― 特集 ―
ネクソンジャパンCEOデビット・リー氏に聞く 日本市場の特徴とアイテム課金モデル

Text by Kazuhisa/Seal Photo by kiki  

 ネクソンジャパンは,風の王国,闇の伝説の伝説など,オンラインゲーム業界では古参の部類に入るデベロッパ/パブリッシャだ。2005年には,MMORPGマビノギのローンチ,ポータルサイト「NEXON」の立ち上げなどパブリッシャとしての基本的な動きのほかに,すべてのサービス中の月額課金のタイトルをアイテム課金モデルへ移行させるなどの興味深い動きもあった。
 このアイテム課金モデルは読者のみなさんもご存じのように,2004年に韓国で採用するタイトルが急増し,2005年ごろから日本でも採用/移行するタイトルが増えてきている,現在主流の課金スタイルだ。アイテム課金を採用したタイトルは売り上げを伸ばしている……とは聞こえてくるが,それと同時に,市場とのマッチングやゲームシステムへの影響など多くの懸念点も考えられる。
 そんな中,サービス中のタイトルすべてをアイテム課金モデルに移行させたネクソンジャパン。そのCEO デビッド・リー氏に話を聞く機会があったので,ネクソンが目指す方向について色々と話を聞いてみた。

 

4Gamer編集部(以下,4Gamer):

 本日はよろしくお願いします。いままで何度かお会いしているのですが,長時間にわたるインタビューは初めてですよね。

David K.Lee(デビッド・リー)氏:

 そうですね,初めてかもしれません。こちらこそよろしくお願いします。

4Gamer:

 ではお忙しいでしょうし,早速ですが質問に入らせていただきます。2005年のネクソンジャパンは,各タイトルのアップデートやマビノギ,ポータルサイトなどの動きこそありましたが,他社のド派手な動きに比べると地味であったように見えます。2005年のネクソンは,デビッド氏から見てどのような年でしたか?

David K.Lee氏:

 そんなに地味だったかなぁ(笑)。結果からいうと,2005年はマビノギのローンチや,ポータルサイト「NEXON」の展開など,非常に満足できる1年でしたね。秋からは,マビノギやテイルズウィーバーなどのアイテム課金モデルへの移行など,リスクはありましたが新しい展開もできましたし。
 それらの結果として,ユーザ数や売り上げが順調に伸びているので,いい方向に向かえた1年になった感じています。

4Gamer:

 そういえば,メイプルストーリーの会員数が100万を突破したというリリースもありましたね。

David K.Lee氏:


メイプルストーリー

 はい,おかげさまでメイプルストーリーは,売り上げもずっと右肩上がりで伸びているんですよ。テイルズウィーバーも,オープンβテスト時よりも多い同時接続者数を無料化後に記録してます。
 そんなデータを見ていると,日本のオンラインゲームマーケットに対して,ユーザ層の幅が広がってマーケットの可能性を実感できた年ともいえますね。

4Gamer:

 なるほど。確かに最近の派手な絵で売るMMOに比べると地味なメイプルストーリーですが,実は4GamerのPVの中でも常に上位にいるんですよ。
 しかしそのユーザ層の広がりと共に,今までのコアなMMORPGメインのオンラインゲーム市場は確実にカジュアルゲームへとシフトしようとしている方向がありますが,ネクソンジャパンとしてはどのように考えていますか?

David K.Lee氏:

 ご存じのように,2Dの横スクロールという気軽に遊べるメイプルストーリーと,コアゲーマー層向けのマビノギ,ライトゲーマー層向けのテイルズウィーバーのすべてを無料化しました。とくにメイプルストーリーの1日のユニークユーザ数は,ほかのタイトルの2倍程度ありますので,カジュアルゲームへシフトしてきているというのは実感できてました。
 そうですねえ……カジュアルゲームは,少なくとも今の日本のマーケットには合っていると思いますし,今後はもっと流行っていくのではないでしょうか。

4Gamer:

 その国内のカジュアルゲームの状況は,ほとんどが韓国産のような感じで,実績のある国内デベロッパは,試行錯誤をしている段階といったところのようですね。

David K.Lee氏:

 そこは一つのポイントですね。国内デベロッパのポジションが,3年前から少しずつ変わってきているのではないかと思っています。彼らは,パッケージゲームとは違うマーケットということを認識した上で,どのようなコンテンツ(=カジュアルゲーム)を日本や世界のユーザに提供すれば成功するかということを真剣に悩んでいるんじゃないかと思います。

4Gamer:

 まだまだ少しずつではありますが,最近は国内有名コンシューマデベロッパのオンラインゲームも増えてきてますよね。

David K.Lee氏:

 そうですね。ありがたいやら,怖いやら(笑)。

4Gamer:

 国内デベロッパがオンラインゲーム市場へ本格的に進出しきたときの策はあるのですか?

