あのマイヤー氏が久々に手掛けた,
タイクーンゲームの決定版
タイクーンゲームの決定版
「Sid Meier's Railroads!」は,「シヴィライゼーション 4」と同じFiraxis Gamesの作品。シミュレーションゲームと聞くと,なんとなく初心者には手を出しにくい複雑なゲームシステムという印象も受ける。だが,本作はハードルが低く,なおかつ難度を5段階に調節できるため,大人から子供まで幅広く楽しめる作品になっている |
知っている人には今さらだが,Sid Meier(シド・マイヤー)氏は1980年代から活躍するゲームデザイナー兼プログラマーであり,質の高いシミュレーションゲームを量産してきたことから“シミュレーションゲームの父”と呼ばれる。最近でも,「Sid Meier's Pirates!」や「Sid Meier's Civilization IV」など,コンスタントに作品をリリースしており,なおかつ,一定以上のクオリティを維持し続けているのだ。
そんなマイヤー氏の最新作が,今回レビューする「Sid Meier's Railroads!」(以下,Railroads!)である。
Railroads!は,1990年に登場した第一作,「Sid Meier's Railroad Tycoon」から数えて4作目に当たる。「Railroad Tycoon II」(1998年)と「Railroad Tycoon III」(2003年)は,もともとマイヤー氏が所属していたMicroproseのソフトウェア版権をGathering of Developersが買い取り,「Tropico」など箱庭系のシミュレーションゲームで定評のあるPopTop Softwareが実際の開発に当たっていた。そのため,前2作にマイヤー氏は直接には関係していない。
今回,「Railroad Tycoon IV」ではなく,Sid Meier's Railroads!とタイトルを変更したのは,シリーズとしての連続性よりフレッシュなイメージを強調したかったからかも知れない。
その名のとおり,Railroads!は鉄道の路線を広げて収益を上げていく鉄道経営シミュレーションである。第1作のSid Meier's Railroad Tycoonは,効率良く人や物資を運搬し,路線を拡張しながら,ライバルとなる企業主と土地争いを繰り広げるというゲームシステムが,相当に革命的だった。まだ“リアルタイム”という用語も使われていなかった時代の話だ。
今回のRailroads!では,路線を拡張して物資を運搬するのはもちろん,ライバル達との熾烈な争いにも焦点が当てられている。インタフェースや経済システムは非常に簡素化され,誰でも取っ付きやすいように改良されているが,実際に遊んでみればどんどん奥の深さが見えてくる。本作はそんな風に,いかにもマイヤー氏の作品らしく仕上がっているようだ。
線路は続くーよー,どーこまでも〜 ♪
Railroads!には,画面にあるような高速列車TGVを頂点に,総計46種類の機関車が登場する。プレイヤーが運転手の視点で列車を動かすことはできないが,カメラを特定の列車に固定して,ただ眺めているだけでもかなり楽しい。水面に揺れる鉄橋の影や,運転手や駅の乗客までが描かれているほどグラフィックスは細かく,車両の色やロゴなどの変更も可能だ |
Rairoads!には,全部で15種類のシナリオが用意されており,各シナリオはいくつかのミッションによって構成される。舞台はアメリカかヨーロッパ,もしくは架空の場所となっており,アメリカではニューヨークからワシントンD.C.までの「東海岸」,シカゴやデトロイトなど,穀物や自動車の運送で黄金期を築いた「ミッドウェスト」,そして材木業で賑わう「北西部」と,ゴールドラッシュで湧いた「南西部」の4つ。またヨーロッパでは,イギリス,フランス,ドイツ,そして東欧南部地域の4つがあり,さらにはFiraxisのロゴをデザインしたものなど,ファンタジックなマップがいくつか用意されている。
歴史的な区分としては,蒸気機関車が一般に使用され始めた1830年から,高速の電気機関車もお目見えする1970年までの140年間で,マップごとに,開始から終了までの期間が異なる。ミッションクリア型のゲームシステムではあるが,どのマップを選ぶかはプレイヤーの自由である。前作とは異なり,日本の新幹線はおろか,アジアのマップが一枚もないのが残念だが,これは「鉄道で一儲け」という,19世紀末〜20世紀の欧米におけるアメリカン(ヨーロッパもだが)ドリームにテーマを絞っているからだろう。
シリーズ従来作品と同じく,Railroad!では,ゲーム開始時にプレイヤーに与えられるのは,小さな町にある駅がただ一つ。とりあえず,近隣の町か工業地帯に路線を引っ張り,もう一つの駅をどこかに設置した後で機関車を購入,客車や貨車の数を決めて運航を開始するという手順になる。乗客や物資が盛んに行き来することで,町は都市になり,やがて大都市へと成長し,より多くの物資を消費するようになる。
