あのララ・クロフトがパワーアップして帰ってきた
世界的な冒険家にして,業界で最も有名なデジタル・アイドル,ララ・クロフトが再び我々の前に帰ってきた。今回のテーマは「原点回帰」(当社推定)。初めて登場したときのように,飛んだり跳ねたりクルッと回ったりと,もう大忙し。しかもポリゴン増量で,以前よりずっと美しくお肌もツヤツヤ。揺れるところも揺れる。そんなEidosの看板娘の最新作「Tomb Raider: Legend」の出来はいかに? |
最初にお断りしておかなくてはならないが,私は今回紹介する「Lara Croft Tomb Raidar: Legend」(以下,TRL)の主人公,ララ・クロフト嬢に対して,これといって特別な思い入れはない。まあ,向こうも私に対してこれといった思い入れはないだろうから,その点はおあいこである。
何が言いたいのかというと,私はトゥームレイダーシリーズの熱烈なファンというわけではなく,ララにゾッコンのラブでもない。今回はごく客観的な視点でゲームをプレイした,ということだ。長い歴史を持つシリーズだけに,このTRLに対し,コアファンにはコアファンなりの意見もあるだろう。「ララはこうでなくちゃいかん! 許さん!」とかね。残念ながら,そうした見方は私には分かりようがない,ということだ。……と,軽く予防線を張っておいたりなんかして。
そんなララ・クロフトだが,いうまでもなく欧米では大人気キャラ。そのあたりは週刊連載記事「AccessAccepted」でも取り上げたことがあるので,そちらを参考にしていただきたい。また,こちらのニュースでも,彼女が「最も成功した人間のヒロイン」としてギネスブックに収録されたりと,日本人のよく知らないところでファンがべらぼうにたくさんいるのだ。映画にも二度なっちゃったし。
初登場は1996年で,以来,各種コンシューマ機(なにしろゲームボーイ版まである)にも展開しつつ,PC版だけで6種類,リミテッドエディションや外伝風のものも含めると,もう「1,2,3,えーと,たくさん」式の計算能力しか持たない私には,勘定するのも面倒なほどたくさん出ている。
このような長期シリーズでは,物語がどんどん複雑になってくるのが世の習い。例えば「Tomb Raider: The Last Revelation」の冒頭には16歳のララが出てくるし,「Tomb Raider: Chronicles」はララの葬儀で始まる。登場人物の人間関係も複雑になり,また彼女の過去もどんどん肉付けされていく。そのため,ややもすれば,分かる人にしか分からない世界になっていき,その頃にはさすがの人気も若干下降気味。かつては珍しかった「ポリゴン美女」という存在も,ごく普通に登場してくるご時勢になったし。
そこで,スタッフがララの大胆なイメチェンを図ったのが,2004年に発売された「Lara Croft Tomb Raider: The Angle of Darkness」だ。この作品で,ララはダークなヒロインに変身し,移動もスニークが主体。会話によってストーリーが分岐するなど,さまざまな試みがなされた。しかし,結果として期待したほどの評価は得られず,残念ながら売り上げはパッとしなかった。これは,人々の望んでいたララではなかったのだ。
ちなみに,同じ年に同じくEidos Interactiveから発売されたハゲつるりんの殺し屋,47号を主人公としたヒットマンシリーズの最新作「ヒットマン コントラクト」のセールスも伸び悩む。収益の2本柱が揺らいでしまったイギリス最大のパブリッシャEidosは,経営が行き詰まった結果,同業のCSi Entertainmentの傘下に入らざるを得なくなってしまった。
Eidos吸収合併の正式発表は2005年のE3開催中に行われ,まあなんだ,筆者がその話を聞いたのはEidosのブースでのこと。関係者はなんだか非常に微妙な盛り上がりになっており,まさにそのときデモされていたのが,このTRLと,ヒットマンシリーズの最新作「Hitman: Blood Money」だったりなんかして。まあ,それだけの話なんですけど,けっこう忘れがたいなあ。
ポリゴン満載のララは,過去はすっかり忘れたのである
本文には書かなかったというか書き忘れたというか,見つけた遺物や宝物を集めることで,さまざまなアイテムがアンロックされる。例えば銃がアップグレードされたり,コンセプトアートが見られたり,といった具合。だが,誰がなんといっても嬉しいのは,ララの衣装が増えることだろう。噂によれば,ビキニもあるというではないか! 条件は厳しそうだが,何度でもトライしたい。ビキニだと! |