David K.Lee氏:

 ええ,もちろん考えてあります。やはりいくらキレイごとを言ったところで,“良きライバル”なわけですから,弊社にとっては刺激になりますしね。
 コンシューマゲームに学ばないといけないところは多々ありますし,それを吸収して弊社のノウハウをより特化していき,ユーザが楽しく遊べるコンテンツを作っていく必要もあるでしょう。
 またゲームタイトルだけでなく,その延長としてどのようにビジネスを拡げていくかというトータルコンテンツ的な考え方も,今後は重要となってくるのではないでしょうか。つまり,ゲームタイトルを単純な一商品としてではなく,プラットフォームとしてコンテンツをどう使っていくかが重要になると思います。
日本ユーザのニーズに合わせたサイトの構築

4Gamer:

 それは,いわゆる流行りの“ポータルサイト”についておっしゃっていると考えてもよいですか?

David K.Lee氏:

 いえ,少し違います。オンラインゲームで重要なのはコミュニティ部分なのですが,ポータルサイトにはコミュニティ性が必要な部分と必要でない部分があると思います。言い方を替えれば,ポータルサイトには,ソーシャルネットワークやオンラインゲームと重なる部分「も」あるのです。その共通している部分に特化していけば面白いサービスとなるでしょう。

4Gamer:

 しかし昨年あたりから,コミュニティとポータルの二つをキーワードにして展開するメーカーが増えてますよね。

David K.Lee氏:

 ええ。韓国内でもその動きが昨年活発化しました。今年は,日本でもコミュニティを中心としたサービスは活発になっていくと思います。それが大きくなればマーケット全体が盛り上がりますし,またユーザの認識も変わっていくでしょう。
 今は,パイ(マーケットの規模)があまり変わらないことを前提とした展開が多くなりますが,マーケットが2倍3倍となっていけば,それを前提にした展開へシフトできますからね。競合メーカーの存在は,諸手を挙げて歓迎しています。

4Gamer:

 強気な発言ですね(笑)。

David K.Lee氏:

 はい。なにしろ長年やってますので(笑)。

グランドチェイス

4Gamer:

 そんな御社のポータルサイト事業は好調ですか?

David K.Lee氏:

 順調といえば,順調なのですが,改善すべき点がまだまだありますね。ローンチからいままでに,なにが良かったのか,何が足りなかったのかというのを分析してあります。今年はそれを基に,さらに質のいいサービスの提供を目指して,ゲームとコミュニティ,Webアクティビティが相互に繋がった新しいサービスにしていこうと考えてます。

4Gamer:

 韓国と日本では国民性の違いが……という議論がよくありますが,韓国と日本で異なる方向性で進むということでしょうか?

David K.Lee氏:

 いえ,根本的な部分は似ているので,大きく分ける必要はなく,さまざまな種類のサービスを提供していくのが重要でしょう。

4Gamer:

 しかし,そうなるとユーザからはたくさんあるポータルサイトの一つに過ぎないという見られ方をする可能性が高くなると思いますが,何か差別化はしていくんですか?

