コンシューマ機に乗っ取られた(?)PCゲーム界の至宝
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これまで,世界各地を股にかけて活躍してきたレインボー部隊だが,この「Tom Clancy's Rainbow Six: Vegas」の舞台は,ラスベガス周辺にまとめられている。とはいえ,赤や青など色とりどりのネオンがきらびやかなメインストリートからメキシコ国境,フーバーダム,カジノ,地下や屋上などマップが単調にならないよう配慮されている |
熱烈な「レインボー」ファンなら,誰だって怒りを感じるはず。シリーズ第6作にあたる「Tom Clancy's Rainbow Six: Vegas」(以下,Rainbow Six: Vegas)は,これまでのように部屋から部屋へと突入する緊迫感,そしてたった一つのミスでゲームオーバーになるようなシビアなゲーム性がなくなり,いかにもコンシューマ機に魂を売ったような一人称視点のアクションゲームもどきに変身してしまった。
もともとの開発元であるRed Storm Entertainmentを買収し,着実にシリーズのコンシューマ化を進めてきたUbisoft Entertainmentは,古参のファンをないがしろにして,いったいなんのつもりなのか? そんな悪態をいくらついてみても, 先行発売されたXbox360版のRainbow Six: Vegas がなかなかの好評を得ているというから憎らしい。しかも,実際に遊んでみると,これまた違った面白さもあるからもうお手上げなのである。
Rainbow Sixシリーズは,人気作家トム・クランシー氏の新作「Rainbow Six」(邦題 レインボー・シックス)にタイアップする形で1998年に登場した。NATO傘下の架空の対テロ組織“Rainbow”の責任者,ジョン・クラークや,NATO各国から集められた凄腕のメンバーを操ってテロリスト達と戦う本格的なタクティカル・シューティンゲームだ。“タンゴ”という符丁で呼ばれるテロリスト達は,頭部などの急所を狙うと一発で仕留められるが,それはRainbowの隊員達にも当てはまる。どんなに被弾しても救急箱で回復し,単身敵地に飛び込んでいくいわゆる“ランボースタイル”とは一線を画していた。「リアル系」とか「スクワッドもの」といった言葉が一般的になっていったのも,この頃だと記憶している。シリーズを特徴づけるのは,事前にミッションブリーフィングを行って突入プランを立て,隊員がそれを着実に実行するという戦略的な部分だった。
1999年にリリースされた「Tom Clancy's Rainbow Six: Rogue Spear」のヒットを経て,2003年にUnreal Engine 2.0を使って開発された「Tom Clancy's Rainbow Six 3: Raven Shield」は欧米で数々のゲーム賞を獲得している。
Red Stormは,クランシー氏の軍事面でのアドバイザーだったDoug Littlejohns(ダグ・リトルジョンズ)氏が1997年に起業したデベロッパだったが,彼らの成功と人気タイトルのラインナップは相当な魅力だったようで,2000年にUbisoftに買収されてしまった。プレイステーション2およびXbox版が先行発売された第4作,「Tom Clancy's Rainbow Six: Lockdown」(2005年)はRed Stormが開発したが,PC版がリリースされなかった続く5作目の「Tom Clancy's Rainbow Six: Critical Hour」(2006年3月)はUbisoftのモントリオールスタジオで開発されており,また今回のRainbow Six: VegasにもRed Stormの名はクレジットされていない。
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主人公のローガン・ケラーは,Rainbow Sixシリーズ初登場。眠らぬ城,ラスベガスを混沌に陥れたイレーナの一味を追跡するのだ | 本作からミッションブリーフィングが省略され,事前に情報班のジョアンナから大まかな指示を受けるだけ。作戦はリアルタイムで決定する | 序盤からプレイヤーと共に行動するのが,マイケル・ウォルターとジュング・パーク。被弾してもすぐには死なず,プレイヤーの救助を待っている |
タクティカルな部分を簡略化し,アクション性を強調
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カラフルなラスベガスのカジノ街を舞台に,これまで以上に派手なアクション性が楽しめる本作。使用できる兵器は,サブマシンガン,軽機関銃,アサルトライフル,スナイパーライフル,ショットガン,ピストルの6タイプがあり,それぞれに4〜7種の銃器が揃っている。催涙弾(マルチプレイのみで使用可能)のようなグレネード系も豊富だ |
