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オウルベアはどのように生まれた? 「バルビレッジ」インタビュー

Text by 麻生ちはや 

 2005年10月に正式サービスを開始したばかりの,ブラウザベースのオンラインゲーム「バルビレッジ」。梟(フクロウ)と熊を合体させたキャラクター「オウルベア」を操作し,愛嬌のある家具で自宅を飾ったり,ほかのオウルベアとのんびり会話を楽しんだりする癒しゲームだ。とくにこれといった目的が設定されているわけではなく,目立った派手さがあるわけではないのだが,現在も女性を中心に爆発的に会員数を伸ばしている。
 正式サービスアナウンス後は,次々とアップデートされて新機能が追加されており,その変化の速さには目を見張るものがある。今回はそんな本作の,オウルベア誕生から今後の展開にいたるまでのお話を,ジークレスト バルビレッジ プロデューサー齋藤惣吉氏と,ジーウェブ代表取締役 白井好美氏にうかがってみた。

 

■ジークレスト オンラインゲーム事業部
 プロデューサー 齋藤 惣吉氏
■ジーウェブ
 代表取締役 白井 好美氏

バルビレッジはどのように誕生したのか

4Gamer

 「バルビレッジ」は,普段4Gamerで取り扱っているオンラインゲームとはかなり様相が異なるので,実は何から質問したらよいのか戸惑っていたりします。まずは,どういった経緯や発想からバルビレッジが生まれたのか,そのあたりの話からお願いします。

 

齋藤氏
 「バルビレッジ」自体は,最初コールドブレス(※ビジュアル/ゲームデザインを担当)さんとジーウェブ(※ジークレストと共同運営者,システム開発を担当)さんの企画で立ち上がり,私がサイバーエージェントにいるときに話を耳にして,3社共同のような形で世に出ました。こうして去年の10月25日にオープンしてから今に至る……というわけです。

 

4Gamer
 初めて「バルビレッジ」の企画を耳にしたとき,どんな感想を抱かれました?

 

齋藤氏
 ちょうど1年半前ぐらいに白井さんにお会いしたとき,既にクローズドβ中でして,そのときは「あぁ,『どうぶつの森』に近いゲームなのかな」という感想でしたね。

 

白井氏
 「バルビレッジ」を企画したのは,2年ぐらい前のことです。そのころは携帯電話でメールのやりとりをするのが当たり前になって,メールで第三者とやり取りをするという行為が普通になってましたよね。女性でも携帯を通じて,“まったく知らない人と気軽にコミュニケーションを取る”という段階が一つ上がったと思ったんです。じゃあそこで“PCでも何か女性向けの,コミュニケーションを楽しめるものが作れないか”と考えたのがきっかけでした。

 

4Gamer
 最初から女性をターゲットにしていたんですね。

 

白井氏
 そうですね,男性向けのオンラインゲームやコミュニティサイトはすでに数多くあったので,女性が安心して遊べるコミュニティを作りたかったんです。まずは“パソコンに不慣れな人でもコミュニケーションしやすいこと”という部分からスタートしました。

 

4Gamer
 ははぁ,なるほど。

 

白井氏
 コミュニケーションの一つとして「チャット」という形がありますが,キーボードに慣れない人はチャットをするにも出遅れてしまい,なかなか会話についてけないことが多々ありますよね。チャットしなくてもコミュニケーションが取れるように,バルビレッジでは簡単な挨拶や感情をボタン一つで表せる「アクションボタン」という機能を,まず最初に搭載しました。このアクションボタンだけでもある程度のコミュニケーションは成立しますし,さらにこの可愛いアクションそのものが特徴になってるんです。

 

齋藤氏
 ただ,女性に媚びようという意識はありません。アバターのような人間ではなく,男女問わず可愛いと感じられるキャラクターをコールドブレスさんにお願いしたら,この丸っこい「オウルベア」が生まれたのです。

 

