― 連載 ―
NVIDIA SLIにまつわるナゾを一気に解決

 前編で二つの疑問に答えたが,実はまだ疑問が五つ残っている。前回から少々間が空いてしまったが,後編ではこの五つをまとめてすっきりさせたいと思うので,さっそく始めよう。

NVIDIA SLIの疑問(3)
CrossFireにある「SuperAA」のNVIDIA版はないの?

 ATI Technologies(以下ATI)のデュアルグラフィックスチップソリューション「CrossFire」についての解説(「こちら」)で説明したとおりだが,CrossFireには,2個のグラフィックスチップでゲーム画面の高画質化を目指す「SuperAA」という動作モードがある。パフォーマンス向上はハナから狙わず,アンチエイリアシング(以下AA)処理のサンプリング数を増やして,ジャギーを徹底的に低減した映像を提供するというコンセプトで,ATIはCrossFireならではのソリューションと訴えている。

 この件に関するNVIDIAの反論はこうだ。「NVIDIA SLIを利用すれば,1600×1200ドットの解像度で4x AAや8x AAを適用しても,過度に遅くなったりせず,十分まともに3Dゲームをプレイできる」。正直,これだけだと苦しいとしかいいようがないが,NVIDIAはその根拠として,興味深い指摘を行っている。それは,CrossFireの発表会で「ハーフライフ2」を使って行われたスクリーンショットの対比が,インチキだった,というものだ。
 CrossFireの発表会において,NVIDIAの8x AAスクリーンショットとして提示された画面は,ゲーム側の設定をMedium Quality(標準画質)にしたときのもので,ATIのほうはHigh Quality(高画質)設定だったと,NVIDIAは指摘する。ゲーム側の設定をHigh Qualityにしてから,GeForce 7800 GTXで8x Transparency AA(透明テクセルを含むテクスチャに対して高品位なアンチエイリアス処理を実現するとした機能で,GeForce 7800シリーズから新たに搭載されたもの)を適用した状態において同一シーンで比較すると,ディテールはATIの14x SuperAAと同等で,ジャギーはGeForce 7800 GTXのほうが少ないとした。なお,下に挙げたスライドは,いずれもNVIDIAが用意したものである。

左:ATIが「GeForceで8x Transparency AAを適用した結果」とする画面は,ハーフライフ2のMedium Quality設定を利用した結果であり,公正でないとするNVIDIAのスライド
右:ハーフライフ2の画面設定をHigh Qualityにして,8x Transparency AAを適用すると,14x SuperAAより高画質とNVIDIAは主張する

16x AAのサポートを宣言するNVIDIAのスライド

 さらにNVIDIAは,最新グラフィックスドライバであるForceWare 77.77で,NVIDIA SLI動作時に限って16x AAを実現してきた。NVIDIAは6月の時点で「向こう(=ATI)14xならばこっちは16x。しかも,CrossFireは依然として市場に出てこないではないか? もしかすると,14x SuperAAが出てくる前にうちが16xを出してしまうかもしれないな(笑)」と言っていたが,そのとおりになったというわけだ。詳細は「こちら」の記事を参照してほしい。実用上の意義についてはさておいて,NVIDIAの関係者はさぞかし気持ちのいいことだろう。

NVIDIA SLIの疑問(4)
同一メーカー&ロットじゃないと動作しないって本当?

 NVIDIA SLIについてはいくつかの"都市伝説"的な噂が飛び交っており,その一つに「同一メーカー製,同一ロットの組み合わせでしかSLIは動作しない」というものがある。
 実際はどうなのか。NVIDIAはこの噂をデマと切って捨てており,「グラフィックスBIOS(VBIOS)のバージョンが一致していなくてもNVIDIA SLI動作に支障はない」と説明する。同一メーカーの,同一スペックのカードであれば動作保証されるのだ。

異なるメーカー,異なるスペックのグラフィックスカードでもNVIDIA SLI動作できるようになるとするスライド。それぞれ単独でオーバークロック動作させられる,という記述も見える

 さらに,Release 80以降のForceWareでは,異なるカードベンダのグラフィックスカードを組み合わせても,NVIDIA SLI動作が可能になるようだ。
 そう発表したNVIDIAによれば,2枚のカードで動作クロックが異なっていても,正常に動作する仕組みを取り入れるとのこと。しかも,グラフィックスチップごとに個別のオーバークロック設定を行えるようにするという。グラフィックスメモリ容量の違いまで許容するかは明らかにしなかったが,CrossFireの「異なるスペックのカードを組み合わせて動作できる」という柔軟性への対抗策であることは明らかだ。

NVIDIA SLIの疑問(5)
異なるパイプラインのカード2枚でNVIDIA SLI動作可能?

