― レビュー ―
シリーズ中最高のサム・フィッシャーっぷりを堪能できる第3作
スプリンターセル カオスセオリー
Text by 松本隆一
2005年12月16日

 

※本記事は,2005年6月14日に掲載した特別記事「松本隆一の海外新作ゲームインプレッション」に加筆修正したものです。画像は一部日本語版のものと差し替えてあります

 

■中年子持ちスパイ,サム・フィッシャーが帰ってきた

 

この男,サム・フィッシャー。数々の素晴らしい体術が隠密行動を可能にしている。とはいえ人間の限界を超えた非常識なアクションが可能なわけではなく,あくまで現実的な範疇に止めているところが本シリーズのリアリティの要であり,物語やシチュエーションのリアリティをも同様に高めている

 あの男が,再び過酷な国際諜報戦の最前線に立つ。ファン待望のシリーズ最新作「スプリンターセル カオスセオリー」(原題 Tom Clancy's Splinter Splinter Cell: Chaos Theory)は,NSC(アメリカ安全保障局)内に編成された超極秘組織サード・エシェロンの1チーム「スプリンターセル」に所属するトップエージェント,サム・フィッシャーの活躍を描くステルスアクションだ。待ってました,オヤジ!

 

 さて,第1作「スプリンターセル」の登場が2003年。続く第2作「スプリンターセル パンドラトゥモロー」(原題 Tom Clancy's Splinter Cell: Pandora Tomorrow)が2004年。そして2005年にはこのカオスセオリーと,大ヒットタイトルにしては少々異例なほどのハイペースで量産されてきたシリーズ。もちろん,この点には全然不満はない。むしろ,1か月に1本ぐらい出てくれても大丈夫なほどだ。3日に1本でも平気だと思う。まあ,何にはともあれ,さっそく行ってみよう。

 

 まずはストーリー。スプリンター部隊のしなやかな中年男,サム・フィッシャーが挑む今回の敵は……。悪いけど,秘密なのである。前2作はゲームのごく初期から敵ボスが姿を見せ,サムが彼らの陰謀を暴き,阻止するという筋立てだったが,今回は物語の中盤を過ぎても真の敵の正体がなかなか分からず,見たところ,あまりストーリーとは関係なさそうなミッションを追いかけることになる。
 たぶん,このへんがサブタイトルである「カオス理論」の所以じゃないだろうか。ちなみにカオス理論とは,「リオデジャネイロでチョウが羽ばたくと,ニューヨークで桶屋が儲かる」とかなんとか,確かそんな感じの理論であり,監修に当たっているトム・クランシー御大の小説にもよくあるように,一見,無関係な事柄が世界のあちこちで起き,やがてそれが一つの大きな謀略劇に収斂していくというストーリーラインになっているのだ。

 

日本語化されたテキストをチェックしよう

 

 2005年11月17日にユービーアイソフトから発売された「スプリンターセル カオスセオリー」は,テキストが全編にわたり日本語化されている。本作カオスセオリーは,最初は断片的な情報ばかりが飛び交い,ストーリーの把握には骨が折れる。英語をあまり得意としない人は,日本語版の購入が間違いのない手だろう。
 なおマルチプレイモードに関しては,対戦の互換性を重視してか英語版のままとなっている。せっかくなので世界のスパイ達と対決しよう。

 

 

■日本語版はまるで映画の吹き替え版のよう

 

 テキスト/音声ともローカライズされた日本語版は,映画やアニメなどで大活躍しているベテラン声優が勢揃いで,まるで洋画を吹き替えで楽しんでいるかのようだ。敵兵士の立ち話なども日本語化されている。どうでもいい共通のセリフ(こちらを発見したときなど)だけは,なぜか英語のままだけど支障はなさそう。ちなみに,登場人物はこの3人だけではなく大勢いるのでご安心を。

 

