― レビュー ―
歴史ある縦スクロールシューティングの新作が
PCで登場する意味と意義
雷電III
Text by 八重垣那智
2006年3月14日

 

伝統と格式のある縦シューの大御所
最新版がPCに登場

 

 シューティング,とくにアーケードの縦スクロールシューティング(以下,縦シュー)というものは,ジャンルとしての歴史の長さや成熟度において,数多くのゲームジャンルの中でもトップレベルにあるといえる。そして,その長い時間の中で,数多くのマイルストーンと呼ぶべき作品,呼ばれるにふさわしい作品が誕生してきた。今となっては古臭いゲームに見えるかもしれないが,それでも滅ぶことなく現在も縦シューが存在しているのは,新しいゲームシステムやルール,表現手法を模索し,作品の中でそれらを実現してきた多くの「名作」の功績にほかならない。
 今回紹介する「雷電III」は,そんな縦シューの歴史上,ビッグネームと呼んで差し支えない雷電シリーズの最新作である。

 

 雷電IIIは,作品としてまずアーケードでデビューし,プレイステーション2への移植を経て,今回のPC版へと至っている。オリジナルとなるアーケード版は,「TAITO Type X」という,PC(もっといえばWindows XP)ベースのシステム上で開発されており,PC版移植の“忠実度”にかなり期待できるのも大きなポイントだ。アーケード版の登場からわずか半年でプレイステーション2版,1年後にPC版が登場するという移植スピードの速さからは,PCベースで開発されるアーケードゲームの新たな可能性と,開発環境の高度な充実ぶりがうかがえよう。

 

 雷電IIIの基本システムは,縦シューとして非常に基本的なものだ。レバーや方向キーの操作で自機を移動させ,2個のボタンでショット(通常攻撃)とボム(緊急回避攻撃)を発射するようになっており,ショットはボタン押しっぱなしで自動連射。このシンプル過ぎるほどシンプルな操作系には,ボタン連打と押しっぱなしの使い分けや,溜め打ちといったテクニカルな要素などがいっさい含まれない。初心者でも操作に戸惑うことはまずないと思う。
 ルールも当然シンプル。レバーで敵の攻撃を避け,ショットやボムで敵を倒すだけだ。敵の攻撃が自機に当たれば1ミスで,ミスごとに残機が減り,残機がなくなればそこでゲームオーバーとなる。標準設定では3ミスで終了だが,ゲーム中に時折登場する1upアイテムを回収すれば残機を追加できる。

 

 自機キャラクターは戦闘機が1種類のみで,“速度が速かったり,ボムの数が多かったり”などといった選択肢はない。二人同時プレイが可能であるという特性上,1P側が赤で2P側が青と,色による識別は可能になっているものの,移動や攻撃性能はまったく同じである。自機のキャラクター性や多様性で,プレイヤーや世の中の趣味趣向を吸収しようとしている多くの現代縦シューとは,明確な一線を画しているといえる。
 自機のパワーアップは,特定の敵を倒すと現れるアイテムを取ることでショットを強化するスタイルを採用する。自機は1ボタンでメインショットとサブショット(ミサイル)を同時に発射するのだが,それぞれにパワーアップアイテムは3種類用意されており,プレイヤーはそれらを選択的に取っていく必要がある。しかも,パワーアップアイテムは,時間で3種類が順に切り替わる。場面における得手不得手を考え,自分が意図したパワーアップアイテムを的確に回収できるか,敵の攻撃をかいくぐっていかにパワーアップアイテムをさばくかが,雷電IIIではゲームの駆け引きの一部として立派に成立しているのだ。
 昨今の縦シューにおいて半ば有名無実化し,作品によっては平然と省略されているパワーアップシステムや,勝手に吸い込まれることが常識になりつつあるアイテム回収システムとの違いは明らかである。

 

左からバルカン(赤),レーザー(青),プロトンレーザー(緑)の各武器。各武器のシンボルカラーはアイテムの色と直結している。一見,シリーズのシステムを踏襲しているだけのようだが,ウェポンアイテムは同じ色の武器を重ね取りしなくても,取るだけでレベルアップと武器チェンジが同時に行われる親切設計だ。メインショットは5段階,サブショットは3段階のパワーアップ。無難にバルカン(赤)+レーダーミサイル(R)がお勧め

 

