» 本日(6月1日),ズーから発売された「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl 日本語マニュアル付 英語版」。長い歳月をかけ,開発途中でゲーム内容が幾度となく変更されてきたという,いわく付きのタイトルだ。チェルノブイリ原発事故後に発生した異世界“ZONE”を舞台に,ストーカーと呼ばれる孤独な男達の一人として生き抜く世界注目のFPSを,開発のごく初期段階からずっと追ってきたライター,奥谷海人氏が満を持してレビューする。
時間をかけて生み出されたウクライナ産のFPS
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| S.T.A.L.K.E.R.は,当初2003年のリリースを予定していながら,欧米で発売されたのは2007年3月のこと。「A-Life」と呼ばれるゲームシステムの構築に時間がかかっただけでなく,DirectX8.0からDirectX9.0cへと照準を合わせ直すなどで6年を費やすことになったが,そのコンセプトは微塵も古さを感じさせない |
欧米では2007年3月にTHQから発売された「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl」(以下,S.T.A.L.K.E.R.)は,ウクライナのデベロッパ,GSC Game Worldが6年もの長い期間にわたり開発してきた一人称視点のシューティングだ。美しく迫力あるグラフィックスで描き出された世界を自由に歩き回りながら,モンスターや盗賊,軍の兵士達と戦いつつ,過酷な環境を生き抜いていくというサバイバルホラーだ。
S.T.A.L.K.E.R.はもともとNVIDIAの技術/資金援助を得てスタートしたプロジェクトだった。GSC Game WorldがDirectX 8.0対応のハイグラフィックスデモとして開発した,X-Rayエンジンに端を発するもの。同社は,何千体ものユニットを一画面に表示させることで話題になったRTS,「コサックス」シリーズで名をあげたウクライナの新興開発チームであり,2000年代の初めには,比較的安い予算で高品質なゲームを提供する東欧ゲーム業界の旗手として知られていたのである。S.T.A.L.K.E.R.の発売は遅れに遅れてしまったが,彼らはその間にも「Firestarter」や「Codename: Outbreak」などをテンポ良くリリースしており,本作は彼らにとって「試行錯誤を繰り返しながら手塩にかけて育てたゲーム」ということになるだろう。
S.T.A.L.K.E.R.は,ロシアのストルガツキー兄弟による小説「Roadside Picnic」(1972年)のコンセプトを借用し,そこに,旧ソビエト連邦から亡命した映画監督,アンドレイ・タルコフスキー氏の映画「ストーカー」(1979年)の映像的雰囲気や,1986年にウクライナのチェルノブイリ原子力発電所で発生した炉心熔解事故をバックグラウンドに取り込むことにより,その世界観を作り上げている。
1986年の事故後,2006年に二度目の謎の大爆発が起き,そこに直径30kmという巨大な謎の空間“ZONE”が生まれる。強度の放射能汚染のため政府はそこを閉鎖しているが,なんらかの理由によって,ZONEは拡大を続けているというのである。
このZONEの内部にもといた人のほとんどは死亡したが,運良く生き残った人々や,外部から研究目的でやってきた科学者,そしてどこからともなく流れ込んできた犯罪者や荒くれ者が住んでいる。さらに,自分の裁量と本能でZONEを動き回り,依頼を受けて事故の遺留品や残骸を収拾して生活する“ストーカー”と呼ばれる職業にある者達が,時に協力し,時にライバルとして競争しているのである。
プレイヤーはこのストーカーの一人となるわけだが,ゲームスタートの時点では事故によって記憶喪失状態になっている。名前を覚えていないので,“the Marked One”(目立つヤツ,ぐらいの意味)とだけ呼ばれているが,彼を助けてくれたトレーダーから仕事をもらいつつ,ZONEの中枢部で何が起きているのかを解き明かし,ひいては自分の過去を知る人物を見つけ出す旅を続けることになる。つまりS.T.A.L.K.E.R.は,一ひねり加えた自分探しの物語であり,血と破壊に彩られた旅なのである。
アクションシューティングに
アイテム収集などの要素を加味
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| 美しいグラフィックスであるため,当然ながらゲームはかなり重く,ロード時間も長い。A-Lifeは,まだ改良の余地があるようにも思えるが,敵のAIは,物陰に隠れたり迂回したりという行動はもちろん,味方がマガジンを交換している間に,別の兵士がカバーのために飛び出して撃ってくるというような協力プレイをする |