長らく指揮官を務めたジョン・クラークは,前作Rainbow Six: Critical Hourでついに退役し,隊長(レインボー・シックス)の座は,古くからの隊員であり娘婿でもあるディング・ロドリゲスに譲った。ただしこのRainbow Six: Vegasでは一つのユニットのチームリーダーを務める新キャラクター,ローガン・ケラーにスポットライトが当てられている。
女性テロリスト,イレーナ・モラレス率いるグループに囚われたレインボーのメンバー,ゲイブリル・ノワックとカン・アカホシを救出するためメキシコ国境の町に出動したローガンだったが,ヘリコプターから降り立った途端に砲火を浴び,単身での潜入を強いられる……ゲームはそんな場面から始まる。チュートリアルがこのシーンに巧みに絡められており,ここで,「Halo 2」や「Tom Clancy's Splinter Cell: Double Agent」のような,時間の経過とともにヘルスが回復するシステムや,各種ゴーグル/ガジェット類の使い方,そしてロープの使用法などの基本操作を学べる。
この後,ディングの指示でラスベガスに向かい,重火器担当のマイケル・ウォルターおよび偵察/電子機器担当のジュング・パークの二人と共に,カジノやホテル,目抜き通りでの派手な戦闘を行っていくことになる。今回のミッションは,ほとんどがラスベガス周辺を舞台にしており,これまでのような「世界を股にかけた対テロ戦」とは印象が異なる。ただ,だからといって地味になったわけでもなく,今後も都市や国ごとでシリーズ化されていくのかもしれない。
ミッションブリーフィング画面では,情報担当官のジョアンナ・トレスから,ある程度の説明は聞けるものの,実際の戦闘では,次々に起きる状況の変化に臨機応変に対応していかなくてはならない。ミッションの途中で目標の追加や変更がダイナミックに発生し,従来作よりゲームのペースが速くなっているのは間違いない。ミッションの内容は,主としてテロリストの追跡や人員救出で,中にはメンバーがコンピュータをいじっている間,敵の進入を食い止めるといったものもある。ディフェンス系ミッションを織り交ぜることでアクションのメリハリを狙っているのだろうが,無防備の隊員を守り切るシーンだけで4か所もあり,「またか」という感じを受ける。ミッション内容には,もう少し工夫がほしかった。
戦闘で重要なのが“遮蔽を取る”ことだ。ドアの横や曲がり角,あるいは廃車やスロットマシーンなどそばで右クリックすると,一時的に画面が三人称視点に変更され,プレイヤーのキャラクターが身を隠している姿が映し出される。これを持続するためにはマウスの右ボタンを押したままにしておけばよく,これに左クリックと方向キー,そしてマウスルックを併用することで,上半身だけを乗り出して攻撃できるようになる。相手の猛攻を受けている場合,方向キーを無視して発砲すれば,命中率は低くなるが相手をけん制して近づけないようにもできる。
Rainbow Six: Vegasのシングルモードは,Xbox 360からの完全移植だ。しかし,上述したように,ゲームパッドからマウスとキーボードによる操作にうまく移されており,操作系にコンシューマ機らしさは残っていない。
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被弾すると周囲がにじんだようになり,敵がどこにいるのか判断できなくなる。こういう場合,敵からしばらく身を隠せば自動的に回復する | 集中砲火を浴びている状態なら,命中率が下がるものの,腕だけを突き出して掃射することで敵をけん制できる | 特定の場所で自動表示される左下のアイコンを使って,二人の隊員に指示を出していく。一人一人に命令を下せないのは少々不満が残る |
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照準を合わせてスペースバーを押すことで,隊員の移動目標地点を指定する。プレイヤーキャラクターが同時に指で合図するのも芸が細かい | ナイトビジョンやサーマルビジョンを使いまくるのは,プレイヤーにはもうお馴染み。ハイテク機器を駆使して相手を出し抜こう | 武器はカスタマイズが可能になっていて,552 Commandoのようなアサルトライフルにスコープを取り付けることでスナイプが可能になる |
ゲームシステム以外もうまくまとまった良作
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Normalモードもそれなりにリアルだが,Realisticモードでプレイし直すとゲーム性の変化に驚く。被弾によるダメージが一気に高まり,駒をゆっくり進めていくように慎重なプレイが要求されるのだ。敵の周辺の警戒度が少々弱い気はするが,プレイヤーの背後に迂回してきたり,煙幕やフラッシュグレネードを使用してきたりする |