 上級者向けのスコア要素は,敵のすべてに倍率が掛かる「フラッシュショット」システムがメインとなる。ただこれは,画面に出現した敵を早く倒せば倒すほど高得点(最大2.0倍)の倍率が掛かるだけの単純なもの。それだけに稼ぎを意識する場合は,地道に,油断なく,効率のいい攻撃を積み重ねる必要がある。もっとも,過度にはインフレせず,小さなミスなら取り返せるので,「派手さはないものの,渋い稼ぎシステム」と評価することはできるだろう。
 各面は「レベル」と称され,最終のレベル7をクリアするとエンディングとなる。各レベルとも,ザコ敵を蹴散らして道中を進み,最後に控えている強大なボスを倒せばクリアだ。ゲームスタート時と前半/後半の場面転換時に発進演出こそ入るが,意味深なストーリーが語られることもなく,ゲームは淡々と,そして緊張感を保ったまま続いていく。とことん硬派な展開は,決して最後まで崩れない。「攻撃と避け」という,縦シューの基礎を貫くさまには,潔さや清々しささえ感じられる。

 

追い詰められて死ぬ前にボムというのが縦シューの常識。ただ,アイテムさばきが要求される雷電IIIでは「ミスの直後,安全にアイテムを回収して復活するためのボム」という選択肢もある 道中の敵は先手必勝が基本となる。なら,前に出て撃ち込めば倍率も上がってお得……に見えるが,画面横から登場する戦車や,側面に回り込む飛行物体の的になるという危険もある。通常は画面下寄りの位置取りが無難だ 雷電IIIのボスは基本的に「自機を狙わない弾&動かなければ当たらない弾で画面を窮屈にしてから,狙い弾で追い詰める」という戦術を取ってくる。まずはどちらの弾なのかを見極める目を養おう

 

 

移植版として加えられた機能はてんこ盛り
フルスクリーン&縦表示設定でプレイしたい

 

 ここまで説明してきたように,ゲーム本編はシンプルだが,移植作品ということで付加機能はかなり充実している。オリジナルであるアーケード版と比べて,ゲーム本体を遊び尽くすための要素が驚くほど豊富なのだ。

 

ただゲームをプレイするためのおざなりなものではなく,雷電IIIを堪能するためのコンテンツが充実したメニューになっているのがうれしい

 ゲームモードは通常プレイ,スコアアタック,ボスラッシュ,スコアトライアルの4種類。スコアアタックは指定したレベルのみをプレイする,練習モードのような存在である。また,ボスラッシュは各レベルのボスと連続で対決できる,やや遊び要素の強いモードだ。
 スコアトライアルはPC版だけに用意されたオリジナルのモード。基本的には標準設定の通常プレイなのだが,ゲームオーバー時にスコアとパスワードが表示されるようになっており,これを公式Webサイトで入力すると,PC版のオンライン・スコアランキングに参加できる。

 

 リプレイ機能がしっかり用意されている点にも注目したい。レベルクリア時には,自分のプレイ内容をレベル単位で保存できるようになっていて,後からそれを再生可能だ。また,リプレイデータとは別に,上級プレイヤーによる「お手本プレイ」が標準で用意され,鑑賞できるようになっている。この二つは,ゲーム攻略に当たって間違いなく大きな武器となるだろう。

 

 このほか,細かいが重要な要素としては,1人で2機体を同時操作することを想定した「ダブルモード」が隠しコマンド扱いから標準で選択可能になった点や,難易度/プレイモード別にハイスコアランキングが閲覧できる点がいい。ゲームとは直接関係ないが,イメージイラストやゲーム中の3Dキャラクターを眺めて鑑賞できるギャラリーもある。

 

ゲームスタート時には,到達したレベルなら,途中からスタートできる。パワーアップの状態を選択してスタートすることすら可能だ。スコアアタック時も同様である スコアトライアルに参加するなら,記録用に手元にメモ用紙と筆記具を用意しておこう。フルスクリーン表示だと,画面を見ながら横で「メモ帳」などを起動するわけにはいかない リプレイデータはレベル単位で管理される。日付かスコアをキーにしたソートが可能だ。最大50個のリプレイを保存しておける

 

 ……と,ここまでは純粋にプラス要素の付加機能なのだが,一つだけ,プレイ感覚を左右するものがあるので,忘れずに指摘しておきたいと思う。
 雷電IIIをアーケード版オリジナルの解像度,つまり横480×縦640ドットの画面でプレイするには,ゲームの画面設定を「フルスクリーンかつ縦表示」にする必要がある。回転(ピボット)対応の液晶ディスプレイなどを用意して,フルスクリーン&縦表示をさせなければ,フルスクリーン/ウィンドウ表示を問わず,ゲーム側の縦解像度は480ドットとして扱われてしまうのだ。ウィンドウモードでは,ウィンドウサイズが横480×縦640ドットになるため,一見,正しく表示されているように感じられるのだが,実際の縦解像度は480ドット。縦方向に引き延ばして表示されている。以下の2枚は,ゲームのデモから同一シーンをキャプチャしたものだが,フルスクリーン&縦表示設定と比べて,それ以外の設定では,若干フォーカスが甘い印象を受けてしまう。

