レビュー : RACE - The Official WTCC Game

本格派レースシミュレータでお馴染みSimBin Development Team最新作

RACE - The Official WTCC Game

Text by UHAUHA
2007年2月9日

 

白熱した世界ツーリングカー選手権(WTCC)
2006年シーズンを再現

 

Alfa Romeo,BMW,SEATなど,街中でも見かける(というより買おうと思えば普通に買える)クルマを,レース仕様にして戦う世界ツーリングカー選手権(WTCC)。キチンと再現された,車種ごとのモデリングやエアロパーツ,カラーリングは,素晴らしい出来映えだ

 「GTR」「GTR 2」「GT Legends」など,緻密な本格派レースシミュレータでお馴染みの,SimBin Development Teamが放つ最新作が,「RACE - The Official WTCC Game」だ。タイトルのとおり,世界ツーリングカー選手権(WTCC。World Touring Car Championshipの頭文字)が題材だが,日本では馴染みの薄いレースカテゴリだけに,ちょっとクルマに興味がある人でも,「WTCCってなんですか?」という人がいることだろう。

 WTCCとは,国際自動車連盟(FIA)が管轄するツーリングカーレースで,各国を転戦しながら年間10ラウンド(1ラウンド2レースの計20レース)によってチャンピオンシップを競うレース。
 4ドアセダン,3ドアハッチバックといった,F1などとは違う身近な「市販車」をベースにしたレース仕様車を使用するのが,なんといっても見た目での大きな特徴だ。BMW,Alfa Romeo,SEAT(セアト,と読む)などのワークスチームはもちろんのこと,プライベートチームも入り乱れての熾烈な戦いとなる。1レースがわずか10数周のスプリントレースということもあって,少しでもチャンスがあれば仕掛けて,ときには多少強引な走りも必要になるという,接触や小競り合いは当たり前の熱いレースなのだ。

 WTCCの決勝2レースは,第1レースが予選順位によりスタートという通常のパターンで,なんと第2レースは,第1レースの順位によって1位から8位までが逆順でスタートするという「リバースグリッド」を採用している。それだけではなく,レースで1位になるとウエイトが追加され,ゴールが遅いほど軽くなるというウエイトハンデ制もあるため,結果的に特定のマシン&ドライバーが勝ち続けることを防ぎ,チャンピオンシップの展開を面白いものにしている。
 ちなみに2006年チャンピオンシップは,最終戦を迎える時点で9名のドライバーにチャンピオン獲得権利があるという,かなり白熱した戦いが繰り広げられた。最終的には,イギリスのBMWチームのドライバー,アンディ・プリオールが2年連続チャンプに輝くという結果に終わっている。

 ゲームの話に戻ろう。
 本作「RACE」では,そのWTCC 2006年シーズンがキッチリと再現されている。もちろんFIA公認なので,チーム名やマシンはもちろん,ドライバー,コースなどが実名で登場する。プレイヤーが気になる車種については,Alfa Romeo 156,BMW 320Si E90,SEAT LEON,Honda ACCORD Euro Rなどの2006年参戦マシンだけでなく,1987年に参戦したAlfa Romeo 75 Turbo,BMW M3,WTCCサポートレース「MINIチャレンジ」のBMW MINIなど,時代を超えた合計84台のマシンが収録されている。ドライバーもニコラ・ラリーニ,アレックス・ザナルディ,ジャンニ・モルビデリ,ヤン・マグヌッセンなど,元F1ドライバー達までも名を連ねており,古くからモータースポーツを観戦してきたファンであれば「おぉ!」と思う人が多いかもしれない。

 コースについては,ほかのレースシムにも登場するモンツァ(イタリア),マニクール(フランス),イスタンブール(トルコ)などのほか,あまりお目にかからない,クリチバ(ブラジル),プエブラ(メキシコ),ギアサーキット(マカオ)など10コースも収録されている。モータースポーツファンであれば,それらのコースを見るのも面白いだろう。

 