サム・フィッシャー
(CV:玄田哲章)
本編の主人公。サードエシェロンの秘密工作員で,数々の素晴らしい体術で隠密行動を可能にする現代のスーパースパイだ。1963年生まれで,娘がいる。声優の玄田哲章さんは,まさに日本を代表する“ゴツいヒーローの声”の第一人者。日本人にはピンときづらいサムの人物像も,声のおかげでイメージしやすい
アーヴィング・ランバート
(CV:池田勝)
サード・エシェロンの作戦司令官で,サムに直接命令を下す。見た目はゴツいが,実際はサムに憎まれ口を叩かれっぱなしの人。1961年生まれ。吹き替えの池田勝さんは,ベテランならではの貫禄ある声だが,「リーサル・ウェポン」のマータフ役の印象が強いせいか,ときどき頼りないイメージが頭をよぎる
アンナ・グリムスドッティア
(CV:田中敦子)
コンピュータおよび信号諜報専門の技官。はるか遠方からネットワークを通じて,情報処理面でサムをサポートしてくれる。ええと,1974年生まれ。声をあてている田中敦子さんは,普段から知的な女性を演じることが多く,まさにグリムはハマリ役といったところ

 

 

 主な舞台となるのは,風雲急を告げる2007年の北東アジア。日本が新設した自衛隊情報部の存在をめぐり,中国,北朝鮮との関係が緊迫するという,たいへん今どきの設定である。これ以上は詳しく書きたくても書けないが,話のなりゆきで軍艦は沈むわ,新宿の風呂屋で猛烈な撃ち合いだわ,ミサイルは飛ぶわと,まさかまさかの展開が続き,前2作に比べて物語はかなりダイナミック。戦争まで起きるんですよ,あなた。

 

 また,登場人物もやや変更された。上司であるランバート大佐は一緒(どうでもいい)だが,情報/技術支援のアンナ・グリムスドッティア女史が,メガネをコンタクトに換え,ややふっくらした野暮ったいお姉ちゃんになり(これはかなり重大),さらに,地上支援のフランシス・コーエン嬢がサムの担当を降りて(がっかり!),もとの任地である東京に帰り,代わりにレディングだかのび太だかとかいう,とっぽい感じの青年に配置転換。
 うーむ,まさに,これこそ制作者側の「サムの面白さにお色気は無用」というメッセージなのだろう。違うかもしれないが。サムの娘サラにしても,第1作以来お見限り。年齢的にずいぶん良くなったと思うので,個人的にちょっと再考をお願いしたいのですが,いかがでしょうか,って誰に頼んでいるのだろう,オレ?

 

サムのトレードマークといえば,やはりこの「羽交い絞め」。そーっと背後に接近する緊張感が病みつきに 逆さにぶら下がって,下を通る敵を掴み上げ,首ポッキン! アクションの種類も順調に増えている おなじみ,サーマルビジョンを使って,ドア越しに敵の位置を確認する。あんたのことはお見通しさ

 

ドアのコード番号が分からなくても,ミニゲーム仕立てのハッキングで,キー解除が可能になった これもおなじみ,ピッキング。本物の鍵もこうやってピッキングするのかは知らないが,何かにつけ説得力がある お得意の股割りで敵を待つ。壁に向かってただジャンプするだけと,キー操作はさらに簡単になった

 

 

日々増え続けるNSCのガジェットとアクション
ますますむごい殺戮も可能になりました

 

今回,多くの敵を尋問できるようになったため,羽交い絞めのし甲斐がある。たいした情報のないやつもいるし,「さあ殺せ」なんて言うやつもいるが,ともかく,サムのおしゃべりは聞いているだけで楽しい。それにしても,どの敵も「そんなすごい顔で怖がらなくても」と思うくらいすごい顔をして怖がる

 お楽しみ,サムのアクションはまたもや増えた。一番有名なのは,デモ,ムービーなどでもおなじみの「顔面わしづかみ引きずり落とし」であろう。ただ,これはよほど条件が揃わないと発動できないので,もしかするとプレイ中,あんまりお目にかからないかも。とはいえ,これが決まるとかなり快感である。ぎゃーとか叫んで落ちてやんの。次いで,「パイプぶら下がり下通りかかった人を吊し上げ首へし折り」(長いねどうも)がある。これもムービーなどでおなじみだろう。
 近接戦闘もバリエーションが増えている。おなじみの掌底以外にも,出会い頭に正面からキック,グースカ寝ている敵にはこめかみ一撃。ゴツン! ああ,楽しい。しかも物理エンジンの搭載で,相手のぶっ倒れ方もパターン豊富になり,戦いの様子は,今まで以上にカッコよくなった。このように,全般的に攻撃のパターンが増え,サムの人間離れ度も高まっているが,攻撃と比べてステルス方面のアクションに変化がないのは,やや寂しい。前作のSWATターンみたいな,カッコいいのを期待していたんですけど。

