― レビュー ―
あのカルト的暴力映画Scarfaceがゲームに!
Scarface: The World is Yours
Text by 奥谷海人
2006年10月30日

 

まさに“問題作”という言葉が似合う
映画「スカーフェイス」とは?

 

スカーフェイスの原作は,ハワード・ホークス制作/監督の「暗黒街の顔役」(1932年)だ。1983年のデ=パルマ作品では,野性味溢れるトニー・モンタナをアル・パチーノが熱演し,一部からカルト的な支持を得ている

 暴力ゲームの社会的な影響や,政府によるゲーム規制といった話題が取りざたされる中,Vivendi Gamesより「Scarface: The World is Yours」(以下,Scarface)がリリースされた。1983年(日本では1984年)に劇場公開された映画「スカーフェイス」(以下,スカーフェイス)は,キューバ移民のトニー・モンタナが,麻薬の密売によってマイアミの裏社会を牛耳り,やがて自分もコカインのために破滅するという内容だ。主演のトニーにアル・パチーノ,監督にはブライアン・デ=パルマ,そして脚本はその当時,現実にコカイン中毒に苦しんでいたと告白したオリバー・ストーンという個性的なトリオがそれぞれの持ち味を生かし,現在でもカルト的な人気を誇る作品である。
 なお,ゲーム内にも残虐なシーン,卑猥な言葉が多数含まれることから,当レビューにもそれに関わる記載が含まれる。この点は了承のうえで読み進めてほしい。

 

 映画を観ると,なぜこのスカーフェイスが“カルト扱い”されているのかがよく分かる。当たり前のように描写される銃殺シーンからチェーンソーによる拷問など,当時のアメリカではとうてい受け入れがたい残酷表現ばかりなのだ。キューバ移民社会からの抗議もあったためか,映画のレーティング審査を行うMPAA(Motion Picture Association of America)からはポルノ映画と同じX指定を受けてしまうというまさに問題作。何度かの内容変更の末,デ=パルマ監督は一般劇場公開できるRレーティングの獲得に成功するが,配給時に無断でオリジナル版を流してしまうという大胆な行動もとっている。
 また,作品に出てくるセリフの汚さも有名で,f○ckがらみの言葉は実に182回に及ぶ。そのほかの卑猥なスラングを含めると,卑語は優に200回を超え,その「36秒に1回」という使用頻度の記録は現在に至るまで破られていないとか。

 

 そんな内容であるため,“真面目な”映画賞などからはすっかり見放されてしまったが,例えば,1984年から始まったテレビ番組「マイアミ・バイス」の主人公のコスチュームがトニー・モンタナ風だったりなど,後のメディアに与えた影響は大きい。1990年代中期になると,映画のセリフやテーマソングである「The World is Mine」のフレーズがラップアーティストたちに愛され,「成り上がりのギャングの人生」の典型的モデルとして見られることが多くなった。
 そのほかにも,パンクロックバンドのBlink 182は,上記したf○ck使用回数から自分達の名前をつけたと言われるし,実際にScarfaceというヒップホップグループも存在する。

 

このゲームのリリースに合わせたのか,10月31日には「Scarface: Platinum Set」という特別限定版DVDもアメリカでリリースされる M203 グレネードランチャーを発射しながらトニーが言う「Say hello to my little friend!」は,この映画の名ぜりふの一つ グレネードランチャーで自室のドアを破壊した有名なシーンからゲームが始まる。乱入してくる敵相手に大迫力の銃撃戦を満喫できる

 

なんとか宿敵ソーサから逃れたトニーは,自分がコカインに溺れていたことを悔い,再びマイアミを掌握すべく出陣するのであった ゲーム序盤で味方となるフェリックスは,マイアミのあちこちに出没する情報屋。運び屋や暗殺など,小金稼ぎのできる仕事をもらえる トニーが3か月留守にしていた間に,リトル・ハバナにはギャング団が徘徊するようになってしまった。一匹残らず蹴散らしてしまえ

 

 

主人公トニーが,あの銃撃戦を生きのびていたら……

 

Shady Gloveにある豪邸は,冒頭のミッションで警官に賄賂を贈ることで帰してもらえる。テクスチャーはいささか粗いが,それなりに映画の雰囲気のある家だ。ここを拠点にさまざまなミッションを……,と言いたいところだが,自宅はマップのはずれにあり,なかなか家に戻ってくる気がしない

