» 「タイタンクエスト」初の拡張パックとなる「イモータル スローン」が発売され,編集部イチのタイタンクエスト好きである川崎政一郎がレビューに名乗りを上げた。「第4章」に相当する新たなActが追加される本拡張パックは,新メインクエスト以外にも,前作を遊び込んだ人間に新たな冒険の目的を提供してくれるという。果たしてその新たな目的とは?
冥界「ハデス」にて孤独で熾烈な戦いを繰り広げる
Typhonを倒した後にハデス編へと突入。メッセージは英語だが,それによってゲームにつまずくことはほとんどないだろう |
もともと,かの伝説のアクションRPG「Diablo」にハマりすぎて,気が付いたらこの業界に入ってしまったという経緯が自分にはある。そんなアクションRPGがたまらなく好きな自分にとって,「Titan Quest」の持つテンポの良いアクション性は,大好物の域に達している。個人的には2006年におけるPCゲームの最高傑作だと思っているのだが,そういった話を4Gamerでするたびに,ほかのスタッフに「さすがに恋しすぎでは」などと笑われてしまうのだ。そんなお気に入りのTQに拡張パックがリリースされたので,懲りずに再度その魅力をお伝えしよう。
本編である「タイタン クエスト 日本語マニュアル付英語版」(以下,TQ)は,2006年9月にズーから発売された,神話世界がテーマのアクションRPGである。3Dグラフィックスで描かれた神話世界,二つのマスタリー(職業特性)の組み合わせによる幅広いキャラクター育成システム,飽くなきトレジャーハント要素など,TQには多くの魅力がある。アクションRPGファンに幅広くお勧めできるタイトルなのだ。
そのTQで初の拡張パックとなるのが,今回紹介する「タイタン クエスト〜 イモータル スローン〜 拡張パック 日本語マニュアル付 英語版」(以下,TQIT)だ。拡張パックなので,TQITのプレイにはTQ本体が必要になる。では早速,TQITで導入された各要素をチェックしていこう。
TQ本編では「ギリシャ」(Act1)→「エジプト」(Act2)→「オリエント」(Act3)の順に神話世界を駆け巡ってきたが,TQITでは新たに「ハデス」編が追加される。TQのラスボスである「Typhon」を倒したのちハデスへと続く展開となっており,実質的な「Act4」であるため,本レビューでは便宜上,これをAct4として扱いたい。
ちなみにハデスとは,ギリシャ神話における「冥界」の神,転じて「冥界」そのものも指し,いかにもTQらしいActのチョイスである。しかし,景観をはじめとしたハデスの雰囲気は,従来のActと大きくかけ離れている。
なにせ冥界であるため,生きている人間は自分以外に誰一人としていないのだ。稀に登場する友好的なNPCさえも,幽霊だったりする。一応,Act4は地上のロードス島(ギリシャ領)から始まり,序盤は動物系などのモンスターも登場するものの,やがて魔女メディアの力を借りて冥界へと足を踏み入れることになる。三途の川の番人“カロン”や,地獄の門番“ケルベロス”,そして冥界の主“ハデス”といった不死のモンスターを相手に,どこまでも孤独な戦いを繰り広げていくのだ。
TQのゲーム世界は,独自開発の物理エンジンによって成立している。足元で揺れる草木の動きすら感じ取れるのだ |
ハデスは最終章であるため,当然プレイ難度は相応なもの。Epic/Legendaryのハイレベルモードのように,レジスト面のペナルティがキツいわけではないものの,モンスターの攻撃力が全般的に高く,純粋なArmor値の高さが求められる。
しかし従来のActと同様,奇をてらったトリックはほとんどない。依頼されたサイドクエストを飛ばしたりせず,キャラクターをしっかりと育てていれば,先に進めなくて途方に暮れるような局面はそれほどないだろう。
そのほかの特徴としては,メインクエスト以外の要素が充実していることが挙げられる。ネタバレになってしまうので詳しい説明は控えるが,例えばサイドクエストに関しては,拠点エリアを一定時間防衛したり,NPCを引き連れて戦ったり,長編タイプだったりと,さまざまなものが用意されており飽きさせない。またハデス編クリア後,特定の条件を満たしたときにだけ挑戦できるボーナスダンジョンもあるのだ。
