― 特集 ―

 

ハマりすぎて仕事が遅々として進まない自分の姿が,今からはっきりと目に浮かぶ

Text by 大路政志

 先輩スタッフから事前にE3のつらさを聞かされてはいたものの,実際現地に行って体験させられた地獄の日々は,完全に想定の範囲外だった。個人的には,取材というよりも"反省会込みのスパルタ研修旅行"を受けさせられた気分。いい経験をさせてもらいました。


 そんな状況だったため,多くの出展作品を冷静にチェックできたとは到底考えられないのだが,それでも,非常に気になるタイトルがいくつも確認できたことは確かだ。
 最も注目していた「Hellgate:London」がプレイアブル出展されていたことは,ゲーマーとして,そして純粋にBill Roper作品のファンとして嬉しかった。当初はFPSの戦闘システムに疑問を抱いていたものの,従来のFPSよりも簡潔な操作系統とゲームのテンポ,「Diablo」シリーズ以上のリプレイアビリティを実際に体感してみて,安堵と歓喜をおぼえたものだ。そのアクション性の高さも,プレイヤースキル向上の楽しみを生むが,不器用な人に対しての足かせにはならない程度の難度。本作にハマりすぎて仕事が遅々として進まない自分の姿が,今からはっきりと目に浮かぶ。


 そのほかでは,「Guild Wars」や「Auto Assault」といった,対人志向の高いMMORPGの存在も気になった。筆者自身いくつかのMMORPGを遊んでいるが,日本のゲーマーには直接的な対人要素を否定的に捉える層が実に多い印象を受ける。チャットソフトとしてのMMORPGや,"狩りを効率化するための狩り"を延々と繰り返すだけの作業に辟易しているプレイヤー層も確かに存在するわけで,そろそろ単なる暇つぶしではなく,勝利という明確な目的をモチベーションのよりどころとするようなMMORPGの台頭を期待したいところである。とくに,e-Sports化を狙っているというGuild Warsには,日本での展開も含め,MMORPGというジャンルの新たな発展のために,ぜひ頑張ってもらいたいところである。
 上記した作品とはまったくジャンルが違うが,「Call of Cthulhu:Dark Corners of the Earth」も興味深かった。単に筆者がCthulhu神話ファンということもあるのだが,パラメータとして"狂気度"を導入した点,狂気が生んだ幻覚がゲーム画面に反映される点,狂気度やヘルスといったパラメータが一切画面に(数値として)表示されない点は,ややアクションゲーム寄りになりつつあるこの手のアドベンチャーに,"恐怖"を呼び戻してくれるのではないかと期待している。ショッカーよりもホラーを!

 

 

願わくはその周辺に多様なゲームの世界が,豊かに広がっていってほしい

Text by Guevarista

 えー,大路政志と並んでE3初参加の私。レジストレーション時にペンネームを確認されそうになってドキドキしたり(そりゃあなた,"ゲバラ主義者"ですよ?),現地のスーパーで買った電気ポットで眠気覚ましのお茶を淹れまくり,4日でティーバッグ1箱を空にしたり,たまさか出来た空き時間にハリウッドの新しいショッピングモールを目指したはいいが,降りる駅を間違えてあえなくタイムアップ,そのまま近くのディスカウントショップでわけの分からないものを買って帰ったりと,もう八面六臂の活躍ぶりだったわけです。
 インターネット接続の不調で,二度にわたって部屋を移ったときもきちんと連れて行った電気ポットですが,米国在住のライター松本隆一氏が身柄を引き取りにきてくれなかったため(いや,とてつもなく忙しかったんだと思います)涙を飲んでホテルに置いてきました。ロスのホテルに滞在して,なぜか自分の部屋にだけポットがあると気づいたあなた,ぜひご一報ください。もし確認がとれたら,今日からあなたが里親です。


 え,仕事の話ですか? うーん,大作ゲーム/メーカーの話は歴戦の諸兄にお任せするとして,あえて周辺の話題で個人的に感じたことといえば,ロシア/東欧の元気な中小メーカーは,やはり侮れないということですね。例えば,RTSの市場的な成功で道が分かれてしまったストラテジーというゲームジャンルで,RTSの魅力を踏まえ,かつ"正統な"ストラテジーゲームをきちんと作れるのは,案外彼らなのかも,とか。
 E3 2005会場は派手なムービーとXbox 360の話題で花盛り。メジャー指向=コンシューマゲーム的=ハリウッド化したゲームもいいけれど,願わくはその周辺に多様なゲームの世界が,豊かに広がっていってほしいなあ,などと。
 あーそれと,会場にはドワーフの格好をしたリアルなオジさんとか,M-1カービン持った米陸軍第一師団の憲兵とか,各メーカーの仕出したロールプレイのヒトが大勢いたわけですが,ラテン語で(?)歌いながら近づいてくるローマ兵の一団とエスカレータで出くわしたときの脱力感は,なかなかいい感じでした。何事につけ,真顔で突き抜けることが重要です。