レースをより面白くさせるルールにより,白熱したレース展開となる。スプリントレースなので,のんびり様子を見ている暇さえない 1987年のWTCC(当時はWTC)に参戦したBMW M3。最新マシンとは異なるうえFR車ということもあり,乗りこなすには相当な腕が必要だ WTCCサポートレースであるMINIチャレンジも楽しめる。もちろんこちらも,カラーリングなど細かいところまでキチンと再現されている

 

ツーリングカーということもあり,運が悪いと横転することもある。こうなるとレース結果はあきらめるしかないだろう リプレイ機能は,プレイ視点やテレビ中継視点のほか,カメラアングルの回転,高さの変更,ズームイン/アウトなど自由自在 2001年CARTシリーズで両足切断の大けがを負ったザナルディ。2005年第7ラウンド(ドイツ)で見事に優勝を果たした

 

 

 

コテコテのレースシムらしい
レースを重視したゲームモード

 

マカオは,走っていて猛烈に面白い! 長いストレート区間を抜けて,カジノで有名なリスボアホテル前の名物コーナー「リスボアベント」へ団子状態で入っていく。ここから「山側」セクションへと入っていく

 用意されたゲームモードは,すぐに数周の決勝レースへ参加できる「QUICK RACE」。個々のラウンドを,練習走行から予選,決勝2レースとレースウィークの流れで進める「RACE WEEKEND」。ドライバーの一人として2006年のチャンピオンシップシーズンを戦う「CHAMPIONSHIP」。LANやインターネットでのマルチプレイを楽しめる「MULTIPLAYER」の4種類が用意されている。
 上記のとおり,マルチプレイではLAN接続とインターネット接続をサポートしているのだが,IPアドレス指定のダイレクト接続ができないため,固定の友人などと手軽にマルチプレイが楽しみづらいのが残念だ。とはいえ,そこさえ条件を飲めるならば,ネット上にパスワード付きでホストを立ち上げられるし,国内外に多くのホストが立っているので,対戦者捜しには困ることはないだろう。
 また上記以外にも「ADDITIONAL EVENTS」というメニューがある。そこには,各コースのコースレコードに挑戦する「DRIVER DUEL」,最速ラップタイムを叩き出すことが目的の「TIME ATTACK」,単独走行でコースの走り込みができる「PRACTICE」の3種類がある。

 前作のプレイヤーはもちろん,ここまで読んでくれた読者であれば容易に想像が付くと思うが,本作はガッチリとシミュレータ寄りだ。PCでのレースシムはいままでプレイしてきた人向けである印象は拭えない。軽いアーケードレースゲーム感覚で手を出すと,間違いなく戸惑うことになる。
 初心者向けのBEGINNER'S TIPSも用意されているが,当然英語テキストのみで,レースシムをプレイするうえでは知っていて当然というようなことしか書かれていないため,本当のビギナーにとって参考になるかどうかは微妙なところだ。このあたりは,「GTR 2」にあったような,ドライビングテクニックやコースレクチャーを受けられる「DRIVING SCHOOL」のようなモードがあれば,ビギナーばかりか上級者でも参考になったと思われるので,いささか残念だ。

 さて本作に登場するコースは,レイアウトや起伏などの再現度がどれも素晴らしいのだが,なかでも声を大にしてお勧めしたいのが,マカオのギアサーキットだ。

 F3(Formula 3)のマカオグランプリなどで有名なギアサーキットは,モナコと同様に,一般道を封鎖して作った市街地コースだ。道幅が広くアクセル全開で駆け抜けるストレート区間の「海側」セクションと,道幅が非常に狭くアップダウンのあるワインディングロードの「山側」セクションで構成されている。
 このうち山側は非常にテクニカルなレイアウトで,路面のうねりも激しいため,ちょっとしたミスでガードレールに吸い込まれる。逆に,うねりをうまく使ってガードレールをかすめるような走りでコーナーを抜けていくこともできるわけで,これができたときは,ゲームとはいえとても興奮する。一流ドライバーの多くが賞賛するサーキットなだけに,このコースを走ってみたいがために本作をプレイする人もいるのではないだろうか。

