■舞台は日本の戦国時代
前作から段違いにグラフィックスが向上している「武田信玄2」。前作はユニットにカクカクしたぎこちない動きも見られたが,本作はなめらかだ |
「武田信玄2」(原題 Takeda2)は,その名のとおり,戦国大名の武田信玄を主人公とした歴史ストラテジーゲームだ。開発元はカナダのMagitech社。同社は過去に「武田信玄」(Takeda)と「Strength and Honor」をリリースしており,本作「武田信玄2」が3作めの作品となる。
本作をいきなり「カナダの企業が作った戦国時代のストラテジーゲーム」という(イロモノのような)形で紹介してしまうのは,適切でない。本作で描かれている日本観には違和感がないし,歴史考証の部分も気になる点はとくにない(ローカライズの質の高さによるところも大きいだろう)。個人的には,こういうゲームこそ日本のメーカーにぜひ作ってもらいたいと思うところだが,今や制作された国をうんぬんいうことに大した意味はないだろう。ともあれ,本作を純粋に一個の戦国ストラテジー作品として紹介したい。
ゲームが始まるのは1548年。プレイヤーは「武田晴信(信玄)」「長尾景虎(上杉謙信)」「織田信秀」の3大名家の中から一つを選んで,天下統一を目指し,軍を率いて戦っていく。
プレイの流れとしては一般的な歴史ストラテジーゲームの形式を踏襲しており,「戦略モード」と「合戦モード」の二つが用意されている。
「戦略モード」はターン制で,日本を表したマップが舞台。ここでのプレイヤーの主な行動は,「軍団」の編成と移動だ。まずは城にいる家臣の中から軍団に参加させるものを選ぶ。そしてそれぞれに「足軽」「徒侍」「弓兵」「騎馬兵」「鉄砲兵」の五つの兵科の中から選んで兵士を割り当て,それらを一まとめにしたものが軍団となる。
マップ上の軍団を移動させ,敵の軍団とぶつかると(もしくは敵からぶつかってくると)「合戦モード」へと移行する。合戦モードはリアルタイム制で,実在の地形データをもとに描かれた3D画面上で行われる。陣形を駆使して敵を撃破するのが目的で,勝敗が決すると再び戦略モードへ戻り,これを繰り返して天下統一を目指す。
読んでいて想像がついた読者もいると思うが,この流れはトータルウォーシリーズにかなり近いシステムだ。信長の野望シリーズでいうなら「将星録」や「烈風伝」に近い。ただし本作は内政部分がほとんど省略されていて,兵士や物資は毎ターン自動で補給される。おのずと合戦モードの比重が大きくなってくるわけだが,本作のメインはもちろん合戦にある。
カナダ生まれとはいえ,日本語版なので安心して遊べる。デザインもとことん和風だが,背景の山が少し異国風? | 信長の野望シリーズに大きく影響を受けているのは間違いない。顔グラフィックスの類似性はちょっと心配ではあるが | 日本全国はカバーしておらず,東は伊達氏の岩切城から西は赤松氏の姫路城まで。毛利あたりまでは欲しかった |
織田でのプレイは,序盤の苦しさがシビれる。とりあえず今川氏をなんとかしないと,あっという間に滅亡の憂き目に | マウスだけでは若干操作に手こずる。攻撃“A”,移動“M”など,キーボードのショートカットキーをうまく併用しよう | 大抵のコマンドは,アイコン上にマウスを乗せるとヘルプが表示されるほか,F1キーを押すとヘルプ画面が開く |
■「陣形の本質」に迫る合戦モード
雨が降るとうっすらと霞みがかかって雰囲気抜群になる。前進してくる敵部隊がだんだんと姿を現す。遠近感の演出が美しい |
本作における「合戦モード」の一番の特徴は,「陣形」を本格的に導入している点だ。陣形をうまく使って敵を包囲したり,側面を突いたり,おびきよせたり,突撃を食い止めたりしながら戦いを進めていくことが,本作最大のゲーム性といえる。
陣形には軍団全体としての陣形と,部隊ごとの陣形の2種類がある。軍団全体の陣形は12種類あり,これはいわば戦場全体のおおまかな方向性を決めるものだ。例えば方円の陣なら機動性に優れているので,素早く移動して敵の裏をかく戦術になり,鋒矢の陣なら徹底して正面突破を図る戦略になるだろう。これは合戦を始める前に部隊を配置する段階で決めるが,途中で変更することも可能だ。
部隊ごとの陣形は19種類あり,こちらは局地的な戦闘に影響を与える。初期状態では軍団全体の陣形に合わせて型があり,あらかじめ決まっているが,これも変更可能だ。つまり,軍団全体の陣形と部隊ごとの陣形の組み合わせが無限に存在するということになる。この組合せは自分でカスタムして保存もできるので,いろいろと試し甲斐がある。
