― 特別企画 ―
見どころを一挙に解説。歯応えと操作性が向上した
ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ
完全日本語版
Text by 徳岡正肇(アトリエサード)
2006年8月4日

 

第二次世界大戦前後の歴史を追体験するゲーム

 

1936年から第二次世界大戦を経て,1953年までプレイ可能になったドゥームズデイ。チュートリアルでそれなりにゲームを把握できるが,何度かプレイして敗北を抱きしめてみたほうが理解は早い。……スケールの大きい,死んで覚えろゲー?

 誰もあまり予想しない形で日本でもスマッシュヒットとなった,第二次世界大戦戦略級ストラテジーゲーム「ハーツ オブ アイアンII」。その“スタンドアローン拡張パック”が「ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ」(以下,ドゥームズデイ)だ。完全日本語版の見どころを,細かく整理してみよう。

 その前に,ゲーム全体について大まかに説明しておこう。本作でプレイヤーは,1936年から1953年までの間に存在した国家の支配者となって政治・経済・軍事政策を担当,第二次世界大戦という歴史の大きなうねりの中を漕ぎ渡っていく。ドイツやイギリスが選べるのはもちろん,第ニ次世界大戦が始まる前にドイツに併合されたオーストリア,日中戦争の開始とともに事実上解体されてしまう中国の軍閥,内戦のあとは欧州戦線に関与しなかったスペインなども選べる。ちょっと手間をかければ,1936年に英領インドを独立させて担当国にすることも可能だ。
 実にParadox Interactiveの作品らしく,(おそらくアメリカ以外には)そうそう簡単に世界を武力制覇できたりはしない。むしろ史実とその中での政治的課題を追体験したり,いかにもありそうだったのに実現しなかったプランの有効性を試したりするのが,プレイの楽しみである。前作ハーツ オブ アイアンIIにおけるその実践例は,かつて連載「ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦」で展開したので,興味のある人は見てみてほしい。

 

ドゥームズデイキャンペーン。共産圏からの先制攻撃という設定で第三次世界大戦の幕が開く。この状況下でポーランドやルーマニアはもちろん,イエメンなどすら担当可能。まあ,イエメンで何をしたらよいのかは,たいへん難しい問題だが

 

 データ重視のゲームではあるが,扱うテーマの規模と比べてデータ量はむしろ少なく,思い切った抽象化が要所要所で行われている。その代わり,政体やイデオロギーなども要素として取り込み,プレイの重要なファクターとしている。例えばドイツは「ファシズム」の国であり,社会は「独裁的」で「閉鎖的」である。それがゲーム内でどう機能するかといえば,

 

  • ファシズム国家以外との外交関係が徐々に悪化する
  • 国家経済を軍事に傾けやすいが,パルチザンが発生しやすい
  • 国内では政府への不満がほとんど出ないが,海外占領地では不満が爆発しやすい

 

1936年ドイツのゲーム開始画面。基本的にこのマップ画面でゲームは進行する。左下の小マップの下のボタンで,マップの機能を切り替えられる。現状は地形状況が見られるモード

という具合だ。1.は外交の方向性と費用対効果を規定し,2.は軍備拡充の容易さとパルチザン対策の必要性を,3.は占領地には治安維持のための軍隊を残すか,あるいは傀儡政権を立てる必要性があることを示唆する。こうした設定によって,ドイツがゲーム内で採り得る政策は限定されるが,政体は少しずつ変更できるようにもなっている。アクチュアルモチーフの政治/軍事ゲームとして,実に興味深い部分だ。
 国家経営レベルでの方針が,戦争ゲームのプレイに影響するかいぶかる人もいるだろう。しかし,戦争が2年,3年,10年と続けば,細かな支出の差や占領地政策の課題などが経済に影響し,それが前線部隊にも波及する。抽象化を行う視点の的確さ,要素と要素の関連性は,さすがParadox Interactive作品といったところだ。

 

こちらは1936年開始の第二次世界大戦グランドキャンペーン。ドイツ,ソビエト,イギリス,アメリカ,日本といったパワープレイヤーを演ずるのみならず,例えば東欧でひっそり生きることを願うのも可能。しかし史実を鑑みるにエストニアの運命は……

 ゲームの進行は,基本的にリアルタイム。といってもポーズは任意に可能だし,進行速度も変更できる。操作はフルマウスで,ほとんどの行動はオブジェクトの右クリックから指定できる。
 ゲームモードには,開始年代を指定し,その時点で存在するあらゆる国家を選択できるキャンペーンと,限定された戦域で,ゲームの機能を絞ってプレイするシナリオがあるほか,マルチプレイモードも用意されている。
 なお英語版の「Hearts of Iron II: Doomsday」は,動作に「Hearts of Iron II」を必要とする純然たる拡張パックではなく,単体でプレイ可能な製品だ。それに対し日本語版のドゥームズデイには,単体でプレイ可能なパッケージと,動作にハーツ オブ アイアンII(日本語版,英語版どちらでも可)が必要なアップグレードパッケージが用意されている。それぞれ8925円(税込)および4725円(税込)と,後者のほうが安いので,すでにハーツ オブ アイアンIIを持っているなら,そちらがお勧めだ。

