― レビュー ―
GeForce 7シリーズの安価な第2弾は買いか?
WinFast PX7800 GT TDH MyVIVO 256MB
Text by 桑原雄二
2005年8月11日

 

■20ピクセルパイプラインの廉価版

GeForce 7800 GT

 日本時間2005年7月11日22時,NVIDIAGeForce 7シリーズの第2弾にして,先行するGeForce 7800 GTX(以下7800GTX)の下位モデルに当たるGeForce 7800 GT(以下7800GT)を発表した。最大の違いは,7800GTXが24本のピクセルパイプラインを搭載するのに対して,7800GTが搭載するピクセルパイプライン数は20本に制限されていることだ。とはいえ,1世代前のハイエンドグラフィックスチップに当たるGeForce 6800 GT/Ultraが搭載するピクセルパイプライン数は16本なので,これらよりは高いパフォーマンスが期待できそうだ。本稿では,発表直後の7800GT搭載グラフィックスカードを利用し,主として描画性能検証を行っていきたいと思う。

 

■7800GTXより若干短いリファレンスカード

WinFast PX7800 GT TDH MyVIVO 256MB。今回はリードテックジャパン高速電脳の協力により,2枚用意できた

 今回入手したのは,Leadtek Research(以下Leadtek)製の「WinFast PX7800 GT TDH MyVIVO 256MB」(以下PX7800GT)。今回も,初期ロットからしばらくの間は,各社とも同じNVIDIAのリファレンスカードを採用するようだ。実際,同社の日本法人であるリードテックジャパンも,PX7800GTがNVIDIAのリファレンスカードを採用したものであることを暗に認めている。
 動作クロックはコア400MHz,メモリ1GHz(500MHz DDR)。ピクセルパイプライン数が少ないだけでなく,動作クロックも7800GTXよりもそれぞれ30MHz,200MHz低いことになる。

念のため,CoolBitsを有効化して,動作クロックを確認してみた

 さて,カードを見てみよう。7800GTグラフィックスチップの周囲をメモリチップが囲むレイアウトは見慣れたものだ。メモリバスは7800GTXと同じ256bit。カードの表側に8枚のメモリチップを搭載し,グラフィックスメモリ容量256MBを実現している。下に掲載した写真を見てもらうと分かるが,7800GTXのリファレンスカードにはあった空きパターンが7800GTのリファレンスカードにはないため,グラフィックスメモリ容量は256MBまでとなる。この仕様変更のためかどうか,カード長は7800GTXより10mmほど短い。
 グラフィックスチップとメモリチップは,7800GTXが搭載していたものに似た,大きなチップクーラーで覆われているが,ヒートパイプを備えない簡略なものになっている。クーラーはやはり1スロット仕様だ。

 

左上:チップクーラーを取り払ったカード表面
右上:カード裏面。メモリチップ用の空きパターンは用意されていない
左下:搭載するメモリチップはInfineon Technologies製の2ns品だった。1GHz駆動なので,チップのスペックどおりに動作しているわけだ
右下:AOpen製の7800GTX搭載グラフィックスカード「Aeolus PCX7800GTX-DVD256」と長さを比較してみた。若干コンパクト

 

■スコアは7800GTXの1〜2割引きだが,SLI環境では差が詰まる可能性も

 さて,前振りはここまでにして,さっそくベンチマークテストを行っていきたい。PX7800GTの付属ドライバCD-ROMには「ForceWare 77.76」が付属していたが,NVIDIAが2005年8月11日中に公開予定の「ForceWare 77.77」を事前に入手できたので,今回はこちらを利用することにした。そのほかのテスト環境はのとおり。機材調達の都合上,Athlon 64のコアはClawHammerである。この点は頭に入れておいてほしい。

 