 Scarfaceを開発したRadical Entertainmentは,カナダのバンクーバーに本拠を置いて15年が経つ中堅の開発チームだ。コンシューマ機用のゲーム開発が多く,2003年にリリースされた「The Simpsons: Hit & Run」は600万本という大ヒットを記録している。独自に開発した「Pure 3D」エンジンは,マルチプラットフォームのポーティング(移植)を迅速に行えるのが特徴で,そんな技術力が評価されたのか,2005年には販売提携していたVivendi Gamesに買収された。
 「Grand Theft Auto III」が,その後登場する数々のオープンエンドなアクションゲームの先駆けとなったのは間違いないところだが,その続編である「Grand Theft Auto: Vice City」は,時代設定や舞台などにスカーフェイスの影響を強く受けている。当然のごとく,Scarfaceを見るには,Vice Cityとの比較を意識せずにはいられないし,同じくハリウッド映画をテーマにした「The Godfather: The Game」も比較の対象になるだろう。

 

 Scarfaceは,映画のエンディングでの壮絶な銃撃戦をトニー・モンタナが生きのびていたらどうなるか? という仮定でスタートする。プレイヤーはアル・パチーノそっくりなキャラクターを操作して,今一度マイアミの帝王となるべく奔走するわけだ。自分を陥れたボリビアの麻薬王ソーサに対する復讐と,昔の自分のライフスタイル奪回という動機付けがなされており,どこの誰かも分からないチンピラの成り上がりを描くことの多い同ジャンルのゲームと違い,ストーリーがかなりまとまっているという印象を受ける。
 主人公を演じるボイスアクターは,アル・パチーノ自身が紹介したという物真似芸人で,声の質はかなりイイ線いっていると思う。映画に負けじと,f○ck 系のスラングや“cock-a-roach”といった言葉が何度も反復して使用されているが,なぜか,かえって「ゲームだなあ」と思わせる結果になってしまっている。こういう“生”な言葉をタイミングよくTPO(?)に合わせて再生するのは難しい。

 

 映画や音楽で広く展開するUniversalと,パブリッシャのVivendi Gamesが系列企業であることからか,映画のサウンドトラックはもとより1980年代のポップスからラテン音楽やハードロック,さらには最近のロックやヒップホップまでと,ゲームに登場するサウンドは豊富なジャンルにわたっている。ゲーム中,なぜ突然ラップが鳴り出すのかちょっと不思議だったが,2003年の20周年を記念したDVD版では,実際に現代音楽のサントラに置きかえてリリースする計画があったらしい。もっとも,ゲームには“Mix Tape”という設定が備わっており,映画ファンのプレイヤーなら,「雰囲気を大切にするためオリジナルサウンドトラックだけを選ぶ」といったことが可能だ。

 

映画にも登場したバビロン・クラブ。100万ドル集めてここを自分の支配下に置くことが序盤のミッションの目的となる ギャングに乗っ取られたドライブイン・シアターを制圧中。敵はマシンガンを装備したトラックで迫ってくる 街ゆく人々に対してもそれなりのインタラクションが可能。ただ,一般人や通行人を銃撃したりひき殺したりはできない

 

マップの各所に抜け道だの,スタントのできるオブジェクトだのがある。警察に追われているときは抜け道を利用するのが有効なようだ ゲームのストーリーと直接関係のないミニゲームの一つが,町のいたるところで行われているレースやタイムトライアル バハマのロブスター・ケイは,警察のいない無法地帯。コカイン製造業者と手を結ぶため,ここの敵ギャングを一掃することになる

 

 

マイアミの帝王の座をソーサから奪い返せ!