 本作においてプレイヤーが行うべきことは,軍事,外交,内政,経済,軍隊の生産,研究,諜報という,七つの分野に大別できる。順に解説していこう。
 なお,すでにハーツ オブ アイアンIIを楽しんでいて,もっぱらドゥームズデイでどこが変わったかを知りたい人は,各内容段落の末尾だけ読んでもらえればOKだ。

 

 

軍事:立体戦術と,追撃/遅滞戦闘がカギ

 

階級に比して指揮しなくてはならない師団数が多すぎると,赤字で警告される。指揮官を交代させるか,階級を上げて対応する必要がある

 本作では,世界地図が2700近くのエリアに分割されている。軍隊は基本的に,あるエリアから隣接するエリアへと移動でき,そこに敵軍がいれば戦闘となる。
 直接に移動指示を与える以外にも,攻撃時刻を指定しておくことも可能で,これにより陸海空軍の攻撃タイミングを合わせ,立体作戦も展開できる。
 またほかのエリアから,戦闘が行われているエリアに対し「支援攻撃」を掛けることも可能だ。前線を維持しながら,ここぞというタイミングで突破を図るときなどに便利なので活用していきたい。
 戦闘そのものでプレイヤーにできることはほとんどなく,増援を投入したり,撤退を決めたりできるだけだ。

 

フランスに攻撃開始。いったんポーズをかけて支援攻撃と主攻撃を設定する。ポーズを解除した瞬間から攻撃開始だ。このときは無事勝利し,リエージュに進撃を開始する。この段階ではまだリエージュは占領できておらず,フランス軍の足の速い増援がリエージュに到着すれば,続けて交戦することになる

 

機甲の足の速さを生かして包囲,殲滅。包囲網の中にいる部隊が敗北すれば,その師団は全面降伏,ゲームから取り除かれる

 戦闘では,基本的に相手の軍隊の「指揮統制値」を削りあうことになる。直接の物的/人的損害を与えることでなく,相手に関して組織的戦闘が可能な状態を崩すことが勝利への道なのだ。
 減少した指揮統制値および戦力は適切な補給で徐々に回復させられるが,とにかく時間が必要だ。冬のシベリアや東南アジアのジャングルなど進撃に時間のかかる土地では,敗走しても十分に指揮統制を回復させて踏み留まれるが,例えば中央ヨーロッパの平原で戦車に追われたら,割と致命的である。

 

各部隊を率いる将軍の人事も大切な部分。階級が低いと少ない師団しか指揮できないが,階級が高いからといって有能だとは限らない。経験を積んだ,階級の高い有能な将軍が戦死すると,ショックは大きい。そのぶんの戦力低下を数で補えれば問題ないのだが

 退却は自軍および同盟軍支配エリアにしかできず,退却エリアが存在しない状態で敗北したユニットは除去される。したがって,包囲殲滅は本作において非常に有効な手だ。

 戦闘結果の判定には,さまざまな要因が加味される。森/山/川越しといった地形要素はもちろん,昼夜による修正の差,天候,指揮官の技能と階級,兵科の特性などといったものが非常に複雑に絡み合う。指揮権限の低い司令官に大部隊を率いさせれば,その部隊の戦闘力は大幅にダウンするし,あまりに多くの部隊を攻撃に投じても,やはり効率が低下する。

 

戦闘は実に多彩な要素が組み合わさって解決されている。画面では,夜間による効率−80.0%の影響が大きく,優位にありつつも決着がつかない状態。夜が明ければ一気に片付くだろう

 

 海軍,空軍も基本的に陸軍と同じ操作で命令を下せるが,この2軍に関しては,特定の地域を指定して,哨戒や爆撃といった任務を与えるのが基本だ。海戦/空戦とも非常に多くのパラメータが影響するので注意が必要になる。
 なお,ドゥームズデイでは指揮官の技能の種類が増えたほか,一人の指揮官が複数の技能を持てるようになり,また戦歴を見ることも可能になった。

 

 

外交:資源貿易から他国の併合まで

 

外交によって,悪化した関係の改善を試みることもできる。このほか,宣戦布告,貿易協定などもすべて外交の範疇だ

 現実でもそうだと思うが,このゲームにおける外交では,まず「どの国と戦争し,どの国と手を結ぶか」を考え,戦争が始まってしまったら「どの国を新たに引き入れるか」「どの国を参戦させないよう努力するか」を考えて動くことになる。ほかの要素とも強く関係するが,資源や軍需物資の売買,軍事技術の青写真のやりとり,部隊の海外派遣もまた,外交の重要な要素だ。

