■個性豊かな三つのオリジナル文明
歴史RTSだった前作から大きく趣向を変えて,本作の舞台はファンタジー世界に。ゲーム内容もガラリと変化した |
「マイクロソフト ライズ オブ ネイション:ライズ オブ レジェンド」(以下,RoL)は,2003年7月に発売された「マイクロソフト ライズ オブ ネイション 〜民族の興亡〜」(以下,RoN)の続編となる作品である。
前作RoNを簡単に振り返っておくと,原始時代から現代までの人類の歴史をテーマにしたRTS(リアルタイムストラテジー)で,そのスケールの壮大さもさることながら,補給や国境線の概念など,戦略的な要素を多く取り入れたことが画期的な作品だった。
最新作のRoLは,ゲームの骨格部分はRoNのものを踏襲している。資源採取所のスロットに内政ユニットをはめ込む,独特の内政システムや,補給と国境線の概念,都市の占領を軸にした駆け引きのスタイルなどは健在で,その意味では確かにRoNの「続編」である。
しかし,前作が史実をベースにした歴史RTSであったのに対して,本作RoLはファンタジー世界が舞台となり,グラフィックスはもちろん,根本的な部分でがらりと印象が変わった。世界設定は本作のために新しく作られたオリジナルのもので,機械技術文明と魔法文明の対立・共存という構図に,半神半人のエイリアン文明が絡んでくるという,かなりユニークなものになっている。
登場する3文明には,それぞれモチーフとなる題材があって,なかなか興味をそそられる。まずはRoLに登場する3文明がどんなものなのか,簡単に紹介しておこう。
◆ヴィンチ
機械技術を基にした文明だ。「ヴィンチ」とは,気づく方も多いかもしれないが,ルネサンス時代のイタリアの発明家,レオナルド・ダ・ヴィンチからとっている。彼が残した機械装置の設計図のようなイメージと,大友克洋の「スチームボーイ」のようなスチームパンク(産業革命期の「蒸気機関」の特異な発展を描いたSF)の世界観をかけあわせた文明だ。
◆アリン
中世イスラム世界を描いた説話集「千夜一夜物語」(アラビアンナイト)に着想を得た,魔法文明。ただし登場するユニットはアラビア世界に関連するものにとどまらず,ファイア・エレメンタルやドラゴンなど,広い範囲のファンタジー要素を取り入れた文明となっている。サークル(魔方陣のようなもの)からユニットを生産するというアイデアが非常にユニークだ。
◆コートル
とりわけユニークな文明。公式サイトなどによると,この文明は1968年に出版されたエーリッヒ・フォン・デニケンの「未来の記憶」という著作にインスピレーションを得ているという。これは,人類は宇宙人から文明を得たというような内容の本で,今ではトンデモ本の扱いを受けているものの,SFの題材としては多くの人の興味を惹いたようである。これに古代マヤ文明の神話を絡めたものが,コートルという文明だ。
グラフィックスも,もちろん前作から大幅に進化している。個々のオブジェクトの動きが非常に細かく描写されているのが特徴 | 3Dグラフィックスで表現される,航空ユニットと陸上ユニットの共同作戦は迫力満点だ。地形の高低差もダイナミックに描かれている | 燃え落ちる都市のアニメーションも非常に細かい。この壮絶さは静止画でなく,ぜひデモ版などでリアルタイムで見てほしい |
ヴィンチの世界は日本人にとっても受け入れやすいだろう。内政や技術に強みを持つ文明だ | アリンは低コストで,たくさんのユニットを出せる。カラフルなエフェクトが楽しい文明だ | コートルは英雄の比重が高い文明だ。特殊能力を発動することでヒーローがレベルアップしていく |
■独特の内政,戦闘,そして「英雄」「マスターユニット」
どの地区をどの都市に,いつ建設するか。建設上限もあるから,無計画に建てているとあとあと困ることになる |
ゲーム内容について,順を追ってみていこう。
◆内政
本作で使用する資源は,鉱脈に作業員を割り当てて採集する「チモニウム」と,キャラバンの交易によって得られる「財貨」(コートルは代わりに「エネルギー」)の2種類のみと,非常にシンプルだ。どちらも採取自体は簡単で,ワンクリックで設定するだけで,あとは延々と無限に集め続けられる。
マップ上には,あらかじめ「都市」が固定で配置されている。プレイヤーはそれぞれ1個の都市を持ってスタートするが,マップ上にはほかにも中立の小都市が点在しており,これらを占領して拡張することで領土を広げていく。この都市が,発展の中心となるのだ。
建造物には,建物と地区の2種類がある。「建物」は防衛施設や軍事ユニット建造施設などで,自国領土内であればどこでも建てられるという,RTSではお馴染みのもの。
「地区」は都市にくっつけて建てるタイプの,いわば都市の部品で,内政に関するさまざまな機能を果たす。地区を三つ建てると,都市を「大都市」に,さらに地区を三つ建てると「巨大都市」にアップグレードできる。RoLでは,首都の「都市」「大都市」「巨大都市」というそれぞれ3段階の状態を,ほかのRTSでいう「時代」と同じような位置づけで用いている。大都市になれば大砲ユニットが作成でき,巨大都市になればさらに高次のアップグレードができるといった具合である。