 シングルグラフィックスカード時におけるテストは「3DMark05 Build1.2.0」(以下3DMark05)「Far Cry」「TrackMania Sunrise」で行った。いずれのアプリケーションにおいても,垂直同期と解像度以外の設定をいっさい変更していない状態「標準設定」と,8倍(8x)のアンチエイリアシング(以下8x AA),16倍(16x)の異方性フィルタリング(以下16x AA)を適用した状態とで,解像度を変更しながらテストを行った。なお,Far CryではHardwareOCの「Far Cry Benchmark v1.4.1」を用いている。TrackMania Sunriseでは,53秒程度で1周する「Paradise Island」というマップのリプレイを3回連続で実行し,「Fraps 2.60」を利用して計測した平均フレームレートをスコアとした。また,比較用にはAOpen製の7800GTX搭載グラフィックスカード「Aeolus PCX7800GTX-DVD256」を用意している。

 

 結果はグラフ1〜6のとおり。結論からいえば,7800GTと7800GTXでは,7800GTXのほうが12〜20%程度高速だ。コアクロック(約8%),メモリクロック(20%),ピクセルパイプライン(20%)という3要素がスコアの差を生んでいるのは間違いない。一方で,高解像度環境や高度なフィルタリング適用時といった高い負荷のかかった状況下でも,7800GTと7800GTXとの差が常に一定という点は興味深いところである。

 

 

 時間の都合でFar Cryのみとなるが,NVIDIA SLI接続時のパフォーマンスもチェックしておこう。スコアはグラフ7,8にまとめたが,シングルグラフィックスカードでテストしたグラフ3でもCPUがボトルネックだっただけあって,標準設定時のスコアは解像度を上げてもまったく変わらない。それに対して,高負荷のフィルタリングを適用したグラフ8では,スコアの差は9%程度となり,7800GTと7800GTXの差が詰まるのが分かるだろう。

 

 

■ForceWare 77.77で有効になった"16x AA"の効果を検証する

 さて,もう一つNVIDIA SLIにちなんだ話を。意外と知られていないが,NVIDIAはRelease 75世代の最新ドライバであるForceWare 77.77で,「SLI antialiasing」(以下SLI AA)という機能を追加した。これは端的にいうと,NVIDIA SLI動作時に限り,16倍(16x)のAAを有効化するという機能。身も蓋もない言い方をするなら,ATI Technologies(以下ATI)が"ATI版SLI"「CrossFire」で実現しようとしている14x AA機能「Super AA」対抗の機能だ。7800GTXでも利用できるので,7800GT固有の機能というわけではないが,ここでチェックしてみることにしたい。

 SLI AAはForceWare 77.77において,オーバークロック機能などと同じように隠し機能扱いになっており,NVIDIA製グラフィックスカードのユーザーにはお馴染みの「CoolBits」によって有効化する必要がある。CoolBitsの導入方法については,NVIDIA SLIを採り上げた「こちら」の記事で細かく説明しているから参照してほしいが,CoolBitsのDWORD値を「FF」に設定すると,ForceWareの「パフォーマンスと品質の設定」にある「マルチGPUレンダリングモードの選択」のプルダウンリストに,「SLI antialiasing」という項目が追加される。これを選択したうえで,さらに「ドライバのグローバル設定」から「詳細設定」を選択すると,「アンチエイリアシング設定」の項目が「SLI8x」と「SLI16x」の二択になり,8x,もしくは16xのSLI AAを利用できるようになるのだ。

左:CoolBitsの設定を行うと,SLI antialiasingを選択できるようになる
右:SLI 16xを設定した状態。先に「アプリケーション」や「アクティブプロフィール」のプルダウンからアプリケーションを選択してしまうと,SLI antialiasing設定を行えなくなる場合があるので,SLI antialiasingを利用する場合はあらかじめドライバのグローバル設定を利用するようにしておこう

 