 

 

"遊び方に対する仕掛け"を軽視しないでほしい

Text by TAITAI

 国内でも多くの人が注目しているであろう「Age of Empires III」(以下,AoE3)が,今年のE3ではプレイアブル版として展示されていた。「まだまだ出来ていないのではないか?」と思っていたせいもあってか,ここまで出来上がっていたのかと少し面食らってしまったわけだが,美麗なグラフィックスや物理エンジンを駆使した細かい演出,そしてホームシティシステムなど,期待させる要素が目白押しなのはサスガの一言。とくに後者のホームシティシステムは,RTSの対戦の"プレイ感"を変える可能性を持つという意味で,非常に興味深いシステムだといえるだろう。
 というのも,RTSに限らずMMOでもなんでもそうだが,今や"オンライン"であることには特別な意味が無くなってしまっている。まぁコンシューマゲーム機に関してはいまだ疑問符が付くのかもしれないが,少なくともPCゲームに関していえば,"オンライン"はもはや当たり前の"一要素"に過ぎない。
 ならば,これからの"オンライン要素"(オンラインゲームと言ってもよいが)というのは,"オンラインが当然あるべきもの"と前提したうえで,具体的に「それをどう楽しませてくれるのか?」というところの勝負が,製品の差別化という部分で重要にならざるを得ないわけだ。"対戦"に絞って例を挙げれば,

 

 ●ただ対戦だけをしていても張り合いがないなぁ

   →ランキングシステム

 ●自分と同じくらいの強さの相手がいないと対戦なんか面白くない

   →マッチングシステム


などというのが,"対戦を前提"としたうえで生まれてきたサービス(システム)。実際,このようなシステムがない対戦ゲームなどというのはもはや考えにくく,極端な話,たとえゲームがいかに素晴らしいものであっても,今さら「チャットで対戦相手を募る」ようなシステムでは,そもそも"対戦"それ自体が成り立たないのである。(少なくとも,そういった"手間"は大きなデメリットになる)
 ここで話をAoE3のホームシティに戻すが,これについての説明を受けたときに感じたのは,「ああ,先を考えているな」というものである。つまりは,上記のようなランキングやマッチングさえ"あって当たり前"だとした場合に,どう差別化するか,どういう面白さ/遊びを提示するかを考えた結果出てきたのが,あのホームシティという概念なのではないかと感じた次第。もちろん今の段階ではシステムの是非について判断をくだすことはできないが,RTSの世界に一石を投じることになるのは間違いないのではないか。
 そもそも,今の対戦ゲーム全般に関して言わせてもらえば,長らく「勝ちか負けか」という一つの評価軸しかない点もかなり問題である。格闘ゲームなどでよく言われる"キャラ勝ち"などという言葉は,その弊害の良い例。私としては,単純な勝ち負け以外の評価軸が用意されていても,それはそれで面白いのではないかと思うのだが,需要がないのか一向にそういった要素が考慮される気配がないのは残念。


 例えば,サーバーに履歴が残るような対戦システムなのであれば,使用するキャラクターやユニットの"使用頻度"をランキングシステムに組み込んで,"あまり使われないキャラ"で勝利した場合にはポイントに補正が掛かる……などといった仕組みはどうだろうか? 「こんなキャラで勝つなんてすげえ!」という今だと自己満足でしかない要素を,ちゃんとシステム面でフォローしてあげても面白いと思うのである。そうすれば,わざわざ個性(強い弱いも個性のうちだと考える)を削り取って,どこでも誰でも大差なくなってしまうようなバランス調整をしなくて済むし,"弱いキャラ"をあえて使う意味も出てくる。昨今のRTSでは,リプレイの普及によって戦術の固定化(定石化)が激しいが,そういったサーバーにデータが残ることを利用したランキングシステムなんていうのも,今の状況を打破する仕掛けとしては悪くはないだろう。そもそも,マッチング自体が"データを利用した仕組み"なのだから。
 ……って,なんだかあまりE3に関係ない話かも,ですね。ともあれ,映像的な表現力が飛躍的に高まっている今だからこそ,そういった"遊び方に対する仕掛け"を軽視しないでほしいと感じた次第。とくに対人要素が絡むオンラインゲーム(オンライン機能があるタイトル)ならばなおさらだ。性能面での機能アップもいいが,サービスや仕掛けの面でもより一層の発展を期待したい。