白井氏
 「バルビレッジ」のコンセプトは,単に「可愛い」ではなく,実は「クール&ポップ」を重視してます。あまり可愛らしさばかりを強調すると,結局すぐに飽きられてしまいますから,女性に媚びた展開を避けた「可愛いけれどカッコいい」がコンセプトです。

 

4Gamer
 「カッコいい」が含まれていたんですか! 確かに,視線が空のほうに向けられていたりと,可愛い中にもニヒリズムがあるような,ないような。ゲーム全体に冷めた色合いが多いのは,クールな部分のコンセプトゆえですか。

 

齋藤氏
 ああ,これは冬用のパネルだからですよ(笑)。春になったら,また違った地面が顔を出します。背景が真っ黒なのは,オウルベアすなわちフクロウだから,夜しか活動しないんです。

 

4Gamer
 あ,これは夜だったんですか。カラフルな家具が映えるようにだと思っていました。昼は訪れないのですか?

 

齋藤氏
 ゲームに接続していない時間がオウルベアの眠っている時間,すなわち昼間です。

 

4Gamer
 なるほど,この背景にそんなストーリーがあったとは思いませんでした。

 

齋藤氏
 ファンタジーの世界では「Dungeons & Dragons」の頃からオウルベアという妖怪がいるので,もともとはそこから来ているのかなと思います。

 

4Gamer
 オウルベアのデザインは,ほかにも候補があったんですか?

 

白井氏
 今のキャラデザインに一発で決まりましたね。丸くて可愛らしくて,子供も大人も受け入れやすいキャラクターということで。オウルベアは熊とフクロウがベースで,顔の輪郭がハートマークぽいのがフクロウの名残です。オウルベアの基本コンセプトは「癒し」なので,MMORPGで戦いに疲れたり,仕事に疲れた男性もバルビレッジで癒されてほしいです。

 

4Gamer
 デザイナーさんは女性じゃないかと推測しているのですが。

 

白井氏
 いえ男性なんです。ほかのアイテム類をデザインしてるのも男性スタッフがメインですね。

 

4Gamer
 オウルベア同士がビールで乾杯すると,友達になってピヨパワーが増えるという,ユニークなアイディアはどこから生まれたんでしょう。

 

齋藤氏
 これはコールドブレスさんからのアイデアでして,もともとは「指輪物語」に登場するホビット村のイメージなんです。彼らのように,いつも陽気にビールを飲んで楽しく過ごしてるイメージというお話を,以前うかがいました。

 

白井氏
 ちなみにあれは「バルビア」という,お子さんやアルコールの弱い人でも安心なオリジナルドリンクなんです(笑)。

この不思議なゲームのプレイヤー層は?

4Gamer
 会員の年齢層はどのあたりが最も多いのでしょう?

 

白井氏
 小学生から20代まで幅広いです。

 

齋藤氏
 とくに偏りがなくて,本当に全年齢層均等に,という感じですね

 

4Gamer
 登録者数と同時接続者数を教えていただけますか?

 

齋藤氏
 ごめんなさい,そこはちょっと……登録者数はおよそ毎月2万人増というペースとだけお伝えしておきます。

 

4Gamer
 では男女比率はどんなものですか?

 

白井氏
 女性が80%です。

 

4Gamer
 女性が圧倒的ですね! やはり女性会員を意識したPR活動をされたのでしょうか?

 

白井氏
 特定の層を意識してPRを行ったことはないです。ネットを中心にPR活動はもちろんしていますが,実は口コミの訴求力が大きくて,とくにBlogの影響がかなり大きいです。実際, 「バルビレッジ」でGoogle検索をかけると,blogが1500件ぐらい出てきますよ。

 

齋藤氏
  「バルビレッジ」を作ったコールドブレスさんは,ソネットの「Lively Island」を作ったところでして,そこでの口コミ効果もあったみたいですね。

 

4Gamer
 Livelyの会員がこちらに移ってきたということでしょうか。

 