 

マカオ市街地コースは,コース幅が狭いところで7m。先の見えないタイトコーナーを,いかにリズミカルに走り抜けられるかがポイント 路面のアップダウンや凹凸,うねりなども再現されており,リプレイで眺めていると本物のレース中継と見間違うほど 本物のドライバーでさえ,ライン取りを間違えると曲がりきれないメルコヘアピン。ここも,マカオでは有名コーナーの一つだ

 

レインコンディションでは,早めにブレーキングして慎重にコーナーを攻めたい。挙動を乱しやすいため無理な走りは禁物だ 各コースのラップレコードに挑戦する「DRIVER DUEL」。腕に自信のある人は,すべてのラップレコードを塗り替えてみよう ネット上には多くのホストが立っており,対戦者捜しに困ることはないだろう。とはいえ,プレイヤーが少ないのが難点か

 

 

走らせやすいからといって手を抜くと
なぜかタイムが伸び悩み

 

コース上にあるさまざまなオブジェクトも細かく描き込まれており,再現度はまったくもって素晴らしい。路面のテクスチャやコーナーイン側の排水路&排水溝カバーなどの質感など,静止画にしないと気付かない部分までまったく手抜きはない

 レースシムの神髄であるマシン挙動については,ほとんどがFF車となるため,スピンすることも少なく,比較的走らせやすい。そのため,GTR 2などをプレイしてきた人は,少し物足りなさを感じるかもしれない。
 しかしこれに安堵して,ほかのレースシムと同じように走っても,あまりタイムが上がらないことに気付くはずだ。というのも,FF車はFR車に比べてフロントが重くなり,フロントタイヤが操舵と駆動を兼ねるため,アンダーステア(クルマが外側へとふくらんでいく)が強く出る。このアンダーステアにどう対処するかで,タイムに大きな影響が出てくるのだ。

 ここで使えるドライビングテクニックが,「タックイン」だ。本稿とは直接関係ないが,せっかくなので簡単に説明しておこう。
 タックインとは,コーナーリング中にアクセルをオフにすることで起きる荷重移動により,フロントタイヤのグリップ力を高め(リアタイヤのグリップは弱くなる),(デフギアの効きも手伝って)内側方向へノーズを巻き込むように向きを変えるFF車の特性を利用するというものだ。同じフロントエンジンでも,FR車はFF車ほどこの挙動変化が出ない。
 これを使うと,多少オーバースピードでもアンダーステアを利用してコーナーに入り,ステアリングを切りながらアクセルを抜いて,タックインで向きを変えるなど,速度をあまり落とさずに連続するコーナーを抜けていくといった走りが可能になる。
 もちろんレースシムたる本作では,このあたりもうまく再現されている。クルマをうまく走らせるテクニックの中では比較的理解しやすくて実践しやすいため,例えビギナーでも,アンダーステアとタックインをうまく使いこなせれば,本作の面白みがグッと増してくるだろう。しかも,こんな走りをリプレイで眺めていると,惚れ惚れするほど格好いいのだ。

 また本作では,マシンごとの挙動の違いは当然のこと,マシンセッティングによる挙動変化などもリアルに反映される。とくにFF車ではフロントタイヤに大きな負担が掛かるため,しっかりマシンセッティングを行い,タイヤに優しく,それでいてタイムの出るセッティングを見つけ出すのが肝だ。いい加減なセッティングでは,数周でフロントタイヤが摩耗してグリップ力を失い,タックインも使えないほどのアンダーステアと戦うはめになるだろう。
 FR車のようにオーバーステアであれば,ある程度のコントロールは可能だが,タイヤのグリップを失うことでおきるアンダーステアばかりは,「出ない速度まで落とすしかない」のだ。ここがFF車の面白さでもあり難しさでもあるのだが,このへんがうまく再現されているレースシムは,意外と少ない。

 

 

比較的走らせやすいツーリングカーシムという意味では
ビギナーにもお勧めかも

 