さて,TRLの最大の特徴は,なんといっても「昔のことはなかったこと」になっている点だろう。過去の出来事はすっかり忘れて出直し,ビギナーでも入りやすいようにする,という意図だ。というわけで,ピラミッドでのあんなことや,イタリアでのこんな思い出は全部なし! きれいな体で再出発なの,あ・た・し。
とはいえ,個人的にちょっと気になっていたのは,その「なかった度」がどの程度かということだ。彼女の職業やバックグラウンドも変わってしまい,たとえば証券会社のOLララとか,マグロ延縄(はえなわ)漁船の船長ララとか,ときめき学園生徒の女子高生ララとか,ありかな? それはそれですごいな,と期待していたのだが,そんなこと考えるのは私だけですか? そうですか。
結論から言えば,「なかった度」はそれほど高くなかった。彼女は相変わらずイギリスの貴族であり,なおかつ探検家。ちなみに独身,彼氏なし(希望的観測)。執事のウィンストンやハッカーのジップなど,おなじみのメンバーも従来と同様に登場する。「幼いころ,乗っていた飛行機が事故でヒマラヤに墜落。一人生き残った彼女は,そのとき高度なサバイバル技術を身に付けた」という設定も変わらず。どころか,その設定が物語の核になっていたりするのだ。
要するに「いいとこ取り」をしたわけで,都合の悪いところはすっかり忘れ,背景や物語的に面白い部分はそのまま残してある。なんてズルい女なんだ,などと怒ってはいけない。制作に当たったCristal DynamicsやEidosのスタッフは,「フォーラムやファンの意見を徹底的に吟味して,人々が見たいララの姿を再現する」とコメントしていた。
つまり本作に登場する彼女こそ,人々が望んでいたララ・クロフトというわけである。第1作のララをデザインしたトビー・ガード氏が召集され,本作のララをデザインしているというところにも,そういう意図が見える。
アクション! そしてパズル! 古き良きアクションゲームの香り
アクションを決め,パズルを解き,各マップの最後にはボス戦,といった具合に,TRLにはかつてのTomb Raiderのムードが横溢している。ストーリーはいたって単純だが,ドラマチック。マップのロケーションは豊富。なにより,より美しくなったララが魅力的だ。本作のコピー「ララが帰ってきた」(Lara is back)は,まったくそのとおりだと思う |
さて,TRLというかトゥームレイダーシリーズは,後方視点型のアクションゲーム。彼女の全身が見えるので,アクションシーンが非常に理解しやすい。デフォルトでは,カメラは自動移動式で,常にララの背後に置かれ,カメラ位置にオブジェクトなどがあると自動的に回り込む。オブジェクトが邪魔になって,彼女が見えづらくなることも(たまーに)あって困るが,基本的にとても見やすいゲーム画面だ。
今回の難度に関しては,トゥームレイダー初心者でも難なくプレイできるように,比較的やさしくなっている。ご存じのように,このシリーズは専門用語でいうところの「むずゲー」の代表格であった。操作法に独特のクセがあり,しかもパズルが非常に難解で,おまけに一度アクションが失敗すると即死の場合が多い。典型的な「死んで覚えろ」スタイルの“洋ゲー”だったのである。
TRLでは,そのへんが大幅に変更された。跳びそこなってもリカバーが可能だし,重要なオブジェクトがあった場合,ララがそちらに視線を向けるので,見落とす心配が少ない。しかも,ララは常に耳に付けた無線でロンドンと連絡を取っているので,次にどうしていいか,というアドバイスを受けられるのだ。
アニメーションも非常に滑らかで,鉄棒につかまってクルクル回り,そこからジャンプしてに崖っぷちに飛びつき,横に移動してひらりと飛び降りる,などというアクションが,さほど練習することなく簡単に出せる。
以前のようなタイトさは減ったとはいえ,ちょっと位置関係を捉えるのが難しい場面もあり,跳べるだろうと思って跳ぶとまっさかさまに落ちたりして,相変わらずの部分も残っている。また,ララの動きはカメラ相対であり,視点位置が悪いと思った方向に動いてくれず,とくに棒から棒へ跳ぶようなケースは失敗しがちだ。もっとも,このへんはプレイヤーの能力や慣れにかかる部分も大きく,「スペランカー」(探検家つながり)を一度もクリアーできなかった私が言うのはおこがましいかもしれないんですけどね。
