4Gamer:
クラブリセットについて聞かせてください。正直いって,せっかく育てたクラブをやり直す人はあまりいないと考えているのですが,あのシステムはどんな狙いがあるのでしょうか。
椎野氏:
制作中,いくつか大きな議論があったんですが,クラブリセットもそのうちの一つでした。自分のクラブを,ずっと育成し続けるようにするべきか否か,という議論ですね。WCCFのようにリセットすべきだという意見と,ずっと育て続けられるべぎだという意見に分かれましたね。私も相当思案しました。
4Gamer:
それぞれにメリット/デメリットがあるわけですね。
椎野氏:
育成し続けるタイプだと,リーグ上位のクラブが固定されてしまい,後から入ってきた人が上位になりづらくて,結果的にドロップアウトしてしまう。私達はこの状態を“淀む”と呼んでいるのですが,淀みがひどくなると,時間をかけなくても遊べる/強くなれるという基本コンセプトに反してしまいます。
逆に強制リセットだと,それがゲームをやめるきっかけになってしまうんですよね。どっちにするべきかさんざん悩んだんですが,結局どちらにもしなくていいだろうという結論に達しました(笑)。
4Gamer:
リセットするかどうかの選択権を,プレイヤーに与えたということですか?
椎野氏:
そうなります。このクラブリセットは最初からやり直すという“ゼロリセット”ではなく,スポンサーの数や統制値など,リセット前のクラブから,かなりのものを引き継げます。リセットすると1番下のディビジョンから再スタートするのですが,最初のプレイ時と比較すると楽に勝てるので,短時間で元いたディビジョンに帰ってこられるでしょう。そして,地力の底上げが行われているので,上位ディビジョンにきたときには,以前手も足も出なかったクラブを打ち倒せる可能性がかなり高くなっているわけです。
4Gamer:
なるほど,そこでリセットしたクラブに負けたクラブが,リセットして再び這い上がってくる,といった具合にプレイヤーが循環するわけですね。
椎野氏:
もちろん愛着のあるクラブをじっくり強化して,ずっとプレイし続けるのもアリです。やり方によってはリセットしたクラブに負けない可能性だってありますからね。
ただ,リセットしないと,クラブの施設などを全部作れないようになっています。ですから,リセットしたほうが有利ではあります。どのタイミングでリセットするかも重要な決断でしょうね。またリセットして新クラブを作るときは,別のリーグも選択できます。青く見えていた隣の芝生を実際に味わえますよ。
4Gamer:
「ディビジョン1での1位」という目標を達成してしまったら,いったい何をモチベーションにして遊べばいいのだろうと心配していたので,この話を聞いて安心しました。
MMORPGだったら,モチベーションを掻きたてるために,ダンジョンや新アイテムなどを追加するんだろうなと想像できるのですが,サカつくONLINEにダンジョンはないですからね。
椎野氏:
あ,ダンジョン入りますよ。
4Gamer:
え!?
椎野氏:
いや,まあ正確にいうと違いますが,自分の強さを試せる場という意味では,ダンジョンといえると思います。
4Gamer:
できればもう少し具体的に教えてください。
椎野氏:
常に一定の強さを持ったクラブと戦えるモードですね。過去の名クラブを複数用意してあるので,プレイヤーはそのクラブと対戦することで,自分のクラブの絶対的な強さを計れます。まだ,具体的にいつというのは言えませんが,いまの同じディビジョンのクラブとの戦いで相対的な強さを計って,これを使って絶対的な強さを知ってもらいたいと思います。
4Gamer:
そんな要素も隠し持っていたんですか。まだまだ秘密がありそうですね。
椎野氏:
現段階では,まだまだ皆さん,ゲームのあまり深いところまでつかんでいないと思います。どのディビジョンまで昇格したかとは関係なく,開始から3週間ぐらいでは,深い森の入口といったところですね。長く遊んでもらえることを前提に開発していますし,いろいろな仕掛けを入れ込んでいます。今は「この要素,なんのためにあるんだろう?」という部分も,将来的には重要な意味を持ってきますよ。
そうですね,3か月ほどプレイしてもらえれば,森の全体像がおぼろげながら分かるようになってくると思います。カードや選手の相場感と戦術の流行などの関係が分かってくるようになると,さらに面白くなってくると思いますよ。
4Gamer:
プレイ料金の月額1500円というのは,どういう経緯で決めたのでしょうか。
椎野氏:
今までにお話ししたコンセプトを考えると,アイテム課金,つまりお金を払った人が強くなる,というシステムはマッチしませんよね。同一条件で競ってもらう,というのが大前提なので。商業的にはアイテム課金のほうがいいのは分かっていたのですが,コンセプトは崩したくなかったので月額課金にしました。
4Gamer:
無料期間を設けるようなことは考えなかったのでしょうか?