S.T.A.L.K.E.R.の世界には独特の陰惨な雰囲気があり,メインストーリーが進展していくにしたがい,順序よくZONE内部の異常さをプレイヤーに見せてくれるという構成。マップのところどころには汚染のひどい地域があり,“アノマリー”と呼ばれる異常現象があちこちに見られる。このアノマリーは,局地的に放射能汚染がひどい地域という単純なものから,電磁波が発生していたり,つむじ風がオブジェクトを空中へと巻き上げるというようなものまである。基本的に,アノマリー探知機のクリック音が激しくなる地域には近づかないほうがよい。たいていはひどい目にあってしまうからだ。
しかし,そんなZONEにストーカー達が入り込んでくるのも,アノマリーの副産物である“アーティファクト”のためだ。Chuck MeatやFlashなどと名付けられたアーティファクトには数種類あり,ありふれた銃器よりも高額で取引される。放射線に対する耐性がついたり,体力が向上したりといったさまざまな効能があり,この神秘的なアーティファクトの正体を探求するため,多くの科学者がどんな手を使ってでもこれらを入手しようとしている。
プレイヤーもアーティファクトを最大五つまで身につけることができ,状況や好みによって着脱が可能だ。アーティファクトを装着すれば,さまざまなメリットが得られるものの,当然高く売れるので,30個ほど集めれば高額なアーマースーツも入手できる。このあたりの判断は,プレイヤー次第だ。
NPCから請け負ったミッションをこなして報酬を得る以外に,倒した敵をルートして得たアイテムを,各マップに10〜15個ほど点在する“スタッシュ”と呼ばれる箱にためておき,適当な時点でトレーダーのところへ持って行けば換金できる。
とはいえ,これは実はちょっと面倒なシステムだ。プレイヤーは,総計で60kg以上は持ち運べないという妙に現実的な仕様になっているのはいいのだが,常時必要な装備だけでも35kgから40kgくらいになる。30種ほど登場する銃器は,重いもので5kgを超える場合もあり,あまり多くの物品を運搬できないのだ。しかもマップが広いので,アイテムを置いた場所からスタッシュやトレーダーとの間を何度も往復するのはいささか苦痛である。
また,endurance(忍耐)というパラメータがあるが,これはスプリント(デフォルトでXキー押下)すると消費される。戦闘中や,戦闘を回避したいときの逃避時に使用するわけだが,携帯装備が50kgを超えると,このendurance値の消費量が極端に増えてしまう。この装備量の上限とendurance値,そして移動距離の関係が,プレイ上の留意点だ。荷物を運んでいるときなどはなるべく戦闘を回避したいが,大荷物でダッシュし過ぎるとenduranceが急激に減り,嫌でも戦闘に巻き込まれてしまうといった具合だ。
銃やアーマーは,使用するにしたがって磨耗し,交戦中にジャムを起こしたり,プレイヤーを被弾や放射線,炎などから十分に防護できない状況になっていく。これらの装備の交換を考慮する必要もあり,経験値こそ存在しないものの,全体にRPG的な味付けになっている。
突撃より,スナイパーとしての攻撃を重視して
緊張感を演出
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| これはBloodsuckerと呼ばれるモンスター。口の周りからタコの足のような触覚が出ており,大声で突然飛び出してくる獰猛な奴だ。地下路や下水道といったロケーションも多く,ホラー的な要素も満載だ。ミュータント系は,このように接近して引っ掻き攻撃をするか,遠くから超能力攻撃をするのかの2タイプに分かれる |
S.T.A.L.K.E.R.のアクションは面白い。ゲーム序盤こそ,マップ上を徘徊するBanditsとの小競り合いに終始するという地味な印象が強いが,ZONEの治安維持に当たる軍隊が無差別攻撃してきたり,ミュータント化したさまざまな動物や人間達が襲いかかってくるようになったりすると,戦闘の迫力は増してくる。モンスターのデザインはかなり奇怪なものが多く,それらが暗闇から突然飛び出してきたり,テレキネシスなどの超能力を使ってきたりするため,かなり不気味で手強い。
人間には,外部から治安維持のために送り込まれてきた兵士(Military)と,ただの略奪者としてのザコ系キャラクター,Banditsなどのほか,緑色の重装備に身を包んだ謎の傭兵(Mercenaries)というファクション(組織のようなもの)が存在する。また,自分達のZONEの未来像を描く狂信的なDutyとFreedomという二つの組織。そしてチェルノブイリ中枢部に巣食うMonolithという勢力が存在するなど,多士済々だ。
プレイヤーは,ゲーム内でフリーのストーカー(Lonerと呼ばれる)として活動することも可能だが,DutyかFreedomのどちらかに参加することで,彼ら特有のアイテムにアクセスできる。
面白いのは,マップ上ではこれらの勢力同士が戦っているシーンに出くわすことだ。スクリプトとしてストーリーの一部になっていることもあれば,ミュータントに襲われて銃を撃ちまくっているストーカーやBanditsを見かけることもある。人間や動物系の敵は,一日ほど経ってから戻ってみると,ある程度の数がリスポーンされている。