RoLの内政の特徴として,同じ種類の建物やユニットは,作れば作るほどコストが上昇していくという点が重要だ(傾斜コストという)。これが内政において非常に頭を悩ますと同時に,戦略性が求められる部分になっている。とくに地区を建設する順序は,本作において最も基本的かつ重要な戦略的方針決定といえる。
地区は3種類あるが同じ建築物と見なされ,増やすたびにコストは一括で上昇していく。そこで,どの地区を先に建てるかが重要というのが,まず一つ。そして,傾斜コストは都市ごとに計算されているため,すでにたくさんの地区がある都市で新たに地区を作るコストは高いが,まだ地区が少ない都市での建設コストは安いというのが二つめのポイントである。
つまり自然と,新しい都市候補を獲得する必要に迫られるのであり,領土拡大しなければならないというわけだ。ただし都市は地区が多ければ多いほどその機能がアップするという側面も持っている。このジレンマをどう克服していくかというのが,単純でありながら奥深い,RoLの内政の中心的要素を占めているのである。
◆戦闘
戦闘は,都市や拠点の奪い合いと,それに伴う国境線の押し合いへし合いという形で進んでいく。国境線は主に,敵と味方の建造物の位置と力関係によって決定される。国境内に収めた中立拠点は味方の支配下に入る可能性が高くなるし,自国の領土内では戦闘を優位に進められるなど,領土を広げるメリットは多い。
そのため,国境線付近で敵味方の軍が戦い,勝ったほうが進軍して国境線付近の敵の建物を破壊,占領し,国境線の位置をずらすことで領土を拡大,というのが基本的な戦闘の流れだ。
ゲームに勝利するためには,敵のすべてを破壊し尽くす必要はなく,首都を占領すればよい。ただし当然ながら首都は防備が固いと予想されるため,どの都市から順に攻略していくかという戦略は重要になってくる。
◆英雄,マスターユニット,ドミナンス
本作の戦闘に大きな影響を与える要素として,「英雄」「マスターユニット」「ドミナンス」の三つの要素を挙げておきたい。
英雄とはいわゆるヒーローユニットで,各文明に3人ずつ存在する。一般ユニットと異なり,経験を積むことでレベルが上がり強くなっていくので育成する楽しみのあるユニットだ。強力な特殊能力を行使できるのも特徴である。
英雄は単体でも十分強いが,それだけでなく味方全体に恩恵をもたらす能力を持っている場合が多い。例えばヴィンチの英雄「ジャコモ」は,レベルが上がることで追加の研究ポイントを獲得し,さらに味方の機械ユニットのHPをアップさせられる。同じくヴィンチの英雄「総督」は,ユニットの生産速度や攻城兵器の攻撃力をアップさせる。英雄はゲーム序盤から最後まで,軍の中心的位置にいて活躍するユニットになるだろう。
マスターユニットは,いわゆる最終兵器である。非常に高価だが,そのぶん非常に強力で,単体で戦況を一変させてしまう能力を持っている。「エイジ・オブ・ミソロジー」に出てくるタイタンに似ているが,より巨大で迫力があり,移動も速く,すさまじい破壊力を見せる。
例えばヴィンチのマスターユニット「ランドリバイアサン」は,巨大な機械のクモのようなユニットだ。通常攻撃に加えて「デヴァステイター」(一つのターゲットに大ダメージ),「リペア サイクル」(自分自身を瞬時に修復),「バロウ」(地中を掘りながら任意の位置へと移動)という三つの特殊能力を使える。
「バロウ」で敵首都の目前に姿を現し,「デヴァステイター」で敵の首都に大ダメージを与えるといったような使い方ができるため,戦いの趨勢を一気に変化させる力を持ったユニットである。絶対的存在とまではいかないまでも,勝敗の決着をつけるためのユニット,といっていいだろう。倒そうとする側も全力で当たる必要があり,一度マスターユニットが誕生したあとは,まさにそれをめぐる戦いとなる。
ドミナンスとは,一定の条件を一番最初に満たしたプレイヤーのみが得られる,特殊能力のことである。「アーミー」「クラフト」「リソース」「タクティカル」の四つのドミナンスがある。行使できる能力はどれもとくに強いといえるものはないが,特筆すべきはタクティカルドミナンス。これは敵の内政ユニットを一定以上破壊すると得られるドミナンスで,特殊能力として一時的な停戦を強制実行できる。敵が超強力な特殊能力を使ってきた場合にこれを使えば,それを無力化できるので,敵の攻撃へのカウンターとして非常に有用だ。
各文明は民族固有のパワーを一つずつ持っている。これはコートルの「スター・ボルト」。マップを偵察済みにするとともに敵にダメージを与える | 補給ユニットなしで国境線を越えて侵入したユニットは,損耗ダメージを受ける。これをうまく利用すれば,ほとんど戦わずに敵を倒すことも可能 | 大量に揃えたユニットで一斉射撃する爽快感は,かなりのもの。巨大都市を建設したあたりから,ゲームは一気に派手さを増してくる |