 

チェーンソーで敵を手当たり次第に切り刻むなど,アクションはとにかく残虐だ。筆者は,ゲーム中のトニーがまばたき一つせずに黙々と殺人している様子がなにしろ怖いので,なるべくトニーにサングラスをかけさせてプレイするようにしている。筋金入りのスプラッターファンには,血しぶきが床や壁に付着しないのがマイナスポイントとなるだろうけど……

 Scarfaceの舞台となるマイアミは,ゲーム序盤の舞台となるリトル・ハバナのほか,ダウンタウンや工場地帯,カリブ海の島“ロブスター・ケイ”などいくつかのセクションに分かれている。ほとんどの地域へは自由に往来できるが,ストーリーの進行としては,これらの地区を一つ一つ順番に制圧していくことになる。その地区でのメインミッションをこなさなければ,ゲームを進める新たなイベントが発生しないという流れだ。

 

 メインミッションのほかに,資金を稼ぐために重要な麻薬取引や,序盤に登場する情報屋フェリックスから得る仕事といったサイドミッションがある。また,各地区にはトニーの失踪中に縄張りを奪ったギャング団が闊歩しており,これらを排除していくことも重要だし,気が向けば市街や浜辺でレースも可能だ。
 サイドミッションには要人暗殺などもあるが,基本的には敵をすべて殺してしまうという単純なものばかり。ドンパチばかりで,すぐに飽きてしまうのが難点だが,といって,すべてはトニーの権力奪回の役に立つので,サイドミッションが本来のストーリーからはみ出しているというわけでもない。

 

 麻薬の取り引きや,警官の説得,さらには銀行への預金(マネーロンダリング)では,ゴルフゲームのパラメータバーのようなものを利用する。まず,ショットの方向を調整するように,麻薬の量や手数料の歩合を決め,さらにショットのインパクトを調整するようにタイミングよくクリックすることで,そのミニゲームの成功の程度が決定される。麻薬取り引きや警官の説得では,“Heat”と呼ばれるメータも大きく関連してくるので,日頃から賄賂を贈るなどしてHeatレベルを下げておくことも忘れてはならない。
 交渉が決裂すると銃撃してくるディーラーなどとは違い,銀行の窓口での取り引きが失敗するなんてことは起きないが,クリックに失敗すると,手数料が20%を超えてしまうなどということも起こり得るので要注意だ。銀行は各地域に1件あるのみで,何度も行くのは面倒くさいのだが,ゲーム上でも唯一のセーブできる場所になっている。

 

 しかも,稼いだ金をいつまでも手持ちのままにしておくと,殺されたときにすべて失ってしまうことになる。実際,ゲームで死んでしまう確率は高く,ややイライラしながらも頻繁に銀行に通っている筆者だった。このゲームでは,チートコードも簡単に打ち込めるようになっており,ヘルス回復の“MEDIK”コマンドなどに頼ることをある程度前提とした難度になっているようだ。
 これでは,ゲームの面白さは半減するが,セーブポイントからドライブ→ギャングの登場時間まで時間待ち→銃撃戦→逃走,までをやり直すよりはずっと良い。町の通りや地形が複雑なので,車やボートを使っての移動にも時間がかかる。

 

マップは,フロリダ南端やキーウェストの島々を環状に結ぶ構造。アジトが左下に離れており,移動にはかなりの不便を感じるような作りだ マップの形状から,ボートの利用頻度はかなり高くなる。ボートマンを雇用できれば,戦闘時,プレイヤーと一緒に攻撃してくれて便利 車の中からも攻撃できるようになっていて,車体をアーマーとして利用することも可能だ。こうすれば,ヘルスの減少をかなり防げる

 

麻薬取り引きなどには,下のようなメーターを使う。警官の説得から銀行でのロンダリングまで,Scarfaceに始終登場するシステムだ タイミングをちょっと間違うと,手数料として30%も取られてしまうようなことがある。幸い,慣れるとほとんど失敗しない 激しい銃撃戦やドライビングで“Ball Point”がたまると,数十秒間無敵に近い状態になる“Rage”モードを発動できる。ギャングとの抗争には不可欠だ

 

 

自由な世界の宿命か? ややイライラのつのるシステム

 

出てくる敵は,とにかく撃って撃って,撃ちまくる。グラフィックスや効果が単調で,死体からあふれ出る血がコミカルにさえ感じるほどオーバーに表現されている。とはいえ,当然ながら,アメリカでは18歳以上しか購入できないMレーティングとされた