このようにマップ上には常に1000体以上のNPCやキャラクターが存在し,人間には必ず名前が付いているという凝り様だ。こうした作り込みの細かさがZONEのリアリティを高めることに役立っている。
FPSのキモとなる戦闘だが,敵の目の前に突っ込んで打ち倒すランボースタイルではなく,物陰に隠れて機会をうかがい,スコープ付きの射程距離の長い武器を使って遠くから射撃するというスタイルが多くなり,緊張感のある戦略的なアクションを楽しめる。狙うべきはもちろんヘッドショットで,頭にうまく当たれば無駄に弾丸を消費することなく,ラクな展開に持っていける。狭い下水道などではショットガンの効果が高く,このように,どこからどのように攻めるか,どんな武器を持っていくのかで,展開が大きく変わっていくのだ。
その一方で,敵もヘッドショットでプレイヤーを仕留めることが可能であり,不用意に進んだせいで敵に囲まれ,ゲームーオーバーになってしまうこともしばしばある。
敵AIはなかなか秀逸で,スナイピングで敵を狙っていたら,知らないうちに別の敵に回り込まれてダメージを受けるというようなことは,実際何度も起こるのだ。このあたりは,ヨーロッパ産のゲームらしく非常にシビア。全体として戦闘の難度は高い部類に入るだろう。
プレイする価値のある,ちょっと変わった感覚のゲーム
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| 6年前の発表時ほどグラフィックスのインパクトはなくなったが,それでも廃墟となった建物といった大きなオブジェクトが多く,見ごたえがある。このような工場地帯のマップはゲーム全体の半分ほどを占めるが,これらはマルチプレイ用の対戦マップとしても利用される |
BGMはほとんどないが,風の吹きぬける音や虫の鳴き声,犬の遠吠えや叫び声などがどこからともなく聞こえてきて,雰囲気は満点。キャンプで焚き火を囲む兵士達のギターや,ラジオから流れる音楽もムードを盛り上げる。ただ,NPCが何度も同じセリフを繰り返すなどは,少々耳障りかも。
マルチプレイモードには,デスマッチとチームデスマッチのほかに,Artifact Huntと呼ばれるモードがある。これは要するにキャプチャー・ザ・フラッグのアーティファクト版である。Artifact Huntでは,「Counter-Strike」のように直前の対戦で得た報酬をもとに,より強力な武器を買って次の対戦に持って行ける。一方のデスマッチとチームデスマッチは,より多くの敵を倒すことでラダーを上がり,新しい武器や装備がアンロックされるという仕組みである。
内容としてとくに目新しいところはなく,本作はやはりシングルプレイに軸足を置いたゲームといえるだろう。今後,ZONEをうまく使ったCo-opなどが実装されると面白いが,プレイヤーの数は,ゲームが出たばかりということもあるのか,比較的多いようだ。
ZONEは18の地域に分かれているが,実際のマップは当初計画されていたほど広くない。「向こうに見える山まで行ってみよう」と思っても,あちこちに張りめぐらされた柵の外へは出られず,隣の地域への移動にはチェックポイントの通過が必要と,完全なオープンエンドとは言いきれない。マップのうち半分程度は廃墟となった街や工場の周辺で,不必要な場所にまでわざわざ遠征するような仕掛けはなく,「無数のキャラクターがそれぞれのAIで動く広大な世界を自由に歩き回る」という開発当初のコンセプトは変更されている。
また,メインミッション以外のサブクエストは,どれも特定の場所で敵を撃ち倒すというスタイルのものばかりでバリエーションが少ない。「Grand Theft Auto III」や「The Elder Scroll IV: Oblibion」ほどの自由度を与えられなかったのは惜しまれるところ。
開発途中で乗り物の要素もオミットされており,いろいろな理由はあるのだろうが,これもまたやや残念な気がする。
それでも,このS.T.A.L.K.E.R.はFPSというゲームジャンルを拡張しようという試みが随所に見られる野心的な作品だ。装備のマネジメントシステムやアクション面での緊張感など,未知の異世界,ZONEの内部でサバイバルをしているという雰囲気が非常によく表現されている。サブクエストのパターンが多ければなお良かったとは思うが,エンディングが複数あることからリプレイ性も高い。ストーリーについてはネタバレの可能性があってあまり触れられなかったが,とても秀逸だとだけ言っておこう。
AIやシステム面ではまだまだ改良する余地はあるものの,すでに2回もパッチがリリースされていることから,GSC Game Worldの本作にかける意気込みが読み取れるだろう。
続編ないしは拡張パックが7月に開催されるE3でアナウンスされる予定であることに加え,本日(6月1日)は日本語マニュアル付き英語版がズーより発売される。西欧やアメリカ製のタイトルとはちょっと違う感覚で開発されたこの魅力的な一本は,FPSファンにとって十分にプレイする価値のある作品だ。
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