■ベトナム戦争=ジャングル戦ではないのだよ
ベトコン兵には高価な兵器は与えられない。同胞達の恨みをこめ,憎きアメリカ軍のヘリを打ち落とすのだ! |
ハリウッドのベトナム戦争映画などを観ると,必ずといっていいほど「ベトコン」は敵であり,日本人の視点からもベトコンに対する印象はあまり良くはないだろうし,ともすればベトナム人全体に対する蔑称と思っている人もいるかもしれない。しかし「ベトコン」とは,「南ベトナム解放民族戦線」およびその兵士を指す言葉であり,アメリカ主導によるゴ・ディン・ディエム政権の独裁に立ち向かった,主義/民族/宗教を超えた統一戦線なのである(ただし当人達が正式に自称したことはない)。
そんな「ベトコン」という言葉をタイトルに冠したのが,今回紹介する「ベトコン2」だ。2003年に発売され,ベトナム戦争独特の鬱蒼とした戦場の雰囲気と,考えられる限りのシチュエーションを上手に再現した作品として,ゲーマーから高い評価を得たFPS「ベトコン」の続編となる。
サイバーフロントから発売中の本作は「日本語マニュアル付き英語版」で,ゲーム中のテキストは英語のままである。中学英語レベルでミッションの進行には問題ないが,キャンペーンの詳細なストーリーを理解するには,ある程度の英語力が必要だろう(英語字幕の表示オプションは用意されている)。
前作同様,シングルキャンペーンではアメリカ陸軍特殊部隊グリーンベレーの一員となって,分隊を指揮しながらバラエティに富んだミッションを遂行していく。前作ではジャングル戦がメインだったのに対し,ベトコン2では扱うテーマが「テト攻勢」におけるフエ市周辺ということで,市街戦がメインとなっている。ベトナム戦争モノ=ジャングル戦というお決まりのパターンではないところが本作の最大の特徴だ。
また,キャンペーンが米軍側だけでなく,ベトコン側も用意されているのが素晴らしい。双方のストーリーには接点があり,一つの「事件」に対して,異なった立場からのアプローチが用意されている点は特筆に価する。ただしベトコン側のキャンペーンをプレイするには,ストーリーの接点となる事件が起きる米軍キャンペーンを,終盤近くまでプレイしていなければならない仕組みだ。
各ミッションの目標(オブジェクティブ)は,Tabキーを押すことで随時確認できる | 米軍側主人公の恋人ルーシー。カーソルが手の形だが,お触りできるわけではない | 停戦中でだらけきっている米兵達。この後に起こることも知らずに…… |
至近距離での被弾は致命的だ。突入のときには細心の注意を払わなくてはならない | 避難時にうっかりドアを開けたところ,建物内部にベトコン達が乱入していた | 狭い通路では邪魔だが,頼りになる仲間達。それぞれ自分の役割に従って行動する |
■雰囲気,臨場感は前作からさらにパワーアップ
哨戒艇で川をさかのぼる。両側には数え切れないほどの敵が潜んでいる。備え付けの機銃で撃ちまくるべし |
ベトコン2はいわゆる“リアル系FPS”である。衛生兵やメディキットによる回復もあるにはあるが,わらわらと現れるベトコンにランボースタイルで突入できるほど甘いゲームではない。あらゆる遮蔽物をうまく利用して,用心しながら進まなければ,あっという間に蜂の巣にされてしまう。
分隊を指揮してミッションを遂行するチームベースのFPSではあるが,AIで行動する部下に命令できるのは,移動とその形態,攻撃対象の指定,弾薬の受け渡し,衛生兵による治療といった程度だ。とくに命令しなくても,それぞれの役割に応じて最適な行動を取ってくれるので,治療と弾薬の受け取り以外でチームへの下命(かめい)を意識する場面は少ない。したがって,下命の煩わしさで戦闘時の意識集中を妨げられることはないだろう。ただ,チームベースのFPSでありながら,その要素はかなり薄いともいえる。このあたりは好みが分かれる部分だろう。
敵味方ともにAIはかなり作り込まれていて,戦闘時の動きは小気味良い。弾丸が飛び交う中を前転しながら遮蔽物の背後にすべり込む姿は,まるで映画を観ているような気分だ(オーバーアクションに感じることもあるが)。市街が舞台の本作では,狭い通路などで仲間が邪魔なこともあるのだが,なんせ全体的に敵の数が多いだけに,戦闘では心強い。
前作と同様,戦場の描写は非常に優れている。銃身のブレや,心臓の高鳴り,近くで爆発があったときの耳鳴りなど,緊迫感を盛り上げる要素が満載だ。またリアルなサウンドも臨場感の盛り上げに一役買っている。銃器の発射音はもちろんのこと,薬莢の落ちる音,装甲車の鋼板に跳ね返る弾丸の音など,すべて及第点だ。また演出として,要所要所でテレビクルーによるレポートシーンが挿入されることがあり,これがリアリティを高めている。
