamerも,注目度の高いニュース記事には困らなそうだ。そして2007年には,PlayNCを軸とするオンラインRPG以外のコンテンツや,プロジェクト・アイオンといったプロジェクトのいくつかが形になり,一プレイヤーとしても忙しくなりそうである。今後の日本市場の行方を占う意味でも,エヌ・シー・ジャパンからは目が離せそうにない。

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http://www.4gamer.net/specials/ncj_interview/ncj_interview_002.shtml