 

 しかし,本作における私の一番のヒットは「気絶」である。羽交い絞めにした敵を眠らせるのに,今回のサムはゲンコツではなく,丸太のような二の腕で相手の首をグイっと締め上げるのだ。すると相手は「うっ,くっ」とか呻いて手足をジタバタするが,やがてカックン! と首を垂れる。これがもう楽しいったらありゃしない。相手のジタバタぶりも最高である。背後のサムも力を入れるため思いっきり歯を食いしばっているし,つい私も,不必要にマウスボタンを長押ししてしまうほどだ。これやりたさに,銃撃や殺害はできる限り避けて羽交い絞めに走ってしまい,「これってもしかしたら,制作者側の陰謀にまんまと乗せられているのか」という気もする。羽交い絞めの効用はそれ以外にもあるのだが,それは後ほど。

 

 ちなみに,今回のサムはナイフを持っており,羽交い絞め状態からプライマリ攻撃を選ぶと,サムがナイフをきらめかせて相手を刺し殺す。また,手前から体をくねらせて相手の喉を掻き切る,相手を引き付けて腹にナイフをめりこませるなど,今回,コンバットナイフを使った凶暴なアクションが可能になった。相手を気絶させるのはセカンダリ攻撃で,デフォルトでマウスの右ボタンクリック。私は最初それを知らず,眠らせたつもりで次々と殺戮を繰り返し,ふとサーマルで背後を見ると屍累々! サムの残虐非道ぶりに驚いたが,筆者がマニュアルをよく読まなかったせいで招いた悲劇である。

 

 メインミッションのほかに「監視カメラに盗聴器を仕掛ける」「密輸武器のケースにマークする」といったサブミッション,さらにはプレイヤーには事前に知らせられないボーナスミッションなどが用意され,マップ探索の楽しみを増やすと同時に,リプレイ性を高めている。

 

話を聞き終えたら首を締め上げて気絶させよう。思いっきり力を入れているのがよく分かるサムの顔だ 何も気づかない船員の背後でキャビネットを漁るサム。くくく。このへんがスニークの醍醐味だろう 例によって,PCは見つけ次第動かしてみる必要がある。たいていの情報は電子化されているのだ

 

メインミッションのほかにサブミッションもある。これは監視カメラに盗聴器を仕掛けるというもの 倒した敵は発見されないよう,そっと暗がりに運ばなければいけない。これはもう基本中の基本 適当な隠し場所が見つからず,とりあえず風呂に浮かべてみた。ちゃんと浮かぶところが芸が細かい

 

 

人間的にさらに魅力的になったサム・フィッシャー
やっぱり時代は中年だな

 

その会話といい,行動といい,本作ではサムの男っぷりが急上昇した。キャラ立ちでは,ほかのゲームの追随を許さないだろう。とはいえ,前2作に比べ顔つきはかなり変化し,はっきりいって3作中,いちばん面白い顔になってしまった。なんでかしら? ムービーシーンではそれなりにかっこいいんですけどね

 以上のように,続編としては十分なほど変更や追加が加えられているものの,「ゲーム性は前作までとそんなに変わらないでしょ」という批判はやはり出てくるだろう。やってることはいつもとおんなじ,というわけだ。しかし,その批判は甘んじて私が受けよう! 私が受けてどうする? という疑問も残るが,実のところ,とりあえずプレイしてみて一番印象に残ったのは,実はゲームの醸し出す大人っぽいユーモラスな雰囲気なのである。
 「ユーモア? スーパースパイのステルスアクションなのに?」と思ってはいけない。もともと,サムはシニカルで,何事にも素直に「はい」とは言わなそうな,あんまり友達にはしたくないようなタイプだったのだが,今回さらにそのキャラクターが強調され,全体のムードを微妙に変化させている。ともかくサムのキャラ立ちの良さが抜群なのだ。

 