さらに物理エンジンの搭載によって,物理効果の波及も表現されている。だが爆風で周囲の敵が吹っ飛んでいるにもかかわらず,すぐ近くにある大きな椰子の葉はまったく動かないなど,やや粗いかなと感じる点もあった。
グラフィックスに関しては,最近のFPSと比較すると全体的にやや古めな印象を受けた(前作も同じ理由で損をしていたように思える)。しかし銃器などの質感は上々の出来栄えで,安っぽさを感じさせることはない。武器はベトナム戦争で実際に使用されたものが50種類以上用意され,またさまざまな車両,哨戒艇,ヘリなどが登場する。
血飛沫の描写はやや激しい部類になるだろうか。敵に弾丸を撃ち込むと激しく血飛沫が飛び散り,壁などに血がべったりと付着することもある。しかし一部のFPSで散見されるようなグロテスクな描写はなく,血飛沫を表示させない設定も可能だ。また周囲の物に弾丸が当たると破片が飛び散り,弾痕が残るあたりも抜かりない。
これらの要素が高いレベルで調和して,前作でも好評だった戦場の雰囲気,臨場感の表現がさらに完成度を高めたという感じだろうか。それに加えベトナム独特のエキゾチックな風景が,戦闘に特異さを醸し出している。とくにアメリカ軍キャンペーンのラストに登場する,城のような建物(フエ宮殿)を制圧するステージは圧巻で,ステージとしての完成度も高い。
マルチプレイは最大64人での対戦がサポートされており,キャプチャー・ザ・フラッグ,デスマッチ,チームデスマッチ,アサルトといった,FPSではお馴染みの対戦モードが用意されている。最大8人での協力プレイ(Co-op)も可能だ。お馴染みのGameSpyがゲーム内に組み込まれているので,とくに対戦ツールを意識しなくても,気軽に世界中のプレイヤーとゲームが楽しめるだろう。前作と比べて選択できるクラスや使用できる武器が増えている点も見逃せない。
銃器の質感は,このとおり見事なもの。マガジン交換のアクションも見逃せない | ベトナム兵が占拠したフエ宮殿を奪還する。右下のバーは機銃の熱を表している | 近接戦はさほど多くはないのだが,周囲に隠れる場所がなければ突撃しかない |
宮殿の中の装飾も手抜かりはない。かなり特異な雰囲気での戦闘が楽しめる | マルチプレイで使用するキャラクターをカスタマイズ。どうにも強そうな顔が少ない | インターネット対戦では,マッチングサーバーがあるので相手を探すのは容易だ |
■オーソドックスであるだけに完成度は高い作品
教会の神父を盾にするベトコン軍曹。彼とて,好きでこのようなことをしているわけではないのだ…… |
本作のテーマである「テト攻勢」は,停戦状態にあった旧正月の1月29日に,南ベトナムの大部分の主要都市に8万人にものぼるベトコン兵士が一斉になだれ込むという大攻勢だった。それまで戦況を楽観視していたアメリカにとって,敵味方合わせて5万人もの兵士,さらに市民1万4000人もの死者を出したこの大攻勢は大変なショッキングな事件であり,のちのアメリカ軍撤退を促す原因にもなった。
得てして勝者の論理で語られやすい「戦争」というものについて,アメリカ軍側,そしてベトコン側の双方からの視点でキャンペーンが組まれていることは大いに意義があるのではないだろうか。しかしそうした制作側の配慮も,日本語字幕が表示されないために理解しづらい点は残念でならない。
本作はFPSとしてはかなりオーソドックスな部類に入るだろうし,この時期のFPSとしては特記すべきギミックもないのだが,それだけに地味ながら完成度は高い。また,ミリタリーFPSで市街戦をメインとしたものは意外と少なく,また珍しいベトナム市街ということもあって(「バトルフィールド ベトナム」に市街地マップはあったが……),そういった点では貴重な存在だ。本作はとにかく戦場の雰囲気や臨場感が素晴らしく,強烈な異国体験を求めるシューターにはお勧めの作品だ。
当時実際にあった事件が,当事者達の証言をもとにストーリー化されている | ミリタリーFPSではお馴染みのドラグノフ。狙いを定めてヘッドショットを決めよう | 戦闘不能になった仲間を引きずって安全な場所に。しかし無防備になるので危険だ |
テレビクルーによる中継シーン。ちょっとした演出だが,リアルさを増幅させている | ちょっとした油断が死を招くことになる。遮蔽物をうまく利用して進むべし | 敵が貯蔵していたRPGを発見! これで「あの」兵器を破壊できるはずだ…… |