 

こちらは外交の,技術交換。ただし画面では一方的な技術供与になる。枢軸が「世界にぬきんでたドイツ」の孤独なマラソンなのに対し,連合は「みんなで青写真の大交換会」をしていく傾向にある。当然,後者のほうが効率は良い

 戦後処理も外交案件である。例えばパルチザンによる被害を避ける最もシンプルな方法は制圧用部隊を送ることだが,何かと費用がかかる。そうした場合このゲームでは,その地域を独立国としてしまうのが有効な対策の一つとなる。トリッキーな手ではあるが,政治体制や友好度は占領国に好意的なものとなるので,ヘタに直接占領を続けるよりも経済的なのだ。
 また,敵の国土の重要地点を軍事的に占拠したら,その国を併合するのも外交コマンドである。併合しないまま放置していると,同盟国が勝手にその国と和平を結んで小さな独立国家が出来てしまったりもする。ときに意味不明なアクションもあるものの,AIが治める国々が独自の利害で行動するのが,このゲームの面白いところでもある。
 ちなみにハーツ オブ アイアンIIでは,「クーデターの試み」も外交に分類されていたが,ドゥームズデイでは諜報分野が新設され,クーデターはそちらに移動した。

 

 

内政:政治体制を自在に変更可能

 

 各国の内政要素として,Paradox Interactive作品ではお馴染みの,二項対立の「政体スライダー」が用意され,「民主的/独裁的」「政治的右翼/政治的左翼」「閉鎖社会/開放社会」という政治/社会体制,「自由経済/中央計画経済」という経済体制,「常備軍/徴兵制」という軍事姿勢,「タカ派/ハト派」「介入主義/孤立主義」という外交姿勢が,それぞれ設定されている。
 このスライダーは1年に1回,どれかを1目盛り移動させられるほか,さまざまなイベントや外交的圧力で変更させられたりもする。これらのゲージは単なるフレーバーではなく,生産効率や軍隊の能力,占領地の統治効率や外交の成果を左右する。

 

政体スライダーを変動させると,国家経営と軍事力に影響が生ずる。もっとも,はじめのうちは放置しがちだし,それでもゲームは問題なく楽しめる

 

 即物的なところを見れば,「常備軍/徴兵制」のスライダーは,常備軍に寄せたほうが強力な軍隊が作れ,コストの増加分を含めても割に合う傾向が強い。また「ハト派」は戦争でペナルティばかりなので,「タカ派」に寄っていたほうが何かと便利だ。
 しかし,このスライダーが最も興味深い変化をもたらすのは,「民主的/独裁的」「右翼/左翼」のスライダーを動かしていったときである。「ファシズムのアメリカ」やら「絶対王政のドイツ」やら,実に不可思議な国家が現出させられるのである。
 また,閣僚の顔ぶれもある程度変更できる。スタッフ達は国家の工業力や技術開発にボーナスを与えることもあれば,純粋にペナルティしかもたらさない人もいる。彼らの人事もまた,小さいながら重要なゲーム要素だ。

 

内閣のメンバーは,国家経営および軍事行動,外交などに影響を与える。有能な人材を選りすぐって使いたいところだが,選挙やクーデターイベントによって,あっさり顔ぶれが変わることがあるのが悩みのタネ

 

 

経済:工業力で勝ち,さらなる工業力を

 

若干面倒な処理が発生することもある,商船管理。海を渡った先に領土がある国家では,商船で補給物資を運ばねばならない。設定は自動で行われるが,ちょくちょくチェックするようにしたい。海と無縁な国家ならほぼ無視してOK

 経済は,このゲームの陰の支配者である。軍隊を動かすにも,外交を考えるにも,スタッフ配置を試行錯誤するにも,経済を顧みずに突っ走れば,必ずどこかで限界が生ずる。軍事ストラテジーの常として,「食えない軍隊は働けない」のだ。
 本作の経済の基本は,IC(Industrial Capacity)=工業力に集約されている。本作で新たにユニットを生産するには,一定量のICを一定期間投ずる必要があるし,損耗した軍隊が回復するにもICが必要。研究によって新型兵器が登場した場合,旧式装備の部隊をグレードアップするにもICが必要だ。そして恐ろしいことに,前線の軍隊に補給物資をどれくらいの効率で届けられるかも,ICが基本となって計算される。
 ICは,その国が持つエリアの「工場」の総数が基本となるが,工場が稼働するためには,一定の種類,一定量の資源が必要となる。資源が足りなければ,「貿易協定」から「宣戦布告」(そして他国の資源生産エリアを占領),「傀儡政権の樹立」(自国に資源を輸出させる)に至るまで,さまざまな外交的手段に頼るしかないのだ。

