― レビュー ―
ピーター・ジャクソン監督最新映画をゲーム化
Peter Jackson's King Kong
Text by 奥谷海人
2006年1月16日

 

■ピーター・ジャクソンがリメイクした名作がゲーム化

 

ピーター・ジャクソン監督自らの監修による「Peter Jackson's King Kong」。やはりキング・コングを使った格闘が大迫力だ

 「ロード・オブ・ザ・リング」三部作で一躍ハリウッドの寵児となったピーター・ジャクソン監督の新作が,日本でも2005年12月から公開されて話題を呼んでいる「キング・コング」である。原作は,1933年に制作された白黒映画で,1コマ1コマ人形を動かしながら撮影していく「ストップアニメーション技法」など,当時としては最新鋭の映像技術を駆使した特撮作品として,数十年後に登場する「ゴジラ」などに間接的な影響を与えた。もちろん,そのリバイバル版は,ストップアニメーション技法ではなく,コンピューターグラフィックスをフル活用している。
 ピーター・ジャクソンといえば,ロード・オブ・ザ・リング撮影時には,出演者達とゲームに興じていたほどのゲーム通としても知られており,今後は「Halo」映画版をプロデュースする予定になっている。
 ロード・オブ・ザ・リングのゲーム化に際しては,すべてをElectronic Artsに委ねる結果になったことに満足していなかったらしく,キング・コングはかなり初期からゲーム化を念頭において企画を進めていたようだ。

 

 開発チームとして白羽の矢が立てられたのは,ミッシェル・アンセル(Michel Ancel)氏が率いるUbisoftのMontpellierオフィスだ。アンセル氏は,Ubisoftの看板タイトル「Rayman」シリーズの生みの親。ジャクソン監督は,そんなアンセル氏がプレイステーション2用に開発した「Beyond Good and Evil」というタイトルに惚れ込み,直々に本作の開発を要請したという。

 

 このような経緯もあり,FPSのような一人称視点と格闘ゲーム風の三人称視点でプレイするシングルプレイヤー専用のアクションゲーム,「Peter Jackson's King Kong: The Official Game of the Movie」がリリースされたのである。
 ゲームと映画のストーリーや設定が微妙に異なるが,これはジャクソン氏がゲームに関与しているからこそともいえるだろう。実際,ナオミ・ワッツやジャック・ブラックら,映画の俳優たちが音声を担当しているし,アセットも多くの部分で共有されている様子で,ゲーム世界と映画の雰囲気の均一性が保たれているのは素晴らしい。

 

発売されたのが映画公開前ということもあり,映画のシーンは予告編と同じものがゲーム冒頭に使用されている ゲームには,相棒達もしっかり登場。右からへイエス,ダナム,ジェイミー。危機のときには応急手当てもしてくれる ナオミ・ワッツが演じる映画スター志望のアン・ダロウは,左のキャラクター同様,役者本人がモデリングされている

 

原作の設定上からか,画面は暗め。PC版ならガンマ調節できるが,プレイステーション2版では問題視されている ジャックでゲームが展開していく場合は,一人称視点。弾丸数には制限があり,槍や骨で戦うことのほうが多い プレイヤーが必死で戦っていても,脇ではいつもカメラを向けているダナム。傷ついても,カメラのことばかりを心配する

 

 

■仲間との協力や謎解き要素もあるアクションゲーム

 

スカル島の巨大生物の中で,最も手強いティラノサウルス。銃器は時間稼ぎにしかならず,逃げたり隠れたりするしかない

 ここではまず,往年の名作にも数えられる「キング・コング」のストーリーを,ネタばれにならないよう手短に記しておこう。
 南海の孤島で座礁したジャックやアンの一行が,その島で数十メートルはある巨大なゴリラ,キング・コングと遭遇。アンは原住民の生け贄としてキング・コングの囚われの身になるが,キング・コングはアンを食べるのではなく逆に外敵から守るような素振りを見せる。アンの救出劇は成功するものの,アンに恋心を抱いてしまったキングコングは,見世物として連れてこられたニューヨークの街で,大暴れする……。
 オリジナル作品と最新映画では,詳細が多少変更されているが,ざっとこんな感じだ。もちろん本作は,最新映画に準拠している。

 

 本作でプレイヤーは,しがない脚本家のジャックとして一人称視点でプレイしていくことになる。女優志望のアン,映画監督のカール・デナム,そして船員のヘイエスやジェイミーは,相棒としてプレイヤーと共に行動することになる。それに加えてゲームの途中では,何度かキング・コングとしてプレイすることにもなる。

 

 ゲーム中に使用できるピストルやライフルといった武器は,舞台となるスカル島内に点在しているものを拾う形になっている。これは,探索機が当面の応急処置としてドロップしていったものを利用するという設定だ。
 だが,これらは弾薬数が非常に少ないうえ,(アドベンチャーゲームとしての性格が強いためか)一度に1種類の武器しか所持できないが,原住民たちの槍がアチコチの地面に突き刺さっているので,これを利用して戦う局面も多い。
 槍は先端を焚き火にかざせば着火し,それを枯れ草に投げ入れれば一帯を燃やすことが可能になるので,モンスターや木柵などを焼き払うといった利用方法もある。
 ちなみにピストルやライフル使用時,画面にはターゲットポイントが表示されておらず,残り少ない弾丸を無駄に消費してしまうこともある。だが,当たり判定はコンシューマ機用ソフトの移植のためか,非常に甘くできている。

 