Cross Fireに関するのホワイトペーパーの最終ページ「Ultimate Flexibility」(究極の柔軟性)のセクションを見ると,CrossFireが異なるパイプラインのRadeon間で動作できることをアピールした記述がある

 CrossFireでは,パイプライン数の異なる2枚のRadeonを組み合わせて動作させられる。ただし,その場合は「パイプラインの少ないグラフィックスチップ×2のCrossFire」として動作し,筆者としては実用性に疑問を持たざるを得ない,ということについては,CrossFireの解説時(「こちら」)に述べたとおりだ。
 例えば16ピクセルパイプライン内蔵のRadeon X850 XTと,12ピクセルパイプライン内蔵のRadeon X800 XLを組み合わせると,CrossFireはRadeon X850 XTの4パイプラインを不活性化し,12ピクセルパイプラインとして動作させる。だから,普段はデュアルディスプレイ環境で利用していて,対応ゲームをプレイするときだけ毎回手動でCrossFireモードに切り替える,というならいいかもしれない。だが,そうでなければ,Radeon X850 XTを持っている人が,わざわざパフォーマンスの落ちるRadeon X800 XLと組み合わせてCrossFire動作させる意味はないだろう。逆も然りだ。

 筆者と同様,NVIDIAもこの「異なるパイプライン数のグラフィックスカードを組み合わせる」手法のには懐疑的な立場をとっており,「対応の意味がない」と指摘する。よって,先ほど説明したように,Release 80世代のForceWareで異なるスペックのグラフィックスチップの組み合わせを許容するNVIDIAも,GeForce 6800 UltraとGeForce 6800,といったような,パイプライン数の異なる組み合わせまでは許容しない可能性が高い。

NVIDIA SLIの疑問(6)
nForce4以外のチップセットで利用できないの?

 NVIDIAは現在,NVIDIA SLIソリューションを「プラットフォームソリューション」として考えている。このため,2005年夏の時点で,NVIDIA SLIの動作保証はNVIDIA製チップセットであるnForce4 SLIシリーズ限定だ。これに対し,CrossFireについては他社製チップセットでのサポートがほのめかされている。
 しかしNVIDIAは,Intel,VIA Technologies,SiSといったチップセットメーカーとの連携を拒否しているわけでないようで,「将来的に他社製チップセットにおけるNVIDIA SLI動作をサポートする方針はある」と説明する。ただ「NVIDIA SLIは動作しました,でもパフォーマンスはまったく上がりません」では,ユーザーに悪い印象を与えてしまうから,サポート外にするケースはあるとした。

 2005年夏の時点で,PCI Express対応のメインストリーム向けチップセットがサポートするPCI Expressレーン数は20。NVIDIA SLI対応のnForce4 SLIシリーズも20レーンで,NVIDIA SLI時は2本のPCI Express x16スロットを2本のPCI Express x8スロットとして動作させている。一方,nForce4 SLIシリーズ以外のチップセットでは,こういったレーン数の可変には対応しておらず,PCI Express x16は16レーンで固定され,残る4レーンがグラフィックスカード以外のデバイス用として提供される仕様だ。つまり後者の場合,NVIDIA SLI動作させるには「PCI Express x16と,PCI Express x4/2/1を組み合わせる」といった構成しか選択できない。

NVIDIAが2004年6月に発表した最初期のNVIDIA SLIソリューションに関する資料から。最初のNVIDIA SLIデモはIntel E7525チップセット搭載のデュアルXeonマザーボードで行われた。ちなみにこのマザーボードはSupermicro Computer製「X6DA8」

 実際のところ,この組み合わせによるNVIDIA SLI動作は可能で,NVIDIAも初期のデモはこのスタイルで行っていた。しかし,NVIDIAには現在,NVIDIA SLIによって最低でも1.5倍のパフォーマンス向上を保証したいという意向があるようで,固定のPCI Express x16スロットと残るレーンによる組み合わせで,1.5倍という目標を達成できるかどうかは調査中とのこと。ゆえに「今はこれを公式サポートとするかどうか公言しない」としている。レーン数はともかく,Intel 955X Expressチップセット搭載の一部マザーボードはPCI Express x16スロットを2本搭載しているが,これでNVIDIA SLIが可能になるかどうかは,現時点では未定としかいいようがないのである。

NVIDIA SLIの疑問(7)
「NVIDIA SLIコネクタ」にどんな意味があるの?