 画質テストに当たっては,TrackMania Sunriseの「EDITOR」モードを使って,さまざまなオブジェクトが乱立するマップを作り,そこにクルマを配置して,まったく同じ場面をキャプチャできるようにした。結果が分かりやすいよう,解像度は800×600ドットにしている。また,標準設定(No AA)以外では16x Anisotropicを適用している。
 テスト結果は下に示したとおりだ。左上が標準設定,右上が8x AA&16x Anisotropicで,左下が8x SLI AA&16x Anisotropic,右下が16x SLI AA&16x Anisotropicである。すべて同一部分を拡大しているので,全体を見たい人はクリックして拡大してみてほしい。

 

■標準設定■8x AA&16x Anisotropic
■8x SLI AA&16x Anisotropic■16x SLI AA&16x Anisotropic

 

 ざっと見てみよう。上段では,標準設定に対して8x AAの画質は非常によくなっている。SLI AAは下段の二つ。左の8x SLI AAは,鉄塔など,欠けている部分が目立ち,残念ながら8x AAと比べてあまりきれいとはいえない。一方,16x SLI AAだとそのようなことはないが,8x AAとの違いがあまりないことも分かる。サムネイルの中央より少し左にある木を見れば,違うのは分かるが,エッジ部分よりも幹の中央部あたりの色の違いのほうが目立つという結果だ。思ったほどの画質向上はなさそうである。
 問題は8x SLI AAだ。8x AAとの違いはそれほどないはずなのだが,なぜか,かなり違った絵になってしまっている。とにかく現時点では,8x AAを差し置いて8x SLI AAを使うメリットは見いだせなかった。

 

 では,SLI AAがパフォーマンスに与える影響はどれほどだろうか。一部のスコアをグラフ7,8から流用しつつ,グラフ7,8のテスト条件で,8x/16x SLI antialiasingを適用した場合にスコアがどう変動するかをグラフ9にまとめてみた。パフォーマンス面では,8x SLI AAが8x AAより若干優れているようだ。また,グラフ8と比較すると分かるが,「16x SLI AAの負荷は,シングルグラフィックスカード時の8x AAと同じ」というわけにはいかないようで,スコアが若干落ちる傾向にある。

 

■発熱面では7800GTXに比べて大幅に改善

 最後に,PX7800GTのチップクーラーが持つ冷却能力をチェックしておこう。ここでも比較対象はAOpen製の7800GTXカードだ。7800GT搭載グラフィックスカードでは,チップクーラーの性能やうるささに各社間で少なからず差があるようなので,PX7800GTを購入の選択肢に入れている人にとってはとくに注目すべき部分といえるかもしれない。
 チップクーラーのファンは負荷によって回転数(≒騒音)が変わるタイプ。そこで,Windows XPの起動後から30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark05を30分間連続実行し,終了した直後を「高負荷時」として,ForceWareからチップ温度を計測してみた。PCケースに入れないバラックの状態で,テスト時の室温は約24度。
 結果はグラフ10のとおりだ。リファレンスクーラーを採用する7800GTXでは,高負荷時に75度を超えるのに対し,PX7800GTでは51度と大幅に改善しており,安心して利用できそうだ。静かさという意味では7800GTXのリファレンスクーラーに若干分があるものの,発熱の危険をあまり考える必要がないのは,PX7800GTの魅力といえる。

 

 

 7800GTがパフォーマンスで7800GTXに劣るのは当然のことだ。つまり,絶対的な性能を求めるなら,7800GTは始めから選択肢に入らない。
 PX7800GTの予想実売価格は4万8000円前後。2005年8月11日現在,6万〜6万3000円程度で販売されている7800GTXより1万円以上安価な点を,どう捉えるかがポイントになるだろう。NVIDIA SLI時のスコアはなかなか優秀なので,NVIDIA SLIを積極的に利用するなら,2枚でも10万円以内に収まるPX7800GTは,かなり魅力的な選択肢といえるのではなかろうか。逆にいえば,NVIDIA SLIをあまり想定していないなら,あと1万円奮発して7800GTXカードを手に入れたほうが幸せになれるかもしれない。