 

同一フレームの画像を用いて比較してみる。ここはぜひ拡大してみてほしい。左はフルスクリーンかつ縦表示設定,右はウィンドウモード設定したときのものだ。どちらも横480×縦640ドットの画像ではあるが,左は全体的にシャープで,対する右は全体的にディテールが甘いのが分かると思う

 

 「フルスクリーン&縦表示でなければ見るに堪えない」というわけではないから,違和感なくプレイできる人もいると思う。だが,アーケードの感覚にできる限り近づけたいと考えているなら,フルスクリーン&縦表示は必須だろう。解像度の違いがゲーム性を変えてしまわないような配慮はなされているが,ゲームを満喫するという意味では,やはりアーケードへの忠実度にこだわりたいところ。わざわざ回転機能付きの液晶ディスプレイを購入するというのは大げさに過ぎるかもしれないが,雷電IIIの神髄を味わうためには,フルスクリーン&縦表示がベストであることは,覚えておく必要があると思われる。

 

いずれもフルスクリーンモードのときに選択可能な画面設定。ノーマルA(左),ノーマルB(中央),縦/左向き(右)となる。今回は例示していないが,画面設定には縦/右向きもあるから,ディスプレイの回転方向には依存しない。なお,ウィンドウモードの場合はサイズや向きの代わりに,「×0.5」「×1.0」「×1.5」「×2.0」の4つの倍率からウィンドウのサイズを選択可能だ

 

 

■雷電IIIをプレイして,そこに残るもの

 

ゲームオーバー時には必ず,フルパワーアイテム「P」が放出される。ただ,フルパワーアイテムは「現状の装備」をフルパワー化するので,先にサブショットアイテムを一つ取っておかないと,サブショットがないままメインショットだけがパワーアップして損をしてしまう。この点は要注意

 ショットで敵を攻撃し,敵の攻撃を避け,パワーアップアイテムをさばく。このシンプルさを物足りないと感じたり,古臭いと考えたりする人達がいることは理解している。現代の縦シューにありがちな,低速弾幕の予測的な回避とテクニカルな稼ぎシステムというスタイルに慣れきっている場合,高速弾による狙撃と先手必勝のバランスで難易度が組み立てられている雷電IIIを,取っつきにくく感じるのもよく分かる。
 だが,撃って避けてさばく,それだけでも面白い縦シューがまだ十分成立し得ることを雷電IIIが示した点は,強調しておく必要があるだろう。「画面を埋めつくす弾幕をすり抜けるドキドキ」に,「画面下でこつこつ動きながら戦車の狙撃弾を引きつけて避けるスリル」は決して劣っていない。

 

 繰り返しになるけれども,本稿の最後に表でも示したとおり,雷電IIIは由緒正しい,シリーズものの新作である。初代の雷電は1990年春にアーケードでデビューしているから,今回のPC版で17年めに突入する長寿シリーズだ。
 これだけ歴史のあるゲームになると,作る側もシリーズであることを強く意識せざるを得ないというのは容易に想像がつく。しかも,雷電IIIは雷電という作品のオリジナルを作り上げたセイブ開発ではなく,同社の監修を受けたMOSSによって開発されたもの。こういう経緯だけに,MOSSが,オリジナルのメーカー以上に,そうした意識や傾向を持ちやすいことも予想できる。
 また,プレイする側も,雷電らしさ,続編らしさに“気づいてあげる”と,より楽しめることだろう。1面のボスが2台セットの巨大戦車であるあたりを筆頭にした,“お約束”の演出構成や,随所でフラッシュバックしそうになる,見覚えのある弾の撃ち方などは,いずれもシリーズをプレイしてきた人なら,その経験を実感できるポイントになる。雷電IIIをプレイするだけで,過去にプレイした自分の経験を肯定してもらったような気分になれるのは,正直まんざらでもない。少なくとも,それらに気付いた自分に悪い気はしない。

 

 同時に雷電IIIは,そうした部分を探さなければ楽しめないような,懐古趣味丸出しの内容に歪められた作品ではない。“お約束”を知っている面白さと,縦シュー本来の面白さは次元の違うものだ。
 だが,次元が違うとはいえ,雷電IIIにおいて,前者の比重がある程度大きい点は,どうしても気になった。好意的に解釈すれば,それは雷電IIIが雷電シリーズの最新作であることに起因する大いなる安心感なのだが,悪くいえば,「雷電」という名前に期待される,縦シューの新たなパラダイムになり得ていないということでもある。