何体かキャラクターを作成し,Act4を最初から最後までプレイしてみたが,メインクエストをはじめとした全体的な作りは,良くも悪くも従来のAct1〜3までの流れを引き継いでいるな,という印象である。例えば物理エンジンをフル活用した,新たな仕掛けなどを期待していたのだが,そのようなものは今回もなく,最後まで淡々と進んでしまった。その代わりといってはなんだが,冥界らしさはグラフィックス面によく出ており,またメインクエスト以外が充実していることから,プレイ後の満足度も高い。
これまでTQ本編をがっつりプレイして,かなり強力なキャラクターを育成してしまっている人も多いかと思うが,ハデス編の初プレイは,適度な緊張感を得られるキャラクター(=Act3を終えるレベル30前後)で挑戦してもらいたい。
Act4の序盤は地上が舞台であるため,景観も従来のActとさほど違わない。だが,やがて周囲の景色は一変する | 主人公は,ギリシャ神話でも有名な“魔女メディア”の力を借りるなどして,ハデスへと足を踏み入れていくことになる | ハデスの景観は全体的にどんよりしている。とはいえ“地獄”ではなく,やはり“冥界”といったほうがピンとくるだろう |
ハデス編のマップは,Act3よりもだいぶ広い。またメインクエスト以外の要素が多く用意されており,かなりの遊び応えがある | 冥界では,魂になっても囚われたままの人が大勢いる。NPCが全員幽霊なので,プレイを進めるほど気分は落ち込んでくるかも | 言うまでもないが,ハデス編の難度は高い。Normalレベルのハデス編は,Epicレベルの序盤よりもキツいと感じられた |
精神面への攻撃が強力な大器晩成型のマスタリー「Dream」
続いては,TQITで追加された9番目のマスタリー「Dream」を見ていこう。Dreamは従来のマスタリーと同様,キャラクターレベルが2と8になったときに,選択肢として登場するようになる。
この新しいマスタリーは,「Dream」(夢)という単語からも分かるように,敵味方の「精神面」に影響を及ぼすスキルを多く含む。基本的に「キャスタータイプ」であるというところまでは,なんとなくイメージしてもらえると思う。しかしTQ経験者ならご存じのとおり,マスタリーというのはもう一方のマスタリーとの組み合わせによって,微妙に違った個性を発揮する。Dreamに関しても,一概にキャスタータイプとは言い切れないところに,キャラクター育成の奥深さ,ひいてはTQの面白さが表れているのだ。
そこで,キャラクターの方向性として代表的な,2タイプの育成例をもとに,Dreamがどういった性質を持つマスタリーなのかを見ていこう。以下の例は,あくまで幅広い選択肢の中のうちの二つだということをお忘れなく。
新たなマスタリー「Dream」が登場。キャスタータイプとしても五つ目のマスタリーだが,スキル要素がほかとカブっていないのは凄い | Dreamマスタリーのスキル数は20種類。アクティブ系のスキルが少ないので,操作が忙しいマスタリーとの相性が良さそうである |
・キャスタータイプの育成例
素直に,キャスタータイプとしてDreamのキャラクターを育成すると,序盤はモンスターを倒すのにかなり苦労する。敵に対する“睡眠”や“弱体化”といったスキルは得意なものの,直接ダメージを与える手段が乏しいのである。
しかし,中盤以降まで頑張って上位のスキルを習得すると,ようやく攻撃面が補われ,キャラクターが一気に強力になる。
具体的にメインの攻撃手段となったのは,ショットガン状に波動を放つ“Distortion Wave”と,自分の周囲にいる敵を石化させる“Distort Reality”という2系統のスキル。これらは一定範囲を対象としているため,例えばザコ敵の群れに対しては圧倒的な強さを誇る。スキルポイントを注ぎ込んでいくと,みるみるダメージが上がっていくのが楽しく,2番目のマスタリーそっちのけで育成してしまったほどだ。それで難なくAct4までクリアできたといえば,Dreamがいかにバランスの取れたマスタリーなのかが分かるだろう。
・メレータイプの育成例
お次はDreamをメレータイプに伸ばした場合。上記のキャラクター育成経験から,Dreamは序盤の攻撃力が乏しいことを知っていたので,今回は一つ目のマスタリーにRogue,そして二つ目にDreamを選択。Dreamマスタリーの選択と同時に,スキルポイントを一度リセットし,メレータイプに特化させてのプレイである。
スキルポイント数に限りがあることから,キャスタータイプで重宝した2スキルは,メレータイプでは扱いづらい。その代わりに攻撃時の起点となるのが,左クリックに設定して武器のダメージを底上げする“Psionic Touch”と,姿を消し敵に忍び寄って攻撃を行う“Phantom Strike”の二つだ。とくにPhantom Strikeは,敵が吹き飛ぶほど強力で,クールダウンの長さに目をつぶってでも使いたくなる。
