― レビュー ―
名作アニメをアレンジしたアドベンチャー&アクション
ふしぎの海のナディア
〜Inherit the Blue Water〜
Text by 八重垣那智
2006年7月12日

 

あの有名アニメをアドベンチャーゲーム化

 

アニメ版の設定とストーリーを引き継ぎつつ,マルチヒロインのアドベンチャー&アクションタイトルとなった「ふしぎの海のナディア 〜Inherit the Blue Water〜」

 地上デジタル放送やCS/BSデジタルといった新しい放送メソッドとチャンネルがそれぞれに定着を図りつつある昨今,数多く制作されて耳目を集めているジャンルといえばアニメである。1クール(3か月)での制作が主流とはいえ,ライトノベルやキャラクターゲームなどを次々と原作として取り込み,雨後の筍を思わせる勃興ぶりは,第一次平成萌えアニメブームなどと,のちの時代から呼ばれてしまいそうなくらいのフィーバーぶりである。
 今回紹介する「ふしぎの海のナディア 〜Inherit the Blue Water〜」は,そんな萌えアニメなどという言葉が定着するよりも,はるか以前に放映された美少女ヒロインアニメをゲーム化したものである。オリジナルであるテレビアニメ版の制作は,のちに新世紀エヴァンゲリオンを手がけるガイナックスで,監督もエヴァンゲリオンと同じ庵野秀明。1990年春からNHKで約1年間にわたり,全39話が放映されている。また,なぜか原案にジュール・ヴェルヌの「海底2万マイル」が挙げられている……と基礎知識はこのぐらいにしておこう。
 筋書きとしては,偶然知り合った主人公の少年と,謎の過去を持つヒロインの少女が潜水艦に乗りこみ,古代の超文明にまつわる争いの中で成長していくという,普遍的というか王道設定のお話である。それゆえか,数字の上では16年前の作品だが「ナディア」は今見返しても決して古臭いアニメではない。むしろ昨今の萌えアニメのルーツの一つに位置付けられると評しても,それほど的はずれではないだろう。いろいろな意味で,アニメ史に残るべき作品の一つであると,あえて述べておこう。

 本ゲームは,そのアニメ「ふしぎの海のナディア」を下敷きに,二人の新ヒロインを加えてストーリーを再構成し,アドベンチャーゲームにしたものである。主人公の行動によって展開が変わる恋愛アドベンチャー的要素が加味され,戦闘シーンはアクションゲーム仕立て,声優陣によるフルボイスの演出や,テレビアニメ版からのカットインムービーなどを通して,ナディアのストーリーや世界観を満喫できるというのが一番の謳い文句となっている。
 この作品はもともと2005年夏にプレイステーション2用として発売された同名タイトルのWindows移植版だが,移植に当たって画面解像度が800×600ドットに拡張され,シナリオ上での恋愛(攻略)対象が広がるなど,相応のグレードアップが行われている。
 製品にはおまけCDが2枚同梱されており,プレイステーション2版で好評だったクイズゲームモードの「電脳バトル:ミスノーチラス号」に加えて,壁紙集やシステムボイス,サウンドトラックの詰め合わせである「デスクトップアクセサリ」が付属する。

 

主人公のジャン。性格は八方美人で楽観主義者。キャラクターゲームのお約束と異なり,会話シーンにも立ち絵で頻繁に登場するのは,アニメ作品由来のためだろう メインヒロインのナディア。活発で朗らかな娘だが,今でいうツンデレ的一面も備える。ゲーム中にもたびたび出てくるが,頑固な菜食主義者。空気はあまり読まない ゲームオリジナルのヒロイン,ソフィア(左)とラズ(右)。お嬢様とメイドという分かりやすい記号化と,ストーリーに大きく絡むわけあり具合で,存在感は満点

 

潜水艦ノーチラス号の船長ネモ(左)と,副長エレクトラ(右)。いわくありげな大人の関係らしい。いろいろ知ってるくせに,内緒にしたがるズルい大人を象徴する役回りも演ずる 当初敵として登場しながら,たびたび主人公達のピンチを救うグランディス(右下)一味。サンソン(上)やハンソン(左下)との息の合ったチームワークは,言わずと知れた悪玉トリオへのオマージュ 今でいうなら癒し系のシンボルである,ノーチラス号の看護婦イコリーナ。艦内にファンクラブがあるという,微妙な設定が面白い。ちなみにイコリーナという名の由来は土佐弁の言葉らしい

 

 

アクション戦闘を織り込んだストーリーもの

 

ゲームは基本的に立ち絵と会話文で進行し,セリフと主人公のモノローグで,ほぼすべての状況が説明される。テレビアニメ版で印象的だったセリフもちゃんと用意されており,ニヤリとする場面も

 本作のプレイは,主人公ジャンの視点で会話シーンを進め,全10話にまとめられたストーリーを追っていく形となっている。プレイヤーにとっての可変要素は,会話の合間に挿入される主人公の受け答えや行動を選ぶことと,自由に行動できる場面での行き先選択である。前者は3択で自分の発言や行動を選択,後者は行動範囲のリストからその場所で会えるキャラクターを大きな判断材料としつつ,移動先を決定する。そうした選択を重ねることでストーリーが進み,かつプレイヤーがお目当てにしたヒロインと主人公の友好度が変化していくという按配だ。
 そうしたなかで,ゲーム展開上のアクセントとして合間合間に入ってくるのが戦闘シーンである。これはレーダー状の画面で,潜水艦同士の戦いをシミュレートしたもの。とはいえ,リアルタイムアクションといったほうが,話が早いかもしれない。操作はマウスで行い,またそれほどハードな内容ではないものの,クリアできないと先に進めない。チュートリアルモードを利用して,戦闘中の操作感覚や画面情報の見方をつかんでおくことをおすすめしておく。
 こうしてストーリー全10話を読み通せば,エンディングに到達する。セリフをスキップせずに全部聞くと,8〜9時間ほどかかるだろうか。ターゲットとするヒロインごとにイベントや結末は変化するので,すべてのエンディングを見たいとか,イベントCGを漏れなく揃えたいとなったら,ゲーム全体のボリュームはかなりのものとなるだろう。