 6月末にリリースされたRelese 75シリーズのForceWare,ForceWare 77.72からは,NVIDIA SLIコネクタがなくても,同一メーカー,同一スペックのグラフィックスカードを2枚差せば,NVIDIA SLI動作させられるようになった。

 そもそも,NVIDIA SLIコネクタが何のために存在するのか,ここで確認しておこう。NVIDIA SLI動作時,テクスチャデータの制御や,グラフィックチップ描画コマンドの制御は,システムのメインメモリ側に確保された共有メモリ(Shared Memory)を介して行われる。2個のグラフィックスチップは,PCI Expressバスを経由してデータをやりとりしたり,PCI Expressバスの先にある共有メモリでデータを読み書きしたりするのだ。
 そして,そのルートから独立して単独で,スレーブ側(ディスプレイ出力を行わないほう)のレンダリング結果であるデジタルピクセルデータをマスター側(ディスプレイ出力を行うほう)のグラフィックスチップに伝送するための経路が,NVIDIA SLIコネクタである。言い換えると,これまでNVIDIA SLIコネクタが担当していた,デジタルピクセルデータの転送が,ForceWare 77.72以降ではPCI Expressバス&共有メモリ経由で行えるようになった。
 NVIDIA SLI用コネクタがあるGeForce 6/7シリーズとnForce4 SLIチップセットの組み合わせでは,NVIDIA SLIコネクタを利用しない理由がない。だから,何の意味もないと思うかもしれないが,実は明確な目的が存在する。それは「NVIDIA SLI用コネクタ接続用インタフェースがカード上に用意されていない,GeForce 6600でNVIDIA SLIを実現する」というものだ。
 GeForce 6600シリーズは上位のGeForce 6600 GTと下位のGeForce 6600に分かれるが,NVIDIA SLI用のインタフェースが用意されているのは前者のみ。GeForce 6600 GTとGeForce 6600のグラフィックスコアはいずれもNV43で,動作クロックが異なるだけだ。つまり,GeForce 6600のグラフィックコア自体にはGeForce 6600 GTと同様のNVIDIA SLI機能が埋め込まれているわけで,ForceWare 77.72以降は,この機能を有効にするものなのである。

"コネクタレスNVIDIA SLI"のパフォーマンスを検証してみる

 とはいえ,当然の疑問も出てくるだろう。そう,わざわざNVIDIA SLIコネクタを用意していた以上,利用しない方法には何か不利な点があるのでは? という,至極もっともな推測だ。
 NVIDIA SLI動作時に,2個のグラフィックスチップが画面を半分ずつ描画すると仮定して,1024×768ドット,32ビットカラーでフレームレート60fpsを維持する場合,1024×768ドットの半分で約90MB/sの帯域幅を消費する計算になる。同一条件で解像度を1600×1200ドットに変更すると,半分で約219MB/s。NVIDIA SLIコネクタを使わなければ,これだけの量のデータがPCI Expressバスの帯域幅を消費するわけで,パフォーマンスへの悪影響が多少なりとも発生しそうだ。
 というわけで,前編と同じ,のテスト環境で,GeForce 7800 GTX×2のNVIDIA SLI構成とした状態から,NVIDIA SLIコネクタを使った場合と使わなかった場合の2パターンで「3DMark05 Build1.2.0」(以下3DMark05)を実行し,シングルカード時とパフォーマンスを比較してみた。結果はグラフ1のとおり。

スペック
グラフ1

 NVIDIA SLIコネクタ利用時と比べて,2〜8%程度のスコア低下が見て取れる。まあ,予想どおり,利用できる環境でわざわざNVIDIA SLIコネクタを取り外す意味はないのだ。

左:GeForce 7800 GTX搭載カード×2で,NVIDIA SLIコネクタを利用せずにNVIDIA SLIを利用しているところ。とりあえず動作することに意義がある?
右:ForceWare 77.72以降でNVIDIA SLIコネクタを使わないままNVIDIA SLIを有効にしようとすると,コネクタを用意したほうがいいというメッセージが出現。これは「でもまあとにかく動作しますよ」というお知らせも兼ねている