それともう一つ,遠隔攻撃タイプのペットを使役する“Summon Nightmare”も役に立つ。上位のスキルを習得すると,このナイトメアが攻撃時に敵を混乱させられるようになり,単体の敵に対しては“ハメ”に近い状況を作り出せるのである。
とはいえ,今回の育成例ではPsionic Touchと“Calculated Strike”(Rogue用)が,共に左クリック割り当て推奨スキルでバッティングしていたため,二つのマスタリーのポテンシャルを100%引き出していたとは言い難かった。
メレー/キャスターに関係なく,“Summon Nightmare”で呼び出すペットはとても頼りになる。できるだけ早く習得したい | メレータイプとしてDreamを見た場合,複数のモンスター相手に戦う方法に悩む。この問題をどうクリアするかで,方向性が決まるだろう | 3種類の中から効果を選べる,“Trance”系のスキルも悪くない。状況に応じて効果を使い分けられるのが嬉しいところだ |
そのほかのスキルも含めたDreamの全体的な印象を述べるなら,複数のモンスターと渡り合うための手数の多さは,全マスタリーを通して随一である。ただし,序盤から中盤にかけては攻撃力が低いため,大器晩成型のマスタリーといえよう。
どちらかというとキャスター寄りの性能ではあるが,メレーとの相性も決して悪くはない。二つのマスタリーの組み合わせ方によっては,あっと驚くような育成例がまだまだ隠されていることを大いに期待させられる。
NPC「Caravan」と「Enchanter」の追加はあらゆるプレイヤーにとって福音
TQをプレイした人の多くが,何体ものキャラクターを育成してしまったことだろう。TQIMでは,ますます多く育てたくなるかも |
TQITは「拡張パック」という位置づけではあるが,これからゲームを始めるような人にとっても導入するメリットがある。それらの中でもとくに嬉しいのが,新たに登場するNPC「Caravan」だ。
Caravanとは,いわゆる倉庫用のNPCである。TQ本編でも,メインクエストを進展させるとインベントリが拡張されたが,CaravanはAct1の最初のエリアから利用でき,しかもスロット枠はより大きい。
そしてこのCaravanで特筆すべきは,同一PC内の別のキャラクターとの間で共有されていることだ。例えば,マスタリーの相性が合わずに装備できなかったり,成長に伴って“卒業”してしまったりしたアイテムも,Caravanを通じて別のキャラクターに渡すことで有効活用できるのである。
また,TQITでは「Enchanter」というNPCも新たに登場する。これは主に,新要素である「アーティファクト」の作成と,武具からのRelic/Charmの取り外しを行ってくれる,中〜上級者に関係の深い要素だ。
アーティファクトとは,TQITで新たに追加された装備群で,主に攻撃面を強化してくれる。装備スロットが武器と別枠であるため,その効果はステータス画面で表示される数値に上乗せする形で発揮される。ただし,実際にアーティファクトを作成するには,その効果に見合うだけの努力を積み重ねばならない。
アーティファクトの作成には,まず「Arcane Formula」という,極めてレアなアイテムを入手する必要がある。そこにはRelic/Charmが計3種類記されており,これを全部揃えてEnchanterのもとへ届けると,アーティファクトを作成してくれるのだ。
とはいえ,RelicとCharmには相当な種類があり,しかもそれらをすべて“完成”(破片を3〜5個集める)させねばならない。TQ経験者であれば,これに相当な時間と手間を要することはお分かりいただけるだろう。2〜3体のキャラクターをしっかり育成して,ようやく一個のアーティファクトを完成させられるかどうか,といったレベルと考えていい。
しかしTQはもともと,何体ものキャラクターを作成したくなるほどリプレイ性の高いタイトルで,そこへ今回,Caravanによるアイテム移動が導入された。そうした意味で,アーティファクトの作成がひたすら面倒なわけではない。むしろ,マイキャラの膨大なアイテムを整理していてる最中に,「あと少しでアーティファクトが完成する!」と気づいたときの嬉しさがたまらない,と思える人も多いはずだ。そして,どのモンスターを狙えば必要なRelicやCharmを得られるか考えるのも,プレイのモチベーションとなる。