David K.Lee氏:

 まず重要なのは,コアゲーマーじゃなくてもサイトに入りやすい環境,すべてのユーザに対してやさしいもの,気軽なものを提供することと思っています。その当たり前の部分を忘れては,ポータルサイトは成立しないと思います。
 例えば昨今のポータルサイトは,ゲームをプレイするためにActiveXを使ってインストールするという流れとなっていますが,これは韓国的な発想/システムに過ぎないのです。比較的簡単にインストールできるというメリットがあるのですが,日本では思った以上にIE(Internet Explorer)のユーザ率は低いですし,そもそもActiveXという一見怪しそうなもの――怪しくないんですけどね――を入れてもいいと思う人も少ないです。操作を簡単にしたはずが,日本では逆にハードルが高くなってしまっているんです。

4Gamer:

 私もIEは使っていませんし,ActiveXのインストールはちょっとイヤですね。

David K.Lee氏:

 実は私もあまり好きではありません(笑)。でもインターネットリテラシーの高い日本のユーザーさんにはそういう人も結構多いのではないでしょうか。なので弊社のサービスではそういうものをなくしていこうと思ってます。あと,MacintoshからでもWebサイトだけは最低限見られるようにしたりとか。
 この仮説を検証するためにいくつかのActiveXをなくしてみたのですが,登録者数が30%ほど増えてます。つまり,コンテンツの差別化というよりは,日本のユーザのニーズにあわせていくことが,結果的に他社との差別化となるでしょう。

4Gamer:


テイルズウィーバー

 30%も増えたんですか! ときに,今の登録者数はどのくらいなのですか?

David K.Lee氏:

 全体の登録者数は170万くらいで,メイプルストーリーがその半数以上の約100万ですね。今年は全体で200万ユーザを超えたいですね。

4Gamer:

 社長自らの口から出る数値目標としては,やや低くないですか?

David K.Lee氏:

 そうですね,数字的には低いと思われるかもしれませんね(笑)。しかし弊社は,Webコンテンツのサービスをしている会社で,それが最も重要な部分なので。累計登録会員数よりは,同時接続者数やアクティブユーザー数というもののほうが重要であると考えています。そのあたりを鑑みて,この位の数字でしょうか。

4Gamer:

 ゴースト会員(登録だけしてある人)などではなく,長く定着するユーザーを多く獲得していくということですね。では,サイトではなく個々のコンテンツで何か具体的なものはありますか?

David K.Lee氏:

 そうですね……。韓国では,複数人が集まり,マルチプレイで盛り上がるという状況が多いのですが,日本のプレイヤーは1人または2人といった少人数で遊ぶことが多いようです。パンヤが成功した理由の一つもそこにあるのではと考えています。
 その少人数プレイへの対応として,麻雀ゲームにAIを搭載して最低プレイ人数を2人とし,4人揃わなくても遊べるようにしているところです。

4Gamer:

 お? オンライン麻雀ゲームへAIを搭載するというのは結構珍しいですよね。そのAIはオリジナルの開発ですか?

David K.Lee氏:

 ええ,韓国にAIモジュールを持っている会社があるので,そこにアウトソーシングして開発しています。

4Gamer:

 ほかのカジュアルゲームにも今後そのような変更が加えられていけば,利用者も増えていきそうですね。ビリヤードとか。まぁそれがオンラインゲームなのかどうかという根本論はさておいて(笑)。
 しかし,ゲームシステムを変えていくというのは韓国の開発側には伝わりにくいような気がしますが,どうなんでしょう?

David K.Lee氏:

 確かに,韓国で必要ない機能やシステムを具体的に伝えるのは難しいですね。とはいえネクソンは,韓国,日本以外に中国やアメリカ,タイなどでも展開していますので,ローカライズとそれに関連する部分の理解度は深いと思います。先ほどの麻雀の少人数プレイモードは,ほかの地域への実装も考えていますし。

4Gamer:

 韓国と日本の文化が違う部分があり,それはゲームにも少なからず反映されるべきなので,その現地向きの仕様にしていくということですね。

David K.Lee氏:

 そうですね。それは小さなステップですが,インタフェースなどゲームプレイの改善だけでなく,さまざまな部分で地域に合わせた改善の積み重ねが重要だと思います。メイプルストーリーも,すでに韓国と日本で違うバージョンになりつつあります。

4Gamer:

 あら,そうだったんですね。それは知りませんでした。

David K.Lee氏:

 いえいえ。さすがにコアな部分は同じゲームなので,まったく違うものであったりはしませんよ。でも,日本独自仕様というのが多く実装されています。今は,日本の要素,韓国の要素が交互にアップデートで実装されるという流れですが,そのような細かいことで日本のユーザを獲得していくことが重要です。

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http://www.4gamer.net/specials/0217_nexon/0217_nexon_001.shtml