GeForce 6600/6200でNVIDIA SLIが動作するか確認する

 パフォーマンスの件が明らかになったところで本番。GeForce 6600/6200のNVIDIA SLI動作を検証してみることにしよう。
 GeForce 6200シリーズは,メインメモリの一部をグラフィックスメモリとして利用する「TurboCache」機能搭載のNV44コアが主流だ。しかし,「GeForce 6600のパイプラインを一部動かなくして出荷している」と噂され,実際にGeForce 6600のコアであるNV43に,「Value」の「v」を付けたNV43vコアを採用したGeForce 6200も存在する。このNV43vコアを採用したGeForce 6200なら,NVIDIA SLI動作できるかもしれない。
 そこで,グラフィックスカード以外のテスト環境は先ほどの表に示した環境のまま,NVIDIA SLI用接続インタフェースを持たない,MSI製のGeForce 6600カード「NX6600-VTD256EH」と,玄人志向製のGeForce 6200カード「GF62-E128H」をそれぞれ2枚ずつ用意。NVIDIA SLI動作を試みてみることにした。

NX6600-VTD256EH。コアクロック300MHz,メモリクロック550MHz(275MHz DDR)で,ファンレス動作可能だ。グラフィックスメモリは128bit接続で256MB搭載。実勢価格は1万7000円前後である
問い合わせ先:エムエスアイコンピュータージャパン TEL:03-3866-7763
http://www.msi-computer.co.jp/

GF62-E128H。実勢価格1万円前後という安価さが魅力の製品だ。コア300MHz,メモリ550MHz(275MHz DDR)で動作し,メモリ容量は128MB。Sparkle ComputerのOEMとなっている
問い合わせ先:玄人志向
http://www.kuroutoshikou.com/

NX6600-VTD256EHをマザーボードに差した例。NVIDIA SLI用コネクタカードは利用しない。ちなみにカードはよく見ると搭載するコンデンサなどが異なる

 まず,動作できるようになったとされるGeForce 6600のNVIDIA SLIだが,確かに動作した。スコアはグラフ2にまとめたとおりだが,3DMark05では,カード1枚時と比べて64%もスコアの向上を確認できている。NVIDIAリファレンスのGeForce 6600 GTカード×1と比べても,わずか1%ではあるが,スコアは上回った。
 一方,GeForce 6200のほうは,結論からいうとダメ。PCI Express x8接続で2枚のGeForce 6200カードが独立して動くだけに終わった。ForceWareのプロパティにもNVIDIA SLI動作設定のメニューが出現しなかったので,どうにもならないようだ。

グラフ2

 ここからは,無事NVIDIA SLI動作を確認できたGeForce 6600に絞って話を進めるが,GeForce 6600にアップグレードパスが用意された点は素直に歓迎したい。  とはいえ,「じゃあみんな,GeForce 6600を2枚買おうぜ」と勧められるのか,といえばそうでもなかったりする。
 最近は特価販売が行われるため,もっと安い場合もあるが,2005年8月時点におけるGeForce 6600の実勢価格は16000円前後,GeForce 6600 GTが2万円前後だ。GeForce 6600×2に3万円強払って,2万円で購入できるGeForce 6600 GTより数%速いだけでは,コストパフォーマンスでとても割に合わない。

 GeForce 6600のNVIDIA SLIは,ForceWare 77.72の「NVIDIA SLIコネクタを利用しないNVIDIA SLI」は,nForce4 SLI搭載マザーボードと,GeForce 6600搭載グラフィックスカードをすでに1枚所有している人に向けたアップグレードパスなのだ。技術的には興味深いが,実際の使用シーンはかなり限定されたものになると思われる。

まとめ

 NVIDIA SLIが登場して1年。CrossFireも発表され,もう第何ラウンドか数えるのも面倒なほど繰り返されているATIとNVIDIAの戦いは,さらなる局面を迎えたわけである。
 そんななか,「こちら」の記事で紹介したように,NVIDIAは2005年8月8日,nForce4 SLIチップセットの上位モデルとなる「nForce4 SLI X16」を発表した。
 ここまで読んでくれた読者に説明の必要はないだろうが,これまでのnForce4 SLIでは,NVIDIA SLI動作時に2本のPCI Express x16スロットはPCI Express x8 ×2として動作する。これに対してnForce4 SLI X16では,NVIDIA SLI動作時であっても2本のPCI Express x16スロットがフルスピードで動作するのだ。これからNVIDIA SLI環境の導入を考えている人にとっては,無視できない存在となるだろう。
 もっとも,(まだCrossFire自体が絵に描いた餅状態とはいえ)ATIがそれをそのまま「はぁ,そうですか」と放置しておくわけがないわけで,何らかの動きがいずれあるに違いない。
 3Dゲーマーにとって無視できなくなってきた「ビデオカード2枚差し」ソリューション。我々は「GeForceとRadeonのどっちがいいか」という問題だけでなく「ATIとNVIDIA、どっちの2枚差しが美味しいのか」ということまで考えてビデオカードを選択しなければならなくなってきたのだ。(トライゼット 西川善司)