あの有名アニメをアドベンチャーゲーム化
アニメ版の設定とストーリーを引き継ぎつつ,マルチヒロインのアドベンチャー&アクションタイトルとなった「ふしぎの海のナディア 〜Inherit the Blue Water〜」 |
地上デジタル放送やCS/BSデジタルといった新しい放送メソッドとチャンネルがそれぞれに定着を図りつつある昨今,数多く制作されて耳目を集めているジャンルといえばアニメである。1クール(3か月)での制作が主流とはいえ,ライトノベルやキャラクターゲームなどを次々と原作として取り込み,雨後の筍を思わせる勃興ぶりは,第一次平成萌えアニメブームなどと,のちの時代から呼ばれてしまいそうなくらいのフィーバーぶりである。
今回紹介する「ふしぎの海のナディア 〜Inherit the Blue Water〜」は,そんな萌えアニメなどという言葉が定着するよりも,はるか以前に放映された美少女ヒロインアニメをゲーム化したものである。オリジナルであるテレビアニメ版の制作は,のちに新世紀エヴァンゲリオンを手がけるガイナックスで,監督もエヴァンゲリオンと同じ庵野秀明。1990年春からNHKで約1年間にわたり,全39話が放映されている。また,なぜか原案にジュール・ヴェルヌの「海底2万マイル」が挙げられている……と基礎知識はこのぐらいにしておこう。
筋書きとしては,偶然知り合った主人公の少年と,謎の過去を持つヒロインの少女が潜水艦に乗りこみ,古代の超文明にまつわる争いの中で成長していくという,普遍的というか王道設定のお話である。それゆえか,数字の上では16年前の作品だが「ナディア」は今見返しても決して古臭いアニメではない。むしろ昨今の萌えアニメのルーツの一つに位置付けられると評しても,それほど的はずれではないだろう。いろいろな意味で,アニメ史に残るべき作品の一つであると,あえて述べておこう。
本ゲームは,そのアニメ「ふしぎの海のナディア」を下敷きに,二人の新ヒロインを加えてストーリーを再構成し,アドベンチャーゲームにしたものである。主人公の行動によって展開が変わる恋愛アドベンチャー的要素が加味され,戦闘シーンはアクションゲーム仕立て,声優陣によるフルボイスの演出や,テレビアニメ版からのカットインムービーなどを通して,ナディアのストーリーや世界観を満喫できるというのが一番の謳い文句となっている。
この作品はもともと2005年夏にプレイステーション2用として発売された同名タイトルのWindows移植版だが,移植に当たって画面解像度が800×600ドットに拡張され,シナリオ上での恋愛(攻略)対象が広がるなど,相応のグレードアップが行われている。
製品にはおまけCDが2枚同梱されており,プレイステーション2版で好評だったクイズゲームモードの「電脳バトル:ミスノーチラス号」に加えて,壁紙集やシステムボイス,サウンドトラックの詰め合わせである「デスクトップアクセサリ」が付属する。
アクション戦闘を織り込んだストーリーもの
ゲームは基本的に立ち絵と会話文で進行し,セリフと主人公のモノローグで,ほぼすべての状況が説明される。テレビアニメ版で印象的だったセリフもちゃんと用意されており,ニヤリとする場面も |
本作のプレイは,主人公ジャンの視点で会話シーンを進め,全10話にまとめられたストーリーを追っていく形となっている。プレイヤーにとっての可変要素は,会話の合間に挿入される主人公の受け答えや行動を選ぶことと,自由に行動できる場面での行き先選択である。前者は3択で自分の発言や行動を選択,後者は行動範囲のリストからその場所で会えるキャラクターを大きな判断材料としつつ,移動先を決定する。そうした選択を重ねることでストーリーが進み,かつプレイヤーがお目当てにしたヒロインと主人公の友好度が変化していくという按配だ。
そうしたなかで,ゲーム展開上のアクセントとして合間合間に入ってくるのが戦闘シーンである。これはレーダー状の画面で,潜水艦同士の戦いをシミュレートしたもの。とはいえ,リアルタイムアクションといったほうが,話が早いかもしれない。操作はマウスで行い,またそれほどハードな内容ではないものの,クリアできないと先に進めない。チュートリアルモードを利用して,戦闘中の操作感覚や画面情報の見方をつかんでおくことをおすすめしておく。
こうしてストーリー全10話を読み通せば,エンディングに到達する。セリフをスキップせずに全部聞くと,8〜9時間ほどかかるだろうか。ターゲットとするヒロインごとにイベントや結末は変化するので,すべてのエンディングを見たいとか,イベントCGを漏れなく揃えたいとなったら,ゲーム全体のボリュームはかなりのものとなるだろう。
システムやストーリー表現については,もう少し工夫がほしい
おまけのクイズは別アプリ。問題はすべてYES/NOの2択で,制限時間あり。出題ジャンルはガイナックス作品にまつわるカルト問題と自然科学系がメインだが,野球の問題もあったりして油断禁物だ |
さて,このようにナディア世界を存分に楽しめる本作だが,実際にプレイしていて,気になった点もいくつかないではない。その一つが,セーブとロードに対する制限の厳しさだ。セーブポイントは各話の開始時と,いわゆるアイキャッチ,戦闘シーンの前後,そして自由行動の行き先選択時と,かなり限られている。
ゲームのほとんどの時間を占める会話中はロードすら禁止。自由行動の行き先や,会話の選択肢の結果が思わしくなかった場合,すぐにやり直せないのはあまり親切とはいえないだろう。また各話に4〜5か所のセーブタイミングがあるのだが,セーブ可能数が最大30個というのは,少し足りないと感じた。
また,ここは賛否両論あるかもしれないが,本来長大なストーリーを全10話に収めた関係か,説明不足の箇所が少々目立つ印象がある。前述のように本作ではテレビアニメ版のムービーが挿入されるのだが,前後のつながりが弱くて,脈絡が分かりづらいケースもあった。テレビアニメ版のストーリーやエピソードを,大ざっぱに押さえている/覚えていることが前提と思われるフシがあるのだ。本作で初めてナディアの世界に触れる人もいるであろうことを考えると,アニメとゲームのメディアミックスとして,この潔い割り切りは,少々もったいないのでは,とも思う。
とはいえ,すでにナディアのファンであるならば,大筋のところでテレビアニメ版のストーリーを追体験しつつ,新キャラの追加やマルチヒロイン化によって生まれた変化や選択肢を楽しめるであろうし,それこそがこの作品の目指すところなのだろう。
言ってみればナディアはすでに完結し,「正史」の確定している作品だが,ゲームオリジナルの新キャラクターなど,興味の惹きどころはきちんと作られている。すでにナディアをよく知っていても,新しい物語として楽しめる。本作の価値は,そこに尽きるといってもいいだろう。