 

工業力は,戦争が始まっていなかったり,国民不満度が高かったりするとマイナス修正を受ける。例えばアメリカは大工業国だが,平時によるICペナルティが−75%だったりする 工業力を決定する「工場」は,プロヴィンス付属のパラメータとなっている。工場は建て増しが可能なほか,切り取った他国の領土にあるものも,効率は落ちるが利用できる

 

 ICの計算にはこのほか,国の経済体制とスタッフ,技術力などによる補正が加わる。ただし,もともとが工業力の概念だけに備蓄しておけず,消費されなかった分は1日ごとに雲散霧消していく。よって本作では,資源をいかに安定して確保していくか,どれくらい備蓄していけるかが重要なポイントとなる。
 また,IC産出に必要な資源とは別に,石油という資源もある。これは,石油を消費する部隊(戦車/飛行機/艦艇など)が活動するためには不可欠だ。資源に不安のある国は,いったい自分の国が何年くらい戦争を継続できるのかを,きちんと計算してから突入したほうがよいだろう。ドゥームズデイでは,場合によって1953年まで戦い続けねばならない。早期講和を狙って果たせなかった場合,ハーツ オブ アイアンIIの1948年までなら耐えられた国も,さすがに1953年まではもたないと思ったほうがよいだろう。

 

 

軍隊の生産:技術や情勢を即座に反映

 

生産が完了すると,適切なエリアにユニットの配置が可能になる。艦艇の場合,本国プロヴィンスの軍港にしか配置できない

 本作の生産システムは,若干ユニークなものだ。生産の基本はICの分配であるが,ICのすべてが軍隊の編成に充てられるわけではなく,「消費財」「生産」「物資」「戦力補充」「改良」の5項目に割り振られる。
 ただただ新規部隊生産のためにICを消費しているだけでは,補給物資が尽きて部隊は前線で機能不全を起こすし,国民が耐乏生活に耐えかねて暴動を起こす。そして,軍隊それ自体もモラルを維持できなくなり(軍隊とは国民で成立していることをお忘れなく),あるいは研究所が資金不足に陥って開発が滞ることになる。
 自国の政体や国民感情,戦線の状況などを見据え,適宜財務プランを見直していくことになるだろう……細部まで最適化された計画を練ったところで,敵国からの大規模な戦略爆撃によって一時的なIC低下が起こると目もあてられないので,ある程度はアドリブも必要となるのだ。

 消費財に割り振られたICは,国民生活に必要なものの生産に使われている形だ。これが一定水準を割ると国民不満度が上昇し,軍の士気にまで悪影響を与える。また,消費財に割り振られたICによって,政府の資金(税収)も変化する。資金は研究に必要となるだけでなく,外交や諜報のためにも欠かせない。

 生産に割り振られたICは,軍隊/要塞/対空砲/輸送船などの生産に充てられる。これら軍事ユニットは,生産のために必要なICと期間が設定されており,その間ICを供給し続けることで完成するが,ICが足りていない状態で生産が続行された場合,効率がダウンして納期が遅れる。3か月で出来るはずのユニットに6か月かかったりするわけだ。
 ユニットの生産で特筆すべきは,同じユニットを連続で生産すると「量産ボーナス」がついて生産速度が向上することだ。計画的な軍事拡張ができれば,短期間で大規模な軍隊を揃えられる。もっとも,戦車の大量生産中に新型戦車が完成したりすると,旧式化した戦車の量産を続けるか,量産を停止してでも新型戦車に切り替えるかで悩んだりもするのだが。
 また軍隊の生産には,「労働力」というパラメータも消費する。人間の数には限界があるのだ。どんなにICがあっても,労働力が尽きれば新たな軍は編成できない。
 戦力補充は,戦闘で消耗した軍隊の戦力回復である。損耗がないなら割り振る必要はないし,回復するにつれて必要ICは減っていく。ちなみに,戦力補充にも当然ながら労働力が必要だ。

 

歩兵の生産を指示しているところ。開発日数769日というのは,連続生産10回分の合計なので,1回分は約77日になる。769日の間,IC18.9を占有し,最終的に労働力300を消費する 発注は生産管理窓にまとめられる。緑色の枠の上下関係にも意味があって,IC不足が起こった場合,下にある生産発注から順に停滞していく。枠の上下は自由に入れ替えられる

 

 物資は,軍需物資生産のこと。ゲーム内の軍隊は服や食料や弾薬に相当する「物資」を必要とするので,安定した供給ができなければ,部隊の戦闘力はとたんに低下する。物資は備蓄可能なので,ICに余裕があるなら物資を作っておき,それと不足している資源を交換するのが有益だ。

