4Gamer:
ゲームポットのスタッフを見ていて思うのは,本当に雰囲気がいいことです。イベントの取材に行くと,みなさん,凄く楽しそうですものね。植田さんの敷いた運営体制が,そういうところにもつながっているんでしょうね。
植田氏:
いやまぁ,小規模の会社だからできることですけどね。
4Gamer:
具体的には,どれくらいの人数でやられているんですか?
植田氏:
うーん,もうそろそろ記事にしてもらっても大丈夫かな……。実は当初,私を含め6人でやっていたんですよ。
4Gamer:
そういえば,最初の広報担当は,植田さん自身でしたものね。
植田氏:
私が社長兼広報兼企画担当兼GM……。ちなみにGMは,全員でやっていました。オンラインゲームの運営自体が初めての経験だったので,どれだけの利益が出せるのか想像できなかったんですよ。だから,なかなか人も増やせず……。
倉元氏:
当時は,土曜も日曜も関係なく働いていましたねぇ。
植田氏:
最初の半年は,ほとんど休みがなかったですね。しかし今は,アルバイトも含めて20人以上になっています。だから今は,普通に土日に休めますよ。
倉元氏:
……。
植田氏:
あれ,僕だけ?(笑)
4Gamer:
人数が4倍くらいとなると,また新しいことができますよね。新しいタイトルとか……。新しいタイトルについて聞く前に,スケジュール的に決まっていない,パンヤの未来について聞かせてください。100万を突破しましたが,まだまだこんなものじゃないですよね?
植田氏:
そりゃもう,こんなものじゃないですよ!(笑) 具体的な数字目標はまだ決めていませんが,そうですね,倍には持っていきたいですね。
4Gamer:
どのようにして,そこまで人を増やしますか?
植田氏:
自分でWebサイトを回って情報を収集するようなゲーマーには,もうあらかた認知してもらっていると思うので,今後は,もう少しライトな層に対してアプローチを行っていきたいと思っています。
本作は,操作が簡単だし,ルールはゴルフだから,やはり簡単ですよね。マニュアルを読まなくても,十分プレイできるんです。だからオンラインゲームの入門編という位置付けにして,ここでチャットなどを覚えて,ほかのMMORPGなどに巣立っていく……。そういうタイトルにしていきたいですね。
4Gamer:
なるほど,“入りやすい”というのはさっきも話題になりましたが,それは既存のオンラインゲームユーザーにだけではなく,PCゲーム初心者に対しても同じですからね。パンヤの絵柄はキャッチーだし,十分そのポジションを得られるでしょうね。
植田氏:
パンヤは“萌え”ではないですが……。
4Gamer:
え?
倉元氏:
え?
植田氏:
ええ,私一人だけが「萌えじゃない」と言っているんですが(笑),まぁいうなれば「ソフト萌え」という感じでしょうか。パンヤなら,変にイヤらしくないから,子供に安心して勧められるじゃないですか。子供が初めて遊ぶオンラインゲームになるといいですね。
4Gamer:
MMORPGについて話題が出たところで,先日クローズドβテストが始まったばかりの,「君主」についても聞いていきます。
パンヤの場合は,セカンドゲームという,まさにニッチのサービスだったわけですよね。ところが君主は,「雨後のたけのこのごとく」とさえ表現したくなるほどたくさんリリースされている,韓国産MMORPGです。なぜこれだけのタイトルがある中で,君主を選んだんでしょうか?
植田氏:
確かに韓国産MMORPGと一括りにすると,同じ条件のタイトルは,数え切れないくらいありますね。しかし,君主とまったく同じゲームは,ほかに存在しないと思っています。開発元の前作に当たる「巨商伝」も,異端でしたよね。戦闘はあまり重要な要素ではなく,むしろ「経済」に重きが置かれている。君主はさらに一歩踏み込んで,「政治」までも取り扱っています。選挙にあたっては,ちゃんとマニフェストを作ったりするんですよ。
4Gamer:
タイトルからして,“君主”ですものね。政治がかなり重要になる,と。
植田氏:
また,株という概念もあります。国ごとに株があり,その国の状況や,取り引きによって,株価が上下します。プレイヤー達は,証券取引所でほかの国の株を売買できるだけでなく,現実世界でも話題のM&Aも可能。つまり,他国の株の50%以上を取得することで,その国を乗っ取ることまでできてしまうんです。
とまぁ色々と面白い要素があり,プレイすればプレイするほど,はまっちゃうんです。このゲームシステムに,惚れ込みました。これが,君主を選んだ理由ですね。
4Gamer:
しかし,プレイすればプレイするほどはまるというのは,逆にいえば,最初のハードルが高いということですよね。これは,パンヤとは逆と思えます。何か,この君主の世界に人を引き込むための方策を考えていたら,教えてください。
植田氏:
一つは,キャラクターです。キャラクターを,日本人受けするように,一から描き直しています。これは絵柄だけでなく,設定から完全にオリジナルですね。
キャラクターだけでなく,シナリオも,ダンジョンも,すべて日本人好みに完全に作り直しました。韓国でサービスされているものをローカライズしたというより,韓国のゲームをベースに,新しいゲームを作ったと表現するほうがより正確でしょうね。
4Gamer:
でもそれって,かなりの労力ですよね。そこまでの力を注ぎ込むだけの,理由……勝算は,一体どこにあるんでしょう?