 

戦闘の真っ只中の高速道路を脈絡なく横切る赤い車は,倒すと1万点のボーナス。蛇足のような演出だが,実は「雷電であること」を感じさせるギミックの一つだったりする 弾筋をしならせるように撃ってくる,ちょっと避けにくい攻撃。初代雷電でこの自機を見ない規則的な弾幕に最初に遭遇したとき,ついボムを放った苦い思い出が蘇る。精神的に凹む攻撃かも 港のクレーンだけは敵でもないのになぜか破壊できるというのも“雷電ルール”の一つ。せっかくだから必ず1本残さずきちんと壊しておきたい。スクロールの変わるところは逃しやすいので注意

 

初プレイからしばらくは,特徴のある中型機が出てくるたびに記憶をほじくり返す人もいるだろう。見覚えのある形の弾を撃たれてから,ふいに記憶が蘇るなんていうこともある

 雷電シリーズは,その後の縦シューに大きな影響を与え,歴史に刻まれてきた。では「雷電IIIは何か新しい景色や感覚を縦シューに持ち込んだのか」というと,それを確信する材料に乏しいことを気付かされる。難易度設定で「VERY EASY」を選択すると,ほとんどの敵弾をショットで破壊可能になるという,(初心者対応としての)新しい難易度調整の可能性を見いだしている点には,個人的にかなり興味を持ったが,それはすべてのプレイヤーに新しさを感じさせる要素ではない。
 残念ながら結論としては,雷電IIIは後に続く縦シューの作り手に“インスパイア”させてしまう,明確なインパクトに欠けている。失礼な物言いだが,作品が注力すべき方向は,過去の雷電を好きだった人より,これから雷電を好きになる新しいプレイヤーではなかったか。これはPC版に限った話ではなく,雷電IIIという作品そのものに対して抱いた,筆者の偽らざる心情である。

 

 とはいえ,そうしたあたりまで考えつつ,雷電シリーズの最新作をじっくり,穴が空くほど見つめ直せる存在としてのPC版雷電IIIには,やはり「ぜひ押さえておきたい」といえるだけの価値がある。オリジナルと寸分違わぬ解像度での表示が可能なことをはじめとした完成度,ランキングモードといったPC版ならではの内容も見逃せないところ。最新の縦シューを,自分のPCで遊び尽くせるという価値も,近年のPCゲーム界を見回せば極めて大きなメリットである。
 いろいろな意味で,縦シューが好きなら必ず堪能すべき1本。あえてそこまで言い切って,まとめとしよう。

 

背景がポリゴンなので,こうした壊れていく背景といった演出があり,なかなか見応えのあるシーンとなる。宇宙なのにどうして落ちていくのか……などというヤボなツッコミは禁止の方向で 規則的な旋回射撃は,距離さえ保てれば避けるのに充分な隙間が空く。また,ボスの攻撃も出だしはそれほどキツくない。緊張感と集中力を保って,凡ミスにだけは気をつけたいところだ 倒すとだらしなく弾をばらまく機雷は要注意の雑魚敵。赤い目の向いている方向に撃ち返すので,タイミングを見て倒したい。出現直前には,弾を撃つのを止める余裕がほしい

 

撒き散らされる囮弾に気を取られると,避けにくい高速弾が襲ってくる。安易にダラダラ動くと,簡単に追い詰められてしまうので注意しよう。狙ってくる弾だけを性格に見極めて避けたい 背景のパイプに巻きついたような筒状の砲台と,ショットを遮る空中物が,平凡な中型機の危険性を致死量に跳ね上げる。終盤ではこうした地形的なギミックへの対応力も要求されるようになる ボスに対してであっても,覚悟を決めて密着して撃ち込み,瞬殺するような戦法が通用する場面もある。もっとも,緻密な操作や,半ば勘による避けを強いられたりするなど,決して楽な手段ではないが

 

 

タイトル 雷電III
開発元 MOSS 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/03/17 価格 オープンプライス
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0c),CPU:Celeron/2GHzまたはPentium 4/1.70GHz以上,メインメモリ:512MB以上(Windows 2000は256MB以上[512MB以上推奨]),グラフィックスチップ:GeForce FXまたはRadeon 9000以上,HDD空き容量:500MB以上,オンボードグラフィックスコアは動作対象外

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