 

貿易協定を結ぶところ。資源に乏しい国家は,しばしば軍需物資を元手に海外から資源を購入することになる。技術によって物資の生産効率は上がるので,「加工物を売って原料を買う」のは基本的に有効だ

 

部隊の改良が行われたところ。ダイアログをドラッグして広げてみたが,実際には斜めに重なるように出現する。ダイアログそのものを右クリックすると,一定種類のダイアログを開かない指定も可能

 改良に割り振ったICは,旧式化した装備を持つ部隊のアップグレードに用いられる。本作では,歩兵ひとつとっても年式によって能力が異なる。新装備が開発されれば歩兵の戦闘力も上がるが,その恩恵を受けるためには旧来の装備を新式のものに転換しなくてはならない。改良に必要なICやかかる時間は政治体制とも関係するので,改良しないのが得策な場合もある。

 生産関係は,ドゥームズデイで最も大きく変更された部分である。ハーツ オブ アイアンIIでは,各項目に対し0.01単位で細かくICを割り振っていく必要があったが,本作では「生産に必要な値」「戦力補充に必要な値」「改良に必要な値」に自動的に調整してくれるボタンが増えた。若干動作にクセがあるが,これはプレイのストレスを大きく低減してくれる。
 また,従来は何らかの理由で生産効率が上がった/下がった場合,すでに生産予定に乗っているものには影響がなかったが,本作では逐次反映されるようになった。閣僚の面子を変えたから量産効果をいったん諦めて新しい生産ラインを組むといった不条理は,もはや存在しない。

 

生産関係のIC配分はかなり楽になった。また,貿易関係の処理を自動で行ってくれるのも,地味に便利だ

 なお,軽空母が追加され,護衛戦闘機が旅団に変更されるなど,生産できるユニットの種類も変化した。どちらも大局的な戦略に影響を与えるものではないが,前作の不満を解消してくれる要素であるのは疑いない。
 ちなみに本作において,国ごとに生産される軍事ユニットは名前こそ違え,同じ技術水準をもとに生産されるユニットなら,能力はすべて同じになっている。兵器マニアにとっては残念なことだが,「類似の技術水準にある兵器の細かな性能差が戦争の結果を変えることはない」というデザイン思想が,見えるようで面白い。
 ちなみに,以前の英語版デモの紹介記事で「師団に付属旅団をつけ状態で生産できる」と書いたが,これはDoomsdayシナリオにおける初期設定に限られたものであることを確認した。念のために書き添えておきたい。

 

 

研究:ドクトリンの排他選択はやり直しも可

 

研究機関の割り充て。航空機などの軍事技術以外に,産業関係の技術開発も重要な地位を占める

 このゲームにおける技術開発は,戦争だけでなく経済活動にも重要な影響を与える。技術ツリーに沿って段階的に開発を行うため,3号戦車を開発する前に,4号戦車が出来たりはしない。
 研究は,各国の研究機関や企業,個人(日本なら「三菱」「東郷平八郎」などが研究機関として存在する)を,開発したい技術項目に割り当てることで行われる。研究は最大でも同時に5ラインしか存在しないので,何を優先するかが重要な意義を持つ。
 開発ラインの数はICに比例する。大工業国家は,潤沢な資金と合わせて最大級の開発ラインをフル稼働させ,急速な技術開発が可能だ。逆にいえば,ジリ貧になってくると「戦況を一変させる超兵器」の開発すら困難になっていく……もっとも,たかが一兵器/兵科が新規開発されたところで,たとえそれが核兵器であっても,戦況が一変することなどないのが本作のバランスだが。

 研究項目は五つの段階に分かれており,それぞれの段階において研究に役立つ技能が設定されている。一方研究機関は,基本的な能力が9段階評価でランク付けされ,いくつかの技能が設定されている。つまり,研究対象が要求する技能を研究機関が持っていれば,研究速度は大幅に向上するのだ。また,研究にあたって事前にその技術の青写真が手に入っていれば,研究は急速に進展する。青写真は,すでにその技術を開発し終えている国が,まだその技術を開発できていない国に供給できるほか,イベントやスパイ活動などによって獲得されることもある。
 研究対象には戦車や艦船,歩兵などが含まれるのは当然だが,工業関係の技術,情報技術,核開発,ロケット工学といったものもある。また陸海空の軍事的ドクトリンも階層的に研究が可能となっており,これは軍隊の性能に多大なる影響を与える。

 

技術開発する項目を選んでいるところ。技術の中には軍事思想と戦術も含まれていて,例えば「電撃戦」もその中に含まれる。ドイツ電撃戦の生みの親ともいわれるグデーリアンも研究機関として登場

 