植田氏:
いや,それは考え方が逆ですね。勝算があるから力を入れているというより,今の時代,これだけ力を入れないと,良いサービスを提供できないと思ったんです。これだけの数のMMORPGがサービスされている状況で,ほかのタイトルに勝つには,これくらい“きめの細かい”仕事をしないとダメだと思うんですね。
韓国でのサービスで,良いところはそのまま持ってくる。それ以外の部分は,全部自分達で作る。こうすることで,初めて,ほかの多くのMMORPGから一歩抜け出せるんじゃないかと考えています。
4Gamer:
なるほど。……君主に関わっている人達は,それこそ半年くらい休みなしかもしれませんね(笑)。ちなみに,ゲームポット全員で20人以上ということでしたが,君主関連のスタッフは,今何人くらいいるんですか?
植田氏:
スタッフとしては,まだサービス前ですし,パンヤとの掛け持ちも含めて10人足らずですね。みんなよくやってくれていますよ。もちろん外部の人も使って,サービス開始に向けてがんばっているところです。ちなみに,君主って,契約を結んだのはなんとこの8月なんですよ……。
4Gamer:
うわ,ついこの間じゃないですか。この短期間で,シナリオからキャラクターまで,一から作り直した……。
植田氏:
ええ,そうなんです。それをいうとパンヤも,契約してその2か月後にはサービスを開始していましたけどね(笑)。
4Gamer:
ゲームポットが,いかにスピードにこだわっているか,よく理解しました。
さてクローズドβテストも始まりましたが,状況はいかがでしょうか?
植田氏:
大きなトラブルもなく,順調ですね。初日から,驚くほど多くの人に入ってもらえて。
倉元氏:
いっぱい人がいて,驚きましたね。最初なので,同じ見かけのキャラクターばかりで(笑)。
植田氏:
ちなみに,すでにアナウンスしているとおり,早ければ12月中にオープンβテストに移行しようと思っています。
4Gamer:
では正式サービスは,2006年初頭?
植田氏:
まぁテストの状況を見て,考えます。なお,やはりアイテム課金方式を予定しています。
4Gamer:
ゲームポットの強みって,やはりパンヤの運営元である,ということだと思うんですね。何か,パンヤと絡めた企画の予定はありますか?
植田氏:
細かいことはこれからですが,何かやっていきたいですね。とりあえず,この夏からテスト的にサービスしている,無料ホームページサービス「プチコミ」――韓国の「Cyworld」のようなものです――これ経由では,つながります。
最終的には,このプチコミと,ゲームポットでサービスするすべてのゲームを,一つのIDで管理したいと思っています。
君主のプレイ中に各キャラクターを右クリックすると,色々なメニューが表示されるんですね。その中に,現時点では未実装ですが,「プチコミに行く」というメニューを入れる予定です。ここから,ゲーム内でプチコミの内容を読めるようにしようと思っています。で,パンヤの場合はどうなるかは分かりませんが,基本的に今後ゲームポットでサービスするゲームは,すべてそうしていこうと。それによって,そのゲーム内だけでは分からないプレイヤーの“人となり”が垣間見られるわけですね。
この積み重ねで,今はタイトルごとにあるコミュニティを,プチコミを核にして,一つに融合していこうと思っています。
4Gamer:
今後ゲームポットでサービスするゲームというのが気になりますね。そういえば,以前4Gamerでも一つ記事化しましたが……。
植田氏:
ええ,「Cross Racing Championship 2005」というラリーゲームが,第3のタイトルとなります。2006年春を目標に,ハンガリーの会社と開発を進めている段階で,ゲームポットとしては実に挑戦的なゲームとなりますね。
4Gamer:
これも,プチコミとつながるんですか?
植田氏:
その方向で考えていますよ。キャラクターをつけて,運転する形にする予定ですので。ちなみに,最大8人くらいでのレースが可能になる予定です。
4Gamer:
なるほど。ではもしかして,これもアイテム課金ですか?
植田氏:
ええ,その予定です。パーツなどを売っていこうと思っています。
4Gamer:
昨日のセミナーで,月額課金と,アイテム課金の,それぞれのメリット/デメリットについての話がありましたよね。今日お聞きした3タイトルはすべてアイテム課金とのことですが,植田さんとしては,アイテム課金にこだわりがあるのでしょうか?