 インタフェースには,ヘルス値を示すバーさえもなく,4人の仲間達はお互いに応急手当てを施しながら助け合っていくというシステムになっている。巨大ムカデなどが相手でも,2度攻撃されると死んでしまうので,傷ついたら後方に下がって赤く染まった画面が通常に戻るまで待つといい。ただし,モンスターがあまりにも接近してくるので,どちらを向いて戦っているのか分からなくなり,イライラしてしまう局面も何度かあった。

 

アンが原住民に捕まり,キング・コングの生贄となる有名なシーン。この地域は“ザ・ウォール”と呼ばれている ゲーム中で頻繁に登場するパズルが,経路を塞ぐ草を燃やすというもの。それほど難しくはないが,ちょっと面倒 キング・コングもやはり,赤い画面の点灯がヘルス値の低下を示し,2度連続するとゲームオーバーとなる

 

グラフィックスは移植作品らしくトップクラスとはいえないが,木漏れ日まじりの風景が絵画的で非常に美しい キング・コングの操作時には,オブジェクトに掴まって飛び回ったりツタのある崖をよじ登ったりと,軽快に動き回れる アニメーションやテクスチャーはCGスタジオのWETAから提供されたものも多く,かなりの見応えがある

 

 

■キング・コングがジャングルやニューヨークで大暴れ

 

キング・コングといえば,1930年に建てられたエンパイア・ステート・ビル。今でもニューヨークのシンボル的な存在だ

 本作の操作方法は,キーボード使用時でも基本的にいたって単純で,マウスルックとキーボードのW/A/S/Dの方向キーで移動をするという,FPSのような感覚である。ただし,マウスの左クリックは近くにいる敵への攻撃を想定しているので,銃や槍で狙いをつけて遠方攻撃するにはスペースバーを押さえて狙いをつける必要がある。この場合,移動をしながら狙いをつけ,さらにリロードなども行うという,複雑な操作をしなければならない。難度は決して高くないが,このあたりのちょっと無理矢理な操作感覚からは,やはりゲームパッドによる操作が前提のゲームだと思わされる。
 もっとも,スペースバーを押していない間,例えば通常の移動時には風景以外の画像を,武器さえも取り払ってしまうという設計は,このゲーム特有のミニマリズムがよく表れているといえるだろう。弾丸の残数もボイスで教えてくれるし,シューティングゲームとしての本作は,このあたりに挑戦的な試みが見え隠れしている。
 近くの仲間に画面を合わせてEキーを押すと会話になり,2回押すと手持ちの武器を投げてよこしてくれるというのも興味深い。序盤でこの仕様に慣れておけば,のちにドラマチックな展開を楽しめる場面もある。
 キング・コングの操作時には,三人称視点になるため,ジャックのシューティングモードのときとは違った雰囲気になる。左クリックで殴りつけ,右クリックで小者の敵や周囲のオブジェクトを掴んで投げるという操作になり,スペースバーはダッシュやジャンプとして利用する。
 また,キングコングにはFuryモードといものが用意されている。これは,マウスホイールを一定範囲スクロールすると,キング・コングが立ち上がって胸を叩き,興奮状態となって攻撃力が増加するというものだ。お化けコウモリやティラノサウルスといったボスキャラとの格闘シーンでは,相手の両口を掴んで引き裂くというフィニッシュムーブもあり,格闘ゲームのようななノリのアクションを満喫できる。

 

 ジャックを使ったシューティングモードでは,敵がどこから襲ってきているのか見えなかったり,同じパズルを繰り返し行わなければならなかったりと,少しイライラする部分があるのは否めない事実だ。一方,キング・コングとして暴れまわる5度ほどの機会の爽快感は格別だが,ゲームクリアまでのプレイ時間は7〜8時間と短く,キング・コングでプレイできるのはそのうち20%ほどでしかない。熱中すれば,ほとんどの人が一日で終わらせることができるだろう。
 ライセンスものとしては冒険的な試みもあり,好感が持てるタイトルではあるが,どこか物足りなさも残る作品だ。

 

ティラノサウルス二匹との対峙を迫られる場面も。この時点ではコングとアンに,不思議な結びつきも生まれている マウスホイールを回転させると,キングコングが胸を叩いてFuryモードに。画面が金色っぽく輝き攻撃力が増幅する 武器は,槍,骨,ピストル,ライフル,トミーガン,スナイパーガン。スナイパーガンは,コウモリの狙撃に効果的

 

キング・コングのフィニッシュムーブは,両顎を掴んで首を捻りながら裂いてしまうという残忍なもの 終盤はニューヨークで大暴れ。一般人に手をかけたりビルを破壊したりはできないが,開発陣の創造力が光る Peter Jackson's King Kongは,美女と野獣の恋物語でもある。映画的な演出も,本作の大きな特徴だ

 

 

タイトル Peter Jackson’s King Kong
開発元 Ubisoft 発売元 Ubisoft Entertainment
発売日 2005/11/21 価格 49.99ドル
 
動作環境 OS:Windows XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium III/1GHz以上[Pentium 4/2.50GHz以上推奨],メインメモリ:256MB[512MB以上推奨],グラフィックスチップ:DirectX 8.1以上に対応[ピクセルシェーダ2.0&頂点シェーダ2.0に対応推奨],グラフィックスメモリ:32MB以上[64MB以上推奨]

(C)2005 Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved. Ubisoft and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the U.S. and/or other countries. Universal Studios' King Kong movie(C)Universal Studios. Licensed by Universal Studios Licensing LLLP. All Rights Reserved.

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http://www.4gamer.net/review/pjkk/pjkk.shtml