ヴィンチのマスターユニットであるリヴァイアサン。マスターユニットは比類なき強さを誇る,まさに文字通りの最終兵器だ | 英雄はレベルが上がるごとに,その強さを増していく。倒されても以前のレベルを維持したまま復活できるのは心強い | タクティカル・ドミナンスの「停戦」を行使。時間は短いが,敵が猛攻を仕掛けているときなどに重宝する。その間に味方の軍隊を立て直そう |
■ゲーム性本位の自由なゲームデザイン
前作より明らかにテンポよく,密度の濃い作品に仕上がった。バランス面を含めて完成度は非常に高い |
前作RoNとの違いとしては,次の2点が挙げられる。
一つは凝縮されたゲーム性になったということ。RoNは人類の歴史全体を通して扱った作品で,文明数も多いこともあって,スケールの大きさを感じる反面,間延びした感触も否めなかった。1プレイにかかる時間は長めで,各文明には個性があまりなかった。
RoLでは3文明しか登場しないぶん,それぞれの文明の個性は非常に際立っている。また「時代進化」という概念はなく,都市の3段階の発展によってステージ分けが大まかにされているだけなので,展開は非常にスピーディだ。
もう一つ筆者が大きな違いを感じたのは,ユニットの相性関係だ。前作のRoNでは,(例えば)騎兵→軽歩兵→重歩兵→騎兵といった3すくみの関係がきっちりと確立されていた。そのため,敵の出してきたユニットに対するアンチユニットをぶつける,というプレイが欠かせなかった。
RoLではユニット間の相性関係は,それよりずっと緩やかなものになっている。大まかなユニットの関係,例えば対空ユニットであるとか,攻城ユニットであるとかといった性格付けはなされているが,それらはかなり漠然としたものである。逆にいうと明確なアンチユニットというものは設定されていない。軍の数と火力がそのまま勝敗に直結しやすくなったといえるが,それに加えてRoLではより戦略的な視点,つまり軍隊を作るタイミングや規模,特殊能力を行使するタイミングなどの比重が大きい。
本作のゲームモードは「キャンペーン」「クイックバトル」「マルチプレイ」の3種類がある。
キャンペーンは,ヴィンチの英雄の一人「ジャコモ」を主人公としたストーリーで,大きく分けて3部からなり,それぞれヴィンチ,アリン,コートルの各文明でプレイする。前作にあった「世界征服キャンペーン」を大幅に進化させたようなシステムで,戦略マップ上でコマを移動させ,移動先のテリトリーで戦術バトルをプレイして進めていく。力を入れて作っているだけあってストーリーは非常に手が込んでいるうえ,コマの進め方や選択肢次第でストーリーが分岐していくため,先の展開には目が離せない。
だが,筆者にとってキャンペーンは今一つという感はあった。背景世界についての説明が不十分なために,いま一つストーリーが理解しきれなかったというのもあるが,各戦術バトルのプレイがどうしても単調になってしまいがちというのが大きい。ただ後者の理由に関しては,RoLに限った話ではなくRTS一般にいえることで,RTSにおけるキャンペーンというゲームモード自体に,やや限界があるのかとも思う。
前者の理由である「背景世界の理解」という点に関しては,本作の最も大きなネックといえるかもしれない。世界観は決して悪くない。むしろすごくいいし,興味深くてクールである。だが,例えば歴史ものや,映画を題材にとったものなどと比較してしまうと,最初の導入部分での困難さは否めない。文明やユニットの特徴について類推が働かず,ゼロから覚える必要があるからだ。筆者も結構プレイしたが,未だコートルのユニットについて把握しきれていない。
だが,本作のプロデューサーやデザイナーが繰り返し語っているように,オリジナルの世界観だからこそ実現できた,自由なゲームデザインという側面も見逃せない。何か既存のものをモデルにしてゲームを作ろうとすると,どうしてもゲームがその世界の枠内に制限されてしまう。ゲームとして最も面白いものを追求しようとして,オリジナルの世界を構築したことは大いに評価したいし,実際その結果として,ほかのRTSには見られない面白さを実現していると思う。
純粋にゲームとしての出来の良さ,面白さは申し分ないので,マルチプレイには大いに期待できる。マルチプレイは対戦相手を自動検索する「クイックマッチ」,任意のゲームをホストする「カスタムゲーム」の2種類がある。ほかのメジャーなRTSタイトルに比べるとやや人口が少ないが,チャットルームやクランなどのコミュニティの整備,オブザーバー制度や統計データの閲覧,リプレイ機能など,RTSのマルチプレイロビーとして備えるべきものは揃っている。ぜひ今後の人口増に期待したいところだ。
本作はキャンペーンのみならず,マルチプレイにもかなりの比重が置かれている。シングルプレイに慣れたらマルチプレイにもぜひ挑戦してみよう | シナリオエディタも標準添付されている。シナリオのスクリプトも組めるようなので,自作マップを作るのが好きな人にとってはいろいろ楽しめそうだ | 筆者はヴィンチを使ってマルチプレイに何戦かチャレンジ。序盤はゆっくりめの展開,中盤から一気に勝負がつくパターンが多かった |