4Gamer:
はじめまして。今日はよろしくお願いいたします。4Gamerには初めて登場していただくことですし,これまでのゲーム開発歴などを教えていただけますか。
ダイス 取締役 最高創作責任者
サイトウ・アキヒロ氏(以下,サイトウ氏):
ファミコンの初期の頃から開発には関わってきていますが,表に出せるタイトルとしてはPCエンジンの「ダウンロード」(1990年,NECアベニュー)や,酒井法子さんが登場する「鏡の国のレジェンド」(1989年,ビクター音楽産業)などですね。元々HAL研究所で開発をやってきたので,「ジャンボ尾崎のホールインワン・プロフェッショナル」(1988年,HAL研究所),「メタルスレイダーグローリー」(1991年,HAL研究所)などにも関わってきました。
4Gamer:
懐かしいタイトルがたくさんありますねぇ。しかもジャンルも幅広く。
サイトウ氏:
そうですねぇ……。ニンテンドー64の「糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!」(2000年,HAL研究所)や,64DDの「シムシティー64」(2000年,HAL研究所),ゲームボーイアドバンス版の「セガラリー」(2002年,セガ)。それから最近ですと,プレイステーション2の「ガンパレード・オーケストラ」(2006年,ソニー・コンピュータエンタテインメント)なんかもやってきました。
4Gamer:
どれも一定以上の評価を得ているタイトルですよねぇ。ジャンルもタッチも幅広く……。
でも今回発表された「天晴!からくりボウリング」は,オンラインゲームということですが,これまでにオンラインゲームを開発したことはありますか?
サイトウ氏:
実は本格的なオンラインゲーム自体は,今回が初めてです。
4Gamer:
どうして今回,オンラインゲームに取り組むことになったのでしょうか。
サイトウ氏:
20年以上,ゲームを開発してきたんですが,年々ゲームマニアしか遊べないようなタイトルが増えてきたと思うんですよ。子供の頃にゲームを遊んできた人が大人になっていって,そういう人達をターゲットにゲームを作っていくような形で。
4Gamer:
シリーズの続編ものがどんどん増えていて多すぎですよね。
サイトウ氏:
ええ,任天堂の岩田社長の言葉を借りると「このままではゲーム業界は静かに死にゆく」というような状況で。任天堂の場合,ペン入力を採用したニンテンドーDSのような新しいインタフェースのゲーム機,さらには「脳を鍛える大人のDSトレーニング」なんかを投入して,離れていったゲームファンを呼び戻すと同時に,新しい市場を開拓していますよね。僕自身も同じことをずっと思っていたんです。
4Gamer:
ゲーム開発歴が長いからこその危機感ということですね。
サイトウ氏:
そこでですね,今回はカジュアルゲームということで,コアじゃない人達が,豊かに遊べる空間を作るチャレンジができるのではないかと考えたわけです。
4Gamer:
カジュアルゲームならば,PCのスペックにもあまり左右されず,幅広い層の人達が遊んでくれる可能性がありますもんね。
ただ,今の日本のオンラインゲーム市場は,広がってこそいますが発展途上であって,まだまだガッチリと根付いているとは言いづらい段階だと思います。このタイミングを選んだということは,何か勝算があるのでしょうか。
サイトウ氏:
実はカジュアルゲームということで,コンシューマでやってきたことに比べて,開発がそう重くはないんです。先ほど発表会では,開発状況を30%程度と言ったんですが,あと数か月で残りの70パーセントを作れるんですよ。期間だけでなく,開発予算にしてもコンシューマよりも少なくて済みますし。
短期間かつ低予算でも作れるということが,我々にとって単純に嬉しいんですね。ハイリスク・ハイリターンを狙うのではなく,低リスクの中でいろいろな挑戦ができるチャンスだと思ったんです。
4Gamer:
確かにコンシューマの大作になると,開発期間も開発予算もものすごいことになってますよね。結果的に,ある程度の売り上げが見込めるシリーズ続編ものが増えるという……。
サイトウ氏:
実際,ガイアックスさんから声をかけていただいて,企画が立ち上がったのは2005年の夏ぐらいのことです。で,秋ぐらいからレッド・エンタテインメントさんに参加してもらって……。
4Gamer:
半年経ったか経ってないかぐらいなんですね,想像以上に短い期間です。
サイトウ氏:
ほかにもですね,ガイアックスさんのゲームビジネス開発部の佐別当氏が,韓国や中国,台湾などでもこのゲームを売っていきたいと先ほどの発表会でおっしゃっていましたが,これも魅力でした。
実際,韓国などには日本のゲームが好きな方も大勢いるんですよね。日本製で,手軽に楽しく遊べるゲームがあれば,歓迎してくれると思うんです。そこに勝機はあるかなと。それもあって,和風のテイストを強調しています。
4Gamer:
海外の市場には,どんな魅力があるんでしょう?
サイトウ氏:
やっぱりある程度市場が確立している点ですね。それに,海外で人気があるとされているタイトルの中には,コンシューマであれこれやってきた我々の目から見ると,う〜ん……ってなっちゃうようなものもあって。そういうところに,我々が作ったものを持って行って一石を投じたいっていうのはあります。
4Gamer:
単純にゲーム開発という面では,日本に一日の長があるんだぞ,と。では,それなのに日本でオンラインゲームへの取り組みが遅れているのは,どうしてだと思いますか?
サイトウ氏:
やっぱり,インフラ整備の遅れが大きいんでしょうね。韓国なんかは,早かったじゃないですか。
4Gamer:
日本はコンシューマのパッケージゲーム市場が大きいですしね。とはいえ,最近ではこの市場がシュリンク傾向にあるという話もあります。金額ベースでは上がっているという見方もあるようですが,遊んでいる人は減っているような印象は受けます。
サイトウ氏:
そうですね。そういう意味で,この辺で打開していきたいところです。
4Gamer:
ということはやはり,ニンテンドーDSじゃないですけれど,ゲームから離れた人などをターゲットとして視野に入れているということでしょうか。
サイトウ氏:
ええ。それこそ会社勤めの人達とかも,短い時間で気楽に遊んでもらえるといいな,と。もちろん,中学生や高校生でも遊べますけどね。子供の頃からゲームに親しんでいる世代であれば,ターゲット内ですね。
レッド・エンタテインメント 企画2部 部長
宮尾高仁氏(以下,宮尾氏):
僕の中では,ボウリングを知っている世代は,全部ターゲットに入ってますよ。
なので,キャラクターデザインなんかも“萌え系”ではなく,万人に受け入れてもらえるように意識しています。