■人はパンのみで生きるにあらず。でも仕事ぐらいしなきゃ
世界中で売れまくっている人生シミュレーション「ザ・シムズ2」の最新拡張パック「ザ・シムズ2 ハッピーショップライフ! データセット」が登場した。タイトルどおり,今回からシム人は「商売」ができるのだ。ショップを開店し,お客を集め,大儲け。あれ? あの鳥は? おお,閑古鳥! といった具合に,またまた彼らの人生は広がった |
日本で「商売を始める」というと,細腕で繁盛みたいな,おしんの「しん」は辛抱の「しん」みたいな,ゼニの花はこよなく白いみたいな,ある種,一世一代の大冒険といった雰囲気が漂ってしまう。が,アメリカというかシム人は,まことに気軽に商売を始めてしまう。国民性の違いだね。
実際,筆者がかつて住んでいたカリフォルニア州フレズノ市でも,いろんな店が現れては消え,消えては現れ,まことに目まぐるしかった。知り合いのおばさんがアンティークの店を始めたのはいいが,意外なほど繁盛して手持ちのアンティーク商品が底をついてしまい,ついには亡き夫の遺品の数々まで手を出そうとして,娘に止められたという心温まる話もあるくらいだ。
というわけで,世界的超大人気人生シミュレーションゲーム「ザ・シムズ2」の最新拡張パック,「ザ・シムズ2 ハッピーショップライフ!」(原題 The Sims2: Open for Business)が,日本でも発売された。いかした大学生活を送る「キャンパスライフ!」,小粋なオトナの夜を演出する「ナイトライフ!」に続き,今回のテーマは「お仕事」。シム人達の経済活動にスポットを当てた,グリーンスパンFRB(連邦準備制度理事会)議長もビックリの拡張パックである。
これまで,「シム人の仕事」といえば,新聞やネットを使って就職し,時間になると車が迎えに来て,時間になると車に送られて帰ってくる,というものだった。仕事先で何が起きているのか具体的には描かれず,ときどきいやらしい3択式の質問がポップアップし,正解すると昇進してスキルアップ,間違えるとクビ,みたいなことが起きる程度。どこにオフィスがあって,どんな同僚がいるのかといった詳細は不明だったのだ。
そんな謎に満ち満ちた彼らの仕事ぶりが,ついに白日の下に……というわけではない。今回の拡張パックでは,商売を“新たに”始められるというもので,従来の仕事の要素,例えば「犯罪キャリア」だの「軍隊キャリア」だのは,そのまま残る。そのへんをお間違えなきよう。
ともあれ,考えようによっては,これはシム社会における一大革命かもしれない。何しろ,これまでまともな収入の道は「就職」しかなかったわけだが,これからは家にいながら,あるいはショッピングタウンの「ブルーウォーター村」に構えた自分の店で働くことによって,収入が得られるようになったのだ。しかも,自分のショップが大繁盛すれば,変な髪形で有名なドナルド・トランブ並の大金持ちになれるかもしれないではないか。何十人も従業員を雇い,湖に面した豪邸に住み,半乳黒タイツのメイドを30人ぐらい雇い入れ(実際は一人しか雇えないが),美人秘書が10と5人(秘書はいないが),し,しかも愛人が300人(大金持ちじゃなくても作れるが)……ええ,もう止めときましょうね。
■働いて働いて,やがては大金持ち……人生ってなんだろう?
やがてはこんな小粋な家具店を経営して,町の名士に。とはいえ,アイテムを仕入れ,値段をつけ,店員を雇い,セールスして,レジを打ってと,オーナーは目が回るほど忙しい |
この拡張パックが,シム人社会に与えるインパクトの大きさは最後にまとめる……などと気を持たせておいて,ともかく仕事開始だ。仕事を始める方法は二つ,「在宅でオープン」と「公共区画でオープン」だ。公共区画とは,上にもチラっと書いたが,ショッピング地区「ブルーウォーター地区」のこと。そこはさまざまなショップが集まる一大ショッピングタウンで,「ブルーウォーター・バス&サロン」だの「カバーミー衣料品店」だの「フォン・ドー画廊」だのが建ち並ぶ,海辺の小粋な町である。素敵。例によって,最初にそれぞれの町と「関連付け」を行っておく必要がある。
商売を始めるわけだが,最初はお金がないだろうから,在宅でオープンするしかない。やり方は簡単で,PCもしくは電話で「商売」→「在宅ビジネスを始める」を選ぶだけ。どこに連絡しているのだろうか。ウィル・ライトかな?
すると,画面右上に「商売パネル」が出現する。このパネルによって,例えば「商品管理」だの,「キャッシュフロー情報」だのをマネージするという寸法だ。これで準備は整った。さあ,やるぞ。でも,何を?