 そんなこんなの細かいところはもちろん,挙動全体としても,タイヤのグリップ感や,グリップを失ったときにステアリングが抜けるような感覚,ライバルとの接触で挙動を乱したときの感覚など,画面,サウンド,そしてステアリングデバイスのフォース・フィード・バックが見事にシンクロしている。このあたりは,さすがレースシムで定評あるSimBinの仕事といったところだ。まったく期待を裏切らない。キーボードやゲームパッドでプレイできないこともないが,ぜひともステアリングデバイス(フォース・フィード・バック対応)でのプレイをお勧めしておく。

 WTCCのファンであれば,四の五の言わずプレイするべきレースシムであることは間違いない。しかし,WTCCファンに限らずともレースシムファンであれば,今までのレースカーとは異なる走りを楽しめる/WTCCの白熱したレースを味わえるという点で,プレイしてもまったく後悔はないだろう。
 また,前述のように,レースシムビギナーには取っつきにくさがあるものの,ほかのレースシムに比べると走らせやすい挙動特性なので,挑戦する価値はあると思う。ゲーム難度(NOVICE,SEMI-PRO,PRO)により,アンチロックブレーキ,トラクションコントロール,スタビリティヘルプなど“安定して走らせるため”のアシスト機能が使えるし,レース設定でOPPONENT STRENGTH(ライバルの強さ),OPPONENT AGGRESSION(ライバルの攻撃性)などを腕に合わせて設定すれば,徐々にステップアップしていく楽しさも味わえるはずだ。

 最後に,本作の入手方法にちょっと触れておこう。  本作は,かの有名なゲーム配信システム「Steam」で購入できるダウンロード版(クレジットカード決済)と,秋葉原などの輸入ゲーム販売店で購入できるパッケージ版の2種類がある。どちらを入手してもSteam経由でゲームは起動されるし,ゲーム内容そのものの違いはない。違いといえば,ダウンロード版のほうが値段は安く,外箱,メディア,マニュアルが付いてこないという点ぐらいである。  自分に合った方法で入手して,ぜひツーリングカーレースの面白さを“実体験”してほしい。

 

第1レースを優勝すると,第2レースは8番手スタートとなるこのルールが面白い。スタート直後は大混乱となるので,周りには十分注意したい せっかくのレースシムだし,プレイ視点はコクピットビューがお勧め。車幅(とくに右側)をつかんでおかないと,接触が増えるのでご注意を ブラインドコーナーの多いマカオでは,オフィシャルの振るフラッグにも注意。クラッシュに巻き込まれないように回避だ

 

クラッシュによるボディの凹みやパンクなどを含め,エンジン,サスペンションなどのダメージなども,走りに影響するようシミュレートされている 足回り関係のセッティングは,フロントとリアで分かれている。FF車で重要なのは,フロントタイヤ。キャンバーをやや付けてみよう(寝かせ気味がよい) ギア比だけは,コースに合わせて必ず設定が必要だ。ガソリン搭載量の設定は,意外と忘れがちなので必ずチェック

 

タイトル RACE - The Official WTCC Game
開発元 SimBin Development 発売元 Eidos Interactive
発売日 2006/11/24 価格 29.99ポンド
 
動作環境 OS:Windows XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium 4/1.70GHz以上[Pentium 4/3GHz以上推奨],メインメモリ:512MB以上[1GB以上推奨],グラフィックスチップ:DirectX 9.0対応以上,グラフィックスメモリ:128MB以上[256MB以上推奨],HDD空き容量:2.5GB以上

RACE - THE WTCC GAME -(C)2006 SIMBIN DEVELOPMENT TEAM AB.
DEVELOPED BY SIMBIN DEVELOPMENT TEAM AB. ALL RIGHTS RESERVED. RACE IS A TRADEMARK OF SIMBIN DEVELOPMENT TEAM AB
ALL OTHER TRADEMARKS ARE THE PROPERTY OF THEIR RESPECTIVE OWNERS AND USED UNDER LICENSE. BASED ON THE OFFICIAL LICENSE OF THE WTCC.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/race-wtcc/race-wtcc.shtml