― 特集 ―

 

オンラインゲームの新しい"あり方"が見え隠れしていたのが印象的

Text by Seal

 昨年あたりから本格派MMORPGの開発中止,軌道修正などによる開発期間の延長などが頻繁に起こり,MMORPGジャンルも過渡期に突入して淘汰が始まったと感じざるを得ないシチュエーションとなっていた。そんな中開催されたE3では,コンシューマ機の新機種発表ラッシュの追い討ちによって,さらに縮小しているのではという疑念が頭から離れなかった。そこで,今年のE3ではある計画をこっそりと実行してみた。


 いろいろとネガティブニュースが飛び回っていても,すでにゲームの1ジャンルとして根付いているMMORPG。グラフィックスが進化しても,ゲームシステムやバランスがライト志向になっても,根本的なコンセプトは同じであるはず。なので,淘汰が起こって"改革"が始まっても,オンラインでの協力プレイ,対戦プレイの楽しさというのは,姿を変えて受け継がれていくだろうから消滅はしないだろう。個人的にはこの部分についてはとくに不安に思うところはないのだが,関連するところに大きな問題があると感じている。


 MMORPGというジャンルだけでの近頃の懸念材料&注目発表といえば,RMT(リアルマネートレーディング)だ。RMTは韓国,中華圏ではネットカフェを中心に一般的に行われているようだが,日本ではオンライン上で相手の顔が見えない状態で行うことが多いために,否定的な意見を持つ人もいる。個人的な意見としては,「対価を払ってゲームを進めやすくしているんだからいいんじゃない?」となるのだが,そうそう簡単に結論が出せる問題でもなく,それならば各メーカー,プロデューサーの意見を聞いてみようじゃないかということである。これが,コッソリ計画だ。


 図らずもオンラインゲームのデベロッパとして,おそらく数年後でも元気に活動していそうなSOE,NCsoft,スクウェア・エニックスのCEO/プロデューサーにインタビューする機会があったので,この計画を遂行してみた。
 詳しくは各インタビュー記事を参照(編注:5月31日までに掲載されていないのもあります)してほしいが,各人がいわんとしていることをまとめてみると,ぼんやりと数年後のオンラインゲーム市場の形が見えてこないだろうか。各社(各人?)の今年の動向は注目しておかねばと思った次第である。

 

 

やっぱり今年のPCゲームのラインナップも中身が濃いよなあ

Text by 奥谷海人

 今年のE3出展タイトルを一言で表すキーワードを挙げるとすれば「マルチプラットフォーム」となるかもしれない。開催前夜に行われた「ファイナルファンタジーXI」のXbox360対応という仰天ニュースから始まり,もはや複数のプラットフォームをサポートするのは当たり前になってきたような気がする。
 マルチプラットフォーム化の流れは,「まずソフトウェアありき」という観点とも一致するものだ。特定のゲームを楽しむためにハードウェアを買わされているのではなく,面白いソフトをボーダレスに楽しめるようになるということは,より幅広いユーザー層にアピールしたい作者側や提供者だけでなく,ゲームを楽しむ我々受け手側にもメリットが大きいはずだ。CDであろうがDVDであろうが,ダウンロードしたMP3ファイルであろうが,聴いているのは"お気に入りのあの曲"という至極当然の選択肢が,ゲームエンターテイメントにおいても日常化しつつある。
 その半面,新作ソフトをニュースとして読者にお届けする立場の人間として,今後の事前情報の入手や取材の方法も見直さなければならないのではと考えた。今回のE3ではとくに,XboxやXbox 360用のコントローラを握って"PCゲーム"を取材する回数が半端でないほど多かった。もちろん,キーボードが置かれていない状態では見逃してしまうことが多々あったし,「The Chronicles of Riddick」で筆者が注目している開発メーカーStarbreeze社の新作「The Darkness」や,Epic Games社の最新フランチャイズ「Gear of War」がPC用でもリリースされるかもしれないという情報を得ていても,会場では確定できずに素通りしてしまうこともあった。


 筆者が個人的に注目しておきたいソフトは,やはりマルチプラットフォームではないPC専用ゲームから選びたい。ジャンル別では,アクションゲームなら「バトルフィールド2」や「F.E.A.R.」など,会場でもプレイアブルで出展されていたデモが素で面白かった近日公開予定の作品群。ムービーだけだった「Prey」や「Enemy Territory:Quake Wars」の発売は2006年以降だろうが,何か新しいことをしようという試みに好感が持てる。
 ストラテジーゲームなら「Sid Meier's Civilization IV」と「Rise of Nation:Rise of Legends」,そして「Company of Heroes」が楽しみ。RPGならダントツで「Hellgate: London」,MMOでは「Age of Conan:Hyborian Adventures」や「Dungeons & Dragons Online」に次世代的なゲーム性を感じるし,シミュレーションゲームでは,そのアイデアにただ脱帽するしかない「Spore」や,映画好きのツボを刺激する「The Movies」あたりは遊び倒しそうだ。
 こうやって列挙すると,やっぱり今年のPCゲームのラインナップも中身が濃いよなあ。

 

 