植田氏:
これまで説明してきたような,ゲームポットの強み,つまりスピーディさを生かすには,アイテム課金のほうが向いていると思っています。というのも,アイテム課金は,いかに継続的に新アイテムを投入できるかが重要なんですよ。
だからゲームポットでは,提携するゲーム開発会社を選ぶときに,「ゲームポットの要望を聞いて,スピーディに動いてくれるか」というのを,必ずチェックします。パンヤの怒濤の更新は,開発会社がそれだけ機敏に動いてくれることを示していますよね。逆に,年に2,3回しかアイテムを追加できないようなら,アイテム課金なんて絶対にやめたほうがいいです。
4Gamer:
君主も,短期間で大幅に変更が加えられているんですから,この点は問題なさそうですね。ではCross Racing Championship 2005も?
植田氏:
ええ,もちろんです。
月額課金の場合,重要なのは,ゲームそのものの質だと思うんですね。「ウルティマ オンライン」クラスの滅茶苦茶質が良いゲームであれば,月額課金が向いているでしょう。一方アイテム課金は,むしろ,運営側がどういうサービスをするか,という部分が重要だと思っています。ゲームポットが現在扱えるのは,自社開発のゲームではなく,海外のゲームのローカライズ版です。そのためゲーム内の質には,あまり手を出せないんですね。だから,運営側ががんばることで良いサービスにつながる,アイテム課金にこだわっているんですよ。
4Gamer:
なるほど,よく分かりました。さすがにアイテム課金の先駆者だけあり,色々と考えられているんですね。
植田氏:
倉元をはじめとするスタッフ達がよくがんばってくれているから,アイテム課金というシステムで,なんとか商売になっているんでしょう。ああ,スタッフ達が「愛情を持ってゲームに接している」というのも,ゲームポットの強みでしょうね。誰も,嫌々やっていない。
ちなみに,ゲームポットという社名の由来は,魔法瓶のポットです。小さい会社だからできる,温かいサービスを提供しようという気持ちで名付けたんですよ。
4Gamer:
その“ウエダイズム”が,みんなにも浸透しているんですね(笑)。
あとこだわりという意味でもう一つ聞いておきたいのが,ゲームポットでは今後もオンラインゲームにこだわっていくのか,ということです。
植田氏:
これはもう,こだわっていくつもりですよ。多くのオフラインゲームって,エンディングまで行けば終わりじゃないですか。終わったら,もう,二度とプレイしない。私はイマジニア時代に多くのパッケージゲームを扱っていましたから,このことは身に染みていますね。何年もかけて発売までこぎ着けたゲームも,わずか1週2週で商品寿命が終わる。つくづくサービス業だなぁ,と思ったものです(笑)。
だからオンラインゲームは,エンディングがないのが魅力ですね。“お客様”と長く付き合えるという意味で,オンラインゲームにこだわっていきたいと思います。
4Gamer:
ちなみに植田さん自身は,どういったゲームをプレイするんですか?
植田氏:
任天堂さん系のゲームが好きですね。……って,あ,全然オンラインゲームじゃないじゃん(笑)。
4Gamer:
オチがついたところで,まとめさせてもらいますね。最後に,4Gamer読者に対してコメントをお願いします。
植田氏:
最初にパンヤが世に出てから,1年3か月くらい……パンヤプレイヤーにも,きっと4Gamer読者が多いと思います。
今後も,みんながビックリするような,ワクワクするようなサービスを,毎週毎週,おもしろおかしくやっていきますので,今後も末永く,パンヤとゲームポットをご愛顧いただけるよう,よろしくお願いします。
4Gamer:
ありがとうございました。
インタビュー中でも触れているが,パンヤのサービスが始まった当初は,植田氏自らが広報担当やGMを兼務して,目まぐるしく働いていた。それが今や,日本を代表するオンラインゲーム運営元の社長として,一躍時の人である。それだけに,氏の言葉には説得力があり,勉強させられることも多かった。
アイテム課金については,さまざまな考え方があるだろう。良い面ばかりでないのは,言うまでもない。しかし植田氏は,この方式をビジネス的にクールに判断し,メリット(会員を増やしやすい,客単価を上げやすい)/デメリット(アップデートに左右されやすい,収益予測が立てづらい)を把握して,メリットを最大限に引き出しつつ,デメリットを最小限に抑える方法を採択した。それがパンヤ,いや,ゲームポット成功の理由だろう。
最近,さまざまなオンラインゲームがアイテム課金制に移行していく。それらが,植田氏のような確固たる方法論を基に決断されたものであれば,メーカーもユーザーも嬉しい良い市場になっていくことだろう。
さて,ゲームポットから,このインタビュー時にプレゼントをいただいた。右に掲載したNET CASH500円分を,2枚一組で5名にお贈りしよう。来週のプレゼントコーナーに出すので,お楽しみに。