 研究も,本作で大きく手がいれられた分野だ。まず端的に1953年までの技術にまで対応したツリーになっている。また,医療関係の技術が追加されている。
 最も大きな変化は,軍事ドクトリンの放棄が可能になった点だろう。軍事ドクトリンには,陸海空でそれぞれ複数の排他的な分岐ツリーがあり,従来は一方の枝を選ぶと他方の枝は以降諦めるほかなかった。
 本作では,これまで研究したドクトリンを放棄することで,完全に異なるドクトリンの研究に乗り換えられる。歩兵中心のドクトリンで戦争前半乗りきり,後半には電撃戦ドクトリンの研究を開始するといった自由度が与えられているのだ。

 

 

諜報:クーデターで一発逆転も狙える?

 

防諜体制を構築するため,自国に諜報員を配置。最大で10名の配置が可能。他国に対する攻撃手段として諜報を使うのも良いが,ノーガードでの打ち合いは避けたいところ

 諜報分野は本作でまるまる追加された要素で,「設計図奪取」「大臣暗殺」「スパイ潜入」「中傷工作」「クーデター」「生産妨害」「核兵器破壊」「パルチザンへの資金援助」「国際世論を操作」「研究妨害」「スパイを休眠」「防諜活動」がある。

 諜報活動を行うには,まず目標とする国に「スパイ潜入」をさせねばならない。潜入の成功率はさほど高くなく,また諜報活動すべてに関して必ず資金消費が必要となる。スパイの潜入に失敗すると,最悪,相手国との関係悪化も生じる。スパイは最大で10人まで潜入させられ,潜入しているスパイの数が多ければ多いほど,諜報活動の成功率は高くなる。

 

このように,潜在的な敵国は自発的かつ積極的に諜報攻勢を仕掛けてくる。これによって外交関係は必然的に悪化していくので,前作よりも温和な外交政策を取り続けるのが難しい

 諜報活動が持つポイントは二つ。一つは,戦争が始まる以前から仮想敵国にはある程度(ものによっては致命的な)攻撃を仕掛けられるということ。もう一つは,諜報活動そのものよりも,諜報活動の露見によって外交関係が悪化することだ。
 前者はいうまでもないが,後者もまた本作のゲーム的なニュアンスをだいぶ変化させている。前作までのように,シナリオ的な宿命で仮想敵国と認定されている国に対し,可能な限り温和な態度を取り続け,あわよくば手を組んでしまおうという政策の成功率は,ドゥームズデイでは比較的低くなった。AIは,仮想敵国とみなす国に積極的な諜報攻勢を行うため,どうしても関係は悪化していくのだ。

 設計図奪取は,その国にある開発済み技術の青写真を奪取しようとする試みであり,もちろん自国の技術進展に寄与する。1953年まで自国と一切関わりを持たないであろう相手を選んで,設計図を盗み続けるという選択肢もあるが,最終的にどんな波紋を広げることになるかは,神のみぞ知るところである。
 そのものずばりの大臣暗殺だが,国家元首と政府首班は対象にできない。ICにボーナスを与える大臣を暗殺すると,国家経営に相応のダメージが期待できる。とはいえ,大国ともなれば類似の能力を持った「代役」はいるものなので,そのような人材に欠けた中小国を日干しにするに当たっては,費用対効果に疑問こそ残るものの,有効に機能するだろう。

 

 中傷工作には,対象国における国民不満度を上昇させる効果がある。これはどんな大国にとっても嫌なものなので,交戦中の大国相手に行うオペレーションとして効果は期待できる。ただし,不満度はICの投下によって解消され,諜報に使う資金はICを基本に生み出されていることを考えると,かなり迂遠の策だ。「直接軍事的に相手を攻撃できないし,自国の貧弱な軍隊では援軍にもならないが,同盟国の間接的支援を行いたい」場合の利用が多くなりそうだ。

 

 クーデターには最も過激な効果があり,相手国の政体を自国のそれと同じものに転覆させてしまう。開戦以前にクーデターに成功すれば,陣営地図を塗り替えることも可能だ。必要とされる資金が膨大で,成功率は低いが,世界史を完全に覆すことも可能となる。例えばドイツにとってみれば,アメリカが参戦しない(それどころかイギリスを背後から刺すとかいう)展開を「金で買える」可能性となるわけで,一考に値する戦術であると思われる。

 

 生産妨害は,現在生産中のユニットの生産速度を低下させる活動である。ドイツを選択してソビエトにこれを仕掛けると,比較的ヒストリカルな気分に浸れるだろう。
 核兵器破壊は,ゲーム後半で機能する活動である。本作の核兵器には,1エリアの生産能力とユニットを全滅させる効果がある。核兵器の製造はあまり速いとはいえないので,核開発が進んでいない国にとってこれは一つの抑止作戦となり得るが,成功率の低さが障害になる。