工業地帯というのは,鉄や金の鉱山,ワインヤード(ワイン用のぶどう園),麦畑,養豚所,羊の放牧地などが集まった場所で,これらの地帯に隣接して駅を設置することはできるが,町として発展させることはできない。原油であれば石油精製施設のある町に輸送し,木材ならば製紙工場のある町に運ぶことで,利益を得るわけだ。
「ランダム設定」にしなければ,マップの地形や町の位置などは常に同じである。ただし,工業地帯や町の工場などは必ず異なる場所に出現するので,基本的に「どこをどのようにつないでいくか」という戦略性が,このゲームの眼目になっている。マップの生成時点で決定されるプレイヤーの拠点駅周辺の町や工業地帯の数が,後々のゲームの展開に大きく影響していく。ある程度,先のことまで考えて路線を敷設しなければならないのだ。
ただし,このランダムマップ作成機能には不満が残る。デフォルトのマップには,湖を中心にしたいびつな場所や荒野の山岳地帯といった面白い場所がいくつも用意されているのに,ランダムで生成すると,なぜか緑の平原地帯しか出てこないのだ。後述するバグの多さとからんで,かなりげんなりするところであり,早急な対応を期待したい。
ライバル達との買収合戦がRailroads!の大きな魅力
ランダムに発生する“パテント・オークション”は,特定の技術を10年間独占的に使えるというもの。街の工場の買収など,ライバル達との何かしらの争奪戦が常に繰り広げられ,それがゲームを白熱させるのだ。ゲーム後半で資金が十分に貯まれば,ライバル会社をそのまま買収し,合併するか廃線にしてしまえる |
Railroads!のライバルには,金融王のJPモルガンや鉄道王のジョージ・ハドソンなどのタイクーン達,ナポレオン3世やビスマルクといった国家指導者などが,それぞれのマップに合わせて登場する。彼らライバル達との争いが,Railroads!の経済シミュレーションとしての面白さを高めており,なかなか気の抜けないレースが楽しめる。
この経済戦争の中核となるのが株式の売買だ。難度が高ければ高いほど線路の施設価格が高騰するため,プレイヤーが路線を拡張するには,ゲーム序盤から株式を売却して資金を得なければならない。しかし,株式保有率が低いままゲームを進めていくと,序盤は順調に拡張できるものの,十分な資金を持ったライバルに自分の株式を独占され,やがては敵対的買収を仕掛けられる。自分の会社が他人の手に落ちるのを黙って見ているだけ,という状態に陥ってしまうのだ。株式の保有率はプレイヤーの財産総計にも関わり,それはシナリオの勝利条件に大きく影響するため,ただ闇雲に拡張するのではなく,効率良く路線を敷いていくのが大切になる。
また,各都市に設置された工業施設は,オークション形式でライバル達から競り落とすことで所有可能になる。自分の施設にしておけば,誰かが物資を運び入れてくるたびに使用料を徴収できるため,敵が乗り入れてきそうな都市の工業施設は,あらかじめ所有しておくのが賢明だろう。
本作は,4人までのマルチプレイヤーモードをサポートしており,ゲームに用意されたすべてのマップがプレイ可能だ。対人戦ではオークションで熱い戦いを広げるのが楽しく,白熱しすぎて予想をはるかに超える金額になってしまうことさえある。
グラフィックスは色あいやデザインがSid Meier's Civilization IVを連想させるが,これはどちらのゲームもNDL社のGameBryoエンジンのライセンスを受けているからだ。シミュレーションゲームらしく,ゲーム内のオブジェクトが増えるほどマシンパワーが必要になる。自信のない人は,グラフィックスの各オプションをオフにしておくのが良さそうだ。とくにマルチプレイヤーモードでは負荷がかかりやすい。
用意されたマップや機関車の種類にバリエーションが欠けているのは否めない。この点,細かい編成が楽しめた前作のファンには物足りないはずで,なんとなく拡張パックのために出し惜しみしている風に思えてしまう。また,すでにリリースされているパッチ(V1.01)で緩和されているとはいえ,列車が重なって立ち往生したり,トンネルが重なって通過できなくなったりするし,突然クラッシュしてしまうバグも完全に直ってはいない。
しかし,Railroads!のインタフェースは全体的にうまくまとめられており,アイコンの数も少なく,非常にプレイしやすい。それでいて,マネジメントするのに忙しく,ゲーム全般に見事にバランスが取られている。グラフィックスの可愛らしさも手伝って,ハードルが低く奥の深いゲームになっているので,鉄道好きのお父さんから小学生まで十分に楽しめるだろう。