そうなのである。順番が逆になってしまったが,まずはどんな店を開きたいのか,考えなければならないのだ。経営できる店舗の種類としては,「小売ショップ」「サロン」「レストラン」「その他」がある。アイテムに値段を付けて購入してもらう小売ショップ,新アイテム「ノーモアブサイクの変身ステーション」を使って美容サロン,同じく新アイテム「クアスのテンペスト・クックトップ」を使ってレストラン,といった具合だ(レストランは公共区画のみ)。
「その他」というのは,「チケットマシン」を使ったビジネス。チケットマシンとは,入り口付近にでも置いて値段を設定しておけば,入りたい人が入場料を払って入ってくれるという,便利なマシンだ。ピンボールマシンやビリヤード台を並べてゲーセン,銅像や絵画を買い集めて画廊などなど,ともかく人さえ集まってくればビジネスは成立する。これなら商品が減らないので,ウハウハといえよう。
またまた話が前後してしまったが,とりあえず在宅ビジネスの小売ショップだ。最初に絶対に間違いなく必要なものは,「レジスター」である。なぜなら,レジスターがないとお客さんの購入した商品を清算できないからだ。それから,商品。商売パネルから仕入れ,ある程度のマージンを乗せた価格設定をして販売する。“安く買って高く売る”が,商売の原則である。
売るものはなんでもいいのだが,基本的に「購入モード」で買えるアイテム全般。あるいは,新アイテム「クラフティンイット! 産業の“人畜無害”ロボット製作ステーション」(名前長すぎでしょ)などを購入して,自分で商品を作って販売できる。
お金が貯まれば,いよいよ公共区画の店舗を購入し,広々としたスペースで大々的に商売を展開できる。魅力的な商品を集め,カスタマーロイヤルティ(あなたのお店に対する満足度)を高め,さらに自分の商売スキルを高め,素晴らしいショップを経営していただきたい。
■「仕事」に行かなくてもやっていけるのが魅力
「チケットマシン」を置いて入場料を取れば,何もしなくてもお客さんが集まる。というウワサを聞いて,試しに,なんでもない普通の民家に置いてみた。すると,どういうつもりかしらないが,何があるわけでもないのに,それなりに人が集まってくるではないか。変わった人達だ。友達も簡単に出来るし,一石二鳥といえよう |
従業員を雇えるというのも,本作ならではの要素だ。
ショップが繁盛してくれば,必然的に忙しくなってくる。ちくしょう,忙しい! とお嘆きのあなたは,店員を雇用したいもの。しかし大した働きもしない割に,でかい面をして鼻くそをほじっている筆者のような店員では,ビジネスシーンにおけるビッグサクセスは望めない。
従業員を雇うときには,「従業員パネル」をよく見て,それなりのスキルを持ったシム人を雇わなければならないのだ。また,今回から導入された才能バッチも目安になるだろう。そして,適材適所。料理の好きな従業員を接客に,外交的な従業員を掃除に使ってしまったのでは,ある意味楽しいけど,やめたほうがいいんじゃないか,と。
また,適当な相手をクリックして「雇う」ことも可能だ。私は最初,それしか雇用方法を知らなかったので,そうしていたところ,バカ店員ばっかり集まってしまった。「クビだ!」と言い渡すのもやはり愉快ではあるが,ちゃんと被雇用者の能力を見定めるべし。
ちなみに能力の高い従業員には,どうしてもそれなりの時給を払わなければならないし,マネージャーに昇進させてやらなければ,「従業員インジケーター」が低下してどんどん勤労意欲を喪失し,そのうち辞めてしまうかもしれない。ほかにもいろいろあるが,要するに,従業員さばきのうまい下手が,商売の成功不成功に直結するわけで,そのへん,シム人の世界も,現実社会もまったく同じというわけ。昔から,「人は城,人は石垣」というではないか。意味は分かんないけど。
と,やや駆け足の説明になってしまったが,そうやって店舗を拡張し,顧客を増やし,エリア最大のビジネスキングを目指すのだ! ……というのはウソである。いや,ウソとまではいわないか。まあ,そういう遊び方だってもちろんアリだろうけど,私としてはいつものように,のほほんと仕事をしていったほうが,彼ら的にも嬉しいのではないかと推定。つまんない商品を一生懸命作り出し,案の定売れなくてトホホ。適当に働いて,適当に遊んだり恋をしたり子供を育てたりのバタバタが,シムズの楽しみだと私は思うのだ。
というわけで,ちょっとまとめる。今回の「ハッピーショップライフ!」のもたらすものは,個人的にかなり大きいと考えている。これはすなわち,自らの才覚で収入の道を得られるようになったということだ。今までのような,「大学を卒業して就職して仕事して,停年になって老後はボンヤリ」という人生ばかりでは,つまらないではないか。
学校をドロップアウトしてディスコをオープンしたり,一家揃って仲良く小売店をやったりと,ここにはさまざまな人生の迂回路が用意されている。私は,こうした選べる道が多い社会が,より良い社会だと思うので(ティーンエージャーしか大学に入れないという仕様にはやや反対だ),これでまたシム人の世界は一つ広がった。プレイヤーも,お気に入りのキャラクターを,なんだったら1日24時間構い続けられるわけで,嬉しいと感じる人も多いだろう(面倒になったりもするが)。
見た目はやや地味な感じが漂うが,ほかの拡張パックにあんまり興味がないシムズ2のプレイヤーでも,この「ハッピーショップライフ!」は,ちょっと考えてみてもいいんじゃないかと思う。ではまた。