椎野氏:
私達もサカつくONLINEがシステム的に複雑で,面白さが伝わりづらいのは十分に把握しているので,無料期間を設定するということは考えました。ですが,短期の無料期間だとゲームの仕組みを理解する前に終わってしまう。そこからどれだけゲームに残ってもらえるのかは正直まったく読めないんですよね。また,サービス開始当初は,サカつくONLINEの目指すコミュニティカルチャーを形成する最も重要な時期と捉えていましたので,あえて無料ユーザーをそこに介入させないという意図もありました。
とはいえ,将来的には,サカつくONLINEを遊んでいる友人に誘われると優遇されるなど,さまざまなキャンペーン展開を検討しています。ぜひ期待していてください。
4Gamer:
友人を誘いやすくなるのは嬉しいですね。ところで,現在(編注:取材時は5月9日)はスタートしてから2週間強という段階ですが,参加状況としては予想どおりですか?
椎野氏:
ほぼ想定したとおりですね。もちろん,多いに越したことはないですが(笑)。
4Gamer:
プレイヤーからの反応はいかがでしょうか。
瀧井氏:
非常によいと思います。自動進行型スポーツゲームはジャンルとしても新たな試みでしたので,プレイヤーの反応がどうなのか,開発中は心配していましたが,今は手応えを感じています。これはプレシーズントライアルの話なんですが,アンケートをとったところ,驚いたことに96%の方が面白いと言ってくれたんですよ。よくて6〜7割くらいだと思っていたんで,初めは何かの間違いじゃないかと思ったんですけど(笑)。
4Gamer:
ということは,コンセプトが受け入れられたということでしょうか。
椎野氏:
現段階ではそう思っています。私としては,こういう自動進行型のゲームが,オンラインゲームの新たなジャンルとして定着してくれると嬉しいですね。
4Gamer:
自動進行型システムは,プレイヤーにも新鮮な刺激を与えているようですね。私の周囲のプレイヤーにも,ログインしている時間は短いのに,ゲームのことを考えている時間は長く,それが楽しいという人がけっこういます。仕事中でも,ふと「あ,今ちょうど大事な試合をしているところだな……」とか気になって仕方がないんですよね。
椎野氏:
私も今,昇格ギリギリの順位にいるんですが,やっぱり気になりますよね。なんというか,常に“読みかけの本”がそこにあるという感覚ですね。時間があると手にとって読み進めてしまう,そういうゲームにしたいと思っています。
4Gamer:
公式サイトにある「スタッフ裏日記」で,「サカつくONLINEにおいてユーザーが取る『選択』という行動の数自体は今までのゲームよりも圧倒的に少ないが,その一つを選ぶために考えなければならない要素は,ほかのMMORPGよりもはるかに多い」と書いてありますよね。まさにそういうゲームになっていると思います。
椎野氏:
試合と試合の間は,短くても2時間あります。プレシーズントライアルのときなどは,「やることがない,もっとやることを増やしてほしい」,という意見もいただきました。ですが,その時間こそがサカつくONLINEにおいて最も重要な「考える時間」なんですよ。
4Gamer:
クリックする回数は少ないのに,考えることは多いという不思議なゲームですよね。
椎野氏:
次に対戦するクラブの情報,多く使われている戦術が何かなど,調べることはいっぱいあるんです。そしてそれを調べてもらうためにわざと,ほかのプレイヤーの情報を事細かく見られるようにしているんです。そういった情報をしっかり収集して,現在のリーグの中で順位を上げるための一手を打つのか,それとも理想のクラブを目指して,先を読んだ行動をとるのかなどを考えながら遊んでもらいたいですね。
4Gamer:
なるほど。ほかのプレイヤーの情報がオープンなのはそういう狙いがあったんですね。さっそく帰ったら,いろいろと情報収集します。では最後に,読者へ向けてのメッセージをお願いします。
瀧井氏:
これからも,プレイヤーがじっくり考えたくなる要素を増やしていきますので,長く楽しんでください。また,まだサカつくONLINEを遊んだことのない人は,ぜひサカつくコミュニティで,プレイヤー達が実際にどんな風に遊んでいるのかを見てください。きっと楽しさが分かると思います。
椎野氏:
まだはっきりとは分からない部分も徐々にオープンになってきますので,じっくり遊びつつ楽しみにしていてください。また,私の周りでも遊んでいる人達がいるのですが,「○○獲ったよ」とか「金貸して!」などと,直接言い合いながら楽しんでいます。オンラインゲームではありますが,会社の同僚といったリアルな友人と一緒に遊んでください。違った楽しさを体験してもらえると思いますよ。
4Gamer:
本日はどうもありがとうございました。
サカつくONLINEのサービス開始から約3週間。短時間の接続で楽しめる自動進行型のオンラインゲームに対し,プレイヤーからの声は全般的に好意的のようだ。しかし椎野氏は,「プレイヤーはまだサカつくONLINEの内奥にたどり着いていない」と言う。現状は設定したコンセプトが理解されだした段階であり,それがプレイヤーに受け入れられつつある兆しが見えているに過ぎないのだという。
椎野氏の言葉をそのまま受け取るなら,サカつくONLINEの正しい評価は,少なくとも3か月は待たなくてはいけないだろう。まずはプレイヤーの一人として,どんな仕掛けが待っているのかワクワクしながら,開発側の手のひらの上で心地よく遊び続けたい。(2007年5月9日収録)