パズルもまた,彼女の体術をフルに活用して解いていかなければならない。一見,どこへも行きようのない場所から脱出ルートを見つけたり,水や炎といった障害物を突破していくスタイルのパズルが多い。また今回は物理エンジンも実装されており,それを使ったパズルも出てくる。たとえば,箱を積み上げ,それに乗っかって高い窓に飛びついたり,シーソーみたいなオブジェクトを使って,何かを高く放り投げたりなどだ。
要するに,パズルを解くことで進行ルートを作り出していくわけだが,当初開発陣がコメントしていた「高い自由度」は,それほどでもない印象。ルートはほとんど決まっており,いかにそれを見つけるかが解法の中心だ。一つの謎に対して,いくつもの解法が用意されている箇所は少ない。
中にはかなり難しいパズルもあるが,このへんもまた各プレイヤーの能力と慣れがモノをいうだろう。と,「こちら」に掲載したデモ版で,編集部でただ一人,途中でどこへ行っていいのか分からなくなり,隣の人に助けを求めた私が言うのもおこがましいかもしれないが,パズルは愉快である。
美人になったララと程よい難度の,大勢が楽しめる作品
クライマックスには必ずボスキャラが登場。イギリスの地下に,こんな怪物がいたとは! こいつはいくら銃で撃っても倒せない。背後にぶら下がっている鉄の檻を気にしてみよう |
というわけで,ゲームはパズルを解くことと,敵との銃撃戦の繰り返しで進んでいく。三人称視点の問題点は銃撃の難しさだが,その点はララも同じだ。ただ,コンシューマライクなオートエイム機能が付いており,さほど精密に照準しなくても弾が当たってくれる。問題となるのは敵との距離だけで,相手が射程内に入ればターゲットアイコンが赤くなり,後はマウスをクリックするだけでいいのだ。
とはいえ,この機能は敵以外のものを撃ちたいときが面倒になる。ドラム缶を撃って敵を吹き飛ばしたいのに,その前に相手を撃ち倒しちゃったりするので,やや悲しい。難度ノーマルの場合,ララは撃たれ強く,かなりの攻撃に耐えられる。また,敵を倒すとかなりの確率で救急箱を落とすので,あまり体力不足を心配する必要はないゲームといえる。
グラフィックスは良好で,お肌つやつやでスレンダーなララを見るにつけ,いかに初登場時の彼女がポリゴンごっつごつだったかが分かり感慨深い。まあ,当時はそれなりに美人だと思ったんですけどね。巨大な滝を割って現れる神殿や,深いジャングル,雪のカザフスタンなど,冒険活劇らしくロケーションも豊富で,それぞれに特徴が良く描かれている。
とはいえ,やや問題もある。グラフィックスオプションの「Next Generation Contents」を選ぶと,画面は確かに驚くほど美しくなるが,ゲームが極端に重くなり,よほどハイエンドPCでもなければオフにしておくしかない(今回使用したPCのスペックは,CPU:Pentium 4/3.40GHz,メインメモリ:2GB,グラフィックスチップ:GeForce 7800 GTX,グラフィックスメモリ:256MB)。Eidosはただちにパッチをリリースしてこの問題の改善に努めたが,本作の制作協力にあたったNVIDIA側にも問題があるようで,同社が非公式に公開したドライバを併用することで良くはなるものの,まだまだ不十分という感じだ。より美しいララ・クロフトを堪能したいファンには,ちょっと困った話だろう。もっとも,Next Generation Contentsがオフ状態でも,それなりにキレイといえばキレイである。
このように,TRLは「トゥームレイダービギナー」を強く意識した作りになっているため,シリーズ未経験の人が最も遊びやすい作品だろう。アクションゲームなので,練習すればするほど上手くなるし,ぴょんぴょん飛んで跳ねるララを,上手く操って難しいアクションをこなしたときの快感は格別だ。失敗して墜落死した彼女を見るのは悲しいけど。コアなファンの中には「こんなに簡単なのはトゥームレイダーじゃない」という意見も根強くあるようだが,この方向性は多くの人にアピールできるんじゃないだろうか。
Eidosが自社の,そしてララ・クロフトの起死回生の策として打ち出した本作は,意外にも肩肘張らず,気軽に楽しめる一本になっていた。新しい彼女の姿を見て,彼女を好きなようにしたい人(限界はあるが)は,ぜひプレイしてほしい。