 イライラするといえば,ギャングとの抗争中に警察のパトロールに出くわすと,どんなに警察とのHeatが低くても,やがてミニマップを真っ赤にするほど集まってくる警察に追われる身になってしまうことだ。ギャングは一人残らず始末しなければ勢力を盛り返すため,あと数人というところで警察に取り囲まれるのはかなり痛い。
 ギャングの殲滅や警察からの逃走に時間をかけすぎると,「You are F○cked」の文字と共にどんなに逃げ回っても追跡をかわすのが不可能な状態となる。ヘリにまで攻撃されて,ただ撃ち殺されるのを待つだけなのだ。警察との銃撃戦が制限されているのはモラルのうえで仕方ないかもしれないが,ゲームオーバーの処置としてあまり面白い趣向だとは思えない。

 

 Scarfaceには,“Exotic”というアイテム購入モードがあり,自分のアジトであるShady Gloveの邸宅を飾る家具や,さまざまな種類の車に加え,ドライバーやボートの操縦士,暗殺者なども雇用できる。GTAと比べて非常に面白い機能であり,マップ上のどの場所でもドライバーごと電話一つで車を利用できるようになるわけだ。
 一度にたった一人とはいえ,部下を自由に扱えるというのはギャングらしさを感じさせる。これらの部下はたいして強くはないが,プレイヤーキャラクターのそばで死ぬか解任するまでがんばってくれる忠誠心溢れるヤツラだ。

 

 Scarfaceでは,武器にはピストル,サブマシンガン,マシンガン,ショットガン,スナイパーライフル,ロケットランチャーなどに加え,剣やバット,チェーンソーといったものが使用でき,さらにアップグレードも可能だ。これらは,敵の落としたものを拾ったり,町のところどころにいる武器屋から入手することになる。武器は,一度に三つずつしか携帯できないものの,乗っている車のトランクを使って変更が可能だ。
 アクションはとにかく派手で,首や腕などがちぎれ飛んで噴水のように血が飛び出すという,いささか現実味のない描写になっている。残虐というよりもむしろ滑稽だ。
 Xbox用として制作されたためか,粗いテクスチャやカクカクのモデリングが目立ち,そのため,3年半前にリリースされたVice Cityのレベルをあまり超えておらず,3DのPCゲームとしては一世代前のグラフィックスといったところだ。

 

 グラフィックスばかりでなく,全体的にコンシューマ機っぽさが漂っており,ESCキーとEnterキーを交互に押下する場面があるなど,必要なキーのポジショニングや使い勝手が悪かった。車の操作はまあ許せる範囲だが,チェーンソーで戦うときの操作はかなりトリッキーだ。マルチプラットフォームが当たり前になってきた昨今,このあたりのユーザーインタフェースの問題はますます重要になってくるだろう。

 

 Scarfaceは,ほかのオープンエンドなゲームと比べ,企画としてはかなり良かったとは思うが,システム面で不満のつのる場面が多く,ついコンシューマ機からの移植であることを意識せざるを得なかった。電話で呼びつけるシステムなどが面白いだけに,もう少し“負担なく遊べる”ことに重点を置いてほしかった。

 

電話一つで車の運転手などの部下を呼びつけられるのは,ほかのゲームには見られない,かなり面白く役に立つ機能だ 暗殺者を雇うと,一定時間そのキャラクターでプレイすることになる。仕事のあとは安全な地域にまで逃走しなければならない ショットガンは室内で非常に有効。被弾した部位によって異なるアニメーションを見せるが,全体的にAIのレベルは高くない

 

マップに点在する洗車場を利用すれば,どんなにダメージを受けていても新車同様にキレイにしてくれる。オープンカーでも気にしない マップは広大だが,実際には海の割合が大きく,遠方は白くモヤが掛かっている。ちなみに,ヘリとの戦闘シーンもある Exoticアイテムを集めて自宅のデコレーションも可能だ。究極の目的は,ぬいぐるみではなく本物のトラをアンロックさせることか?

 

タイトル Scarface: The World is Yours
開発元 N/A 発売元 Vivendi Games
発売日 2006/10/08 価格 N/A
 
動作環境 N/A

“Scarface” interactive game(C)2005 Universal Studios. Scarface is a trademark and copyright of Universal Studios. Licensed by Universal Studios Licensing LLLP. All Rights Reserved. Sierra and the Sierra logo are registered trademarks or trademarks of Sierra Entertainment, Inc.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/scarface/scarface.shtml