 

会話の途中でセリフや行動の選択を迫られる。選択肢は三択,場合によってはニュアンスの微妙なものも含まれていて,戸惑うことも。選択には制限時間がついているのだが,正直これは蛇足だろう 自由行動時には,行き先選択画面になる。右上の数字が,行ける場所の数。カーソルを合わせると,その場所で誰と会えるのかが分かるので,お目当てのヒロインをマメにケアしていきたい イベントグラフィックスは比較的多いほう。数々の場面で,ゲームを盛り上げる演出となっている。ほかにも,テレビアニメ版からのムービーが挿入されたりと,演出はいろいろと工夫されている

 

ゲームのアクセントとなる戦闘シーン。ビジュアルは抽象的でおまけゲームっぽいが,真面目にやらないと進まないので注意。手堅い攻略法は,マップで目的地を確認し,急いで逃げ込むことだったり 戦闘はリアルタイム進行だが,メニューを開くと進行が止まる。それでもテキパキと操作していかないと,手数が追いつかなくなる。敵の攻撃は,避けるよりも引きつけて防御兵器を使うのがよい 攻撃されたり,敵を破壊したりすると,アニメーションの演出が入る。ただ,不規則に挿入されるため操作を邪魔されることもあり,表現としては微妙。実はあまりバリエーションも多くない

 

 

システムやストーリー表現については,もう少し工夫がほしい

 

おまけのクイズは別アプリ。問題はすべてYES/NOの2択で,制限時間あり。出題ジャンルはガイナックス作品にまつわるカルト問題と自然科学系がメインだが,野球の問題もあったりして油断禁物だ

 さて,このようにナディア世界を存分に楽しめる本作だが,実際にプレイしていて,気になった点もいくつかないではない。その一つが,セーブとロードに対する制限の厳しさだ。セーブポイントは各話の開始時と,いわゆるアイキャッチ,戦闘シーンの前後,そして自由行動の行き先選択時と,かなり限られている。
 ゲームのほとんどの時間を占める会話中はロードすら禁止。自由行動の行き先や,会話の選択肢の結果が思わしくなかった場合,すぐにやり直せないのはあまり親切とはいえないだろう。また各話に4〜5か所のセーブタイミングがあるのだが,セーブ可能数が最大30個というのは,少し足りないと感じた。
 また,ここは賛否両論あるかもしれないが,本来長大なストーリーを全10話に収めた関係か,説明不足の箇所が少々目立つ印象がある。前述のように本作ではテレビアニメ版のムービーが挿入されるのだが,前後のつながりが弱くて,脈絡が分かりづらいケースもあった。テレビアニメ版のストーリーやエピソードを,大ざっぱに押さえている/覚えていることが前提と思われるフシがあるのだ。本作で初めてナディアの世界に触れる人もいるであろうことを考えると,アニメとゲームのメディアミックスとして,この潔い割り切りは,少々もったいないのでは,とも思う。

 とはいえ,すでにナディアのファンであるならば,大筋のところでテレビアニメ版のストーリーを追体験しつつ,新キャラの追加やマルチヒロイン化によって生まれた変化や選択肢を楽しめるであろうし,それこそがこの作品の目指すところなのだろう。
 言ってみればナディアはすでに完結し,「正史」の確定している作品だが,ゲームオリジナルの新キャラクターなど,興味の惹きどころはきちんと作られている。すでにナディアをよく知っていても,新しい物語として楽しめる。本作の価値は,そこに尽きるといってもいいだろう。

 

移動シーンは,ほぼ本編と同じ仕様だが,移動回数に制限はない。出題者は3人から始まり,ゲーム全体では計6名のヒロインと対決する。なぜか,ヒロイン別にマルチエンディングとなっている 本編と違って,会話シーンならいつでもセーブとロードが可能。クイズの合間などで忘れずにセーブしておこう。失敗した場合お仕置きされてしまい,最初からやり直すハメになるので注意 クイズモードのストーリーは,主人公がナディアに頼まれ,ミスコンのライバルのコスチュームを調査するという設定。どこかで見たような格好が平然と出てくるのも,ガイナックスらしいお約束

 

アクセサリデータ集は,htmlによるインデックスが付いているだけのシンプルなもの。壁紙(3サイズ)とシステムボイス用の音声ファイルを含み,CD-DAトラックはサントラになっている 壁紙は全24種類で,それぞれ800×600ドット,1024×768ドット,1600×1200ドットが用意されている。クイズモードのイベント絵を使ったものもあるので,プレイ前には見ないほうがいいかも イベントグラフィックスはLIBRARYメニューから参照する。閲覧可能フラグはセーブデータと別に管理されているらしく,ゲームオーバーになっても,そこまでの絵はきちんと追加されている

 

タイトル ふしぎの海のナディア 〜Inherit the Blue Water〜
開発元 N/A 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/06/02 価格 8190円(税込)
 
動作環境 OS:Windows XP/2000(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium III/1GHz以上,メインメモリ:256MB以上,グラフィックスメモリ:64MB以上,HDD空き容量:5GB以上

(C)NHK・総合ビジョン (C)2005,2006 GeneX

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http://www.4gamer.net/review/nadia/nadia.shtml