Rainbow Six: Vegasは,アクション性を強調するあまり,持ち味だったタクティカルな部分が切り離されたゲームというより,多くの人にも楽しめるようシステムが簡略化されたゲームという印象が強い。隊員一人一人に指示を出せないのが,これまでのファンにはもどかしいかもしれないが,照準を指定の位置に向けるだけで隊員が移動を始めたり,特定の場面では左下に使用可能なアクションがアイコン表示され,それを使って部下に指示できるなど,より直感的なインタフェースに変わっている。
ドアに照準を向けるだけで “スタック・アップ”(突入用意の状態)させられるうえ,準備が整うと,自動的に“ドアの爆破”“内部クリア”“手榴弾&内部クリア”の三つのオプションをホットキー一つで選択できるようになる。
降下ロープでホテルの屋上から下層部の窓へと伝っていき,プレイヤーが逆さまの姿勢で援護射撃する間に隊員を突入させるといった複雑な行動も比較的容易に行え,プレイヤーをワクワクさせてくれるのだ。
すでに書いたように,Rainbow Six: Vegasではヘルスが自動回復する。ある程度被弾すると画面がかすんでしまうので,その場合はしばらく遮蔽物の陰に身を潜めて回復を待てばよい。ダメージが重なると,このかすみが進んで真っ暗な状態になり,さらに被弾すると画面が真っ赤に染まってゲームオーバーになる。
隊員達は一発で死ぬことはないが,ある程度のダメージを受けると戦闘不能状態になって横たわってしまう。画面のメーターに表示される時間内に応急処置の注射をしてやれば回復するが,間に合わなければやはりゲームオーバーとなり,オートセーブの地点からのやり直しになる。したがって,部下の状態にも注意が必要だ。
難度は2段階あり,Normalモードなら弾薬やグレネードに不自由することはなく,エリート兵らしい大胆なゲーム運びも可能である。逆にRealisticモードにすれば,筋金入りのRainbow Sixプレイヤーでも満足できるはずだ。オープンエリアでスモークグレネードを投げて進んだり,すべての部屋を着実にクリアしていったりと,よりリアルな展開を楽しめるだろう。
Unreal Engine 3.0を使用しているだけあってグラフィックスのレベルはなかなかのものだ。隊員やテロリストのAIは特筆するほどではないが,反応は悪くない。突然屋根を破って敵がロープ下降してくるなど,敵兵の登場はスクリプトによるが,グレネードを巧みに投げてきたり,こちらの背後へ迂回してきたりと,けっこうイヤらしい行動をしてくる。
一度死ぬと復活できない緊張感が楽しい本作のマルチプレイモードだが,リスポーンポイントのあるキャプチャー・ザ・フラッグ系のゲームモードも用意されている。とくに目新しいのが,プレイヤー専用キャラクターをカスタマイズしたり保存したりできるシステムの追加で,ゲームをこなしていくことで新しい武器やアーマーがアンロックされるというRPG的な要素が面白い。アーマーは胸部や脚部など,いくつかの種類があるが,当然ながら装着すればするほど重くなり,移動スピードを落とす原因になる。
Rainbow Six: Vegasは,「タクティカルな要素が減った」というより,「タクティカルという言葉の定義を別の角度から見つめ直した」とでも形容すべきだろう。ビギナーにとって(場合によってはベテランゲーマーにさえ)ハードルの高い戦略画面をオミットしながらも,それぞれの戦闘シーンでは特殊部隊らしい演出が随所に施され,レインボーらしさを追求している。制圧射撃や,ヘルスの自動回復といった新しいゲームシステムは洗練されていて意外なほど面白く,難度を上げればそれなりのリアルさを楽しめる。バックストーリーも例によって凝っており,ゲームの世界観はしっかりしたものだ。したがって,本作を「コンシューマ機に逃げた」という色メガネで見るべきではなく,シリーズのベテランからビギナーまで,一度はプレイする価値のある作品だと言えるだろう。今のところ,日本語版の発売予定はないものの,輸入版やダウンロード販売での入手が可能。ぜひお試しいただきたい。
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次々に相手が襲いかかってくるようなディフェンス系ミッションがいくつかあるが,どれも感覚的に似ており,変化に富んでいるとはいえない | こちらはオペラハウスでのディフェンスミッション。強力なマシンガンが一基設置されているが,頭部丸出し状態なので使わないほうが吉 | 防御力が飛躍的に高まるシールドは心強い味方。こちらが相手の攻撃を防ぐ間に,部下が敵を始末してくれた。ピストルは多少弱められたか? |
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セーブは特定の場所でのオートセーブのみだが,ミッションに失敗しても最初からプレイし直す必要はない | マップによっては屋外からロープを伝って潜入するものもある。本作は,これまで以上に特殊部隊らしさが演出されている | 登場するホテルはすべて架空のもの。いずれ,Rainbow Six: Tokyoのような世界各地をテーマにしたシリーズになっていくのだろうか |