白井氏
 そういうこともあるかもしれません。

何をするのが目的なのか

4Gamer
 初めてログインしたとき,まず「何をすればよい」という目的が見つけにくいゲームではありますよね。散歩しているうちに,「アイテムを集めて自分なりに家をコーディネートしてみたい」という欲求は生まれますが,ピヨパワーだけでアイテムでも持てるようになるのは大変ですし。最初からコンボキューブの収集を目的としたゲームなんでしょうか。

 

白井氏
 コンボキューブは,実は複数のプレイヤーで集めてアルファベットを揃えれば,全員のコンボリストに追加されるので,みんなで共同作業するというのは目的の一つになってます。コンボリストをすべて完成させたプレイヤーは,すでに全体の1割ぐらいいますよ。

 

齋藤氏
 まだまだ発展途上のゲームなので,まったりスローライフ感の中で「目的」をどう提供していくかが,今後の課題です。「自由に何をしてもいい」というのは,実は「不自由」でもあるので,ある程度はこちらで目的を持たせてあげる,というのも必要かなとは思っています。

 

4Gamer
 散歩していると,ときどき誰の家もない空き地で,とても上手にデザインされた場所を見かけることがありますが,あれは運営側で配置しているのですか?

 

齋藤氏
 いいえ,我々はそういったことは一切行っていません。ホスト側で行うアイテム配置は完全にランダムに頼っているので,もしテーマに沿ってデザインされた空き地があったとしたら,それらはすべてプレイヤーの誰かが作り上げたものです。椅子と机を並べて学校風にしてみたり,岩と池で温泉を作るというのが最近の流行りのようですね。

 

白井氏
 そういったプレイヤーの「遊び」の傾向を見ていると,自分達で「村」を作っているというケースがありますね。マップを見てみると,ところどころに家が集中しているエリアがありますね。このあたりが「村」です。例えばここの村では,青いマットと岩を上手に配置して,巨大な海や川を作り上げているんです。オウルベアの像を自由の女神に見立ててみたり……。そこに集まったプレイヤー同士が協力して,巨大なオブジェクトを作り上げているのです。

 

4Gamer
 わわ,本当に海に見えますね。こんな形でプレイヤーが独自の遊び方を考えるとは,当初予想していました?

 

齋藤氏
 ここまで熱心に,というのは予想していなかったですね。村ごとに,どう作り込むか相談しているようですし。 「バルビレッジ」はアイディア次第でいくらでも遊べる世界なんですが,そこが逆に分かりにくさにもなってしまっているので,こういった遊び方を自分達で発展させられるプレイヤーが大勢いるというのは,かなり嬉しいです。

 

白井氏
 逆に一人遊びを楽しむプレイヤーも,徹底して一人遊びしていますね。例えば一人でピアノの発表会をするプレイヤーとか……。聴衆は運んできた犬や羊で,演奏会の写真に「羊も一緒に聴いていました」などのコメントを添えているのを,Blogで見かけました。

 

4Gamer
 そのたびにアイテムを集めるのは相当大変ですが,そこがまた楽しいんですよね。ところで,1月25日から無料化されたペットアイテム「ケルベロス」ですが。自宅のアイテムを勝手に持っていったり,置いていったりできなくする「ケルベロス」は,課金アイテムとしてはかなり強力な商品ですよね? それを無料化に踏み切ったということは,やはりそれを望む声が多かったのでしょうか。

 

齋藤氏
 これはプレイヤーの要望の大きさに応えて,そうなりました。本来バルビレッジの世界観からいうならば,アイテムを勝手に持っていかれても気にしない。巨大なおもちゃ箱を,そこに住むオウルベアみんなで共有している,という感覚がコンセプトなのですが。やはり気持ち良く遊んでもらうためにどうしても必要であれば,そこは改善していきます。

 

4Gamer
 それにしても,「ケルベロス」って地獄の番犬ですよね。こんな可愛らしいキャラクターに,この名前というのは……。

 

齋藤氏
 これもコールドブレスさんのデザイナーさんが,デザインも名称も全部まとめて考えてくれました。「ケルベロス」についてはバックストーリーがあって,過去のメルマガで掲載しているんですよ。