やはり天才の一人に数えられる人のやることは違うなぁと実感

Text by 星原昭典

 ゲームをプレイしたり,その情報を調べたりしていて最も興奮するのは「うわ,こんなのは見たことがない!」と思わされる瞬間だ。


 E3 2005に出展されていた作品の中でそのような気分を味わわせてくれたのは,まず「Spore」。GDCで情報が公開されたときから非常に気になっていた作品だ。構想が大きすぎてゲームとしての完成像が見えないという意見もあるようだが,それほどゲーム離れした作品でもないように思える。また完成像が見えにくいところこそ個人的には魅力的な部分の一つである。まったく様相の異なったフェイズをWill Wright氏はどのようにつなげていくのか,画面を見ているだけでも想像はどんどん膨らんでいく。完成する前からこういう楽しい時間を与えてくれるあたり,やはり天才の一人に数えられる人のやることは違うなぁと実感する。


 この「Spore」同様,見たことのないような経験をプレイヤーに提供してくれそうなゲームが「The Movies」。こちらもゲーム業界の大御所の一人Peter Molyneux氏が手がける作品だ。E3 2005では以前から出ていたものに加えて,さらなる情報の提供があったわけではなかったが,「いったいどんなゲームになるんだろう」という想像力をかき立てられるという点では「Spore」同様の存在感を持っている作品である。
 開発スケジュールが遅れることで有名なMolyneux氏だが,面白そうな作品ならある程度はワクワク感を保ちつつ待っていられる(限界はあるが)。可能であれば年内,遅くとも2006年初頭にはプレイしたいと願っているが……彼の作品の発売日について甘い期待は持たないほうがいいということは,ほかの多くのゲーマーと同様に筆者も学習済みだ。「Black & White」とかで。


 RPG方面では「Fable」のPC版「Fable:The Lost Chapters」に期待。Xboxでは日本語版もリリースされているので,ぜひこちらも日本語でプレイさせてもらいたいものだ。「The Elder Scrolls IV:Oblivion」については言うに及ばすというところだろう。
 もう一つ注意深く情報を追ってきたいと考えているのは,「Vanguard:Saga of Heroes」。正直なところ,現在判明しているゲーム要素を実装しているというだけでは,この作品はあまりセンセーショナルなものにはならないと思う。インスタンスの存在がMMORPGの遊び方に変化を与えたように,次の世代のRPGにはやはりプレイの様相に変化を与えるような新たなフィーチャーが必要なのではないかと思う。今のところVanguardにそのような何かがあるという情報はないが,そういったMMORPGの新たなブレイクスルーの創造を最も期待されている男が,かつて何も無い荒野に「EverQuest」を産み落としたBrad McQuaid氏だと思えるのだ。プレイヤーが真に興奮できる新たな世界をぜひ見せてほしいと切に願っている。

 

 

仕事さえなければ,E3は最高に楽しいのだ,ちくしょう

Text by 松本隆一

 行く前は,「今年は地味かな?」と思っていたE3 2005。なにせ,「DOOM3」「ハーフライフ2」といった,昨年までやたら盛り上がっていたタイトルが発売されてしまい,さらに今年は次世代コンシューマ機が相次いで発表される,ということもあったため,PCゲームは"目玉不足感"が強いかもしれないと思っていた。その予想はまあ,半分ぐらいは当たっていたけど。


 個人的に気になっていたのは「Quake IV」「Unreal Tournament 2007」「Call of Duty 2」「バトルフィールド2」「Grand Theft Auto:San Andreas」「The Sims2:Night Life」あたりだろうか。いずれも話題性は上々で,よく知られたタイトルでもある。取材の都合で前三者を見る時間はとれなかったが,「Unreal 〜」以外はムービー展示ということで,その正体が見えるまでにはもう少し時間がかかるようだ。Quake IVはE3よりQuakeConを重視している,ということもあるだろう。


 Midwayの「Area51」,ATARIの「Boiling Point:Road to Hell」,Take-Two Interactiveの「Call of Cthulhu:Dark Corners of the Earth」,Digital Jestersの「Bet on Soldier」も,今後追いかけていきたいタイトルだ。Call of Cthulhuは,発表からかなり経っており,まあ,ほとんどダメだろうなと思っていたので,E3でプレイアブルな展示があったのは嬉しい驚き。Bet on Soldierのヨーロッパ的なダークな雰囲気は,日本人にそれほどたくさんいない「Iron Storm」プレイヤーである私には,ちょっとグッと来るものがある。
 アドベンチャーゲーム「DreamFall:The Longest Journey」は,ノルウェーのデベロッパFuncomの手になるタイトルだが,主にヨーロッパでヒットした「The Longest Journey」の続編的な作品ということもあり,もしかしたら「シベリア」のように大化けするかも知れない。私は,こっそり健闘を祈っているのである。日本語版希望だ。


 数は多くはないが,活きのいいデベロッパも見かけたし,次世代機はどう考えてもPCとの親和性が高いので,両者の垣根はどんどん低くなるだろう。相互に刺激しあう事柄も増えるはずだ。遊んでみたいタイトルも多いし,今から来年のE3が楽しみでもある。仕事さえなければ,E3は最高に楽しいのだ,ちくしょう。