そうやって苦労の末に手に入れたアーティファクトは,それこそ(ゲーム内で)一生モノといえる価値がある。どのようなアーティファクトでも,EpicやLegendaryまで立派に役立ってくれるだろう。しかし,ランクの高いアーティファクトの中には,“完成したアーティファクト”をレシピとして要するものもある……。
Caravanの倉庫スロットを,最大まで拡張した状態。これだけの広さがあれば,例えばセットアイテムなども揃えやすいだろう | 新キャラクターに強力なアイテムを持たせられるのが嬉しい。ただし,装備条件にレベルが含まれているので,極端な装備は無理 | Arcane Formulaのレシピ内容に注目。Relic/Charmの完成には時間と手間がかかるので,ドロップする敵を覚えておきたい |
Enchanterは,Relic/Charmの取り外しも行ってくれる。アーティファクトの作成のために,再利用できるのが助かる | アーティファクト用に装備スロットが追加されている。見てのとおり,かなり強力だが,これでも“Lesser”である | より強力なアーティファクトを求め,Relic/Charmを探す冒険に。TQITによって冒険者の目標はまた一つ増えた |
TQ経験者は迷わず買い,アクションRPG好きには広くお勧め
マルチプレイでペーパードールを眺めていたら,黒装束らしき防具セットを発見。ユニーク/セットアイテムはかなり追加された模様 |
そのほか,TQITではマルチプレイ用のロビー画面が一新されている。中でも,現在マルチプレイに参加しているキャラクターの外見を,ロビー上からペーパードールで確認できるのはいいアイデアだ。まるでウィンドウショッピングをするような感覚で,ほかのプレイヤーの装備を眺めるのが意外と面白い。
そのほかのプレイ環境については,基本的にTQ本編から変わっていない。つまり,キャラクターのデータがローカル(プレイヤーのPC)に保存される点ももちろん同じで,チートの問題はどうしてもついて回る。また,キャラメイク時に選択できる項目も相変わらず乏しく,事実上男女の2パターンしかないため,せっかくのペーパードール表示機能を完全に生かしきれていないように思える。TQITのパッケージイラストを最初に見て,今度は金髪の女性キャラが作れるのかと,期待した人もいたのではないだろうか。
とはいえ,TQITで少々気になったのは,TQ本編の頃からあった以上の2点のみ。それ以外の不満点はほとんど見当たらず,TQ経験者ならば買って損なしの拡張パックである。
とくに良いと思ったのが,導入された要素の数々が密接に結びついていることである。Dreamマスタリーはさまざまな可能性を秘めており,これでまた,何体ものキャラクターを育成したくなってしまう。すると,RelicやCharmが次第に集まってくるので,Caravanのアイテム移動を利用しつつ,アーティファクトを作成を目指す。そうやって強力になったキャラクターは,きっとハデス編の強力なモンスターとも互角に渡り合えるだろう。
傍からは単純作業の繰り返しに見えるかもしれないが,TQはアクションRPGとしての基礎がしっかりしていることから,この延々と続くループがたまらなく心地良いのである。
TQITは,導入された各要素が既存プレイヤーに新しいプレイ目標を提供するとともに,今から始める人なら先に導入しておいたほうがよい,優れた拡張パックだ。これまでTQをプレイしたことがなくても,アクションRPGが好きな人であれば,この拡張パックが登場したタイミングで,ぜひ着手してみてほしい。
キャラクターデータをローカルに保存しているので,チート問題は避けられない。マルチプレイのときはくれぐれも慎重に | 自分が倒れると,その場所に墓石が立つ。この場所に帰還するとデスペナルティが軽減され,Epic以降のレベルではそれなりの違いがある | ハデス編は一つのActのみだが,サイドクエストも充実しているので長く遊べる。画面は,幽霊の弓兵NPCを連れて一斉射撃している最中 |
拡張パックとしては,ほぼ非の打ちどころがない出来。これ以上を求めるとしたら,例えばランダム生成マップによるダンジョンの導入などか | 隠しダンジョンへ行くには,ラスボスを“何度も”倒す必要があるかも。ダンジョンの入口はAct4の序盤,写真のエリアのどこかにある | この機会に初めてTQを知った人は,前回のレビュー記事も参考にしてほしい。一人でも多くのアクションRPGファンにプレイしてもらいたい作品だ |