 

 パルチザンへの資金援助には,指定したエリアでのパルチザン発生率を上昇させる効果がある。これは地味ながらも,累積すると筆舌に尽くしがたい効果を発揮する。手間と費用はかかるが,クーデターに近い歴史改変効果があるといえよう。

 

 国際世論の操作は,対象国の「好戦度」を上昇させる活動である。民主的な国家は,好戦度が低い国家に自発的な宣戦布告ができない。そこで相手国の好戦度を上げることで,宣戦布告の口実が作れるというわけだ。史実においてはアメリカの「Grave Consequence」事件,古くはビスマルクのエムス電報事件などに類するものだろう。もちろん場合によっては相手国との関係が悪化するが,そもそも戦争を吹っかけようとしている相手との関係が早めに悪化したところで,問題はあるまい。

 

 研究妨害は,生産妨害と同工異曲の工作である。さっさと完成させてしまいたい技術が大幅に遅延した場合,戦況に一時的な障害さえ発生する。生産妨害ともども,いまの戦況にできるだけ直接影響を与えたい場合には有用だ。
 防諜活動では,国内に存在する敵国(外国)スパイの排除を行う。このためには,まず自国内にスパイを潜入させねばならない(成功率は100%)。敵国のスパイの数が少なければ少ないほど諜報関係行動の成功率は落ちるわけで,徹底した防諜活動は治安の基本ともいえよう。防諜活動に絡んで,スパイの「休眠」(いわゆるスリーパーにすること)というルールがあるのも面白い。休眠させたスパイは一切の諜報活動を行えなくなる反面,防諜活動での除去対象にもならなくなる。

 さて,スパイを潜入させるメリットは,上記のものだけではない。ドゥームズデイでは,同盟国以外の軍事情報は一覧で参照できなくなったわけだが,スパイを潜入させれば,その国のおおまかな軍備状況はわかるし,いま何を主に生産していて,何を研究しているかもあいまいな形ながら把握できる。敵国が譲歩する可能性を見積もるにはスパイの報告を頼りにするしかないのだ。とはいえスパイもあくまで人間,とくに潜入させた人数が少なければ,とんちんかんな情報を送ってくることもある。

 

スパイを潜入させている国であれば,だいたいの軍備状態,生産状態,技術開発状態がわかる。もっとも,正確であるとは限らない。精度はその国にいるスパイの数に比例する

 

 

ゲームを深く理解した改良が好感触

 

生産に2年近くかかるユニットが,一瞬で海の藻屑となったりする。プリンス・オブ・ウェールズを失ったチャーチルが引きこもったのもむべなるかな

 さて,ハーツ オブ アイアンIIを踏まえつつ,本作を単独の作品としてレビューしてみたが,ルールとプレイ手順に即した形で語れない変更点を紹介していこう。

 まず,全体にAIの能力は向上しているように見受けられる。もちろん,これはどうなのかな,という珍妙な行動も残ってはいるが,同じAI性格設定でプレイしていても,ややアグレッシブさが増している印象がある。
 例えば筆者が1936年開始のドイツでプレイしてみたところ,ポーランド戦開始と同時にフランス軍がマジノ線から進出してきて,背後を衝かれるという展開があり,独仏国境に小規模な戦力しか置いていなかったドイツ軍は,一時窮地に追い込まれることになった。このときのフランス軍は,3号戦車級の最新戦車3個師団を先頭に押し立てた打撃力のある部隊編成で,陸軍ドクトリンで大幅に水をあけていても,歩兵だけでの戦線維持は不能だった。
 同様に,AIはかなりしっかりと上陸作戦を仕掛けるようになった。以前は「沿岸に守備隊置いとけば大丈夫」だったものだが,本作でそのような紙の戦線を張っていたのでは,あっさり上陸を許してしまう。中国国民党で試してみたところ,日本軍が積極的に上陸作戦を仕掛けてくるので,難度は格段に上がった印象だ。

 細部の操作性の向上も見逃せない。例えば各部隊に対し,改良を行う/行わないの指定ができるのは大きな進歩である。例えば航空機の改良には,膨大なICと時間が必要なため,頻繁な新規生産でまかなったほうが便利なのだ。上陸作戦や艦砲射撃の指定を行う際に,目標となるエリアを直接指定できるようになったのもありがたい。前作では実際にユニットを隣接海域まで移動させてから,指定しなくてはならなかった。あるエリアに上陸できる海域が限られていたりして,無駄足になることもあったのである。これは実際,イギリス本土上陸を試みようとすると頻繁に起きる。

 

歴史的なイベントも次々に発生するが,そこでどのような態度を採るかという点に関しては,選択肢が用意されていることが多い

 