 

4Gamer
 今後もアイテムの種類や新しい遊び要素は加わると思いますが,基本のシステムは今現在のもので完成系でしょうか。

 

齋藤氏
 いえ,まだまだ予定している機能はあります。1月に追加されたレーダー機能のように「こんな機能があったら便利なのに」という部分は,今後も追加していく予定でいます。残念ながら,まだ公表できるレベルのものはありませんが。

今後どのように発展していくのか

4Gamer
 オンラインゲーム業界全体で考えたときに,「バルビレッジ」のポジションというのは難しいですよね。例えば,「バルビレッジ」って「ラグナロクオンライン」のゲーマー層を狙っているタイトル……というのとは,まったく違うところにいますよね。

 

齋藤氏
 そうですねぇ。競合コンテンツというのは実は結構ありまして,「Lively Island」「メロメロパーク」「タグふれんず」あたりが,同じカテゴリだと思います。ただ,もちろん意識はしていますが,単にキャラクターや世界観だけでの差別化とは違い,バルビレッジは独自性が強いゲームなので,ほかのタイトルとの差別化は,きっちりできているという自信があります。

 

4Gamer
 将来的には,どういったポジションを目指していますか。

 

齋藤氏
 遠い将来というより,オンラインゲームというのは足元をきっちり見て,そのときのプレイヤーの要望に応えながら進めていくものです。今の段階では「バルビレッジ」をもっと洗練したシステムにして,より多くの人に楽しんでもらうべきです。その後,いずれはグッズ展開や映像化も考えていきたいですね。ただ,やはりゲーム自体が盛り上がってこそですから。

 

白井氏
 とりあえず,将来的に実現させたい大きなプロジェクトとしては,携帯電話版の開発ですね。

 

4Gamer
 「バルビレッジ」では,アップデート計画というのはどのように用意されていますか。年間アップデート計画などもあるのでしょうか。

 

齋藤氏
 短期スパン,長期スパンと両方用意して,柔軟に対応できるようにしています。短期スパンのアップデートで得られた反応を見て,長期計画を微調整ですね。基本的には毎月アップデートしていきたいのですが。

 

4Gamer
 直近で予定されているアップデートなどがありましたら,教えていただけませんか。

 

齋藤氏
 実は現在,そのために徹夜続きなんですが,ただちょっとスケジュールや内容については,まだ言えないんですよ。

 

4Gamer
 最後に,女性率80%という「バルビレッジ」について,90%が男性という4Gamer読者に向けてコメントをいただけますか。

 

齋藤氏
 「バルビレッジ」の今のキャッチコピーは「毎日忙しく暮らしているならこの村でのんびり暮らそう」なので,忙しいゲームに疲れたら,ここでぜひ癒されてください。

 

白井氏
 「バルビレッジ」の遊び方はあなた次第です,ゆっくりのんびりした世界の中で,自分なりの遊び方を見つけてください。

 

4Gamer
 ありがとうございました。

 正式サービスが始まったばかりということもあり,齋藤氏,白井氏共に,今後実現したい機能やアイテムなど,アイデアを山ほど抱えている,と語ってくれた。
 この独特の世界観,テンポなど,一般的なオンラインゲームと異なるのはもちろん,ただ単に可愛いキャラクターでチャットができるというだけの代物ではないということは,一度プレイしてみればすぐに分かるはず。とくに今,注目を集めている作品の一つなので,まずは気軽に始めてみてはいかがだろうか。

 

 

タイトル バルビレッジ
開発元 ジーウェブ 発売元 ジークレスト
発売日 2005/10/25 価格 基本プレイ無料(アイテム課金)
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP,CPU:Pentium III/500MHz以上,メインメモリ:64MB以上,IE5.5以降のバージョン,Macromedia Flash Playerプラグイン,1.5Mbps以上のインターネット接続環境,解像度1024×768ドット(XGA)以上のディスプレイ

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