なんといっても本作の凄いところは,陣形の“形そのもの”に意味があることだ。陣形を使うゲームでは,「くさび型陣形にすると攻撃力アップ」とか「横隊は側面からの攻撃にマイナス補正」といった具合に,実際はパラメータ修正が行われるだけということが多いが,本作は違う。あくまで陣形の形そのものが持つ利点/欠点を,自然にシミュレートしようという試みがなされている。
これは非常に難しいことで,実際本作でもシステム的に完全に消化しきれているか,正直微妙なところもあるが,大いに評価したいポイントである。何よりプレイしていて,とてもリアルに感じられた。
合戦のウリはこれだけではない。高低差による部隊の移動速度や弓矢の射程の差,騎兵のスピードによる打撃力の違い,疲労や士気の要素,各兵士のモーション(例えば足軽なら槍を前に突き出しているか地面に立てているかなど)の違いまで加味されているなど,細かなリアリティにこだわって作られているのだ。
合戦には「野戦」と「攻城戦」の2種類があるが,どちらも勝利条件は同じである。すなわち,総大将を倒して敵を退却させるか,本陣を落とすか。どちらかを達成すれば勝利となる。攻城戦は,門を壊しながら本丸目指して進んでいくという形式。門をめぐる攻防は確かに面白いのだが,基本的に一本道なため,野戦のほうが戦略のバリエーションが豊富なぶん面白く感じられた。
最初の布陣が勝負に大きな影響を及ぼすので,陣形は慎重に選ぼう。余裕があれば別働隊もぜひ配置したい | 難度は高めで,最初は敵と同数の兵士では苦戦するかも。突撃のタイミングなどが分かってくると勝てるようになる | 攻城戦は門をめぐる攻防がカギ。高低差のある城だと,内側からの矢の雨の前に苦戦するのは必至 |
陣形を三つ紹介。左から「鶴翼の陣」「臥竜の陣」「方円の陣」だ。この画面では全体の陣形を選択するほか,個々の部隊の隊形も選択できる。まず全体の陣形を選んだあと,各部隊を配置する四角のマスを右クリックすると,一つ一つの部隊の陣形/向きなどを指定できる。自分のオリジナルの陣形パターンを作って保存することも可能 |
■戦国ファンならとりあえず要チェック
歴史イベントも豊富に挿入され,どんなイベントがあるのか探すのも楽しい。「歴史公証的におかしなイベントはないだろうか?」などと変な期待をしてはイケナイ |
グラフィックスのクオリティ自体は,前世代のものといった印象。とくにズームインしたときに粗さが目につく。また,兵士の一人一人は2Dで描かれており,それを擬似的に3Dに見せているだけで,兵士の動きもすべって移動しているように見えることがある。
だが,それらはズームアップした場合の話。引いた視点で見た画像は美しく迫力があり,あくまで自然だ。実際には引いた視点でプレイすることがほとんどなので,気になることはないだろう。結果として,この手のゲームにしては動作環境が軽めなのはプラス材料だ。
歴史ゲームとして見た場合,地名や人名はすべて史実どおりで,歴史イベントも豊富に盛り込まれている。さすがに歴史背景や武将についての解説はあまり詳しく書かれていないが,逆に違和感のある記述もない。国産のゲームといわれても信じてしまうくらいに自然にできている。外国産だから戦国の時代に合ってないのでは……,という心配は無用だ。
本作の欠点は,ゲームモードがキャンペーンのみで,シナリオは1548年スタートの1本,そして選べる大名が三つのみという物足りなさだろう。前作「武田信玄」にあった史実の合戦をプレイするモードや,マルチプレイはカットされてしまっており,非常に残念だ。またチュートリアルがないので,プレイを始めてしばらくは戸惑うことが多かった。奥が深いゲームであるがゆえに,とっつきにくさはある。
それを差し引いても,合戦そのものにこだわった本作は,陣形の配置が勝負を決める妙味を十分に味わうことができ,戦場のさまざまな要素を巧みに取り入れた硬派な作品に仕上がっている。ましてや日本の戦国時代がテーマとあり,このジャンルが好きな人にはぜひチェックしてほしい作品だ。
デモ版がなくて二の足を踏んでしまうという人は,「Strength and Honor」が本作とほぼ同じエンジンの作品なので,試してみるとよいだろう。
外交システムもなかなか凝っている。他国との同盟や婚姻はもちろん,朝廷への謁見も可能だ | 合戦はCPU任せで自動処理することも可能。城単位で,操作をまるまるCPUに任せることまでできる | 死んだユニットの遺体が消えずにずっと残るという仕様は,雰囲気作りに一役買っている。地味だが好印象 |
ひときわでかい旗を掲げているのが武将だ。意外にあっさり討ち死にするので,むやみに突撃させないようにしたい | 上杉謙信の居城,春日山城。地形や城壁の配置は,ほぼ実在したものどおりにデザインされている | 合戦はリアルタイムだが,細かい操作は必要ないので,ゆったりとプレイできる。むしろ開戦前の布陣が重要 |