ドゥームズデイキャンペーンは,アメリカがモスクワに核爆弾を投下することからスタートする。これ以降も定期的に核攻撃は続く。ソビエトの核開発は終わっておらず,共産陣営からの核による反撃は遠い未来の物語である

 さてドゥームズデイを語るなら,1945年開始の第三次世界大戦キャンペーン「Doomsday」の話をしないわけにもいくまい。これは米ソ全面対決,核爆弾が飛び交うアポカリプスである。……と言うと非常に大味な印象を受けるが,このキャンペーンを中小国でプレイするとなかなか独特の味わいがある。自力では核開発どころか航空戦力の維持もおぼつかないような国で,核が実効戦力として活躍中の国際情勢とどうやって付き合っていくかは,既存のゲームでカバーされていそうでいない,現代政治にも通じるテーマ設定だ。

 また,シナリオエディタが追加されたのも本作の特徴だ。もともと本作ではデータのバイナリ化が行われておらず,テキストエディタ簡単に自分専用MODが作れてしまう(注:改造は自己責任で)のだが,専用のエディタがあったほうが便利なのはもちろんだ。ヒストリカルなマイナーテーマを扱うもよし,歴史ifの塊のような架空戦記世界を作ってみるのも楽しいだろう。

 

ドゥームズデイキャンペーンでは,中東やインドが赤化することも多い。もっともこのとき,東アジアとヨーロッパでは赤軍の戦線は崩壊していたりするのだが ICの高い都市にはまんべんなく核の洗礼が降り注ぐ,悪夢の世界。正直,共産陣営にどれくらい勝ち目があるのか,疑問が残るキャンペーンシナリオである

 

イベントログは随時記録されていくので,ゲームが終わった後に眺めるもよし,これをもとに自分なりの戦史をまとめてみるのもよしだ。後者はAAR(after action report)と呼ばれ,Paradox EntertainmentのHPにはAARが投稿できるBBSもある(ただし英語が基本)

 少しだけ気になった点を述べると,前作であった用語の不統一が本作でも残ってしまっているのが残念ではある。例えば産業関係の技術項目で,ツリーでは「発展型生産技術」となっているものが,同じウィンドウの中で「先進的建設技術」と表示されたりするという,あれだ。テキスト量がそれなりに多い作品だけに,ローカライズ作業はたいへんだと思うが,せっかくのアップデートであるから,こういった部分も改善されていれば,より良かったとは思う。
 またこれはそもそも英語版がいけないのだが,諜報関係のチュートリアルは存在しない。それほど難しいルールではないにしても,最小限のレッスンができたほうが良かった気はする。

 総合的に言うと,本作は前作のファンならば問題なく楽しめるだろうし,「どちらがより面白いとは一概に言えない」程度に,違いを感じられる作品である。AIの強さが増し,プレイの年数が伸び,いままでルールの穴となっていた部分がかなり塞がれたことで,小国のトンデモな活躍は難しくなったが,よりシビアかつヒストリカル方向に近づいたのは事実だ。
 もしまだハーツ オブ アイアン IIに触れたことがないのであれば,本作から始めるのも良い選択肢だ。諜報要素が増えて複雑性が上がっているとはいえ,操作性の向上はそれを補って余りある。1953年までプレイするのは長すぎると思うのであれば,自分で満足したところでゲームを切り上げるのも,Paradox Interactive作品ではアリアリのスタンスである。
 第二次世界大戦とその後の世界における,歴史の追体験と歴史ifを存分に満喫できる本作,この夏休みにじっくりと腰を据えて楽しめる作品に,仕上がっているといえよう。

 

 

タイトル ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/08/04 価格 通常版:8925円,アップグレード版:4725円(共に税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/800MHz以上(Pentium III/1.20GHz以上推奨),メインメモリ:128MB以上(512MB以上推奨),グラフィックスメモリ:4MB以上(8MB以上推奨),HDD空き容量:900MB以上

Hearts of Iron 2: Doomsday(C)Paradox Entertainment AB and Panvision AB. Hearts of Iron is a trademark of Paradox Entertainment AB. Related logos, characters, names, and distinctive likenesses thereof are trademarks of Paradox Entertainment AB unless otherwise noted. All Rights Reserved.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/specials/hoi2_dd/hoi2_dd.shtml


参考書籍をAmazon.co.jpで
敗北を抱きしめて 上 増補版
ジョン・ダワー著。これを日本人以外に書かれてしまったことの衝撃が,ひところ言論界を賑わした,日本戦後史概説の決定版。

参考書籍をAmazon.co.jpで
鷲は舞い降りた 完全版
ジャック・ヒギンズの冒険小説。失意の降下猟兵指揮官シュタイナ中佐と部下に下ったのは,IRA工作員と協力し英国に潜入する任務だった。