 羽交い絞めをすると,しばしば相手を尋問できる。前作までは,よほどの情報を持っていない限り敵とは会話できなかったが,今回は非常に多くの相手への尋問が可能になった。得られる情報は重要なものから,そのへんを歩いてりゃ分かるものまで幅があるが,その会話内容が愉快だ。庭を警備している敵を羽交い絞めにして,「おい,どこの誰だか知らないが,ここは私有地だぞ。勝手に入るな!」なんてサムが言うのである。言われたほうは「あれ? あれ?」と目を白黒だ。

 

 敵の中にも変なヤツがいる。北海道のある施設で尋問すると,そいつが,

 

「お,オレの背後をそんなに簡単に取るなんて……あんたニンジャだ! そうなんだろ?」
「なんだって? 何言ってるんだ。オレはお前を殺そうとしているんだぞ。もし……」
「ワーオ。すると,オ,オレはニンジャに殺されるのか……クール!」

 

 こんなやつはさっさと締めちゃった。
 あるいは,ペルーのある銀行に忍び込み,莫大な債権をゲットしたサムはランバート大佐に,

 

「さて,オレの手元には今5000万ドルあるわけなんだが,どうだ,オレの昇給の話でもしないか?」
「ふーむ……。1時間につき25セントだな。それ以上はビタ一文出せん」
「取引成立だ」

 

 へへへ。なんともはやカッコいい。それ以外にも,ワイファイ(Wi-Fi。無線LANの規格)はよく知っているがハイファイ(Hi-Fi。オーディオ/ビジュアルの品質基準)は知らないグリムスドッティア女史と,その逆であるサムがジェネレーションギャップを痛感して「あーあ」となっちゃうところや,警報機に気を付けろというランバート大佐に,サムが「あれだろ,3回鳴らすとアウト?」。すると大佐は「もちろん違う。サム,これはビデオゲームじゃないんだぞ」といった,前作を意識したセルフパロディなどなど。ところどころ,ニヤリどころか笑いが止まらないほどおかしい。よく聞けば,敵同士もずいぶんと間抜けな会話をしているし。思わず私も誰かを羽交い絞めにして,サムばりに,相手の耳元に「バーッド・ニュース」と囁いてみたくなるほどだ。

 

 と,このように,手に汗握るスニークアクション,そしてユーモア,その後いきなり前作を上回る派手な銃撃戦と,カオスセオリーのゲーム展開はまさに緩急自在。プレイヤーに息つく暇も与えない。ストーリーも起伏に富んでおり,グラフィックスは今更いうまでもなく一級品(それだけにPCに対する要求は大きいが)。音楽も手堅いプロの仕事と,私は前2作もかなり好きだが,ここへきてシリーズは大きく前進したような気がする。傑作といっていいだろう。前作を遊んだという人はもちろん,サム・フィッシャー未経験の人には,カオスセオリーだけでもいいからプレイしていただきたい。これはもう,文句なくオススメだ。

 

 

日本が舞台なので,予想通り「勘違いジャパン」が随所に見られ,それらを見るのもまた楽しい 大仏である。なんで民家にこんなものが? しかも畳の上にデンと。まあ,日本だから仕方ないか ふすまを突き破って,向こうの敵を羽交い絞めにする。でもふすま? 障子の間違いじゃないの?

 

EEVビジョンを使えば,電子機器のスキャンが可能。離れた場所のPCもハッキングできるのだ 布やビニールをそっと切り裂いて侵入できるようにもなった。ナイフは敵を刺すだけじゃないのだ ミッションが終わると評価が出る。もっとも,スコアが悪くてもゲームの進行に影響はないようだ

 

面白日本が随所に見られる。日本のゲーマーだけが味わえる,制作者も意図しなかったお楽しみを満喫したい アンナ・グリムスドッティア女史が,えーと,なんちゅうか,普通のお姉ちゃんになってしまったのは,どうか? 兵士の一人がサムの手前で小銭を落とす。もし,やつが10円玉を拾おうとしてかがんだら……,という小粋な演出も

 

タイトル トム・クランシーシリーズ スプリンターセル カオスセオリー
開発元 Ubi Soft 発売元 ユービーアイソフト
発売日 2005/11/17 価格 8190円(税込)
 
動作環境 Windows 2000/XP,Pentium III/1.4GHz以上,メモリ256MB以上,空きHDD容量4GB以上,Shader 1.1以上に対応したVRAM64MB以上のビデオカード(GeForce 4 MXは未サポート),DirectX9.0c以降

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